システム開発委託契約は、「準委任契約」の性質を持つこともある一方で、「請負契約」の性質を持つこともあります。

では、準委任契約と請負契約には、主にどのような違いがあるのでしょうか?また、システム開発全体を1本の契約で行う「一括請負契約」と月額制の「準委任契約」とには、それぞれどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?

今回は、主に受託者(ベンダー)側の視点から、準委任契約と請負契約の違いやメリット・デメリット、それぞれが向いているケースなどについて、弁護士が詳しく解説します。

システム開発委託契約は準委任契約?請負契約?

システム開発委託契約は、準委任契約に該当するのでしょうか?それとも、請負契約に該当するのでしょうか。

結論としては、どちらのケースもあり得ます。また、一つの契約において、請負契約としての側面と準委任契約としての側面が混在していることもあり、厳密に切り分けられるケースばかりではありません。

なお、システム開発委託契約において法的紛争が生じた際など、いずれの性質が強いのか判断する必要が生じた際は、契約書のタイトルなどではなく内容で判断することとなります。紛争が生じてお困りの際は、早期に弁護士へご相談ください。

請負契約と準委任契約の違い

請負契約と準委任契約は、それぞれどのような性質を持つのでしょうか?ここでは、請負契約と準委任契約それぞれの概要と、主な違いを解説します。

請負契約とは

請負契約とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによってその効力が生ずる契約です(民法632条)。

請負契約の最大の特徴は、「仕事の完成」が契約の目的とされていることです。つまり、仕事の成果物である「結果」が重視されています。

請負契約の代表例には、建設工事やホームページ制作、デザイン制作、そしてシステム構築などがあります。

準委任契約とは

準委任契約の前に、「委任契約」について解説します。委任契約とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生ずる契約です(同643条)。

委任契約では仕事の完成は目的とされておらず、プロセスが重視されています。委任契約の代表例には、訴訟行為代理を弁護士に依頼する契約などがあります。

一方、委託する業務の内容が法律行為以外のものである場合は「準委任契約」となります。準委任契約の代表例には、コンサルタントによるコンサルティング契約や医師による診療、そしてシステムの保守契約などがあります。

請負契約と準委任契約の相違点

請負契約と準委任契約には、どのような違いがあるのでしょうか?主な違いは、下の表のとおりです。

請負契約 準委任契約
契約の目的 仕事の完成 事務の処理
ベンダー

(システム開発の受託者)が負う義務

仕事の完成義務 善管注意義務

(善良な管理者としての注意をもって、事務処理を行う義務)

再委託や下請の制限 原則可能

(定めなし)

原則不可

(委託者の許可を得たときと、やむを得ない事情があるときは可能)

報酬支払時期 目的物の引き渡しと同時 委任事務の履行後
任意解除 完成前は委託者はいつでも可能

(ただし、損害賠償義務あり)

両当事者がいつでも可能

(ただし、相手に不利な時期の解除は損害賠償義務あり)

解除の遡及効 あり

(解除によって、初めから契約がなかったこととなる)

なし

(解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる)

契約においては契約書でそれぞれの事項が修正されていることは少なくないものの、基本的な違いを理解しておくとよいでしょう。

システム開発委託契約を「一括請負契約」とするメリット・デメリット

システム開発委託契約を最初から最後まで1本の契約にまとめた場合、「システム開発」という仕事の完成が目的となることが一般的であることから、請負契約と考えることが自然です。このように、システム開発の全過程を1本の契約にまとめる契約形態を「一括請負契約」といいます。

一方で、システム開発を段階や期間ごとに区切る方式を、「多段階契約」や「月額契約」などといいます。中でも、「月額契約」はシステム開発の完成を目的としているとは言い難く、準委任契約としての色が強くなります。

ここでは、システム開発委託契約を一括請負方式とした場合のメリットとデメリットについて、受託者であるベンダーの視点から紹介します。

一括請負契約とするメリット

システム開発委託契約を一括請負契約とすることの最大のメリットは、システム開発の途中で他社へ切り替えられたり、委託者側の一方的な都合(経営方針の変更によってシステム開発自体が不要となったなど)によって打ち切られたりするリスクが低いことです。

また、委託者の都合で打ち切られたり切り替えられたりしたとしても、契約書の規定に従って違約金や損害賠償などを請求できることが一般的です。

このような点から、一括請負契約では当初取り決めた報酬額を、ベンダーが確実に得やすいと言えます。

ただし、実際には委託者側の都合による打ち切りや他社への切り替えであるにも関わらず、開発遅延や仕様書との相違などベンダー側の都合であるとの主張をされ、委託者から違約金の支払いを拒否されるリスクもゼロではありません。中途解除であっても、ベンダー側による義務違反が理由などであれば、原則として違約金などが発生しないためです。

