動画は視覚的に伝えられる情報が多いため、最近では多くの企業が動画をマーケティングなどに取り入れています。そして、動画制作を外部企業に委託することも多いでしょう。しかし、動画制作ではトラブルが生じることがあります。

では、動画制作に関するトラブルにはどのようなものが考えられるでしょうか?また、トラブルを予防するには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?今回は、動画制作にまつわるトラブルについて、弁護士がくわしく解説します。

なお、この記事では動画制作を委託する会社を「委託会社」、動画制作の受託を受けて動画を制作する会社を「制作会社」と表記して解説を行います。

動画制作のよくあるトラブル1:契約内容に関するトラブル

動画制作にまつわるトラブルは、さまざまです。はじめに、契約内容に関するトラブルを3つ解説します。

なお、それぞれのケースについて実際にどのような落としどころが適当であるかは、個別の状況や契約書の内容などによって異なります。そのため、トラブルが生じてお困りの際は、無理に自社で判断せず弁護士へご相談ください。

成果物に関するトラブル

1つ目は、成果物に関するトラブルです。

制作会社から納品された動画が委託会社のイメージと異なっていた場合に、これを納品として取り扱うか、納品を拒絶して改めてイメージに合ったものの納品を求められるかという問題です。

納品された動画があらかじめ規定した仕様と明らかに異なる場合、仕様に合致していない以上、納品扱いとする必要はないでしょう。制作会社は、仕様どおりの動画を納品する義務を果たしていないためです。

一方、そもそも仕様が明確になっていなかった場合や、制作会社が仕様で決めていなかった要望を「後出し」している場合などには、納品を拒むことは難しいと思われます。

修正に関するトラブル

2つ目は、修正に関するトラブルです。

制作会社から納品された動画の修正を依頼する場合に、修正に追加料金が発生するかどうかという問題です。修正が必要となった原因が、納品物が仕様に合致していないことであれば、原則として修正対応に追加料金は発生しません。

なぜなら、この場合はそもそも、制作会社が仕様どおりの動画を納品するという義務を果たしていないためです。一方、納品された動画が仕様に合致しているにもかかわらず、委託会社が修正などの追加対応を求めた場合は、原則として追加費用がかかります。

納期に関するトラブル

3つ目は、納期に関するトラブルです。

制作会社は、あらかじめ契約で定められた納期を遵守しなければなりません。納期に遅れた場合は、損害賠償請求などの原因となり得ます。

しかし、遅延の原因が委託会社側にある場合も少なくありません。たとえば、委託会社が途中で仕様の変更を求めたことで納期に間に合わないこととなった場合や、委託会社が必要な資料を速やかに提出しなかったことで納期に遅れることとなった場合などです。

とはいえ、実際には遅延の原因が複合的であることも多く、この点でトラブルに発展することもあります。

動画制作のよくあるトラブル2:著作権の取り扱いに関するトラブル

動画制作では、著作権に関してトラブルが生じることもあります。ここでは、著作権の概要と、著作権に関するトラブルの例を解説します。

著作権とは

著作権とは、著作物を保護する法律です。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です(著作権法2条1項1号)。

著作権は創作と同時に発生するものであり、著作権を発生させるために登録などは必要がありません。また、著作権の保護を受けるためにプロであるかどうかは問われず、高い芸術性なども不要とされています。そのため、動画制作会社が制作した動画は、たとえば企業の紹介や商品PRのための動画などであったとしても、著作権の保護対象となるのが原則です。

また、著作権はその著作物を制作した者(従業員であるカメラマンなどが会社の業務の一環で制作した場合は、原則としてその会社)に帰属します。

そのため、委託会社が制作会社に動画の制作を委託した場合、契約書などに著作権の譲渡に関する定めなどがない限り、動画の著作権は制作会社に帰属することが原則です。委託会社に帰属するわけではないため、誤解がないようご注意ください。

動画制作にまつわる著作権トラブルの例

著作権に関する誤解は多く、動画制作で著作権に関するトラブルが生じる例は少なくありません。ここでは、著作権に関する動画制作のトラブルを紹介します。

なお、いずれもあらかじめ双方で著作権の取り扱いについて合意をし、契約書に適切な規定を盛り込むことで避けられるトラブルです。著作権について適切に定めた契約書を作成したい場合は、弁護士へご相談ください。

納品した動画に著作権侵害がある

1つ目は、制作会社が納品した動画に著作権侵害があるトラブルです。

たとえば、権利者から許諾を受けることなく、他者が権利を有するBGMやイラストを動画内で使うことなどが考えられます。この場合は制作会社に問題があることはもちろんですが、第三者が見れば委託会社が権利侵害をしているように見えるため、委託会社のイメージが低下するおそれがあります。

