製品を製造したり輸入販売したりする事業者は、商品の欠陥により消費者に被害が生じた場合、責任を問われることがあります。

PL法で責任を問われるのは、どのような場合なのでしょうか?また、アパレルメーカーがPL法上の責任を負うことはあるのでしょうか?

今回は、アパレルメーカーを中心に、PL法により責任を問われた事例などを弁護士がくわしく解説します。

PL法とは

PL法とは、製造物責任法のことです。「Product Liability」を略して、「PL法」と呼ばれることが一般的です。以下、この記事ではPL法と呼称します。

PL法の目的は、「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与すること」です(PL法1条)。

売られている製品に欠陥があり、最悪の場合には命を落としかねないとなれば、消費者は安心して製品を買うことができません。また、安心して買い物ができないため、経済の発展を損ねるおそれもあります。

PL法は、製品の安全性をできる限り担保するため、欠陥のある製品を製造して生命や身体、財産に損害が生じた場合に、製造者に責任を負わせることとしています。PL法で製造者に問われる責任は、故意や過失の存在を問わない無過失責任とされています。

そのため、損害を被った消費者が製造者の故意や過失を立証することなく損害賠償請求をすることが可能であり、消費者保護につながります。また、製造者が欠陥製品を世に送り出さないための抑止力としての効果も期待できます。

PL法で責任を負う主体は誰?

製品の欠陥によって消費者に損害が生じた場合にPL法上の責任を負うのは、厳密には製造業者だけではありません。ここでは、PL法上の責任を負う主体について解説します。

なお、これらPL法上の責任を負う主体を、まとめて「製造業者等」と定義しています。

製造業者

製品を製造した製造業者は、PL法上の責任を負う主体となります。

なお、部品を含めたすべてを自社で製造するケースは稀であり、部品を仕入れて完成品を製造し、販売する場合もあるでしょう。このようなケースで、他社から納入した部品に欠陥があり、完成品の購入者に被害が生じた場合には、被害者は次のいずれに対してもPL法上の責任を問えるとされています。

  • 欠陥のある部品の製造業者
  • 完成品の製造業者

参照元:製造物責任法の概要Q&A(Q18)(消費者庁)

そのため、完成品の製造業者は、他社から納入した部品についても品質検査を徹底するなどの対策が必要です。

輸入業者

PL法の責任を負う主体は製造業者等であり、原則として販売業者は責任を負いません。ただし、製造物を輸入した者は、PL法の責任主体となります。

表示製造業者

OEM製品など実際は他社に製造を委託した場合であっても、自社製品として販売することもあるでしょう。特にアパレル業界では、OEMは珍しくありません。

このように、自ら製造業者として製造物にその氏名などの表示をした者や、製造物にその製造業者と誤認させるような表示をした者は、PL法上の責任主体となります。

実質的な製造業者

ここまで解説したもののほか、実質的な製造業者もPL法の責任主体となります。実質的な製造業者とは、経営多角化の実態や製造物の設計、構造、デザイン等に係る関与状況からみて、製品の製造に実質的に関与しているとみられる事業者です。

PL法でアパレルメーカーの責任が発生する「欠陥」とは

製品によって生命や身体、財産に損害が生じたとしても、これが製品の欠陥によるものでなければ、製造業者等がPL法上の責任を問われることはありません。

たとえば、包丁は調理のために使用するものであり、これを使って殺傷事件や強盗事件が起きたからといって包丁の製造業者等が責任を問われることがないと考えると、理解しやすいと思います。

では、PL法で製造業者等に責任が発生する可能性がある「欠陥」とは、どのようなものを指すのでしょうか?ここでは、順を追って解説します。

「欠陥」の考え方

PL法上の欠陥とは、その「製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」を指すとされています(同2条2項)。

つまり、欠陥とは「その製造物が通常有すべき安全性」を欠いている状態です。そして、この欠陥の有無は、次の事情などを考慮して判断されます。

  • 製造物の特性
  • 通常予見される使用形態
  • その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期
  • その他、その製造物に係る事情

なお、安全性に関わらない単なる品質上の不具合は、PL法上の「欠陥」ではありません。

また、PL法上の「欠陥」は、次の3つに分類されます。

  1. 製造上の欠陥:製造物の製造過程で粗悪な材料が混入したり、製造物の組立てに誤りがあったりしたなどの原因により、製造物が設計・仕様どおりに作られず安全性を欠く場合
  2. 設計上の欠陥:製造物の設計段階で十分に安全性に配慮しなかったために、製造物が安全性に欠ける結果となった場合
  3. 指示・警告上の欠陥:有用性や効用との関係で除去し得ない危険性が存在する製造物について、その危険性の発現による事故を消費者側で防止・回避するために適切な情報を製造者が与えなかった場合

欠陥の有無は訴訟でどのように判断される?