そこで、ベンダーとしてはたとえそのような主張をされても不利な結果とならないよう、委託者とのやり取りは可能な限り記録に残しておくようにしてください。中でも、仕様や期限に関する事項は適宜すり合わせを行って議事録を作成し、委託者側の担当者からも署名などをもらっておくとよいでしょう。

トラブルに発展してしまった際は、システム開発委託契約に詳しい弁護士へ早期にご相談ください。

一括請負契約とするデメリット

システム開発委託契約を一括請負契約とする場合、ベンダーにとってのデメリットは、正確な見積もりが難しいため、受け取れる報酬が本来よりも少なくなる可能性があることです。

開発するシステムの内容によりますが、システム開発に要する期間は数か月から数年単位となることも少なくありません。また、開発対象は、「システム」という目に見えないものです。そのため、契約締結前の段階で開発に要する報酬額を正確に見積もって提示することは困難といえます。

そうであるにも関わらず、一括請負契約の場合は、契約の成立段階で最終的な報酬額を定めるよう、委託者から求められることが少なくありません。委託者側の担当者としても、かかる金額について社内で調整したり、上層部の承認を得たりする必要があるためです。

ベンダーとしてはシステム開発委託契約を受注したいとの思いから、当初に正確な見積もりが欲しいという委託者の要求を飲まざるを得ないことも少なくないでしょう。その結果、開発途上において追加のコストが生じても報酬を増額することができず、ベンダー側が損をしてしまう可能性があります。

このような事態に備え、追加対応や修正など一定の事項が生じた際は別途報酬が発生することについて、委託者の理解を得ておく必要があるでしょう。そのうえで、契約書にもその旨を明記するようにしてください。お困りの際は、契約締結前に弁護士へご相談ください。

システム開発委託契約を「準委任契約」とするメリット・デメリット

システム開発委託契約を月額制の準委任契約とすることには、一括請負契約と比較してどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?こちらも受託者(ベンダー)側の視点から、主なメリットとデメリットについて解説します。

準委任契約とするメリット

システム開発委託契約を月額制の準委任契約とする場合、ベンダーにとっての主なメリットは次の3点です。

  • 経営が安定しやすい
  • ベンダー側の都合による途中頓挫の場合に違約金が生じにくい
  • 仕様変更に対応しやすい

経営が安定しやすい

1つ目は、月々の収入が予想しやすく、経営が安定しやすいことです。

一括請負契約の場合、請負代金は開発の中途で一部を受け取れることもあるものの、システムを納品した後でまとまった額を請求することが一般的です。しかし、従業員の給与や下請企業の支払う報酬、事務所の家賃などの経費の中には、月々で支払うべきものが少なくありません。

そのため、システムの開発期間が長くなると、最終的な報酬を受け取る前の段階で資金繰りが苦しくなる可能性があります。

一方で、月額制の準委任契約での開発の場合は、1か月単位で報酬額を算定したうえで毎月決まった金額が入金されることが一般的です。そのため、資金繰りが良くなり、ベンダー側の経営が安定しやすくなる傾向にあります。

とはいえ、後ほどデメリットの欄で解説するとおり、一括請負契約と比較して途中で契約を打ち切られる可能性が高いため、この点も見越して資金繰りの計画を立てることが必要です。

ベンダー側の都合による途中頓挫の場合に違約金が生じにくい

2つ目は、たとえベンダー側の都合によってシステム開発が途中頓挫した場合であっても、違約金が生じにくいことです。

一括請負契約の場合、契約締結後にベンダー側の都合(能力不足や人員不足など)によって開発が頓挫した場合は、原則として違約金や損害賠償請求の対象となります。一方で、月額性の準委任契約の場合は「システムの完成」自体が目的となっているわけではないことから、システム開発が途中頓挫しても違約金が生じにくい傾向にあります。

ただし、実際には契約内容やベンダー側が頓挫せざるを得なくなった事情などによって結論が異なる可能性があるため、自社のみで判断するのではなく、あらかじめ弁護士へご相談ください。

また、たとえ違約金や損害賠償請求などの対象などとはならなかったとしても、開発途上でベンダー側の都合で頓挫したとなれば、企業としての信頼が失墜するリスクは否定できません。