想定外の用途で動画が使用される

2つ目は、納品をした動画が想定外の用途で使用されるトラブルです。

このようなトラブルは、委託会社が「お金を払って作ってもらったのだから、動画を自由に使ってよいだろう」と誤認していることから生じ得ます。しかし、契約書などで規定がない限り、動画の著作権は制作会社に帰属します。そのため、たとえその動画の制作を委託した会社であっても、あらかじめ許諾を受けた内容以外で動画を使用することはできません。

二次使用や改変をされる

3つ目は、二次使用や改変に関するトラブルです。

たとえば、動画内で使われているイラストを委託会社が切り出して自社のパンフレットに印刷したり、動画の一部を作り変えたりする場合などがこれに該当します。このような場合に、制作会社から差止などを請求され、トラブルに発展する可能性があります。これも、委託会社が自社に著作権があると誤認することから生じるトラブルです。

しかし、先ほど解説したように、契約書で特に定めない限り、動画の著作権は制作会社に帰属します。そのため、委託会社は動画を無断で改変したり、動画から静止画を切り出すなど二次使用をしたりすることはできません。

また、たとえ著作権の譲渡を受けていたとしても、制作者である制作会社には「著作者人格権」が残ります。そのため、この場合でも、制作会社の意に反する動画の改変は制限されることが原則です。

動画制作にまつわるよくあるトラブル3:その他のトラブル

次に、動画制作にまつわるその他のトラブルを2つ紹介します。

情報漏洩

動画制作にあたっては、委託会社の機密情報を制作会社が知る場合があります。たとえば、企業のPR動画を制作する過程で、部外者に立ち入りを禁じている区域に立ち入ってもらう必要がある場合などです。

また、プロジェクトによっては、動画の制作を委託していること自体を公にしたくない場合もあるでしょう。しかし、制作会社側の情報管理が甘ければ、情報が漏洩してトラブルとなるおそれがあります。

このような事態を避けるため、委託時の契約書に秘密保持義務を明記するほか、どのような情報が機密情報であるのか特定しておくなどの対策が必要です。併せて、万が一情報が漏洩した際の法的対応をスムーズとするため、情報漏洩時の損害賠償予定額を定めておくことなども検討するとよいでしょう。

肖像権侵害

肖像権とは、自身の容貌や姿態をみだりに撮影されたり、公表されたりしない権利です。法律に明文化はされていませんが、判例によって確立されています。

肖像権に関するトラブルとしては、たとえば制作会社に制作を委託した動画が納品され、これを広く公開したところ、その動画に意図せず映り込んでしまった者から肖像権侵害を理由に動画を消すよう求められることなどが考えられます。

実際に肖像権を侵害しているのであれば、直ちに公開を停止するなどの対応が必要です。また、侵害を訴える者が広くSNSなどで被害を訴えれば、委託会社のイメージ低下など社会的なダメージを受ける可能性も否定できません。

このような事態を避けるため、制作会社が肖像権侵害をしない旨を誓約する条項や、万が一肖像権侵害があった場合は制作会社が責任を持って対応する旨の条項を契約書に明記する対応などが必要となります。

また、動画に人物を起用する場合は、その人物から許諾を得ておかなければなりません。これは、自社の従業員などであっても同様です。

この場合、出演や公開の許諾は口頭ではなく、必ず書面を取り交わしましょう。なぜなら、その後動画に出演した従業員が退職するタイミングなどで動画の削除を求められ、対応に苦慮するおそれがあるためです。

動画制作にまつわるトラブルを防ぐ方法

ここまで解説したとおり、動画制作にまつわるトラブルは少なくありません。では、動画制作でトラブルを避けるためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?ここでは、動画制作にまつわるトラブルを防ぐ主な方法を3つ解説します。

事前に条件や仕様をよくすり合わせる

1つ目は、動画制作を委託(受託)する場合、事前に条件や仕様を十分にすり合わせることです。動画制作にまつわるトラブルは、双方による認識の違いやコミュニケーション不足から生じることが少なくないためです。

たとえば、先ほど紹介したように、制作会社としては動画の著作権は当然自社に残るものと考えている一方で、委託会社は著作権の移転も含めた料金設定であると捉えていることによるトラブルが想定されます。このようなトラブルも、事前に著作権についてすり合わせをしておけば防げたはずです。

制作会社側は、追加料金の有無にかかわらず著作権を譲渡するつもりがない場合もある一方で、一定額の支払いを受けることで譲渡に応じてもよいと考えている場合もあるでしょう。委託会社としても、元の料金に著作権の譲渡対価が含まれていないことが事前に理解できていれば、譲渡対価についての交渉をしたり、その会社への委託を取りやめて譲渡に応じてくれる制作会社に委託したりすることができます。