製造物の欠陥について訴訟へと発展した場合、欠陥の有無(「通常有すべき安全性」を欠いていたかどうか)は、製造物に係る諸事情を総合的に考慮して判断されます。そのため、何らかの基準で画一的に判断されるわけではありません。

参照元:製造物責任法の概要Q&A(Q7、Q9)(消費者庁)

欠陥があってもアパレルメーカーの責任が免除されるケース

製造した製品に欠陥があったからといって、製造業者等が直ちに責任を負うわけではありません。ここでは、仮に製品に欠陥があっても製造業者等がPL法上の責任を負わないケースを解説します。

  • 人の生命や身体、財産に損害が発生していない場合
  • 免責事由に該当する場合
  • 時効が経過している場合

人の生命や身体、財産に損害が発生していない場合

1つ目は、人の生命や身体、財産に損害が発生していない場合です。

PL法上の責任が発生するのは、欠陥によって他人の生命や身体、財産を侵害したときだけです(同3条)。そのため、たとえ欠陥による危険性があったとしても、実際に生命や身体、財産に損害が発生していないのであれば、PL法上の責任を問われることはありません。

ただし、今後の損害発生を避けるため、欠陥の内容などによってはリコールなどを検討する必要はあるでしょう。

なお、PL法では、欠陥による損害がその製造物についてのみ生じた場合を対象外としています(同上但し書き)。欠陥による損害がその製造物についてのみ生じた場合とは、欠陥によってその製品が故障した場合などです。

免責事由に該当する場合

2つ目は、免責事由に該当する場合です。次のいずれかに該当する場合は、製造業者等のPL法上の責任が免除されます(同4条)。

  1. その製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学または技術に関する知見では、欠陥を認識できなかった場合
  2. 次の3つの要件をすべて満たす場合
    1. その製造物が、他の製造物の部品または原材料として使用された
    2. その欠陥が、専ら他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じた
    3. その欠陥が生じたことについて過失がない

ただし、製造業者等が免責されるには、これらに該当することを自ら証明しなければなりません。

時効が経過している場合

3つ目は、時効が成立している場合です。PL法による損害賠償請求権は、原則として次のいずれかの期間中に行使しなければ消滅します(同5条)。

  • 損害と賠償義務者を知った時から3年間
  • 製造業者等がその製造物を引き渡した時から10年間

ただし、人の生命または身体を侵害した場合の時効は、次のとおりに伸長されます。

  • 損害と賠償義務者を知った時から5年間
  • 製造業者等がその製造物を引き渡した時から10年間

また、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じた時から時効期間を起算します。

なお、この「10年間」は製造物がその消費者の手に渡った時点ではなく、製造業者等がその製造物を流通させた時から起算することとされています。

参照元:製造物責任法の概要Q&A(Q22)(消費者庁)

PL法でアパレルメーカーが責任を追及された事例

アパレルメーカーがPL法による責任を問われたケースは、さほど多くありません。しかし、中にはPL法上の責任を追及されたケースも存在します。

ここでは、消費者庁が公表している「PL法関連訴訟一覧(訴訟関係)」から、アパレルメーカーに関する事案を2つ紹介します。

フード付きダウンジャケットストッパーによる外傷性白内障傷害事件

フード付きのダウンジャケットを使用していた際にフードのストッパー(フードのゴム紐がフードの中に入り込むことを防ぐためのもの)が腕などに引っ掛かったことで外れ、このストッパーが使用者の左眼に直撃して外傷性白内障を負った事案です。被害者側は、約1億円の損害賠償を求めました。

この事案では、「本件使用者が本件製品を購入した時点において、本件ゴム紐が長く、伸縮性のある素材であり、かつ、先端に本件ストッパーが付いているという点で、着用者が意図せず顔や眼を負傷するおそれのあるものであること等からすれば、本件製品は、通常有すべき安全性を欠くものといえ、構造上の欠陥がある」などとされ、約4,000万円の損害賠償請求が認められています。

子ども靴前歯折損事件

靴を履いていた当時1歳5か月の女児が、母親と帰宅した際に玄関先で靴が不意に脱げたため転倒して顎を打ちつけ、前歯1本を折る事故が発生した事案です。被害者側は、約100万円の損害賠償を求めました。

この事案では、「靴が脱げないよう足をホールドする基本的構造部分である本件甲ゴムの位置は、同機能を果たさないものとはいえないから欠陥の存在は認められず、また、付随的に足をホールドする機能を有するに過ぎない面ファスナーが両側に存するという構造をもって、同ファスナーに同機能を果たさないような欠陥があるとは認められないから、本件靴に、足が脱げないようホールドする機能に欠陥があるとはいえない」などとして、アパレルメーカーの責任が否定されています。

参照元:PL法関連訴訟一覧(訴訟関係)(消費者庁)

アパレルメーカーはPL法の責任を回避できる?

