アニメは日本文化の一つであり、アニメ制作などに携わりたいと考える人も多いことでしょう。では、アニメのビジネスモデルは、どのようになっているのでしょうか?

今回は、アニメのビジネスモデルについて概要を紹介するとともに、著作権の概要についてエンターテインメント法務に強い弁護士が詳しく解説します。

アニメの3つのビジネスモデル

アニメのビジネスモデルには、主に次の3つが挙げられます。

  • 広告収入方式
  • 製作委員会方式
  • 動画配信方式

従来は「広告収入方式」と「製作委員会方式」のみであったところ、動画を配信するプラットフォームが多く登場したことによって、新たに「動画配信方式」のビジネスモデルが確立されつつあります。ここでは、アニメの3つのビジネスモデルの概要を紹介します。

広告収入方式

1つ目は、広告収入方式です。

広告収入方式とは、アニメをテレビで放映する際に流される広告の出稿料から、アニメ制作の費用が賄われるビジネスモデルです。一般的なバラエティ番組などはこの方式によることが多いほか、ゴールデンタイムに放送される視聴率の高いアニメ番組などではこのビジネスモデルがとられていることが多いでしょう。

広告収入方式では、CMスポンサーが広告代理店に対して対価を払い、広告代理店がテレビ放送局へと広告の出稿料を支払います。これが、アニメ制作にかかる費用の原資となります。

そのうえで、テレビ放送局がアニメ制作会社に対して制作費や放映権の対価を支払い、アニメ制作会社は制作したアニメの放映権をテレビ放送局へ付与します。視聴者は、無料でそのアニメの放送を見ることができる代わりに、放映中に差し込まれるCMを目にすることとなるわけです。

なお、広告収入方式ではテレビ放送局に付与するのは放映権のみであり、アニメの著作権は原則としてアニメ制作会社に残ります。そのため、アニメ制作会社は制作したアニメをDVD化したりグッズを製作したりして消費者などに販売することで、さらなる収益を上げることが可能です。

製作委員会方式

2つ目は、製作委員会方式です。

製作委員会方式とは、制作するアニメ作品ごとに複数の会社(テレビ放送局や映画配給会社、広告代理店、レコード会社、商社など)によって編成された「製作委員会」がアニメの制作料を負担するビジネスモデルです。

アニメの制作会社が、製作委員会のメンバーとなることもあります。深夜アニメを中心とする日本におけるアニメの多くは、この製作委員会方式によって作られているといわれています。

製作委員会方式では、まず製作委員会が組織されます。その後、製作委員会がアニメ制作会社に対して制作費を支払い、アニメ制作会社は制作したアニメの放映権と著作権をテレビ放送局などからなる製作委員会に移転します。消費者は、テレビ放送により無料でそのアニメ放送を見ることができます。

製作委員会方式のポイントは、アニメの著作権が製作委員会に移転されることです。そのため、アニメの二次利用(DVD化やグッズ化など)による収益はアニメ制作会社には入らず、製作委員会に入ります。

製作委員会に入った収益は、その後製作委員会を編成している複数社に、出資比率に応じて分配されます。

動画配信方式

3つ目は、動画配信方式です。

動画配信方式とは、テレビではなくNetflixやHuluなどの動画配信プラットフォームによって収益を上げるビジネスモデルです。近年新たに誕生したビジネスモデルであり、アニメ業界の収益の底上げになるのではないかと期待されています。

一つ上で紹介した製作委員会と同じく、動画配信方式も映画配給会社や広告代理店、レコード会社、商社など複数社からなる「製作委員会」が編成されることが一般的です。

その後、製作委員会がアニメ制作会社に対して制作費を支払い、アニメ制作会社が制作したアニメの放映権と著作権を製作委員会に移転する点も、製作委員会方式と変わりありません。

異なるのは、その後製作委員会が動画配信プラットフォームから対価を受け取り、プラットフォームに対して放映権を付与する点です。その後、消費者は動画配信プラットフォームに月額料金を支払うことなどにより、アニメを見ることとなります。製作委員会は動画配信プラットフォームからの定期的な収入を得られるため、収益が安定しやすくなります。

なお、動画配信方式においても著作権は製作委員会に移転されることが多く、グッズ販売など二次利用に関する収益は製作委員会に入ります。アニメ制作会社はあくまでも制作費を得られるのみであり、この点で見るとアニメ制作会社の立ち位置は製作委員会方式と動画配信方式とでさほど変わりません。

