タレントや声優などが事務所へ所属する際は、マネジメント契約を締結することが一般的です。
マネジメント契約書では、どのような事項を定めればよいのでしょうか?また、マネジメント契約と比較されやすいエージェント契約とは、どのような点が異なるのでしょうか?
今回は、マネジメント契約書の概要や主な記載項目、エージェント契約との違いなどについて、弁護士がくわしく解説します。
マネジメント契約書とは
マネジメント契約書とは、タレントやアーティスト、声優、モデルなど(以下、「タレント等」といいます)が、プロダクションに所属する際に取り交わす契約書です。
マネジメント契約の内容はさまざまですが、一般的にはタレント等がそのプロダクションに独占的にマネジメント権を付与する(タレント等のスケジュール管理などをプロダクションに一任する)旨を定めることが多いでしょう。その代わりに、タレント等はプロダクションから一定の報酬を受け取ります。
マネジメント契約を締結する際は、契約書の内容をよく理解しておかなければなりません。消費者として商品を購入する際や、企業と雇用契約を締結する場合などとは異なり、たとえ契約書に不利な内容が盛り込まれていたとしても、自己責任となる可能性が高いためです。
押印してしまってから後悔する事態を避けるため、プロダクションが契約書の原案を作成しようとする場合や、タレント等の立場としてプロダクション側から提示された契約書の内容が理解できない場合などには、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。
マネジメント契約の法的性質
契約などについて定める「民法」では、典型的な契約類型(「典型契約」といいます)が定められています。代表的なものは、「売買契約」や「賃貸借契約」、「委任契約」などです。
では、マネジメント契約の法的性質は、どのように考えればよいのでしょうか?ここでは、順を追って解説します。
民法の典型契約は該当しない
マネジメント契約は典型契約の「委任契約」や「雇用契約」などと近い部分はあるものの、これらと一致するわけではありません。マネジメント契約は、民法上の典型契約には当てはまらないといえるでしょう。
法的性質は具体的な契約の内容で判断される
典型契約に該当するのであれば、契約書で規定がない事項については、民法に照らして判断されることとなります。たとえば、民法では委任について「受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない」旨の記載があります(民法648条1項)。
このような規定があることから、委任の場合は契約書で報酬の支払いについて記載がない限り、原則として報酬を請求できないことがわかります。
一方で、マネジメント契約は典型契約ではないことから、規定がない場合の拠りどころとなる民法上の規定はありません。すべての契約に適用される、総論的な規定が存在するだけです。
そうであるからこそ、マネジメント契約では契約内容に疑義が生じることのないよう、契約書でより詳細な事項を定めておく必要があります。特にトラブルとなりやすい事項については曖昧な部分を残さないよう、契約書できちんと定めておきましょう。
マネジメント契約書で定めるべき主な事項
マネジメント契約書では、どのような条項を定めればよいのでしょうか?ここでは、一般的な条項と、それぞれの概要を解説します。マネジメント契約書の作成でお悩みの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。
- 契約の目的
- 専属・非専属の別
- 報酬
- 経費の取り扱い
- 権利の帰属
- 契約期間
- 禁止事項
- 損害賠償
契約の目的
はじめに、契約の趣旨目的を定めます。たとえば、次のような内容が想定できます。
- 〇〇(タレント等)は当プロダクションに所属し、芸能活動に関するマネジメントをプロダクションに委託します
ここで、具体的なタレント活動の内容(「音楽著作物の創作」、「テレビ等への出演」など)を定めることもあります。なお、タレント等の立場としては、行わない業務(成人コンテンツへの出演)があるのであれば、その旨を契約書に明記するよう交渉すべきです。
専属・非専属の別
マネジメント契約書では、専属か非専属かの旨を定めます。専属とする場合には、他社とマネジメント契約を締結することや、自身で業務を獲得することなどを禁じる条項を入れることになります。
報酬
マネジメント契約書では、プロダクションがタレント等に対して支払う報酬について定めます。報酬の定め方はさまざまですが、主に次の3つの形態があります。
- 完全歩合制:タレント等が仕事で得た対価のうち、一定割合を報酬とする方法
- 定額報酬制:仕事の内容や量にかかわらず、毎月決まった額を報酬とする方法
- 歩合制+報酬制:一定の定額報酬に加え、仕事で得た対価のうち一定割合を加算した額を報酬とする方法
