パロディは、日常会話ではいわゆる「パクり」や模倣と区別されることが多いようです。そして「パクり」や模倣はよくないことである一方で、パロディであれば許されるというイメージを持っている人も少なくないのではないでしょうか?

では、法律の視点から見たときに、本当にパロディであれば許されるのでしょうか?また、パロディが実際に商標権侵害に問われた実例はあるのでしょうか?

今回は、パロディの法的性質やパロディで商標権侵害となり得るかどうかなどについて、弁護士兼弁理士である専門家がくわしく解説します。

商標権の基本

パロディと商標権について理解するには、まず商標権について正しく理解しておかなければなりません。そこではじめに、商標権の基本を解説します。

商標権とは

商標権とは、商品やサービスについて使用する「商標」に対して与えられる、独占排他権です。

たとえば、「ルイヴィトン」や「Louis Vuitton」というネーミングを聞けば、誰もがあの有名ブランドを想起すると思います。また、「Louis Vuitton」と銘打たれた製品であれば、あのLouis Vuitton社が販売するものであると考え、そこに一定の信頼が生じることでしょう。

そのため、バッグとしての機能性だけを見れば他にも安価な製品が溢れているにもかかわらず、あえて高額な対価を支払ってLouis Vuitton社の製品を購入するわけです。

これは、「Louis Vuitton」というブランド名が、商標として守られているからこそ実現し得ることです。

仮に商標権という概念がなく、誰もが自由に「Louis Vuitton」と銘打った商品を販売できるとなれば、市場に混乱が生じるでしょう。また、いくら企業努力をしてよい商品を作っても次から次へと類似品が乱立して取り締まりもできない状態となれば、粗悪品が氾濫し、ブランド価値が毀損してしまいかねません。

このような事態を避けるため、ブランド(商標)を守る商標権が存在します。そして、商標権について規定する商標法は、「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的」として存在しています(商標法1条)。

商標として保護の対象となり得るもの

商標権の保護対象となるのは「商標」です。商標とは、商品やサービスを表すブランド名や会社名だけを指すのではなく、人の知覚によって認識できるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状、色彩、これらの結合、音などを指すとされています(同2条1項)。

たとえば、次の商標などが存在します。

  • 文字商標:文字のみからなる商標
  • 図形商標:写実的なものから図案化したものや幾何学的模様等の図形のみから構成される商標
  • 記号商標:暖簾(のれん)記号、文字を図案化し組み合わせた記号、記号的な紋章
  • 立体商標:立体的形状からなる商標(例:不二家のペコちゃん人形、ケンタッキー・フライド・チキンのカーネルサンダース人形)
  • 結合商標:異なる意味合いを持つ文字と文字を組み合わせた商標や、文字、図形、記号、立体的形状の2つ以上を組み合わせた商標
  • 音商標:音楽、音声、自然音などからなる商標であり、聴覚で認識される商標(例:テレビCMに使われるサウンドロゴ)
  • 色彩のみからなる商標:単色または複数の色彩の組合せのみからなる商標であって、輪郭なく使用できるもの(例:ファミリーマートのブランドカラー)
  • ホログラム商標:文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標
  • 位置商標:図形等を商品等に付す位置が特定される商標
  • 動き商標:文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標

このように、商標には非常に多くの種類があります。特に、音商標や色彩のみからなる商標などは商標であるとの認識が薄いまま、うっかり侵害してしまうおそれがあります。

そのため、その商標が登録されているか否かに関わらず、多くの人が一定の商品やサービス、企業を想起し得る他者の商標を安易に真似ることは避けた方がよいでしょう。

商標権として保護を受ける方法

商標権は自然に発生するものではなく、保護を受けるためには、特許庁に出願して商標登録を受けなければなりません。登録された商標は、「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」から検索できます。

なお、商標登録をしていなくても、誰もが知っているような他社のブランド名や商品名などを不正に使用した場合には、不正競争防止法違反に問われる可能性があります。そのため、「商標登録を受けていない商標であれば自由に使ってよい」というわけではないため、誤解のないようご注意ください。

商標権の存続期間

商標権の存続期間は、設定登録を受けた日から10年間です。ただし、10年間で必ずしも権利が消滅するとは限らず、その後も10年単位で何度でも更新することができます。

「パロディ」なら商標権侵害とならない?

