アパレル企業は、自社のブランド名について商標登録を受けることをおすすめします。

では、アパレル企業がブランド名を商標登録することには、どのような効果があるのでしょうか?また、商標登録は、どのような手順で進めればよいのでしょうか?

今回は、商標登録によるアパレル企業の権利保護について弁護士が詳しく解説します。

商標権とは

商標権とは、商品やサービスを表す「標章」を保護する権利です。標章とは「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」を指し、具体的には次のものなどが該当します(商標法2条1項)。

  • 文字商標:文字のみからなる商標
  • 図形商標:写実的なものから図案化したものや幾何学的模様等の図形のみから構成される商標(いわゆるロゴマーク)
  • 記号商標:のれん記号や文字を図案化し組み合わせた記号や、記号的な紋章
  • 結合商標:文字や図形、記号、立体的形状を組み合わせた商標
  • 立体商標:立体的形状からなる商標(例:不二家のペコちゃん人形やケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダース人形)
  • 音商標:音楽、音声、自然音等からなる商標(例:久光製薬株式会社のCMで流れるサウンドロゴ)
  • 色彩のみからなる商標:単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標であって、輪郭なく使用できるもの(例:ファミリーマートの店舗カラー)
  • ホログラム商標:文字や図形等がホログラフィーなどの方法により変化する商標
  • 位置商標:図形等を商品等に付す位置が特定される商標(例:ズボンの後ろポケットの左上方に「EDWIN」の欧文字が表された赤い長方形のタブ図形を表示するとするEDWINの商標)
  • 動き商標:文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標

このように、商標には非常に多様な種類があります。自社の社名やブランド名、商標名、ロゴマークのほか、「消費者がこの点で自社ブランドであると認識する」と考えている特徴がある場合は、その特徴について商標登録をすることができないか専門家に相談のうえ検討するようにしてください。

参照元:知っておかなきゃ、商標のこと!商標をわかりやすく解説!(政府広報オンライン)

アパレル企業がブランド名を商標登録すべき理由

アパレル企業は、自社のブランド名や商品名を商標登録しておくことをおすすめします。その主な理由は次の4点です。

  • 侵害された時に差止請求などをすることができるから
  • 他社に先に商標登録をされるとブランド名が使えなくなる可能性があるから
  • 取引先に安心して取引してもらいやすくなるから
  • 知名度にフリーライドして利益を奪っていく業者が現れないから(裏からいえば、商標登録していないにも関わらず知名度が高いブランド名はフリーライドされてしまう)

侵害された時に差止請求などをすることができるから

商標登録をしておくことで、仮に他社にそのブランド名や商品名を無断で使用された際に差止請求がしやすくなります。

まず、商標登録をしていないからといって、他社のブランド名などを自由に使用してよいわけではありません。たとえ商標登録をしていなかったとしても、他社に無断でブランド名などを使用された際は「不正競争防止法」に基づいて差止請求をする道があります。

しかし、不正競争防止法に基づく差止請求では、次の2点がハードルとなります。

  1. そのブランド名などが多くに消費者に認知されているものであることが必要となること
  2. ブランド名などを不正使用した企業に故意や過失があることを、侵害された企業の側で証明する必要があること

そのため、結果的に請求を諦めざるを得ないケースも少なくありません。一方、商標登録をしておくことで次のようにハードルが下がります。

  1. 商標登録を受けていれば、そのブランド名などが著名であることなどを別途証明する必要がない
  2. 不正使用をした企業に過失があったことが推定されるため、侵害された企業によって相手方の故意や過失を証明する必要がなく、反対に相手企業が「過失がなかったこと」を証明する必要が生じる(同39条、特許法103条)

このように、商標登録をすることで侵害時の差止請求がしやすくなります。なお、商標権を侵害された場合は差止請求のみならず、損害賠償請求や不当利得返還請求をすることもできるほか、侵害した企業を刑事上の罪に問うことも可能です。

商標権侵害への刑事罰は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科が原則ですが、法人がその業務に関して侵害行為を行った場合はこれに加え、法人も3億円以下の罰金刑の対象となります(商標法78条、82条1項)。

他社に先に商標登録をされるとブランド名が使えなくなる可能性があるから

自社が用いているブランド名や商品名について商標登録をしないうちに他社がその名称について商標登録をしてしまうと、自社でそのブランド名などを使い続けられなくなる可能性があります。なぜなら、他社が商標登録を受けた名称を使用することでその商標について登録を受けた他社から差止請求がなされたり、損害賠償請求をなされたりする可能性があるためです。