タレント等の立場から見ると、完全歩合制の場合は浮き沈みが激しくなり、仕事が少なければ報酬がほとんど得られない可能性も生じます。一方で、定額報酬とした場合は、せっかく仕事が増えても一定以上の報酬を得ることができません。そのため、契約期間や報酬体系の見直し時期などと合わせて内容を確認し、必要に応じて交渉するとよいでしょう。
経費の取り扱い
タレント等の活動には、交通費や宿泊費、ヘアメイク費などさまざまな費用が掛かります。
これらの費用を誰が負担するのか、契約書で定めておきましょう。プロダクションが全額を負担する場合もある一方で、一定部分をタレント等が負担すると定めることもあります。
タレント等の立場としては、経費の多くがタレント等の負担となっている場合、これを加味しても十分な報酬が設定されているか確認しておくべきでしょう。一方的に不利な条件を強いる契約となっていないか確認したい場合は、あらかじめ弁護士へご相談ください。
権利の帰属
タレント活動では、著作権などさまざまな権利が発生します。マネジメント契約書では、原則としてプロダクションに権利が帰属する内容とすることが多いでしょう。
ただし、「すべての著作権はプロダクションに帰属する」と定めるだけでは、権利処理として十分ではありません。著作者に帰属する著者者人格権は譲渡することができないほか、二次的著作物の利用権など一部の権利は、これらの権利も譲渡対象となることを明記しなければ譲渡の権利が生じないためです。
著作権の処理は複雑であり、これがもとでトラブルに発展するケースも少なくありません。必要な権利の譲渡を行い将来のトラブルを避けるためには、弁護士へ相談して条項を作り込むことをおすすめします。
契約期間
契約の存続期間を定めます。マネジメント契約書では、一般的には1年から3年程度の期間を設定することが多いでしょう。
10年などあまりにも契約期間を定めた場合は、その間にタレント等が大成するなど状況が大きく変わり報酬体系が不相応となる可能性があります。また、タレント等がプロダクションの従業員であり実質的にはマネジメント契約の法的性質が雇用契約であると判断された場合などには、3年を超える契約期間が労働基準法上問題となる可能性も否定できません。契約期間の定めは非常に重要であるため、特に慎重な検討が必要です。
禁止事項
プロダクションがタレント等に禁止したい事項を定める条項です。たとえば、他社と重ねてマネジメント契約を締結することや反社会勢力と関わりを持つことなどが想定されます。
損害賠償
契約違反時の解除や、損害賠償に関する条項です。ただし、中途解約について不相応に高額な損害賠償額を定めた場合は、これが無効となるおそれもあります。そのため、損害賠償の予定額を定める場合は、適正額を十分に検討することが必要です。
エージェント契約とは
マネジメント契約と似たものに、「エージェント契約」が存在します。吉本興行での「闇営業問題」で話題となったほか、旧ジャニーズ事務所(SMILE-UP.)所属タレントの受け皿となる新会社がエージェント契約を選択肢に掲げたことなどで目にした人も少なくないでしょう。
では、エージェント契約とはどのようなものを指すのでしょうか?ここでは、エージェント契約の概要とマネジメント契約との主な違いを解説します。
エージェント契約の概要
エージェント契約(タレントエージェント契約)とは、タレント等への仕事のあっせんに主眼を置いた契約です。
エージェント契約の場合、エージェントはテレビ局やイベント、広告などにタレント等を起用する営業活動だけを行います。そのうえで、エージェントが仕事を獲得した場合は、エージェントとタレント等とで報酬を分け合う形をとることが一般的です。
マネジメント契約とエージェント契約の主な違い
マネジメント契約とエージェント契約の主な違いは次の3点です。実際には個々の契約内容によって異なる部分もあるものの、ここでは典型的な契約内容を前提として解説します。
プロダクションが行う業務範囲
マネジメント契約では、タレント等のマネジメントをすべてプロダクションが行います。たとえば、営業活動のほか育成やトラブル対応、マネージャーの手配などです。
一方、エージェント契約では、エージェントはタレント等の営業活動(テレビ局などへの売り込み)だけを行います。マネージャーやトラブル対応を担う弁護士などが必要な場合は、タレント等が自身で適任者を見つけて契約します。同様に、レッスンを受ける必要がある場合などは、タレント等自身が講師や教室などと契約してレッスンを受けなければなりません。
タレント等による仕事の選択権の有無
マネジメント契約の場合は、原則としてタレント等に仕事の選択権はありません。プロダクションに無断でプロダクション以外から仕事を受ければ、契約違反であるとしてトラブルとなるおそれがあります。
