アニメ制作には、さまざまな法律が関連します。法律を知らなければ、思わぬトラブルに発展する可能性があるほか、刑事罰や損害賠償請求の対象となるかもしれません。また、法律を知らなかったからといってこれを理由に免責されるわけではないため、注意が必要です。

では、アニメに関係する法律には、どのようなものがあるのでしょうか?今回は、アニメに携わる人が最低限知っておくべき法律を弁護士がまとめて解説します。

アニメに関連する法律1:著作権法

アニメ制作に携わる者が知っておくべき法律の1つ目は著作権法です。はじめに、著作権法の概要について解説します。

著作権法とは

著作権法とは、著作者等の権利の保護を図ることで、文化の発展に寄与することを目的とする法律です(著作権法1条)。著作権法の保護対象となる著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいうとされています(同2条1項1号)。

他者の著作権を侵害すると差止請求や損害賠償請求などの対象となるほか、刑事罰の対象ともなります。著作権侵害の刑事罰は10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科です(同119条1項)。

ただし、法人がその業務として著作権侵害をした場合には、法人に対しても別途3億円以下の罰金刑が課される可能性があります(同124条1項)。

著作権法の保護を受けるための手続き

著作権法による保護を受けるために、原則として登録など特別な手続きは必要ありません。著作物が創作されると、その時点で自動的に著作権が発生します。

また、著作権の保護対象となるかどうかに、著名であるかどうかなどは関係ありません。著名なアニメ作品や漫画作品などが著作権の対象となることはもちろん、一般個人がSNSに投稿したイラストや小説、写真なども保護の対象となり得ます。また、自らSNSなどで無償公開したことなどをもって、著作権を放棄したことにはなりません。

アニメ制作で著作権トラブルを避けるための対策

アニメ制作では、著作権に関してトラブルが生じないよう、特に注意しなければなりません。トラブルを避けるための主な対策は次のとおりです。

  • 契約書を作り込む
  • 弁護士へ相談する

契約書を作り込む

1つ目は、契約書を作り込むことです。

著作権について許諾を受ける際や著作権の譲渡などについて取り決めをする際は、十分に練り込んだ契約書を取り交わすようにしてください。なぜなら、著作権は一つの権利ではなく複数の権利の束であり、よく理解しないままに契約を締結すれば自社に残すべき権利まで譲渡してしまう事態となりかねないためです。

また、著作物を使用したい側としては、契約書に不備があると、せっかく譲渡を受けた著作物について想定した利用が叶わないおそれがあります。

弁護士へ相談する

2つ目は、著作権に関連する契約を締結する際は、弁護士へ相談することです。

先ほど解説したように、著作権の譲渡や許諾は必要な権利ごとに行う必要があり、必要な権利を過不足なく対象としなければなりません。また、著作物を活用する際は財産権である狭義の著作権のほか、著作物を創作した「著作者」に生じる著作者人格権についても考慮する必要があり、すべてを理解し自社のみで適切に処理することは容易ではないでしょう。

知財法務に強い弁護士のサポートを受けることで、契約書の不備や理解不足による想定外の事態を防ぎやすくなります。

アニメに関連する法律2:商標法

アニメ制作に携わる者が知っておくべき法律の2つ目は商標法です。ここでは、商標法の概要について解説します。

商標法とは

商標法とは、商標を保護することにより商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、産業の発達に寄与し、需要者の利益を保護することを目的とする法律です(商標法1条)。

商標とは「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音」などを指し、たとえばアニメのタイトルやタイトルロゴ、キャラクター名などが保護対象となります(同2条1項)。また、キャラクターの図柄を保護対象とできることもあるため、専門家へご相談ください。

他者の商標権を侵害すると損害賠償請求や差止請求などの対象となるほか、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれを併科の対象ともなり得ます(同78条)。法人がその業務として商標権を侵害すると、法人も3億円以下の罰金刑の対象となります(同82条1項)。

商標法の保護を受けるための手続き

商標法による保護を受けるには、商標登録を受けなければなりません。商標登録の出願は、特許庁に願書を郵送するかインターネット上のシステムによって行います。

商標登録は商品や役務の種類ごとに行う必要があり、多くの区分に対して申請するほど多くの費用がかかります。また、申請したからといって必ずしも登録を受けられるわけではなく、商品などを区分するものとして機能しないものや他人の商標と紛らわしいものなどは登録を受けることができません。