商標登録は「先願主義」が採用されており、原則としていわゆる「早い者勝ち」となります。そのため、特に重要なブランド名や商品名などについては、他社に先取りされる前に商標登録をする必要があります。

なお、万が一他社に自社ブランド名の商標登録をされてお困りの際は、弁護士へご相談ください。偶然相手も同じ商標を使っていたのであればまだしも、相手が不正な目的で商標登録をした場合は、異議申立てや無効審判、不使用取消審判などの対抗手段によって相手の商標登録を年消したり無効化したりできる可能性があるためです。

取引先に安心して取引してもらいやすくなるから

自社のブランド名などについて商標登録を受けることで、取引先に対してアピールする効果も期待できます。商標登録を受けることでその商品やブランドへの熱意が伝わるほか、ブランディング効果も期待できるためです。

また、万が一自社が他社の商標を侵害しており差止請求などを受けて急遽ブランド名などの変更が必要となった際は、取引先などにも迷惑をかける可能性があります。あらかじめ商標登録を受けることで、そのようなリスクを最小限に抑えることが可能となるため、取引先が安心して取引を開始しやすくなります。

知名度にフリーライドして利益を奪っていく業者が現れないから

アパレル会社が自社のブランドを育て上げることは、容易ではありません。

アパレルブランドの知名度を向上させ消費者から選ばれるブランドとなるためには、並々ならぬ努力や時間が必要となることでしょう。

しかし、商標登録をしていないと、これにフリーライドされるリスクが生じます。

せっかく時間をかけて育て上げたブランドの知名度を無断利用され知らぬ間に利益を上げられてしまっては、悔やんでも悔やみきれません。

ブランド名を商標登録しておくことでフリーライドを防ぎやすくなるほか、たとえフリーライドする企業が現れたとしても売上金を回収したり損害賠償請求するなどの法的措置により対応しやすくなります。

ファッションブランドが商標登録を申請する流れ

ファッションブランドが商標登録を申請する場合、どのような流れで行えばよいのでしょうか?ここでは、商標登録の一般的な流れを紹介します。

  • 登録申請をする商標を決める
  • 指定商品や役務を決定する
  • 先行商標調査をする
  • 願書の作成する
  • 申請する

登録申請をする商標を決める

はじめに、どの商標について登録申請をするのか検討します。商標登録は申請したからといって必ずしも登録を受けられるものではないうえ、1つ登録するごとに費用がかかるため、やみくもに申請することはおすすめできません。

どのような商標について登録申請をするのか、弁護士などの専門家に相談しながら検討するとよいでしょう。

指定商品や役務を決定する

商標登録は、指定商品や役務ごとに行います。指定商品・役務は第1類から第45類まで存在し、その概要は特許庁が公表している「各類に属する代表的な商品・役務」で確認できます。

原則として、商標権は登録をした指定商品・役務の中で効力を生ずるものであり、たとえば、第25類(被服など)である文字商標の登録を受けた場合において、他社がその名称をホテルの名称(第43類)に使用した場合は、差止請求などをすることが困難です。

そのため、その商標を排他的に使用したい商品や役務をカバーすることができるよう、登録を受ける指定商品・役務を選択することとなります。

なお、商標の出願料や登録料は、この区分ごとに算定され、1つの商標について45類すべての区分で申請をすると出願料や登録料が高額となります。1つの商標について45類すべてに登録を受けるためにかかる費用は次のとおりです。

  • 出願料:3,400円+(8,600円×45区分)=390,400円
  • 登録料:32,900円×45区分=1,480,500円

費用対効果を考え、区分をある程度厳選して申請することが一般的です。

先行商標調査をする

商標登録を申請する前に、先行商標調査を行います。先行商標調査とは、登録を申請しようとする商標やこれと類似した商標がすでに他人に登録されていないかどうかを調べることです。

同じ区分や類似する区分において同一や類似の商標が登録されている場合は、申請をしても登録を受けることができません。それどころか、今後引き続きその商標を使用するとその他社から差止請求などをなされるリスクもあります。

先行商標調査は特許庁が運営する「特許情報プラットフォーム(通称「J-PlatPat」)」から行うことができますが、慣れていないと確認が不十分となるおそれがあります。そのため、先行商標調査についても専門家のサポートを受けるとスムーズです。

願書の作成する

次に、商標登録申請用の願書を作成します。願書は、独立行政法人工業所有権情報・研修館の「知的財産相談・支援ポータルサイト」からダウンロードできます。描き方がやや特殊であるため、自分で作成することが難しい場合は、専門家のサポートを受けて作成するようにしてください。