一般的に、パロディとは作品や商品をユーモアをもって模倣したり作り変えたりすることを指します。パロディはもととなった作品と似ていることから「元ネタ」が想起される一方で、混同されるほどのものではないことが多いでしょう。

そのような理由からか、冒頭で触れたように「模倣やパクりは避けるべきことである一方で、パロディであれば許容される」とのイメージを持っている人は少なくないようです。

しかし、実は模倣や「パクり」とパロディとの間に、法的に明確な違いはありません。法律には「模倣は違法で、パロディであればセーフ」などの線引きはなく、制作者の意図が仮にパロディであったとしても、商標権侵害となり得るということです。

とはいえ、実際には問題となっていないパロディ商品も数多く存在します。しかし、これらの多くは「違法ではない」と正面から判断されたわけではなく、商標権者が「自社にとってさほど悪影響はない」「裁判をするほどではない」などと判断し、事実上黙認しているだけである可能性が高いでしょう。

パロディによる商標権侵害が問題となった事例

パロディ商品による商標権侵害が問題となった事例は少なくありません。ここでは、主な事例を3つ紹介します。

FRANCK MULLERのパロディである「フランク三浦」事件

フランク三浦

FRANCK MULLER(フランクミュラー)とは、スイスの高級機械式時計メーカーです。このパロディ商標である「フランク三浦」が問題となった事例です。

この「フランク三浦」は商標登録されたうえ、「フランク三浦」と表記された時計を販売していました。これが「FRANCK MULLER」と類似しているなどとして、「FRANCK MULLER」の商標権者から商標登録無効を請求されています。最終的には「FRANCK MULLER」側が最高裁へ上告したものの棄却され、「フランク三浦」の商標登録維持が確定しました。

「フランク三浦」は明らかにパロディ商標であり、FRANCK MULLERと誤認して「フランク三浦」の時計を購入する人はほとんどいないでしょう。しかし、それでも問題視された結果、最高裁にまでもつれ込んでいます。

なお、最終的には「フランク三浦」の商標登録が維持されていますが、これはパロディであるからという理由ではありません。「観念や外観において大きな相違があること」や、価格帯の大きな違い、「取引者や需要者が、双方の商品を混同するとは到底考えられないこと」などから、個別的に判断された結果です。

参照元:平成28年4月12日判決言渡 平成27年(行ケ)第10219号 審決取消請求事件

白い恋人のパロディである「面白い恋人」事件

「白い恋人」とは、石屋製菓が製造し北海道を中心に販売する、著名な焼き菓子(ラング・ド・シャ)です。

吉本興業のグループ会社が、このパロディ商品である「面白い恋人」を販売しました。これについて、石屋製菓が販売差し止めと損害賠償を求めて訴訟を提起した事例です。

この事件は、吉本興業側がパッケージデザインを変更し、かつ原則として関西圏のみでの販売とすることで、和解が成立しています。

PUMAのパロディである「KUMA」事件

著名なスポーツブランドである「PUMA(プーマ)」のロゴマーク(「PUMA」の文字の右上部にピューマが印字されたデザイン」は、たびたびパロディ化されています。中でも、「KUMA」という文字の右に熊の図柄が描かれた商標が、PUMAの商標権を侵害しているとして問題となりました。

KUMA

この件は、最高裁にまでもつれ込んだものの、最終的には「KUMA」の商標登録の無効が確定しています。

参照元:商標照会(特許情報プラットフォーム)

パロディ作品が商標権侵害とならないための主な判断基準

パロディが「パロディ」であることだけを理由に許容されるものではないことは、紹介した事例のとおりです。裁判所は、「パロディか、パロディでないか」によって商標権侵害を判断しているわけではありません。

では、作品が他者の商標権を侵害しないためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか?ここでは、主な判断基準を紹介します。

  • 類似性
  • 混同のおそれの有無
  • 公序良俗違反の有無

類似性

1つ目のポイントは、類似性です。類似性とは、簡単にいえば「もとの商標とパロディ商標が似ているかどうか」という視点です。

これの類似性の判断基準について最高裁判例では「対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断する」とされています(最高裁昭和43年2月27日最高裁第三小法廷判決)。