仕様変更に対応しやすい

3つ目は、システムの仕様変更や追加開発などに対応しやすいことです。

一括請負契約の場合は途中でシステムの仕様変更や追加での開発が生じた際、改めて見積もりを提示して承認を得るなどのプロセスを経なければなりません。当初の契約内容によっては、報酬の増額が難しい場合もあるでしょう。

一方で、月額制の準委任契約の場合は仕様変更や追加開発などの対応にかかる分だけ契約期間が延びることとなり、自動的に追加の報酬が得やすくなります。

ただし、こちらも当初の契約内容によっては異なる結論となる可能性もあるため、弁護士へご相談ください。

準委任契約とするデメリット

月額制の準委任契約とする場合、ベンダーにとっての最大のデメリットは、開発途上で他のベンダーに切り替えられたり開発を打ち切られたりする可能性があることです。

先ほど解説したように、一括請負契約では委託者側の都合で開発が打ち切られたり他社に切り替えられたりした場合、原則として当初の取り決めどおりの報酬や違約金などの請求が可能となります。

一方、月額制の準委任契約の場合は、ベンダー側の都合で途中で開発が頓挫したとしても、原則として違約金などを請求することは困難です。

ただし、契約内容や状況によっては損害賠償請求などが可能であることもあるため、開発打ち切りを宣告された際などには弁護士へご相談ください。

システム開発委託契約を準委任契約とする方がよい例・一括請負契約とする方がよい例

ベンダーにとって、システム開発委託契約を準委任契約とすることと一括請負契約とすることはどちらがよいのしょうか?

準委任契約と一括請負契約のどちらがよいのかは、状況によって異なります。最後に、準委任契約とする方がよい例と一括請負契約とする方がよい例をそれぞれ紹介します。

準委任契約とする方がよい例

システム開発委託契約を準委任契約とする方がよいのは、開発したいシステムの仕様が、委託者側で十分に定まっていない場合です。

この場合、一括請負契約を締結することは現実的ではありません。一括請負契約を締結しようにも、初期の段階で仕様や報酬額、開発期間などを固めることが難しいためです。

この場合は月額制の準委任契約を選択し、まず小さくシステムの開発を始めたうえで、その後継続的に調整していくことが有力な選択肢となります。

また、委託者が中小企業であるなど資金繰りの都合からまとまった金額を一度に支払うことが難しい一方で、月額の報酬であれば負担しやすい場合などにも、準委任契約が選択されやすいといえるでしょう。

一括請負契約とする方がよい例

システム開発委託契約を一括請負契約とする方がよいのは、委託者が作成したいと考えるシステムの最終形が明確であり、進行中の仕様変更も少ないことが見込まれる場合です。この場合は、一括請負契約とすることで、ベンダーが全体像を見通しながらシステム開発を進めやすくなります。

また、委託者がシステム開発にかかる費用を固定化したいと考えている場合も、一括請負契約が向いています。月額制の準委任契約の場合は、最終的にかかった期間によって金額が変動する一方で、一括請負契約では初期段階で報酬額が固まりやすいためです。

一括請負契約は月額制の準委任契約と比較して途中で解約される可能性が低いため、ベンダーがそのシステム開発を完遂し全体的な報酬を確実に得たい場合も、一括請負契約が有力な選択肢となるでしょう。

まとめ

請負契約と準委任契約の最大の違いは、仕事の完成を目的としているかどうかです。請負契約では仕事の完成という結果が重視される一方で、準委任契約では事務の遂行というプロセスが重視されます。

システム開発委託契約は請負契約と準委任契約の双方の性質を備えており、大きく分けるとシステム開発全体を1本の請負契約とする「一括請負契約」とするものと、月額制などで締結する「準委任契約」とが存在します。

ベンダーにとって、一括請負契約の主なメリットは中途解約がされにくいことであり、準委任契約の主なメリットは仕様変更に対応しやすいことや収入の予測がしやすく経営が安定しやすいことなどです。

それぞれに異なるメリットとデメリットがあるため、システム開発委託契約を締結する際は、その案件では自社にとってどちらにメリットが大きいかよく検討したうえで選定するとよいでしょう。

伊藤海法律事務所は、システム開発委託契約にまつわるリーガルサポートに力を入れています。システム開発委託契約は期間が長期に及ぶことが多いうえ契約金額も高額になりやすく、開発対象が目に見えるものではないことから、紛争が多い契約類型の一つです。

システム開発委託契約にまつわる紛争を防止したい場合や契約書の作成について相談したい場合、すでにトラブルとなっておりお困りの場合などには、伊藤海法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。