海外ブランド品などを商品として取り扱いたい場合、中古品を取り扱うほか、並行輸入を行う方法もあります。

では、並行輸入とはどのような取引形態を指すのでしょうか?また、並行輸入品の取り扱いに、法律上のリスクはないのでしょうか?

今回は、並行輸入品の基本や正規輸入品との違い、並行輸入品が商標権侵害とならないための条件などについて、知財法務に強みを持つ弁護士が詳しく解説します。

並行輸入品とは

並行輸入品とは、正規輸入品とは別のルートで輸入された真正な商品です。並行輸入品の仕入れルートは、海外の小売店や、海外の卸売会社などです。

日本国内の事業者が海外の有名ブランド品を商品として取り扱おうとする場合、次の3つの選択肢が考えられます。

  1. 正規販売代理店として登録を受ける
  2. 中古品を取り扱う
  3. 並行輸入品を取り扱う

このうち「1」を行うには、その海外ブランドや海外メーカーから正規販売代理店として認められ、契約を締結しなければなりません。一般的に、有名ブランドとなるほどこのハードルは高く、新規の事業者が正規販売代理店の座を獲得することは容易ではないでしょう。

一方、中古品を取り扱う場合や並行輸入品を取り扱う場合、原則として海外ブランドや海外メーカーから許可を得たり契約を締結したりする必要はありません。そこで、中古品以外の海外ブランド品や海外メーカーの製品を取り扱いたい場合は、並行輸入品を取り扱うことが近道となります。

もちろん、そのブランドやメーカーによっては正規販売代理店となれる可能性もあるため、正規販売代理店となることを目指すことも一つの手です。

なお、並行輸入品はあくまでも真正品であり、正規輸入品とは流入ルートが違うだけであり、原則として偽物ではありません。ただし、販売までのルートが多様であることから、正規輸入品と比較して、流通過程で偽物が混入するリスクが高いことは確かです。

そのため、消費者の中には、並行輸入品は真正品ではないと誤解している人も存在するほか、偽物である可能性を懸念して敬遠する人も存在します。

並行輸入品と正規輸入品の流入ルート

並行輸入品と正規輸入品の流入ルートは、それぞれどのような形なのでしょうか?ここでは、それぞれの流入ルートを簡略化して紹介します。

正規輸入品の流入ルート

正規輸入品の場合は、海外ブランドや海外メーカーが、日本国内の直営店や正規販売代理店に商品を卸します。その後、直営店や正規販売代理店が消費者に商品を販売し、商品が消費者の手に渡ります。

並行輸入品の流入ルート

並行輸入品の場合、並行輸入品を取り扱う事業者が、次のルートなどから商品を買い付けます。

  • 海外の小売店(海外の直営店や海外の販売代理店)
  • 免税店や特約店
  • 卸売会社

そのうえで、仕入れた商品を日本国内の消費者に販売し、商品が消費者の手に渡ります。

なお、いかに自社にとって有利かつ信頼できる仕入れルートを確保できるかが、並行輸入ビジネスを成功させるカギになるといっても過言ではありません。

海外の直営店や正規販売代理店などから商品を仕入れる場合はコピー商品が混入する可能性はほとんどないものの、仕入れ値が高くなりやすく、国内で販売してもほとんど利益が出ない可能性があります。

一方で、独自に開拓した卸売会社や安価な小売店などから仕入れる場合は仕入れ値を抑えられ利益を出しやすい一方で、信頼できる相手から仕入れなければ、コピー商品を掴まされるリスクが高くなるでしょう。

並行輸入品と正規輸入品との主な違い

並行輸入品と正規輸入品には、商品にどのような違いがあるのでしょうか?ここでは、主な違いを3つ紹介します。

  • 並行輸入品は取扱説明書が外国語である
  • 並行輸入品は正規品の保証書が付いていない
  • 並行輸入品は検品が甘くキズなどがある可能性がある

なお、先ほど解説したとおり、並行輸入品と正規輸入品はいずれも真正品(本物)であることに変わりなく、並行輸入品はコピー商品(偽物)ではありません。しかし、ここで紹介する違いがあることが多いため、並行輸入品について正しく理解していない消費者から偽物ではないかと疑われたり、返品を求められたりする可能性があります。

無用な誤解が生まれてトラブルに発展しないよう、実際に並行輸入品を消費者に販売する際は、これらの違いを丁寧に説明する必要があるでしょう。

並行輸入品は取扱説明書が外国語である

正規輸入品であれば、当初から日本国内での流通が予定されています。そのため、取扱説明書などが日本語で記載されていることが一般的です。

一方で、並行輸入品は日本国内での販売を前提として作られたものではありません。そのため、取扱説明書やパッケージの説明書きなどが日本語ではなく、仕入れ元となった国の言語となっていることが一般的です。