アニメのビジネスモデルの主な登場人物の整理:広告収入方式

ここからは、先ほど解説したアニメの3つのビジネスモデルについて、登場人物ごとに整理して解説します。はじめに、広告収入方式について解説します。

テレビ局

広告収入方式の場合、テレビ局は広告代理店からCMの出稿料を受け取ります。また、アニメ制作会社に対してアニメの製作費や放映権料を支払い、アニメの放映権を得ます。その後、放映権を得たアニメを放送します。

スポンサー

スポンサーは、テレビ局や広告代理店に対して広告出稿料を支払います。この出稿料が、テレビ局がアニメの放映権を得る原資となります。

制作会社

アニメ制作会社は、テレビ局から製作費や放映権料を受け取り、アニメを制作します。なお、テレビ局と直接金銭や権利のやり取りをするのは元請となる制作会社であり、下請会社に制作を委託することも少なくありません。

広告収入方式ではアニメの著作権は制作会社に残るため、DVD販売やグッズの制作販売など二次利用の収益を得ることも可能です。

アニメのビジネスモデルの主な登場人物の整理:製作委員会方式

続いて、製作委員会方式の場合における主な登場人物とそれぞれの役割について解説します。

アニメ製作委員会

製作委員会はテレビ局や映画配給会社、広告代理店、レコード会社、商社などから組織されます。ここに、アニメ制作会社が加わることもあります。

製作委員会はアニメ制作会社に制作費を支払い、アニメの放映権や著作権を獲得します。その後は、アニメ製作会社の一員であるテレビ局がアニメを放映したり、グッズ化やDVD化など二次利用をしたりすることによって収益を得ます。

制作会社

制作会社は、アニメ製作委員会からの委託を受けてアニメを制作します。これにより受け取る制作費が、アニメ製作会社の収益となります。

なお、アニメの著作権は製作委員会に帰属するため、制作会社は二次利用による収益を得ることができません。

アニメのビジネスモデルの主な登場人物の整理:動画配信方式

続いて、動画配信方式によってアニメを制作する場合における、主な登場人物とそれぞれの役割を解説します。

アニメ製作委員会

製作委員会方式の場合と同じく、複数の企業からアニメ製作委員会が組織されます。

ここに、アニメ制作会社が加わることもあります。

製作委員会はアニメ制作会社に制作費を支払い、アニメの放映権や著作権を獲得します。

その後は、製作委員会からNetflixやHuluなどの動画配信プラットフォームに対してアニメの放映権を付与し、製作委員会は動画配信プラットフォームからの収益を得ます。

また、グッズ化やDVD化などの二次利用によって収益を得ることも可能です。

動画配信サービス

動画配信サービスは、製作委員会に対して対価を支払うことでアニメの放映権を獲得します。消費者がアニメ視聴を目当てに動画配信サービスに登録することで、動画配信サービスの運営社は収益を得ます。

制作会社

製作委員会方式と同じく、アニメ制作会社は製作委員会から制作費を受け取り、アニメを制作します。この制作費が、アニメ制作会社の収益となります。

このビジネスモデルの場合もアニメの著作権は製作委員会に帰属するため、制作会社は二次利用による収益を得ることができません。

アニメのビジネスモデルを構築する際に知っておくべき著作権の基本

ここまで解説したのは代表的なビジネスモデルであり、アニメのビジネスモデルは今後も新たなものが登場する可能性があります。たとえば、アニメ制作会社自身がクラウドファンディングで出資を募り、テレビ局や製作委員会に頼ることなく資金調達をするビジネスモデルなどが考えられます。

アニメのビジネスモデルを考える際は、著作権に着目するようにしてください。原則として、グッズ化やDVD化などの二次利用による収益を得るためには、著作権を有しておく必要があるためです。

ここでは、著作権の概要について解説します。

著作権とは

著作権は、著作物を保護する権利です。そして、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」とされています(著作権法2条1項1号)。

著作権は一つの権利ではなく、著作物を有形的に複製する「複製権」や著作物を公衆送信する「公衆送信権」、映画の著作権の複製品を頒布する「頒布権」などさまざまな権利が束になったものです。このうち、「公衆送信権」など一部の権利だけを移転したり、許諾したりすることもできます。

アニメの著作権は誰に帰属する?

