魅力的なファッションデザインを生み出すためにはセンスやコスト、労力、知識など莫大な投資が必要です。しかし、よいファッションデザインが世に出るとこれを模倣され、少ないコストで量産されることがあります。
このような事態はデザインを一から生み出す企業にとって大きな不利益となりかねません。では、ファッションデザインを保護する法律にはどのようなものがあるのでしょうか?
今回は、ファッションデザインの保護にまつわる主な法律や模倣を防ぐ対策などについて弁護士がくわしく解説します。
ファッションデザインは法律で保護される?
ファッションデザインは、本来法律で保護されて然るべきものです。しかし、残念ながら現在の法律は、ファッションでデザインを保護するために十分であるとはいえません。ファッションデザインが法律で保護されるのかは、そのファッションデザインの新規性や創作性などに応じてケースごとに判断されます。
ファッションデザインの保護に関連する法律
ファッションデザインの保護にまつわる主な法律としては次のものが挙げられます。
- 商標法
- 著作権法
- 意匠権
- 不正競争防止法
ここでは、ファッションデザインを保護する観点から、それぞれの法律の目的と概要について解説します。
商標法
商標法とは、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的」とする法律です(商標法1条)。
商標法の保護対象は、「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音」などのうち、次のいずれかに該当するものをいいます。
- 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
- 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの
これらをまとめて「標章」といいます(同2条)。
わかりやすくまとめると、次のものなどが保護対象となります。
- 企業名や商品名
- 企業や商品のロゴマーク(例:ナイキのロゴ)
- 企業や商品のシンボルカラー(例:ファミリーマートのカラー)
- 企業や商品のサウンドロゴ(例:久光製薬株式会社の「ヒサミツ」、ライオン株式会社の「キレイキレイ」)
また、商標法では立体商標の登録も可能であり、不二家のペコちゃんやケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダースの人形の形状などが登録されています。ファッションデザインはこの立体商標として登録を受ける余地はあるものの、ハードルは低くありません。
一方で、ナイキのロゴのように企業や商品のロゴマークは商標法による保護の対象となるため、自社が商標登録を受けたロゴマークを付したデザインが模倣された場合は、商標法をもとに差止請求などをすることが可能です。
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商標権によるファッションデザインの保護
著作権法
著作権法とは、「著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的」とする法律です(著作権法1条)。
著作権法の保護対象は「著作物」であり、結論からお伝えするとファッションデザインが著作権法で保護される可能性は高くありません。なぜなら、著作権法において著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されており、量産を前提としたファッションデザインがこれにそのまま該当するとは考えづらいためです。
一方で、ファッションのデザイン画や衣服を撮影したスナップ写真自体は、著作物として著作権法の保護対象とされる余地があります。
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意匠法
意匠法とは、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的」とする法律です(意匠法1条)。
意匠法の目的に「産業の発展」が入っていることからもわかるとおり、意匠権は工業デザイン(量産されることを前提としたデザイン)も保護の対象としています。
そのため、ファッションデザインの保護を受けるには、まず意匠権の取得を目指すこととなるでしょう。意匠登録を受けるメリットや主な要件などについては、後ほど改めて解説します。
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不正競争防止法
意匠法と並んでファッションデザインの保護に寄与する法律が、不正競争防止法です。不正競争防止法とは「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的」とした法律です(不正競争防止法1条)。
目的規定からもわかるとおり、不正競争防止法はデザインの保護などを規定する法律ではありません。不正競争防止法ではさまざまな不正競争について定義されており、たとえば次のものが「不正競争」にあたります(同2条1項)。
- 他人の商品等表示(商号、商標など)として広く認識されているものと同じまたは似た商品等表示を使用することや、その商品等表示を使用した商品を譲渡などする行為
- 他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡などする行為
- 窃取、詐欺、強迫など不正の手段により営業秘密を取得したりこれを開示したりする行為
- 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したり流布したりする行為
このうち、ファッションデザインの保護に関連するのは、「2」で挙げた規定です。
「商品の形態」とは「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」をいうこととされており、まさにファッションデザインの主要要素の多くがこれに該当するものと考えられます。
