アパレルメーカーは自社で販売網を構築するほか、他社と販売代理店契約を締結して販売網を拡げる道もあります。販売代理店契約によって販売網を構築することで自力での出店が難しい国や地域にも出店できるなど、代理店契約のメリットは少なくありません。

その反面、販売代理店契約には、アパレルメーカー側のデメリットも存在します。では、販売代理店契約のメリット・デメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?また、販売代理店契約書は、どのような点に注意して作成すべきなのでしょうか?

今回は、販売代理店契約の概要やアパレルメーカー側のメリット・デメリット、販売代理店契約書の作成ポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。

販売代理店契約書とは

販売代理店契約書とは、販売を委託する者と、販売の委託を受ける者とが交わす契約です。この記事ではアパレルメーカーによる販売委託を想定しているため、販売を委託する者を「アパレルメーカー」、販売の委託を受ける者を「代理店」と呼称します。

アパレルメーカーが自力で販売網を構築するためには、その商圏におけるマーケットリサーチや店舗用地や建物の確保(取得や賃貸)、販売スタッフの雇用などを行わなければなりません。また、海外で販売する場合には、その国の法令調査なども不可欠です。もちろん、これらのハードルを越え、自社で販売網を構築することも戦略の一つでしょう。

一方で、その地域の事情などに熟知した代理店に販売を委託することも方法の一つです。この場合は、代理店が販売する店舗の確保やスタッフの雇用などを行い、アパレルメーカーの製品を顧客に販売します。

そして、アパレルメーカーから代理店に対して事前に取り決めた額や計算方法で販売手数料が支払われ、これが代理店の収益となります。販売委託契約は口頭でも成立するとはいえ、販売代理店契約は両当事者に長期に渡って大きな影響を与えるものです。そのため、取り決めの内容を明確とするため、販売代理店契約を締結することが一般的です。

販売代理店契約には「販売店契約」と「代理店契約」の2つがある

販売代理店契約には、主に販売店契約(ディストリビューター方式)と代理店契約(エージェント方式)があります。ここでは、それぞれについて概要を解説します。

販売店契約(ディストリビューター方式)

販売店契約(ディストリビューター方式)とは、販売店がアパレルメーカーから商品を買い取る形態です。

アパレルメーカーとしては、販売店に商品を販売した時点で売上が立ちます。アパレルメーカーの収益は原則として、その後販売店が商品を顧客に販売できたか売れ残ったかによって変動しません。そのため、アパレルメーカーにとってメリットの大きい方式といえるでしょう。

一方で、販売店としてはアパレルメーカーからの仕入時点で在庫を抱えることとなります。また、顧客への販売価格と仕入価格との差額が販売店の収益となります。売れ残りのリスクを販売店が抱えることから、代理店方式よりも1商品あたりの粗利益率が高く設定されることが一般的です。

ただし、契約によって一定期間中に販売できなかった商品についてアパレルメーカーへの返品を認める場合もあります。この場合は、次で解説する代理店契約に非常に近い形態となります。

代理店契約(エージェント方式)

代理店契約(エージェント方式)とは、代理店がアパレルメーカーの代理人として顧客に商品を販売する形態です。

この方式では代理店は販売を「代理」するだけであり、代理店がアパレルメーカーから商品を購入するわけではありません。そのため、アパレルメーカーの売上が立つのは、代理店が顧客に対して製品を販売した時点です。また、商品が売れ残った際のリスクは、アパレルメーカーに帰属することとなります。

一方で、代理店契約では、代理店は商品の在庫を抱えません。この点で、代理店側にとってメリットの大きい方式といえるでしょう。

ただし、1商品あたりの粗利益率は販売店契約よりも低くなることが一般的です。代理店は顧客への商品の販売数量や売上高などに応じてアパレルメーカーから販売手数料を受領し、これが販売店の収益となります。

アパレルメーカーが販売代理店契約をするメリット

アパレルメーカーが販売代理店契約を締結することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、アパレルメーカー側の主なメリットを2つ解説します。

  • 代理店の流通網を活用できる
  • 販売に係るコストを削減しやすい

なお、ここでは「販売店契約」と「代理店契約」を区別せず、自社で販売網を構築する場合との比較で解説します。

代理店の流通網を活用できる

1つ目は、代理店の販売網を活用できることです。

アパレルメーカーが自力で流通網を新たに確保することは容易ではありません。新たに流通網を構築するには長い期間を要する可能性が高いうえ、その地域での出店や販売ノウハウがなければ失敗に終わるリスクも高くなります。