申請方法がわからない場合や出願する区分が知りたい場合は、弁理士などの専門家へご相談ください。

なお、商標登録の期間は原則として10年間ですが、更新をすることでさらに10年間伸長できます。

アニメに関連する法律3:意匠法

アニメ制作に携わる者が知っておくべき法律の3つ目は意匠法です。キャラクターグッズの保護などは、この意匠法によることとなります。

意匠法とは

意匠法とは、意匠の保護と利用を図ることによって意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与することを目的とする法律です(意匠法1条)。意匠法では工業デザインを保護対象としており、量産される実用品のデザインが保護対象とされます。

アニメビジネスを展開する上では、グッズの制作や販売を行うことが多いでしょう。このグッズ事態は商標法などでの保護が難しく、意匠法での保護を図ることとなります。なお、他者の意匠権を侵害すると損害賠償請求や差止請求などの対象となるほか、刑事罰の対象ともなります。

意匠法侵害の罰則は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科です(同69条)。また、法人がその業務に関して意匠権侵害をした場合は、行為者が罰せられるほか法人も3億円以下の罰金の対象となります(同74条1項)。

意匠登録を受けるための手続き

意匠法による保護を受けるためには、意匠法に基づく登録を受けなければなりません。意匠権の存続期間は、出願から最長25年間です。

意匠登録の出願は、特許庁に対して願書を郵送するか、インターネットを用いた電子出願などによって行います。

また、出願したからといって必ずしも登録が受けられるわけではなく、新規性があることや用意に創作できるものではないことなどの要件を満たさなければなりません。意匠登録を自分で行うことは容易ではないため、弁理士へ依頼して手続きを代理してもらうことが多いでしょう。

なお、出願前に公開された意匠は原則として保護の対象とならないため、意匠登録を受けたい場合は公開前にご相談ください。

アニメに関連する法律4:不正競争防止法

アニメ制作に携わる者が知っておくべき法律の4つ目は不当競争防止法です。ここでは、不当競争防止法について解説します。

不正競争防止法とは

不当競争防止法とは、事業者間の公正な競争などを確保するために不正な競争の防止や不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です(不正競争防止法1条)。

不正競争防止法ではいわゆる「フリーライド」である周知表示混同惹起行為などを規制対象としています。たとえば、実際には関係がないにもかかわらず他の著名なアニメ作品の関連作品であるように見せかけてアニメをPRしたり、他のアニメのグッズであるかのように見せかけたグッズを販売したりした場合は、不正競争防止法に違反する可能性が高いでしょう。

不正競争防止法に違反すると、差止請求や損害賠償請求、不当利得返還請求などの対象となるほか、刑事罰の対象ともなります。周知表示混同惹起行為の罰則は原則として5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれらの併科ですが、法人の場合は3億円以下の罰金刑に処される可能性もあります(同21条2項、22条3項)。

不正競争防止法の保護に登録などは必要ない

不正競争防止法による保護の対象となるために、登録などは必要ありません。商標権の登録を受けていない作品などであっても、保護の対象です。

他の作品の知名度にフリーライドしようとすると不正競争防止法に違反する可能性が高いため、そのような行為は行わないよう注意しましょう。

アニメに関連する法律5:青少年保護育成条例等

アニメ制作に携わる者が知っておくべき法律の5つ目は青少年保護育成条例等です。ここでは、青少年保護条例等の基本について解説します。

青少年保護育成条例等とは

青少年保護条例等とは、青少年の健全な育成を主な目的とする都道府県条例です。「等」としているのは、都道府県によってその名称や規制内容が多少異なるためです(東京都は「東京都青少年の健全な育成に関する条例」、愛知県は「愛知県青少年保護育条例」)。

青少年保護条例等では、青少年を深夜に連れ出すことを禁止したり青少年とみだらな行為をしたりすることなどを禁止するほか、都道府県によってはアニメなどの表現内容にまで規制が及んでいます。

東京都青少年保護育成条例によるアニメ規制の例

東京都青少年保護育成条例では、7条で次のようなものについて青少年への販売や頒布、貸し付け、観覧をさせないよう努めなければならないとされています。

  1. 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
  2. 漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