一方、エージェント契約の場合は、仕事の選択権はタレント等にあります。エージェントから仕事を受けることができる一方で、自身で仕事を見つけることも制限されません。
報酬体系
マネジメント契約の場合、タレント等の仕事の対価はいったんすべてプロダクションが受け取り、そこからタレント等に報酬が配分されます。報酬の額は事務所との契約内容によって異なり、テレビ局などからプロダクションが受け取った対価の一定割合とされることもあれば、プロダクションが受け取った額にかかわらず出演1本あたり〇円と定められる場合、月額の固定とされる場合などが考えられます。特に固定報酬制の場合などには、自身の活動によってプロダクションがどの程度の収入を得ているのか、タレント等が把握していないことも少なくありません。
一方、エージェント契約の場合は、獲得した仕事の対価をエージェントとタレント等が一定割合で分け合います。実際のお金の流れはケースバイケースであるものの、タレント等が主体となって仕事の対価を受け取り、そこから営業代行手数料として一定割合をエージェントに支払うイメージです。
マネジメント契約書やエージェント契約書の作成は伊藤海法律事務所へお任せください
マネジメント契約書やエージェント契約書の作成は、伊藤海法律事務所にお任せください。最後に、伊藤海法律事務所の概要と当事務所へご依頼いただく主なメリットを紹介します。
伊藤海法律事務所とは
伊藤海法律事務所とは、弁護士であり弁理士でもある伊藤海が代表を務める弁護士事務所です。カルチャー・エンターテインメント法務とテクノロジー法務に特化しており、音楽やアート事業などにも精力的に携わっています。
プロダクションのほか俳優や声優、アーティスト、芸人、アイドルなどの顧客も多く、最新トレンドを踏まえたリーガルサポートを強みとしています。
伊藤海法律事務所へご依頼いただく主なメリット
当事務所にご依頼頂く主なメリットは次の4点です。お困りの際は、まずはお気軽にご相談ください。
- 契約内容について相談できる
- 知的財産に関するアドバイスを受けられる
- 自身にとって有利な契約書を作成しやすい
- トラブル発生時の対応がスムーズとなる
契約内容について相談できる
マネジメント契約やエージェント契約を締結する際、どのような内容とすべきか悩んでしまうことでしょう。また、相手方から提示された契約書にそのまま押印して良いか判断に迷うことも少なくないはずです。
そのような際は、当事務所へご相談ください。実際にエンターテインメントの現場で多くのリーガルリーサポートをしてきた実績をもとに、契約内容についてアドバイスいたします。
知的財産に関するアドバイスを受けられる
エンターテインメントの現場では、著作権などの知的財産に関するトラブルが少なくありません。よくわからないままにマネジメント契約書やエージェント契約書を交わしてしまうと、知的財産について適切な処理ができておらず、トラブルに発展するおそれがあります。
当事務所の代表者は、弁護士であり弁理士でもあります。そのため、より専門的な知見から知的財産に関する適切なアドバイスが可能です。
自身にとって有利な契約書を作成しやすい
マネジメント契約書の正解は、一つではありません。プロダクション側にとって望ましい契約書と、タレント等にとって望ましい契約書とではその内容が大きく異なります。
当事務所にご相談いただき一つひとつの契約条項をしっかりと検討することで、自社に有利な内容で契約書を作成しやすくなります。
トラブル発生時の対応がスムーズとなる
知的財産の取り扱いや契約解除、契約違反などにより、プロダクションとタレント等との間でトラブルが生じることもあります。伊藤海法律事務所ではトラブル対応の実績も豊富であり、依頼者様にとって有利な解決へ向けてサポート致します。
しかし、マネジメント契約書やエージェント契約書の内容によって、トラブル解決のしやすさには雲泥の差が生じます。契約締結段階からご相談いただくことでトラブル発生時の対応を見据えた契約書の作成が可能となり、問題発生時にスムーズに対応しやすくなります。
まとめ
マネジメント契約書の概要や主な記載項目、エージェント契約との違いなどを解説しました。
マネジメント契約書とは、タレント等とマネジメント契約をする際に取り交わす書面です。民法上の典型契約ではないことから、契約書の条項が特に重要な意味を持ちます。
マネジメント契約書やエージェント契約書の原案を作成しようとする際や、相手方から提示された契約書の内容に潜むリスクを確認したい場合などには、弁護士へ相談することをおすすめします。
伊藤海法律事務所ではエンターテインメント法務に強みを持っており、マネジメント契約の作成やチェック、トラブル発生時の対応などに多くの実績があります。マネジメント契約書の締結でお悩みの際や、エンターテインメント法務にくわしい顧問弁護士をお探しの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。