声優は、事務所(プロダクション)に所属して仕事をすることも多いでしょう。フリーで活動する場合と比較して、事務所に所属していたほうが仕事の幅が広がりやすくなったり、マネジメントを受けることが可能となったりするためです。

しかし、いったん所属した事務所から移籍したいと考えることも少なくありません。声優が事務所を移籍したい場合、どのような点がハードルとなり得るのでしょうか?

今回は、声優の事務所移籍時にハードルとなりやすい事項や、移籍にあたって弁護士へ相談するメリットについて、エンターテインメント法務に詳しい弁護士が解説します。

声優が事務所を移籍したいと考える主な理由

声優が事務所を移籍したいと考えるには、さまざまな理由が考えられます。はじめに、声優が移籍を希望することの主な理由を4つ解説します。

  • 収入に不満があるから
  • 他の事務所の方が自分の希望する仕事がしやすいから
  • 今の事務所の人間関係に不満があるから
  • 他の事務所に一緒に仕事をしたい人がいるから

収入に不満があるから

1つ目は、収入への不満があるからです。

事務所と声優は、声優が仕事を受けることによって得た収入を、一定割合で按分して得ることが一般的です。声優の仕事が増えて人気が出るほど声優側の按分割合が増え、取り分が増えることが多いでしょう。

多くの仕事を行っているにもかかわらず、声優への配分が少ない場合は、収入が仕事量や人気に比例していないと不満を持ちやすく、これを理由に移籍を検討することも多いといえます。また、人気の声優ではより多くの収入を得て活動の場を広げるため、個人事務所の設立を目指すこともあります。

他の事務所の方が自分の希望する仕事がしやすいから

2つ目は、他の事務所でやりたい仕事があるからです。

声優の所属事務所には多かれ少なかれ「色」があり、今の事務所では自分が希望する仕事が得づらいこともあるでしょう。たとえば、アニメの仕事が多い事務所があったり、ナレーションの仕事が多い事務所があったりするなどが挙げられます。

その際は、自身が取り組みたい分野の仕事を得意としている事務所への移籍を検討することとなります。

今の事務所の人間関係に不満があるから

3つ目は、今の事務所の人間関係に不満があるからです。

一般企業の退職理由と同じく、声優であってもプロダクション内の人間関係への不満から移籍を希望するケースは少なくありません。ただし、どの事務所であっても多かれ少なかれ不満は生じることが多く、移籍するほどの問題であるのか慎重に検討することをおすすめします。

他の事務所に一緒に仕事をしたい人がいるから

4つ目は、他の事務所に一緒に仕事をしたい人がいるからです。

たとえば、お世話になったスタッフが退社するタイミングでそのスタッフとともに移籍する場合や、他の事務所スタッフと意気投合しそのスタッフのいる事務所への移籍を希望する場合などが考えられます。

声優が事務所を移籍する際にハードルとなり得る事項

声優が事務所を移籍する際、「辞めます」と伝えるだけで簡単に辞められるケースばかりではありません。移籍を希望する際は、移籍にあたってハードルとなりそうな事項をあらかじめ把握したうえで、慎重に交渉を進めることが必要です。

ここでは、声優が事務所を移籍する際にハードルとなりやすい主なポイントをまとめて解説します。

  • 事務所との契約が中途解約禁止とされていることがある
  • 契約で違約金が定められていることがある
  • 契約で一定期間他の事務所への所属が禁じられていることがある
  • 移籍先が見つかるとは限らない
  • 報酬の未払いがある
  • しかかり案件の整理が必要となる

事務所との契約が中途解約禁止とされていることがある

声優が事務所へ所属する際は、事務所との間で契約書を締結していることが一般的です。

この契約書には契約期間が定められていることが多く、中途解約が禁止されていることも少なくありません。その場合はすぐに移籍することは困難であり、原則として次回の更新時に更新しない対応をとることが現実的となります。

ただし、契約期間があまりにも長い場合は、契約書の記載に関わらず期間の中途で解約できる可能性もあります。そのため、自己判断で諦めてしまう前に弁護士へご相談ください。

契約で違約金が定められていることがある

事務所に所属する際に締結した契約によって、中途解約時の違約金が定められていることがあります。そのため、契約期間の中途で移籍を希望する際は、改めて契約書の記載を確認しておきましょう。

違約金の定め自体は違法ではなく、中途解約をする際は原則として契約書に記載された違約金を支払わなければなりません。中途で解約をすると事務所が投下した資本(マネジメントのためにかけた費用やレッスン代など)を回収できない可能性が高くなるほか、しかかり案件がある場合はその対応も必要となるためです。