並行輸入品は正規品の保証書が付いていない

正規輸入品は、正規輸入品である旨の保証書が付いていることが一般的です。

一方で、並行輸入品には、正規輸入品である旨の保証書が付属していません。保証書がないからといって偽物というわけではないものの、消費者がその商品を自身の使用後に転売しようとした際に、不利となる可能性があります。

並行輸入品は検品が甘くキズなどがある可能性がある

販売する国によって販売する商品に特に違いを設けていないブランドやメーカーがある一方で、販売国によって検品の基準を変えているブランドやメーカーもあります。

販売国によって検品基準が異なる場合、日本向けの商品の検品基準は厳しく設定されていることが一般的です。そのような商品について並行輸入を行う場合、並行輸入品は正規輸入品と比較して検品の基準が甘く、キズや縫製の甘さなどがある可能性があります。

なお、後ほど解説しますが、正規輸入品と検品基準が大きく異なる商品を並行輸入して国内に流通させた場合は、たとえ真正品であっても商標権侵害にあたるリスクがあるため、注意が必要です。

並行輸入品の流通は商標権侵害になる?

並行輸入品を国内で流通させた場合、商標権侵害となるのでしょうか?ここでは、商標権の概要や他者の商標権を侵害した場合に生じるリスク、並行輸入品における商標権侵害の考え方について解説します。

商標権とは

商標権とは、「商標」を独占排他的に利用する権利です。

商標権は自動的に発生するものではなく、特許庁に出願して登録を受けることで発生します。商標権の存続期間は設定登録の日から10年ですが、10年経過後も何度でも更新することができ、更新し続ける限り存続させることが可能です。

商標権の対象となる「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、次に掲げるものをいうとされています(商標法2条1項)。

  1. 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
  2. 1のほか、業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの

条文の表現は難しいものの、その商品や会社を表す文字や記号などの全般を指すと理解しておくとよいでしょう。

たとえば、Louis Vuittonに関していえば、モノグラムのあのデザインが表示されていれば一般的には「Louis Vuitton社の製品だろう」と思うはずであり、このようにその企業やブランドを想起させる標章が商標にあたるということです。実際に、「Louis Vuitton」というブランド名そのものや商品に付しているさまざまなロゴマーク、モノグラムの配置や配色、そして購入時に商品を入れる紙袋のデザインに至るまで、さまざまな標章が商標登録されています。

ほかにも、たとえばケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダース人形の形態やドラッグストア「マツモトキヨシ」のCMで流れる企業名の音階、ファミリーマートのシンボルカラーの配色なども商標登録されています。

商標権侵害をした場合のリスク

他社の商標権を侵害した場合、どのようなリスクが生じる可能性があるでしょうか?商標権侵害をした場合の主なリスクは次のとおりです。

  • 刑事罰の対象になる
  • 差止請求がなされる
  • 損害賠償請求や不当利得返還請求がなされる
  • 信用回復措置請求がなされる
  • 企業の信用が失墜する

刑事罰の対象になる

他者の商標権を侵害すると、商標法の規定により刑事罰の対象となります。

商標権侵害の刑事罰は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科です(商標法78条)。また、法人がその業務に関して商標権を侵害した場合は行為者が罰せられるほか、法人に対しても3億円以下の罰金刑が課される可能性があります(同82条1項1号)。

商標権侵害の刑事罰は重く設定されているため、注意が必要です。

差止請求がなされる

他者の商標権を侵害すると、商標権者から差止請求をされる可能性があります。

差止請求とは、商標権侵害をしている商品の販売をやめる旨の請求や、商標権侵害をしている商品の破棄を求める旨の請求です。

損害賠償請求や不当利得返還請求がなされる

商標権を侵害すると、商標権者から損害賠償請求や不当利得返還請求がされる可能性があります。損害賠償請求額の算定方法は状況によって異なるものの、主な算定方法は次のとおりです。

  1. 逸失利益(侵害行為がなければ商標権者が得られたはずの利益)から算定する方法(同38条第1項)
  2. 侵害者が得た利益から算定する方法(同2項)
  3. ライセンス相当額から算定する方法(同3項)