アニメ制作をするにあたっては、この規定を念頭に置いて行わなければなりません。

アニメ制作で法律トラブルに発展しないためのポイント

アニメ制作をするにあたって、法律トラブルに発展しないようにするには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?最後に、アニメ制作で法律トラブルに発展しないための対策について解説します。

  • 他者の作品などの模倣やコピーを行わない
  • 契約の締結時には契約書を取り交わす
  • 弁護士へ相談できる体制を構築しておく

他者の作品などの模倣やコピーを行わない

1つ目は、他者の作品の模倣やコピーなどを行わないことです。

ここでいう他者の作品とは、著名なアニメ作品のみならず、一般個人がSNSなどに投稿した漫画作品やイラストなども含む点に注意しなければなりません。著作権法の箇所でも解説したとおり、著作権法の保護対象となるかどうかに、著名な作品であるかどうかや著作者が一般個人であるかプロであるかなどは問われないためです。

また、作品がSNSやブログなどで公開されているからといって、これを自由に模倣してよいことにはならないため、誤解のないよう注意してください。

他者が制作したイラストやストーリーなどを使ってアニメを制作したい場合は、必ずその著作者に許諾を取ってください。ただし、他者の作品からインスピレーションを受けてまったく別の作品を制作することは、著作権法上問題ありません。

許諾が必要であるかどうか迷ったら、知財法務に強い弁護士へご相談ください。

また、法律上、パロディと模倣の線引きは明確なものではありません。誤解も少なくありませんが、「パロディであれば合法」ということではないことには注意が必要です。

むしろ、著作者が意図しない改変をしてしまえば著作者が有する同一性保持権をも害することとなり、さらに大きなトラブルに発展するおそれがあります。他者の作品のパロディをアニメへ盛り込みたい際は、後のトラブルを防止するため、元の作品の著作者や著作権者から許可を得ることが必要です。

契約の締結時には契約書を取り交わす

2つ目は、契約を締結したり著作物の使用について許諾を受けたりする際は、口頭などのみで合意するのではなく、必ず契約書を取り交わして証拠を残すことです。

契約は、書面を取り交わさず、口頭のみの合意であっても成立します。しかし、「言った・言わない」のトラブルとなった際、口頭では証拠が残っておらず、解決が困難となるおそれがあります。

そのため、アニメ制作に関して契約を締結する際は、書面を取り交わすようにしてください。

ただし、アニメ制作に関する契約は複雑なものとなりやすく、自社のみで作成することは容易ではないでしょう。そのため、弁護士に依頼して原案を作成してもらったり、レビューを受けたりすると良いでしょう。

弁護士へ相談できる体制を構築しておく

3つ目は、弁護士へ相談できる体制を構築しておくことです。

アニメ制作にあたっては、権利関係でトラブルとなることも少なくありません。権利関係の処理が甘いと、収益が見込めたはずの二次利用を断念せざるを得ない事態となる可能性もあります。

そのような事態を避けるため、アニメ制作を進めるにあたっては、知財法務に強い弁護士と顧問契約を締結するなど、適宜相談できる体制を構築しておくと良いでしょう。

なお、伊藤海法律事務所代表の伊藤海は、弁護士であることに加え、知財保護に関する国家資格である弁理士資格も有しています。アニメ制作にあたって法律トラブルを防ぎたい場合は、当事務所までご相談ください。

まとめ

アニメ制作をするにあたって知っておくべき法律について解説しました。

アニメ制作には、著作権法や商標法、意匠法など知的財産に関する法律が密接に関係します。あえて法令に抵触する行為をしないのは当然のこと、法令を知らなかったことによりうっかり違反してしまうことのないよう、関係する法律については基本的な考え方を理解しておくことが必要です。

また、契約締結時やトラブル発生時などにスムーズに相談することができるよう、知財法務に強い弁護士と顧問契約を締結するなどしておくとよいでしょう。

伊藤海法律事務所の代表弁護士は、弁護士のほかに弁理士資格を有しており、知財法務に特に強みを有しています。アニメ制作にあたって法律面でのサポートをご希望の際や、アニメ制作に関して法律上のトラブルが生じている際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

当事務所はアニメにまつわる知的財産に関するご相談も数多くお受けしてきた実績があり、状況に応じた最適なリーガルサポートをご提案します。