とはいえ、声優が得ていた収入などから考えて法外な違約金が記載されている場合は、これを減額できる可能性があります。そのため、契約書に記載された違約金を見て「このような高額な違約金は到底支払えない」と判断し、移籍を諦める前に、エンターテインメント法務に強い弁護士へご相談ください。

契約で一定期間他の事務所への所属が禁じられていることがある

ちょうど契約更新期間にあたるなどして所属事務所からの退所は可能であるとしても、事務所との契約により、一定期間他の事務所へ所属することが禁止されていることがあります。

しかし、声優が精力的に活動をするためにはプロダクションへの所属が必要となることが多く、その中で他の事務所への所属を禁じることは日本国憲法で保障された職業選択の自由に反する可能性があります。

契約で一定期間他のプロダクションへの所属を禁じられていることによって移籍に二の足を踏んでいる場合は、まずは弁護士へご相談ください。

移籍先が見つかるとは限らない

現在所属している事務所に不満があり移籍しようと考えていても、移籍先がスムーズに見つかるとは限りません。いわゆる「売れっ子」の声優であれば引く手数多である可能性が高い一方で、実績の少ない声優を所属させることは、事務所にとってメリットが少ないためです。

また、収入や対応などへの不満から現在の事務所を辞めるにしても、他の事務所に移籍したからといって待遇が向上するとは限ません。

そのため、勢いで現在所属している事務所を辞めてしまうのではなく、移籍先として希望する事務所にあらかじめ所属を打診したり移籍した場合の条件を確認したりするなど、事前の準備を行っておくことをおすすめします。

報酬の未払いがある

現在所属している事務所からの報酬の未払いがある場合、退所することで未払金の回収ができなくなるのではないかと不安に感じることも多いでしょう。しかし、未払報酬を受け取る権利は移籍によってなくなるわけではなく、退所後に請求することも可能です。

ただし、請求には事項があるため、報酬の未払いがある場合は弁護士へお早めにご相談ください。報酬請求の時効は、原則として債務の履行期(本来の支払い期限)から5年間です。

仕掛かり案件の整理が必要となる

声優が現在継続中である仕事がすべて終了したタイミングで移籍をすればよいものの、人気の声優であればあるほど、仕事がすべて途切れる時期を図ることは困難です。そのため、進行中の仕事があるタイミングで移籍せざるを得ないこともあるでしょう。この場合は、仕掛かり案件に関する整理が必要となります。

仕掛かり案件の整理には旧事務所と新事務所間での調整も必要となり、声優が個人で対応することは困難です。仕掛かり案件があるタイミングでの事務所移籍でお困りの際は、弁護士へご相談ください。

声優が移籍をしたい際に弁護士へ相談すべき理由

声優が事務所を移籍したい場合は、事務所へ移籍を切り出す前に、エンタメ業界への知見を持つ弁護士へご相談ください。ここでは、移籍にあたって弁護士への相談をおすすめする主な理由を4つ解説します。

  • 交渉を有利に進めやすくなるから
  • 不利な条件での解約を避けられるから
  • 契約書の不備を突きやすくなるから
  • その後のトラブルを避けやすくなるから

交渉を有利に進めやすくなるから

1つ目は、弁護士が代理で交渉することで、退所する事務所との解約交渉を有利に進めやすくなるからです。

声優と事務所とでは、事務所の方が法令に関する知識があり、交渉力にも長けていることが少なくありません。また、事務所は顧問弁護士をつけていることも多いでしょう。

そのような状況で自分で直接解約交渉に臨んでしまうと、交渉を有利に進めることは困難です。弁護士に交渉代理などのサポートを依頼することで、声優側が主導権を握って移籍交渉をすることが可能となり、プロダクションとの解約交渉を有利に進めやすくなります。

不利な条件での解約を避けられるから

2つ目は、不利な条件での解約を避けやすくなるからです。

所属していた事務所を退所する際は、解約において高額な違約金を請求されたり、過去に請けた業務にまつわる知的財産について不利益な合意をさせられたりしてしまうおそれがあります。

事務所側から不利な条件を提示された場合、そもそも解約することに罪悪感を持っていることも多いことから、事務所側の交渉ペースに巻き込まれてしまうおそれがあるでしょう。

一方、弁護士に代理で交渉してもらうことで、不利な条件による解約を受け入れてしまう事態を避けやすくなります。

契約書の不備を突きやすくなるから

3つ目は、事務所と締結した契約書の不備を突きやすくなるからです。

多くの場合、事務所に所属する際は契約を締結しています。契約書の草案を事務所が作成した場合は、事務所にとって有利な条項が契約書に盛り込まれていることが少なくありません。

