ファッションデザインには独創的なものもあり、これについて法的な保護を受けたいと考えることも多いでしょう。

では、ファッションデザインは著作権の保護対象となり得るのでしょうか?また、著作権の保護を受けるにはどのような要件を満たす必要があるでしょうか?

今回は、ファッションデザインの保護と著作権について弁護士が詳しく解説します。

著作権とは

著作権とは、著作物を創作した者(「著作者」といいます)に与えられる権利の総称です。たとえば、次の権利などが著作権に該当します。

  1. 複製権:著作物を有形的に再製(印刷、写真、複写など)する権利
  2. 展示権:美術の著作物と未発行の写真の著作物の原作品を公に展示する権利
  3. 譲渡権:著作物の原作品又は複製物を公衆へ譲渡する権利
  4. 氏名表示権:自分の著作物を公表するときに、著作者名を表示するかしないかや、表示名などを決める権利
  5. 公表権:未公表の自分の著作物を公表するかしないかや、いつ公表するかを決める権利
  6. 同一性保持権:自分の著作物の内容や題号を勝手に改変されない権利

著作権には、譲渡などが可能な財産権(上の1~3)と、譲渡できない著作者人格権(上の4~6)とが存在します。

著作権を侵害された場合は、差止請求や損害賠償請求、名誉回復等の措置請求など民事上の法的措置をとることが可能です。

また、著作権侵害は刑事罰の対象ともなり、行為者は10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科に処される可能性があるほか、行為者が法人であり業務として侵害行為をした場合は法人に対して別途3億円以下の罰金刑が科される可能性があります(著作権法119条1項、124条)。

著作権法の保護を受ける要件

著作権法の保護を受けるには、対象物が「著作物」であることが必要です。著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を指します(同2条1項1号)。

ここではこの規定を少しかみ砕き、著作物に該当し著作権法による保護を受けるために必要となる主な要件を解説します。

「思想又は感情を創作的に」表したものであること

1つ目は、その対象物が「思想又は感情を創作的に」表したものであることです。

そのため、象が鼻で筆を持って描いた絵は、いくら芸術的に見えたとしても著作物とはなり得ません。また、最近話題となることが多いAIが描いた絵についても、プロンプトの入力者が単に「何か絵を描いて」という程度の指示をした結果出力された場合は、著作物には該当しないこととなります。

さらに、人が制作したものであっても、単なる模写である場合や誰が描いても同様の表現となるようなありふれた表現である場合は、著作物とはいえません。

一方で、プロであるかどうかや創作のレベルの高さなどは著作物への該当性とは関係がなく、写真家などではない一般個人がスマートフォンで撮ってSNSに投稿した写真や幼児が描いた絵、企業が投稿したブログの記事などであっても著作物となり得ます。

「表現」されていること

2つ目は、その対象物が「表現」されていることです。

いくら素晴らしいアイディアやイメージであっても、まだ創作に至っておらず「表現」されていないものは著作権の保護対象とはなりません。

文芸・学術・美術・音楽の範囲に属すること

3つ目は、その対象物が「文芸・学術・美術・音楽の範囲に属すること」です。たとえば、次のものなどがこれに該当します。

  • 言語の著作物:論文、小説、脚本、詩歌、俳句、講演
  • 音楽の著作物:楽曲及び楽曲を伴う歌詞
  • 舞踊・無言劇の著作物:日本舞踊、バレエ、ダンスなどの舞踊、パントマイムの振り付け
  • 美術の著作物:絵画、版画、彫刻、漫画、書、舞台装置など(美術工芸品も含む)
  • 建築の著作物:芸術的な建造物(設計図は図形の著作物)
  • 地図、図形の著作物:地図と学術的な図面、図表、模型など
  • 映画の著作物:劇場用映画、テレビドラマ、ネット配信動画、アニメ、ビデオソフト、ゲームソフト、コマーシャルフィルムなど
  • 写真の著作物:写真、グラビアなど
  • プログラムの著作物:コンピュータ・プログラム

参照元:著作物って何?(公益社団法人著作権情報センター)

この要件については、比較的柔軟に解される傾向にあります。

登録などを受ける必要はない

著作物は、その著作物が創作された時点から保護対象となります。

著作権法の保護を受けるために、登録などを受ける必要はありません。この点で、保護を受けるために登録が必要となる意匠権などとは、大きく異なっています。

ファッションデザインは著作権の対象となるか

ファッションデザインは著作権法による保護の対象となるのでしょうか?これについての考え方は次のとおりです。

デザイン画は著作権の保護対象となり得る

ファッションのデザイン画は、著作物として著作権法の保護対象となることが一般的です。

ただし、著作権の帰属先は原則としてそのデザイン画を制作したデザイナーであり、当然にそのデザイナーが所属するアパレル企業となるわけではありません。

アパレル企業にそのデザイン画の著作権を帰属させるには、次の要件をすべて満たすことが必要です(同15条)。

  1. デザイナーが職務時間外に独自に制作したものではなく、アパレル企業の発意に基づいて職務上制作されたものであること
  2. アパレル企業の業務に従事する者が制作したものであること(従業員ではなく、フリーランスであるデザイナーへの業務委託はこれに該当しない)
  3. アパレル企業が、自己の著作の名義の下に公表すること

これらにすべて当てはまるにもかかわらず、アパレル企業ではなくデザイナーの著作物としたい場合や、反対にこれらに該当しなくてもアパレル企業を著作権者としたい場合は、別途就業規則や契約などでその旨を規定することが必要です。

アパレル企業とデザイナーとの間で著作権の帰属に関するトラブルが生じる自体を避けるため、特にこの辺りについて考慮していなかった場合は、早期に弁護士へ相談し、規定の整備をしておくようにしてください。