トラブルを避けるため、事前に条件面などをきちんと条件や仕様などをすり合わせ、齟齬がないようにしておきましょう。

契約書を取り交わす

2つ目は、きちんと契約書を取り交わすことです。

契約書を取り交わすことで条件面などが明確となり、すり合わせがしやすくなるためです。また、契約書をきちんと作成しておくことで、トラブルが生じた際の「出口」が見えやすくなる効果も期待できます。

なお、途中で納期を伸ばす必要が生じたり仕様の変更が生じたりした際も、変更内容を記載した契約書を交わしておくとよいでしょう。変更時に改めて契約書を交わすことで、思い違いによるトラブル(例:委託会社は当初の料金内で仕様変更に応じてくれると考えている一方で、制作会社は当然に追加料金を請求できるものと考えている)を防ぐことが可能となります。

契約書作成時に弁護士へ相談する

3つ目は、契約書を作成する際に、弁護士へ相談することです。

契約書を作成する際、よく内容を理解しないままに雛形などをそのまま使うことはおすすめできません。なぜなら、その雛形が、実際に想定している契約内容とはズレている可能性があるためです。

実際には自社が行う予定のないサポート内容が自社の義務として契約書に記載されている場合、相手方からそのサポートをするよう求められる可能性があるほか、これができない場合には債務不履行であるとして損害賠償請求や契約解除がなされる可能性があります。また、雛形に、自社側にとって不利な内容が盛り込まれている可能性も否定できません。

しかし、雛形を用いることなく自社で一から契約書を作り上げることは、容易ではないでしょう。契約の実態に即し、かつトラブル発生時に自社にとって有利な対応がとりやすくなる契約書を作成するには、弁護士へご相談ください。

動画制作でトラブルが発生した際の初期対応

動画制作で、実際にトラブルが発生してしまった場合は、まずどのように対応すればよいのでしょうか?ここでは、トラブル発生時の初期対応を解説します。

契約内容を確認する

動画制作に関して相手方とトラブルが発生したら、まずは相手方と交わした契約書を確認しましょう。法令の強行規定(契約書で覆せない規定)や公序良俗に反する規定などでない限り、当事者間のトラブル解決にあたってまず拠りどころとすべきなのは契約書であるためです。

そのため、トラブルとなっている内容について契約書にはどのように記載されているのか、確認してください。

相手方とのやり取りを取りまとめる

契約書の確認と併せて、相手方とのやり取りをまとめましょう。たとえば、契約途中で交わした覚書や議事録、メモ、メールやチャットのやり取りなどです。

契約書からは読み取れない詳細な取り決めや、契約書作成後の条件変更などがあったことが相手方とのやりとりから確認できれば、これが一つの判断材料となるためです。

弁護士へ相談する

契約書や相手方とのやり取りを確認したら、弁護士へご相談ください。弁護士にも得意分野があることが多いため、動画制作にまつわる契約への対応実績が豊富な事務所を選ぶとよいでしょう。

弁護士へ相談することで、解決の見通しが立てやすくなります。また、弁護士へ依頼する場合は、相手方とのその後の交渉や裁判手続きなどを任せることができるため安心です。

なお、顧問契約を締結している弁護士がいればトラブル発生時に優先的に対応してもらいやすいでしょう。また、前提となる事情が分かっていることも多いため、相談もスムーズとなります。そのため、いざというときすぐに弁護士へ相談したい場合には、顧問契約を締結しておくことをおすすめします。

まとめ

動画制作にまつわるよくあるトラブルを紹介するとともに、トラブルの予防策やトラブル発生時の初期対応などを解説しました。

動画制作では、トラブルが少なくありません。その原因はさまざまですが、事前のすり合わせ不足によるものも多いでしょう。

トラブルを未然に防ぐため、動画制作の委託(受託)をする際は条件や仕様についてあらかじめ十分なすり合わせを行ったうえで、契約書を作成しておくことをおすすめします。契約書を作成する際は、弁護士のサポートを受けるとよいでしょう。

伊藤海法律事務所では動画制作にまつわるトラブル予防やトラブル解決に力を入れており、多くの解決実績があります。代表弁護士である伊藤海は、弁護士のほか弁理士資格も有しており、動画制作で問題と成ることの多い知的財産の保護についても、確かな知識でサポートします。

動画制作の契約書を作成したい際や動画の知的財産を適切に処理したい際、動画制作に関してトラブルが発生してお困りの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。