中には、解約にあたって法外な違約金を請求することとされていたり、解約後は「永久に他の事務所への所属を禁じる」などとされていたりすることもあるでしょう。このような条項を見て、移籍を諦めることもあるかもしれません。

しかし、行き過ぎたペナルティはたとえ双方が契約書に署名押印をしていても、無効としたり軽減したりできる可能性があります。中でも、永久に他の事務所への所属を禁じるなどの規定は日本国憲法で保証された「職業選択の自由」に反する可能性が高く、無効にできる可能性が高いでしょう。

しかし、自分で契約書の不備を突きペナルティの軽減などを勝ち取ることは容易ではありません。弁護士が代理で交渉することで、契約書の不備を指摘しやすくなり、解約によるペナルティの軽減を図れる可能性が高くなります。

その後のトラブルを避けやすくなるから

4つ目は、その後のトラブルを避けやすくなるからです。

移籍にあたって事務所をスムーズに退所できても、後から事務所側から何らかの請求や要求がなされてトラブルとなるおそれがあります。そのような事態を避けるため、退所にあたっては、事務所との間で今後について覚書などを取り交わしておくことをおすすめします。

弁護士のサポートを受けることで、事務所と交わしていた契約書をもとに退所に関するアドバイスを受けることや、覚書の締結を代理してもらうことなどが可能となります。

伊藤海法律事務所で主にサポートできること

伊藤海法律事務所ではエンターテインメント法務に力を入れており、声優の移籍や独立についても数多くのサポート実績があります。声優がプロダクションを移籍したり独立したりするにあたって、伊藤海法律事務所は次のサポートなどをすることが可能です。

  • プロダクションとの独立交渉
  • プロダクションへの未払報酬請求
  • 個人事務所立上げ支援

移籍や個人事務所の設立にあたってお悩みの際には、まずはお気軽にご相談ください。

プロダクションとの独立交渉

伊藤海法律事務所では、プロダクションからの独立や移籍交渉のサポートや代理が可能です。プロダクションと交わしている所属契約書の内容を確認したうえで、移籍にあたっての問題点の整理やスムーズかつ有利な条件で移籍するための代理交渉を行います。

プロダクションへの未払報酬請求

伊藤海法律事務所では、プロダクションへの未払い報酬の請求を行います。

声優が仕事をしたにもかかわらず、事務所が所定の報酬を支払ってくれず、退社時に未払いが残っていることもあるでしょう。この場合は、弁護士が本人に代わって未払報酬の請求や取り立てを行います。

ただし、未払い報酬の請求には原則として5年の時効があるため、できるだけ早期にご相談ください。

個人事務所立上げ支援

事務所の退所後に声優が他の事務所へ移ることもあれば、声優自身が新たに個人事務所を立ち上げることもあります。伊藤海法律事務所では、声優の個人事務所立ち上げのサポート実績も豊富です。

個人事務所を立ち上げるにあたっては、事務所となる法人を設立するのみならず、仕事を依頼してくれる企業との交渉や契約締結もすべて自社で行わなければなりません。また、声優が事務手続きなどを含めてすべて自分で行うことは困難であり、事務作業やスケジュール管理を任せる人を雇ったり委託したりすることとなるでしょう。この場合は、雇用契約や業務委託契約などを策定しなければなりません。

このように、個人事務所を立ち上げる際には法的な観点だけであっても多くの整備が必要となります。個人事務所の立ち上げをしようとする際は、伊藤海法律事務所へご相談ください。

まとめ

声優が所属している事務所から移籍する際の注意点や弁護士へ依頼するメリットなどについてまとめて解説しました。

声優がプロダクションを移籍しようとする際は、まずはそのプロダクションへ所属する際にプロダクションと締結した契約の内容を確認してください。契約書によって中途解約が禁じられている場合や高額な違約金が設定されている場合、一定期間他の事務所へ所属することを禁止されている場合などには、これが移籍にあたってのハードルとなる可能性があります。

しかし、たとえ契約書に双方が署名や押印をしていても、契約の内容が絶対的に効力を有するとは限りません。その声優の収入などに見合わない法外な違約金が設定されている場合や長期にわたって他のプロダクションへの所属が禁じられている場合などには、契約内容が一部無効となる可能性もあります。

そのため、声優が事務所を移籍するにあたってお悩みの際は、事務所に移籍を切り出す前に、声優の移籍などに詳しい弁護士へ相談するようにしてください。

当サイトの運営者である伊藤海法律事務所はエンターテインメント法務に力を入れており、声優の移籍や個人事務所設立などを数多く支援してきた実績があります。

声優が事務所を移籍するにあたってお困りの際や、移籍にあたって事後に問題を残したくない場合などには、伊藤海法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。状況に応じて、最適なサポートプランをご提案します。