つまり、商標同士が似ているかどうかは単に外観だけで判断されるのではなく、商標が与える印象や取引実情などを踏まえて総合的に判断するということです。先ほど解説した「フランク三浦」事件では、類似性がないと判断されたことなどにより、商標登録が維持されています。

混同のおそれの有無

2つ目のポイントは、混同を生じるおそれの有無です。混同を生じるおそれとは、パロディ商標がその元となった商標と関連性があると混同される可能性があるかという視点です。

最高裁判例によると、この「混同を生じるおそれ」は、「当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度、取引者及び需用者の共通性その他取引の実状などに照らし、右指定商品等の取引者及び需用者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に」判断することとされています(平成12年7月11日最高裁第三小法廷判決)。

つまり、ある1人が混同したからといってその時点で混同を生じるおそれがあるとされるわけではなく、「普通に払われる注意力」を基準として、混同し得るかどうかを判断するということです。

公序良俗違反の有無

3つ目は、公序良俗違反の有無です。商標権事件における公序良俗違反とは、パロディの元となった商標の出所表示機能が希釈化(ダイリューション)されることや、信用や名声、顧客吸引力、業務上の信用を毀損させるおそれがあることなどを指します(知財高判平成25年6月27日)。

そのため、著名な商標が持つ顧客吸引力にフリーライド(ただ乗り)することが目的である場合、公序良俗に違反すると判断される可能性が高いでしょう。なお、先ほど紹介した「KUMA」事件と「面白い恋人」事件では、いずれもこの公序良俗違反に当たるとされています。

パロディ作品による商標権侵害でお困りの際は伊藤海法律事務所へご相談ください

パロディ作品による商標権侵害でお困りの際や、パロディ作品を製作販売するにあたって商標権侵害となるリスクを知りたい場合は、伊藤海法律事務所へご相談ください。最後に、伊藤海法律事務所の特長とご相談いただくメリットを解説します。

伊藤海法律事務所とは

伊藤海法律事務所は、伊藤海が代表を務める弁護士事務所です。伊藤海は弁護士のほかに弁理士資格も有しており、商標権など知的財産にまつわる法務を特に強みとしています。

ご相談いただく主なメリット

伊藤海法律事務所にご相談いただく主なメリットを3つ紹介します。

パロディ商標を無効とできるかどうかの見通しを立てやすくなる

当事務所へご相談いただくことで、問題となっているパロディ商標を無効化できるかどうか見通しを立てることが可能となります。同様に、パロディ商標を登録したい場合、その商標が登録できそうかどうかの見通しを立てることも可能です。

差止請求や損害賠償請求などまで一貫して対応ができる

当事務所の代表者は、弁理士だけではなく弁理士資格も有しています。そのため、商標登録の無効化や商標登録の支援だけではなく、相手方への差止請求や損害賠償請求などまで一貫したサポートが可能です。

知財戦略についてアドバイスを受けられる

自社のブランドを守り育てていくためには、知的財産の保護に積極的に取り組むことが必要です。伊藤海法律事務所ではトラブルが起きた後の対応のみならず、企業様の知財戦略についてのアドバイスやサポートも行っています。

商標権など必要な知的財産の登録をしたうえで、さまざまな契約締結時に知的財産の取り扱いに配慮した条項を盛り込むなどの対策をとることで、自社の知的財産を守ることが可能となります。

まとめ

パロディと商標権侵害について解説しました。

商標権とは、その商品やサービスを表す商標を保護する権利です。そして、パロディであるからといって商標権侵害とならないわけではありません。たとえパロディであったとしても、その類似性の度合いや混同のおそれなどによっては、商標権侵害となることは十分にあり得ます。

他者の商標権侵害をすれば、コストをかけて製造した製品について販売の差し止めがなされたり損害賠償請求をされたりする可能性があります。そのような事態を避けるため、パロディ商標を登録しようとする際や、他者の商標のパロディ商品を製作しようとする際は、あらかじめ弁護士へ相談するのがおすすめです。また、自社の商標権が侵害されてお困りの際にも、早期に弁護士へご相談するとよいでしょう。

伊藤海法律事務所の代表者は弁護士であり、弁理士でもあることから、商標権など知的財産にまつわる法務に特に強みを有しています。パロディ商品による商標権侵害でお困りの際や、パロディ商品を制作したいとお考えの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。