ファッション写真は著作権の保護対象となり得る

アパレル企業では、自社商品の写真や自社商品をまとったモデルの撮影などをする機会が多いでしょう。これらの写真は、原則として著作権の保護対象となります。

なお、こちらもデザイン画と同様、その写真に関する著作権の帰属がカメラマンであるのかアパレル企業であるのかなどについてトラブルとなる可能性があります。また、撮影に人物モデル(プロであるかアマチュアであるかを問いません)を起用している場合は、そのモデルの権利にも注意しなければなりません。

この点についても契約書を整備するなど、トラブルとならない対策を講じておくようにしてください。

量産する服のデザインは原則として著作権の保護対象外

アパレル企業がもっとも保護して欲しいと考えるのは、デザイン画やファッション写真ではなくファッションデザインであることでしょう。

しかし、量産される服のデザインは、原則として著作権の保護対象とはなりません。そのため、ファッションデザイン自体は著作権法ではなく、意匠法など他の法律による保護を検討することが原則です。

なお、たとえばTシャツにイラストを印字する場合において、そのイラスト自体は著作権の保護対象となり得ます。

著作権以外にファッションデザインを保護するのに適した主な法令

ファッションに関する権利を保護する法律には、著作権法の他にどのようなものがあるのでしょうか?最後に、著作権以外にアパレル企業が知っておくべき法律の概要を解説します。

  • 商標法
  • 意匠法
  • 不正競争防止法

商標法

商標法とは、商品やサービスを表す名称やロゴなどを保護する法律です。アパレル企業が自社のブランド名やブランドロゴなどの商標登録を受けることで、これらを無断で使用されるリスクを低減することが可能となります。

特に、ナイキのロゴ(スウッシュ)などのようにそのブランド名やブランドロゴ自体が顧客への訴求力を有する場合は、商標登録は必須です。

商標登録を受けることで、その商標を他社が無断で使用することができなくなり、無断で使用された場合は損害賠償請求や差止請求をすることが可能となります。また、自社のブランド名を他社に商標登録されてしまい、他社から差止請求や損害賠償請求をされる事態を防ぐことにもつながります。

なお、商標は文字やロゴマークのみならず、次のものなどについて登録を受けることも可能です。

  • 色彩商標:色彩のみからなる商標。ファミリーマートのカラーなど
  • 音商標:音声や音楽などからなる商標。久光製薬のサウンドロゴなど
  • 立体商標:立体的形状からなる商標。不二家のペコちゃんなど

ファッションデザインの形状が独創的なものである場合などには、立体商標として商標登録を受ける余地は存在します。しかし、そのハードルは低いとはいえず、ファッションデザインについては次で解説をする「意匠法」における登録を目指すことが一般的です。

意匠法

意匠法とは、「意匠」を保護することにより、産業の発展に寄与することを目的とする法律です(意匠法1条)。この法律における「意匠」とは、次のいずれかに該当するもののうち、視覚を通じて美感を起こさせるものを指します(同2条1項)。

  1. 物品の形状、模様、色彩、これらの結合(以下「形状等」といいます)
  2. 建築物の形状等
  3. 画像

そのうえで、工業上利用することができる意匠について、意匠登録を受けられる旨が規定されています。著作権法とは異なり、ファッションなど量産して販売されるものの保護を前提としており、ファッションデザインについてはまずこの意匠登録を目指すことが一般的です。

意匠登録を受けることによる保護期間は最長で25年であり、この期間中はその意匠や類似する意匠の実施(製造や販売など)する権利を専有することとなります。また、侵害された場合は差止請求や損害賠償請求などをすることが可能です。

さらに、他者の意匠権を侵害した者は刑事罰の対象となり、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科に処される可能性があるほか、侵害者が法人である場合は法人も3億円以下の罰金刑の対象となります(同69条、74条)。

ただし、意匠登録を受けるには今までにない新しい意匠であることやすでに出願された意匠の一部と同じものや類似したものでないことなど、さまざまな要件を満たさなければなりません。

そのため、ファッションデザインについて意匠登録を希望する際は、ファッションローを得意とする弁護士などにご相談ください。

不正競争防止法

不正競争防止法とは、「不正競争」全般を防止し、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です(不正競争防止法1条)。

デザインの保護などに特化した法律ではないものの不正競争の態様の1つに商品の形態の模倣が挙げられており、工業品であるファッションデザインの盗用も規制対象としています。

不正競争防止法の保護を受けるために、登録などを受ける必要はありません。

しかし、保護対象が日本国内で最初に販売された日から起算して3年以内のものに限定されており、これを過ぎたデザインは保護対象から外れます(不正競争防止法19条1項5号イ)。

そのため、独創的なファッションデザインについてはまず意匠登録をすることを目指し、これが難しい場合に不正競争防止法による保護を受けることを検討するとよいでしょう。

ただし、最適な対策は具体的な状況によって異なるため、ファッションデザインの保護でお困りの際は、ファッションローに詳しい弁護士へ早期にご相談ください。

まとめ

ファッションデザイン自体は、原則として著作権の対象とはなりません。ファッションデザインの保護は著作権法ではなく、意匠法や不正競争防止法による保護を目指すことが一般的です。

一方、ファッションのデザイン画やファッションを撮影した写真は、著作権法の保護対象となり得ます。これらについてはデザイナーやカメラマンとの間で著作権の帰属についてトラブルとなる可能性があるため、就業規則や契約書などで著作権の帰属について取り決めておくようにしてください。

伊藤海法律事務所は、ファッションにまつわる権利の保護やトラブル予防、トラブル解決を得意としています。ファッションデザインの保護でお悩みの際やトラブルを予防したい場合、デザインを盗用されるなどトラブルが発生してお困りの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。