PL法による責任は、故意や過失を問わない無過失責任です。そのため、自社製品によって人の生命や身体、財産の損害が及んだ以上、アパレルメーカーが責任を回避することはできません。

たとえば、製品の販売時に「PL法上の責任は一切負いません」などと記載しても、そのような記載は無効です。また、自社で製造せずOEMとしても、通常消費者が認識する製造者が自社なのであれば、責任を回避することはできません。

アパレルメーカーができるPL法対策の例

先ほど解説したように、アパレルメーカーがPL法上の責任を回避することはできません。しかし、多額の損害賠償請求が認容された場合には、経営が立ち行かなくなるおそれもあるでしょう。

そのような事態を避けるため、PL法に焦点を当てた対策を講じることをおすすめします。最後に、アパレルメーカーができるPL法対策の例を4つ解説します。

  • PL保険に加入する
  • リスクマネジメント体制を構築する
  • 警告表示を十分に検討する
  • 相談先の弁護士を確保しておく

PL保険に加入する

1つ目は、PL保険に加入することです。

PL保険とは、製造業者等がPL法上の責任を問われた場合に、その損害を補償してくれる保険です。PL保険では、損害賠償金のほか、弁護士費用などが補償対象となります。

保険に加入しておくことで、万が一PL法上の責任を問われた場合であっても、賠償金の支払いなどで経営が立ち行かなくなる事態を避けることが可能となります。

参照元:PL保険は、どのような保険ですか。(日本損害保険協会)

リスクマネジメント体制を構築する

2つ目は、リスクマネジメント体制を構築することです。

PL法上の責任を回避する最上の方法は、欠陥のある製品を市場に流通させないことです。そのため、リスクマネジメント体制を構築して、欠陥商品を流通させないための対策が有用となります。

具体的には、その製品の安全性を保つために必要となる強度計算などを徹底すること、欠陥のある製品が製造された際に流通させない仕組みの構築、不正を防ぐ体制の構築、不正が生じた際の内部通報体制の構築などです。

具体的に講じるべき体制は、流通させる製品の性質のほか、自社製造かOEMかなど、状況によって異なります。リスクマネジメント体制の整備でお困りの際は、弁護士へご相談ください。

警告表示を十分に検討する

3つ目は、製品の警告表示を十分に検討することです。

製品の警告表示(注意表示)についてPL法に規定はなく、警告表示をしたからといって製造業者等の責任が免除されるわけではありません。

ただし、わかりやすい警告表示の有無は、欠陥の有無を判断するにあたって一つの考慮要素となり得ます。また、製品の特性や想定される誤使用などに関するわかりやすい警告表示をすることで、事故が発生しづらくなる効果が期待できます。

相談先の弁護士を確保しておく

4つ目は、相談先の弁護士を確保しておくことです。

PL法上の責任が疑われる事情が生じた場合、企業としてどのように対応すべきか判断に迷うケースも少なくないでしょう。そのため、PL法上の責任が疑われる事案が生じた際に備え、早期に弁護士に相談できる体制を構築しておくことをおすすめします。

すぐに弁護士へ相談することで、事案に応じた適切な初動がとりやすくなり、問題を最小限に抑えられる可能性が高くなります。

まとめ

PL法の概要や、アパレルメーカーがPL法上の責任を問われた事例などについて解説しました。

アパレルメーカーであってもPL法上の責任を問われることがあり、本文で紹介したとおり約4,000万円の賠償が認められた事例も存在します。

PL法の責任は無過失責任であり、責任を回避することはできません。そのため、リスクマネジメント体制など、欠陥のある製品の流通を防ぐ仕組みの構築は不可欠です。また、問題の発生に備え、PL保険に加入したり、PL法に強い弁護士と顧問契約を締結したりするなどの対策を講じるとよいでしょう。

伊藤海法律事務所では、アパレルメーカーのリーガルサポートに力を入れています。アパレルメーカーがリスクマネジメント体制を構築したい場合や、PL法上の責任を問われた際の相談先をお探しの際は、伊藤海法律事務所までお問い合わせください。