特に海外で販売したい場合には、自力での販売網を構築するハードルは非常に高いといえるでしょう。

販売代理店契約を締結することで、代理店の販売網を活用でき、構築に要する期間の大幅な短縮とリスクの低減が可能となります。

販売に係るコストを削減しやすい

2つ目は、販売に要するコストを削減しやすいことです。

アパレルメーカーが自力で店舗を設ける場合、店舗の賃料や販売スタッフの人件費などのコストが発生します。

一方、販売代理店契約による出店の場合は、原則として自社での店舗賃借やスタッフの雇用は必要ありません。販売代理店契約の場合は代理店に対して販売手数料などの支払いが必要となるものの、これを踏まえてもコスト削減となる可能性が高いでしょう。

ただし、コストが削減できるか否かは条件などに応じて異なります。そのため、長期的な視点でコストなどを比較したうえで、直営店での出店か販売代理店の活用かなど慎重な検討が必要です。

アパレルメーカーが販売代理店契約をするデメリットと注意点

アパレルメーカーが販売代理店契約を検討する際は、デメリットも把握しておかなければなりません。ここでは、主なデメリットを2つ解説します。

  • 自社で販売ノウハウが蓄積しにくい
  • 代理店が杜撰である場合ブランドイメージが低下するおそれがある

自社で販売ノウハウが蓄積しにくい

1つ目は、自社に販売ノウハウが蓄積しにくいことです。

代理店に販売を任せた場合、その地域での販売ノウハウが自社に蓄積しにくくなります。そのため、その代理店との契約が終了した際に、売上が伸び悩むなどのリスクが生じます。

代理店が杜撰である場合ブランドイメージが低下するおそれがある

2つ目は、代理店が杜撰である場合、自社のブランドイメージが低下する恐れがあることです。

一般的な消費者は、そこが直営店であるか代理店であるかなどを意識していないことがほとんどです。代理店がアパレルブランドの商標を掲げている以上、その代理店の行為はアパレルブランドの行為として認識される可能性が高いでしょう。

つまり、代理店の接客態度に問題があったり商品管理が杜撰であり劣化した商品を販売したりすると、ブランドイメージが毀損するおそれがあるということです。

そのため、代理店契約を締結する際は販売代理店契約書で禁止事項や遵守事項を定めるほか、トラブル発生時の責任の所在を明確にしたり、解除に関する規定を定めたりするなどの対策が必要となります。

販売代理店契約書の主な条項とポイント

販売代理店契約書は、どのような点に注意して作成すればよいのでしょうか?ここでは、販売代理店契約書に設けるべき主な条項と、それぞれのポイントを解説します。

  • 販売店契約であるか代理店契約であるかの別
  • 対象の商品や地域、顧客などの範囲
  • 最低購入数量がある場合はその旨
  • 独占性・排他性の有無
  • 契約期間と更新の方法
  • 販売手数料
  • 代理店の遵守事項
  • 損害賠償

なお、ここで解説するのは一般的なケースであり、すべての販売代理店契約に当てはまるものではありません。トラブルを抑止し、トラブル発生時の対応をスムーズとするため、販売代理店契約書を作成したりチェックしたりする際は、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

販売店契約であるか代理店契約であるかの別

先ほど解説したように、販売代理店契約には、「販売店契約」と「代理店契約」があります。契約書では、これらのいずれの契約であるのかを明記してください。

ただし、認識の齟齬を避けるため、単に「販売店契約である」などとだけ定めることはおすすめできません。販売店契約の場合、「アパレルメーカーが販売店に商品を販売し、販売店がその商品を顧客に再販売する」など、それぞれの役割と商品の流れを明確に規定するとよいでしょう。

対象の商品や地域、顧客などの範囲

販売代理店契約では、対象となる商品や地域、顧客などの範囲に制限を加えることが少なくありません。制限なく代理店の出店を認めれば、アパレルメーカーの直営店や他の代理店の店舗などと競合するおそれがあるためです。

制限を設ける際は、必ずその範囲を契約書に明記してください。契約書に明記されていなければ、アパレルメーカーが予期しない地域に代理店が出店したとしても、これに法的に対抗することが困難となります。

最低購入数量がある場合はその旨

販売代理店契約では、代理店による最低購入数量を定めることが一般的です。

特に、その代理店が販売権を独占する場合は、必ず設定しておくべきでしょう。なぜなら、最低購入数量を定めていない場合、アパレルメーカーが商品を製造しても収益が得られないおそれがあるためです。

この最低購入数量は、アパレルメーカーと代理店との交渉において問題となる項目の一つです。なぜなら、アパレルメーカーとしては最低購入数量が多いほど利益を確保しやすい一方で、代理店としては過剰な在庫を抱えたくないと考えることが自然であり、最低購入数量を少なくしたいためです。

最低購入数量は今後の収益に直結し得る部分であるため、相手方の要求に安易に応じることなく、交渉することをおすすめします。

独占性・排他性の有無

販売代理店契約には、独占契約であるものと、独占性のないものが存在します。販売代理店契約書では、独占性・排他性の有無を明記しましょう。独占性・排他性がある場合、その代理店以外と販売代理店契約を締結することはできません。