いずれの方法で算定することが適切であるかは状況によって異なるため、商標権侵害を理由に商標権者から損害賠償請求をされている場合は、早期に弁護士へご相談ください。

信用回復措置請求がなされる

商標権を侵害すると、商標権者から信用回復請求がなされる可能性があります。信用回復請求とは、謝罪広告の掲載などを求めることです。

侵害者が流通させた粗悪品によって商標権者の業務上の信用が害された場合などには、この信用回復請求がなされる可能性が高いでしょう。

企業の信用が失墜する

他者の商標権を侵害すると、企業の信用が失墜する可能性があります。その結果、顧客が離れ、事業が立ち行かなくなるリスクがあります。

インターネットのモールなどに出店していた場合は、商標権侵害をすることで規約違反となり、アカウントが停止される可能性もあります。

並行輸入品は正規品でも商標権侵害になり得る

コピー品であることを知りながら国内で流通させた場合、商標権侵害となります。正規品の並行輸入であれば絶対に商標権侵害にあたらないかというと、必ずしも商標権侵害にならないとはいえません。

並行輸入品はたとえ正規品であっても、並行輸入品の流通が「真正商品の並行輸入」にあたらない場合は、商標権侵害となり得ます。「真正商品の並行輸入」に該当するための条件(商標権侵害とならないための条件)は、次で詳しく解説します。

並行輸入品が商標権侵害とならない条件

並行輸入が「真正商品の並行輸入」に該当すれば、原則として商標権侵害とはなりません。真正商品の並行輸入に該当するのは、次の3つの要件をすべて満たす場合です。

  • 真正商品であること
  • 製造国と日本国内の権利者が同一であること
  • 正規輸入品の品質と実質的に差がないこと

ここでは、それぞれの要件の概要について解説します。

なお、これらの要件は法令に明記されているものではなく、「フレッドぺリー事件(最高裁平成14年(受)第1100号)」で挙げられたものです。並行輸入が思わぬ商標権侵害に該当してしまわないためには、弁護士へ相談したうえで、これらの要件を満たすかどうかあらかじめ確認しておくようにしてください。

参照元:

真正品であること

1つ目は、並行輸入の対象が真正品であることです。具体的には、並行輸入商品に付された商標が、輸入元の外国における商標権者またはその商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであることが必要です。

コピー品などではなく真正品の並行輸入である場合は、原則としてこの要件は満たすものと考えられます。

製造国と日本国内の権利者が同一であること

2つ目は、製造国と日本国内の権利者が同一であることです。もう少し詳しく記載すると、「輸入元の外国における商標権者」と「日本の商標権者」とが同一人であるか、法律的もしくは経済的に同一人と同視し得るような関係にあることによって並行輸入商品の商標が日本の登録商標と同一の出所を表示するものであることが必要です。

これに反して商標権侵害と認定された事例に、「ダンロップ事件(平成15年 (ワ) 11200号)」があります。これは、ある企業がダンロップ社製のゴルフクラブなどをマレーシアから並行輸入して日本国内で販売したものの、マレーシアにおける商標権者が日本における商標権者(住友ゴム株式会社)と異なっていたため、住友ゴム株式会社から商標権を侵害しているとして提訴されたものです。この事件では、並行輸入をした企業が敗訴し、損害賠償請求が認められています。

参照元:平成15年 (ワ) 11200号 商標権侵害差止等請求事件(証票判例データベース)

正規輸入品の品質と実質的に差がないこと

3つ目は、並行輸入した商品の品質が、正規輸入品の品質と実質的に差がないことです。具体的には、並行輸入された商品と日本の商標権者が登録商標を付した商品とが、その登録商標の保証する品質において実質的差異がないと評価されることが求められます。

そのため、たとえば国によって検品レベルに大きな差があり、より高度な品質基準が課されている日本において、本来日本での流通が予定されていない低品質の商品を流通させた場合、日本におけるブランドが毀損する可能性があることから、商標権侵害にあたる可能性があります。

同様に、並行輸入した商品について包装の取り替えや詰め替えがなされ、これによって商品の品質が害されるおそれもあり得たような事情がある場合も、商標権侵害となり得ます。

まとめ

並行輸入とは、真正品を、正規輸入品とは別のルートで輸入することです。並行輸入品も真正品であるものの、取扱説明書が外国語表記であることや、正規品保証書がないことがある点などで正規輸入品と異なっています。

並行輸入品の取り扱いは原則として違法ではないものの、「真正商品の並行輸入」の要件から外れてしまうと、商標権侵害となりかねません。商標権侵害をして思わぬリスクを抱えてしまわないよう、並行輸入ビジネスに参入する前に、ビジネスモデルを弁護士に確認してもらうようにしてください。

伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほか知的財産の専門家である弁理士資格も有しており、知財法務に特に強みを有しています。並行輸入ビジネスに参入したい場合や並行輸入に関してトラブルに発展している場合などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。