申請する

願書が作成できたら、特許庁へ申請します。申請方法には、次の3つが設けられています。

  1. 特許庁の受付窓口へ直接書面を持参する
  2. 書面を郵送で申請する
  3. インターネットを用いて出願する

なお、書類を持参する場合の窓口は東京都千代田区にしかないため、遠方からの申請の場合は郵送またはインターネット出願の2択となります。

登録することができない商標

商標登録を申請しても、登録を受けることができない商標があります。最後に、登録を受けられない主な商標を紹介します。

  • 自己と他人の商品・役務を区別することができないもの
  • 公共の機関の標章と紛らわしい等公益性に反するもの
  • 他人の登録商標又は周知・著名商標等と紛らわしいもの

参照元:出願しても登録にならない商標(特許庁)

自己と他人の商品・役務を区別することができないもの

自己と他人の商品・役務を区別することができないものは、申請しても登録を受けることができません(同3条)。具体的には、次のものが該当します。

  1. 商品又は役務の普通名称のみを表示する商標(例:「アルミニウム」に使用する商標として「アルミ」を出願した場合)
  2. 商品・役務について慣用されている商標(例:「清酒」に使用する商標として「正宗」を出願した場合)
  3. 単に商品の産地、販売地、品質等又は役務の提供の場所、質等のみを表示する商標(例:「シャツ」に使用する商標として「特別仕立」を出願した場合や、「菓子」に使用する商標として「東京」を出願した場合)
  4. ありふれた氏又は名称のみを表示する商標(例:「田中屋」、「佐藤商店」」)
  5. 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標(例:仮名文字やアルファベット1字のみ)
  6. その他何人かの業務に係る商品又は役務であるかを認識することができない商標

公共の機関の標章と紛らわしい等公益性に反するもの

公共の機関の標章と紛らわしいなど公益性に反するものは、商標登録を受けることができません(同4条1項1号ほか)。たとえば、次のものが該当します。

  1. 国旗、菊花紋章、勲章又は外国の国旗と同一又は類似の商標
  2. 外国、国際機関の紋章、標章等であって経済産業大臣が指定するもの
  3. 白地赤十字の標章又は赤十字の名称と同一又は類似の商標
  4. 国、地方公共団体等を表示する著名な標章と同一又は類似の商標
  5. 公の秩序、善良な風俗を害するおそれがある商標(卑わいなものや差別的なものなど)
  6. 公の秩序、善良な風俗を害するおそれがある商標(例:指定商品「ビール」に使用する商標として「〇〇ウイスキー」を出願)

他人の登録商標又は周知・著名商標等と紛らわしいもの

他人の使用する商標や他人の氏名・名称などと紛らわしい商標は、登録を受けることができません(同4条1項8号ほか)。たとえば、次のものが該当します。

  1. 他人の氏名、名称、著名な芸名、略称などを含む商標(例:芸能人の名称を含む商標)
  2. 他人の登録商標や周知の商標と同一の商標や類似の商標であって、同一または類似の商品・役務に使用するもの
  3. 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれのある商標
  4. 他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用する商標

なお、これに関連して、最近ではドラッグストアを展開する株式会社マツモトキヨシホールディングスが出願した「マツモトキヨシ」との音声を含む音商標が、高裁の判決を経て登録が認められたことが話題となっています。

特許庁は元々この出願を、全国に多数存在する「まつもときよし」氏の氏名(他人の氏名)を含むことを理由として商標登録を認めませんでした。これについて高裁にまで係争した結果、高裁は「マツモトキヨシ」がドラッグストアの店名として広く知られており、一般に人の氏名を指し示すものとして認識されるものではないことなどを理由に、商標登録を認めています。

ファッションブランドではデザイナーの氏名をブランド名に冠することも多いと思いますが、この判決を受けて、ブランド名に人名が入っているからといって必ずしも登録が拒絶されるわけではないとの見通しが立ちました。とはいえ、実際に登録が可能であるかどうかは、そのブランド名の世間への認知度合いなどを踏まえ個別に判断することとなります。

まとめ

アパレル企業がそのブランド名や商品名について商標登録を受けるメリットは、小さいものではありません。むしろ、商標登録を受けないと他者に先に商標登録をされてしまい、自社のブランド名が使えなくなるリスクが生じます。そのため、大切なブランド名や商品名については、可能な限り商標登録を行うことをおすすめします。

伊藤海法律事務所は、アパレル企業の知的財産保護に力を入れています。商標登録など知的財産を守るための対策を講じたい場合や他者に商標権を侵害されてお困りの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。