一方、独占性や排他性がない場合は、他の企業と重ねて販売代理店契約を締結できます。その場合であっても他の代理店との競合を避けるため、地域などの限定を加えることが一般的です。

契約期間と更新の方法

販売代理店契約には、契約期間と更新方法を定めることが一般的です。更新については、双方から終了の申出がない限り自動更新する方法のほか、改めて双方が合意することで更新することなどが考えられます。

アパレルメーカーとしては、コンスタントに販売戦略を見直すため、契約期間を短くしたうえで期間満了の都度更新の有無を判断したいことでしょう。

一方で、代理店側としてどの程度の契約期間が望ましいかは、状況によって異なります。一般的には、初期投資などが生じる可能性がある以上、契約期間をできるだけ長期にしたいと考えることでしょう。

その反面、アパレルメーカーが課す最低購入数量が厳しい場合や販売実績が乏しい商品である場合などには、契約期間を短期としたうえで様子を見たいと考える場合もあります。

販売手数料

販売代理店契約書では、代理店が受け取る手数料の計算方法や支払い方法などを定めます。

手数料の計算は販売額に一定割合を乗じて計算するほか、最低保証額を設けたうえでインセンティブを加算するなど、さまざまなパターンが検討できます。齟齬が生じないよう、計算方法を明確に定めておいてください。

代理店の遵守事項

アパレルメーカーがもっとも避けたい事態は、代理店の行動によってブランドイメージが毀損することでしょう。そのため、販売代理店契約書では代理店が遵守すべき事項を定めます。

遵守事項としては、たとえば公序良俗に反する販売手法の禁止や、ロゴの掲載位置などが挙げられます。

損害賠償

販売代理店契約書に定めがなかったからといって、相手方に債務不履行や不法行為が生じた際に損害賠償請求ができないわけではありません。この場合であっても、民法の原則どおり、相当因果関係の範囲内での損害賠償請求が可能です。

しかし、実際には相当因果関係を証明することや損害額の算定が困難であることも少なくありません。これに備え、「一切の損害を賠償する」など損害賠償の範囲を拡げたり、損害賠償の予定額を定めたりすることが検討できます。

反対に、「直接発生した損害に限り賠償する」など損害賠償の範囲を狭めたり、損害賠償の上限額を定めたりする場合もあります。

販売代理店契約書の作成は伊藤海法律事務所へお任せください

販売代理店契約書の作成でお困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。最後に、伊藤海法律事務所の主な特長を紹介します。

アパレル業界などエンタメ業界の法務に特化している

伊藤海法律事務所は、アパレル業界をはじめとするファッション・アパレル法務など、カルチャー・エンターテインメント法務に特化しています。そのため、業界慣習や用語など業界独自の事情について熟知しており、やり取りがスムーズです。

また、前提として、弁護士であるからといってすべての業界における判例や事例を熟知することは現実的ではありません。伊藤海法律事務所は業界特化型の事務所であることからアパレル業界における判例や事例について日々研修を重ねているうえ、事務所としてもサポート実績が積み上がっています。そのため、これらを踏まえたアドバイスやリーガルサポートが可能です。

知財法務に強い

伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほか、知的財産に関する国家資格である弁理士資格も有しています。

アパレル業界においては、著作権や商標権、意匠権など知的財産にまつわるトラブルも少なくありません。当事務所では、知的財産の保護やトラブル予防、侵害時の差止請求など、知的財産にまつわるサポートにも強みを有しています。

外国語での契約書にも対応している

アパレル業界では、外国語で契約書を締結する機会も少なくないでしょう。たとえば、日本のアパレルメーカーが海外の代理店と販売代理店契約を締結する場合などが挙げられます。

顧問弁護士が外国語に対応していない場合、外国語の契約書については改めて他の弁護士を探すなどして対応しなければなりません。

伊藤海法律事務所は、外国語の契約書にも対応しています。そのため、安心してお任せいただけます。

まとめ

アパレルメーカーが販売代理店契約を締結する場合を前提に、販売代理店契約の概要やアパレルメーカー側のメリット・デメリット、販売代理店契約書のポイントなどについて解説しました。

アパレルメーカーが販売代理店契約を締結することで、コストを削減しつつ、効率的に流通網を拡げることが可能となります。その反面、自社に販売ノウハウが蓄積しにくい点や、代理店の質によってはブランドイメージが毀損しかねない点に注意しなければなりません。

後のトラブルを避け、トラブル発生時にスムーズな解決をはかるため、販売代理店契約書の内容を十分に検討したうえで契約の締結をしてください。

伊藤海法律事務所は、ファッション・アパレル法務などカルチャー・エンターテインメント法務に特化した弁護士事務所です。アパレルメーカーが販売代理店契約書の作成でお困りの際や、顧問弁護士をお探しの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

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