著作権の発生に登録などは不要であり、表現された時点で創作した者に自動的に発生します。たとえば、あるA氏が自分で発案した絵画を描いた場合、その絵画の著作者はA氏であることに疑いないでしょう。

一方、アニメは一人だけの手によって制作されるものではなく、複数社や複数人が関わって制作するものです。では、アニメの著作権は誰に帰属するのでしょうか?

著作権法ではまず、「法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする」旨の規定があります(同15条)。

そのため、別途契約書などで規定のない限り、アニメの著作権は個々のクリエイターではなく、その企画を発意した法人などに帰属することがわかります。

また、これに続く16条では、「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない」と規定されています。

ここでいう映画とは、劇場で上映されるものに限らず、アニメも映画の著作物に該当する可能性があります。

この条文では、アニメの著作物の制作者(つまり、著作権者)は原則として、「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」になるとされています。つまり、アニメの著作権者はそのアニメ制作にあたっての全体的な指揮をとった者や企業であり、一般的には製作委員会方式の場合は製作委員会、広告収入方式の場合はアニメ制作者となることが多いでしょう。

とはいえ、アニメには原作があったり制作への関与度合いや役割が状況によって異なったりするなど、一律に判断できるものではありません。

著作権でトラブルを避けるための対策

アニメ制作にあたって著作権にまつわるトラブルを避けるには、あらかじめ弁理士や弁護士などの専門家へ相談し、そのケースにおける著作者や著作権者を明確にしておくようにしてください。

そのうえで、関連する企業間で著作権の帰属に関する覚書や契約書を締結するなど、著作権の帰属があいまいとなる事態を避ける工夫が必要です。

アニメ制作について伊藤海法律事務所がサポートできること

伊藤海法律事務所はエンターテインメント法務に力を入れており、アニメ制作にまつわるリーガルサポート実績も豊富です。最後に、伊藤海法律事務所がアニメ制作に関してサポートできる主な内容を紹介します。

  • 法的な観点からのビジネスモデル検証
  • 知的財産保護
  • 契約書の作成支援・リーガルチェック
  • 契約締結交渉の代理

法的な観点からのビジネスモデル検証

伊藤海法律事務所では、法的な視点からビジネスモデルの検証を行います。

思いついたビジネスモデルが画期的なものに感じても、法的な問題を孕んでいるかもしれません。弁護士からあらかじめビジネスモデルの検証を受けることで、安心して事業に取り組みやすくなります。

知的財産保護

伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士であり弁理士でもあります。弁理士は、知的財産を専門的に取り扱う国家資格者です。

先ほど解説したように、アニメにまつわる著作権は複雑であり、トラブルの種となるおそれがあります。あらかじめ当事務所へご相談いただき、知的財産権の所在やリスクを確認することで、トラブルとなる前に適切な対策を講じやすくなります。

契約書の作成支援・リーガルチェック

アニメ制作では、関係者間で契約締結をする場面が少なくありません。アニメにまつわる契約は複雑なものとなりやすく、また契約の中でも特に専門性が求められる分野です。

伊藤海法律事務所では、アニメ制作にまつわる契約書の作成支援やレビューを行っています。あらかじめ契約書を作り込んでおくことで、将来のトラブルを防ぎやすくなるほか、トラブルに発展してしまった際も自社にとって有利な形での解決がしやすくなります。

契約締結交渉の代理

伊藤海法律事務所では、契約締結にあたっての交渉代理を行っています。弁護士が交渉を代理することで、自社にとって有利な条件で契約がしやすくなるほか、契約書の不備による後のトラブルも防ぎやすくなります。

まとめ

アニメのビジネスモデルについて解説しました。

アニメ制作のビジネスモデルには、主に「広告収入方式」と「製作委員会方式」、「動画配信方式」の3つがあります。それぞれ、お金の流れや著作権の帰属先が異なるため、アニメ制作に携わる際はこれらの点を意識してビジネスモデルと自社の立ち位置を確認するとよいでしょう。

伊藤海法律事務所はアニメ制作などのエンターテインメント法務に力を入れており、多くのサポート実績があります。アニメ制作のビジネスモデルについてリーガルチェックを受けたい場合や契約書の作成・レビューをご希望の際などには、伊藤海法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。

伊藤海法律事務所代表の伊藤海は、弁護士でもあり弁理士でもあることから、アニメ制作に関する知的財産保護に関するご相談も可能です。