ただし、不正競争防止法においてファッションデザインが保護されるためには事実上デザインの新規性などが求められるうえ、「模倣」といえるためには依拠性(元のデザインに依拠して作成されたこと)などが必要です。
そのため、単に「似たデザインを制作された」というのみで容易に認められるものではなく、相手企業に対する差止請求や損害賠償請求が認められるためには相当の根拠や証拠の積み重ねが必要です。
なお、この規定における「形態の模倣」からは、「商品の機能を確保するために不可欠な形態」は除くこととされています。たとえば、「足を通す箇所が2つある」ことは人が履くズボンの機能を確保するために不可欠なであり、「足を通す箇所が2つある点で共通しているから、A社のデザインは当社の模倣だ」と主張することは難しいということです。
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ファッションデザインを保護し模倣を防ぐ対策
ファッションデザインを保護し模倣を防ぐためには、どのような対策を講じるとよいでしょうか?ここでは、基本的な対策として2点を紹介します。
- 意匠権を取得する
- 商標登録をする
意匠権を取得する
1つ目は、そのファッションデザインについて意匠登録を受けることです。ファッションデザインについて意匠登録を受ける主な要件は次のとおりです。
- 今までにない新しい意匠であること
- 工業上利用できる意匠であること(同じものを量産し得ること)
- 先に出願された意匠の一部と同一または類似でないこと
- 容易に創作をすることができたものでないこと
- 公序良俗を害するおそれがある意匠や他人の業務に係る物品などと混同されるおそれがある意匠など、不適切な意匠でないこと
- 他人よりも早く出願すること
意匠録を受けることで、登録意匠とこれに類似する意匠の実施をする権利を専有することとなります。権利を侵害された場合は、差止請求や損害賠償請求をすることができるほか、相手を刑事告訴することも可能となります。
なお、意匠権を侵害した場合の法定刑は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらの併科です(意匠法69条)。
ただし、意匠権の登録を受けるためには先ほど解説をした要件などを満たす必要があり、これを満たさない場合は登録を受けることができません。そのため、あらかじめファッションローに詳しい弁護士や弁理士へ、意匠登録の見込みについてご相談ください。
また、意匠権の存続期間は最長で25年間です。一度登録を受けたからといって永久的に効果があるわけではないことには注意が必要です。
商標登録をする
2つ目は、自社の企業名や企業ロゴ、ブランド名やブランドロゴなどについて商標登録を受けることです。
たとえば、ナイキのように象徴的なロゴマークや印象的な商品名などがある場合、これ自体が盗用の対象となる可能性があります。
商標登録を受けることで、その商標を独占的に使用することが可能となり、その商標権が侵害された場合は差止請求権や損害賠償請求権などの法的措置がとりやすくなります。
また、商標登録は早い者勝ちである「先願主義」です。そのため、自社のブランド名などが他社に先に商標登録されてしまうと、自社がそのブランド名を使えない事態となったり、商標登録を受けた他社から差止請求がされたりするリスクが生じます。
ファッションデザイン模倣された際の対応
先ほど紹介した対策を講じたとしても、残念ながらファッションデザインの模倣を完全に防ぐことは困難であり、デザインが盗用されてしまうこともあるでしょう。では、自社のデザインが盗用された場合、どのような対策を講じればよいのでしょうか?主な対応は次の2点です。
- 早期に弁護士へ相談する
- 厳格な法的措置をとる
早期に弁護士へ相談する
ファッションデザインが盗用されていることに気づいたら、早期に弁護士へご相談ください。対応が遅れると、それだけ差止請求などの法的措置が遅れ、被害が拡大する可能性があるためです。
弁護士へ相談することで、相手企業に対して法的な措置をとることが可能かどうかの見通しが立てやすくなるほか、講じるべき法的措置の内容も検討しやすくなります。
また、実際に差止請求や損害賠償請求などの法的措置を講じるにあたっても、弁護士が代理して相手との交渉や裁判手続きなどを行ってくれます。企業によっては、裁判にまで至らずとも、弁護士を介して製造や販売の差し止めを求めた時点でこれに応じる可能性もあるでしょう。
なお、ファッションデザインの盗用について相談する際は、ファッションローに詳しい弁護士を選んでご相談ください。ファッションローは数多くある法分野の中でやや特殊な分野であり、この分野を専門とする弁護士へ依頼することで自社にとって最適な効果を得られる可能性が高くなるためです。
厳格な法的措置をとる
ファッションデザインが盗用されたら、たとえ被害額がさほど多額でない場合であっても、可能な限り厳格な法的措置をとることをおすすめします。なぜなら、盗用に対して厳格な措置をとることで、その後の盗用への抑止力となりやすいためです。
また、ファッションデザインの盗用に適切な対応をとることなく放置すると、一般消費者にどちらがオリジナルであるか誤解される事態となりかねません。適切な法的措置をとることで、自社がそのファッションデザインの先駆者であることを一般消費者に知らしめることにもつながります。
まとめ
ファッションデザインの保護に関する法律には、商標法や意匠法、不正競争防止法などが挙げられます。
ファッションデザインや自社の権利を守るため、ブランド名やロゴマークなどについては商標登録を行い、そのファッションデザインが新規性などの要件を満たす場合は意匠登録をしておくことをおすすめします。
また、万が一自社のファッションデザインを模倣されてしまった際は、ファッションローに詳しい弁護士へお早めにご相談ください。
伊藤海法律事務所では、ファッションローにまつわるリーガルサポートに力を入れており、これまでもファッションデザインの保護に関する法的トラブルを数多く解決してきました。
ファッションデザインの保護についてお悩みの際やファッションデザインを盗用されてお困りの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。