生成AIやディープフェイクの発展により声の権利侵害が社会問題となっており、アメリカのテネシー州では「エルビス法」が成立するに至っています。

では、「エルビス法」とはどのような法律なのでしょうか?また、日本にエルビス法に相当する法律は存在するのでしょうか?今回は、アメリカで成立したエルビス法の概要や日本における声の権利保護の現状などについて、弁護士がくわしく解説します。

なお、当事務所(伊藤海法律事務所)はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声の権利保護を図るための新たな概念である「声格権(音声人格権)」を提唱しています。声の権利侵害でお困りの際や、声の権利保護を図りたいとお考えの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

▼この記事のポイント

  • アメリカで成立した「エルビス法」とは、「声」を個人の財産の1つとして保護することを目的とした法律である
  • AIやディープフェイクの発展、SNSの普及などで、声の権利侵害が各国で問題視されている
  • 日本にはエルビス法にあたる法律はないが、声の権利はパブリシティ権や不正競争防止法などで保護できる可能性がある

2024年3月にアメリカで声の肖像権を守る「エルビス法」が成立

2024年7月1日、アメリカのテネシー州で「エルビス法」が施行されました。エルビス法とは、「声」を個人の財産の1つとして保護することを目的とする法律です。歌手であるエルビス・プレスリーの名前にちなんで、命名されました。

エルビス法では、個人の名前や写真、音声、肖像などを無断で使用することのほか、これらを無許可で生成することを主目的とするソフトウェアの配布なども規制対象とされています。違反した場合には罰則の適用対象となり、声の権利に関する意識の向上や不正使用の抑止などの効果が期待されています。

「声の権利侵害」で生じるリスク

声の権利侵害が問題視されているのは、これによって生じるリスクが無視できないほど大きくなっているためであると考えられます。ここでは、声の権利侵害によって生じる主なリスクを3つ紹介します。

  • アーティストや声優が適切な報酬を得る機会を逸する
  • 声優などの人格権が侵害される
  • 詐欺が横行する

アーティストや声優が適切な報酬を得る機会を逸する

声の権利侵害が横行すれば、アーティストや声優などが正当な対価を得る機会を逸することになりかねません。声の権利侵害の典型例としては、次のものなどが挙げられます。

  • あるアーティストが著名な楽曲を歌っているように聞こえる動画・音声がSNSに投稿される
  • ある声優がナレーションをしているように聞こえる動画・音声がSNS上に投稿される
  • ある俳優がある商品・サービスを勧めているように聞こえる広告がインターネット上に掲載される

これらは本来、そのアーティストや声優などに対価を支払って依頼すべきものでしょう。しかし、AIによって生成された声(のようなもの)に無料で代替されてしまうと、アーティストや声優が正当な対価を得る機会を逸する可能性があります。

声優などの人格権が侵害される

声優や俳優の声(のようなもの)に自由に何でも語らせることができる事態は、なんらかの人格的利益を侵害してしまう可能性があります。

たとえば、自身の声(のようなもの)で自身と異なる政治的な主張をされたり、自身が使ったことのないサービスをPRされたり、自身が実際には口にしないようなセリフ(卑猥な内容・暴力的な内容・ヘイトスピーチなど)を言わされたりすることは、誰しも避けたいことでしょう。

詐欺が横行する

声の不正使用は、詐欺につながるリスクもあります。日本でも、すでに著名人がある投資商品などを勧めているように見える動画や音声が広まっており、目にしたことのある人も少なくないでしょう。

これがAIによって本人に無断で生成されたものであることに気付けなければ、「この人が勧めているものなら、安心だ」などと考えた人が、詐欺被害に遭ってしまうかもしれません。

世界で声の権利保護が着目されている背景

世界で声の権利保護がこれほど着目されている背景としては、次のものが挙げられます。

  • ディープフェイクの発展
  • SNSなど拡散手段の普及

ディープフェイクの発展

これまで、著名人の声を模倣しようとすれば、いわゆる「モノマネ」ができる人に話してもらうか、声を1音ずつ「切り貼り」するしかありませんでした。このような状況では生成できる音声にも限度があるほか、違和感のない声の生成は困難でしょう。そのため、声の権利侵害はさほど問題になりませんでした。

しかし、ディープフェイクの発展により、違和感のない音声が少ない費用で大量に生成できることとなりました。これにより声の権利侵害が深刻化し、声の権利保護が着目されるに至っています。

SNSなど拡散手段の普及

これまでは、仮に著名人の声を何らかの手段で違和感なく模倣できたとしても、これを不特定多数の相手の目や耳に届ける機会はほとんどありませんでした。広く音声や映像を届ける手段としてはテレビやラジオなどの電波に乗せる必要があったものの、これらのメディアに広告を出稿するにはまとまった費用がかかるうえ、一定の審査も経ることとなるためです。

一方で、近年ではSNSやウェブ広告などを通じ、少ない費用で多くの人の目や耳に届けることが可能となっています。むしろ、「バズり」さえすればさほど費用をかけることなく多くの人の目に届きやすいという事態は、センセーショナルな動画や音声を生成する動機付けにさえなっているといえるでしょう。

日本に「エルビス法」にあたるものはある?

2026年8月現在において、日本には「エルビス法」にあたるものはありません。しかし、声の権利侵害への対抗手段がないわけではなく、他の権利や法律によって保護を図れる可能性があります。ここでは、日本での対応について解説します。

2026年8月現在、日本に「エルビス法」にあたるものはない

繰り返しとなりますが、2026年8月現在、日本に「エルビス法」に相当する法律はありません。つまり、声の権利侵害を直接規制する法律はなく、声の権利侵害そのものが刑事罰にあたることはないということです。

ただし、あたかも著名人が勧めているように見せかけて商品やサービスを購入させるなどした場合には、詐欺罪などの罪にあたる可能性はあります。

他の権利・法律を利用して声の権利保護を図っている状況

日本に声の権利侵害を直接的に規制する法律はないものの、声の権利が侵害された際は、パブリシティ権の侵害や不正競争防止法違反として法的措置がとれる可能性があります。それぞれ、概要を解説します。

パブリシティ権

パブリシティ権とは、著名人などの有する顧客吸引力から得られる収益を、独占的に得る権利です。法律への明文化はないものの、判例によって確立されています。

顧客吸引力とは、顧客などに「この人がPRしている商品なら買ってみよう」や「この人が使っているサービスなら安心だ」などと感じさせる力です。著名人が持つこのような顧客吸引力を期待するからこそ、企業は対価を支払って著名人をCMやイメージキャラクターなどとして起用しています。

そうであるにもかかわらず、無断で著名人の顔写真や氏名が広告などに使われれば、著名人側が正当な対価を得る機会を逸してしまうことでしょう。そこで、このような事態が生じた際には、パブリシティ権の侵害を主張し、広告の差止めや損害の賠償などを求めることとなります。

このパブリシティ権が想定しているのは、従来、著名人の顔写真や氏名などでした。しかし、顧客吸引力があるという点では、声優や俳優の声も同様です。そこで、近年ではパブリシティ権による保護対象に「声」も加え、保護を図ろうとする動きが広がっています。

具体的には、声優である津田健次郎氏が声を不正利用されたことを受け、パブリシティ権の侵害であるとして提訴したケースなどが挙げられます。

 

▼併せて読みたい

不正競争防止法

不正競争防止法とは、不正な競争の防止を目的とする法律です。不正競争防止法では「不正競争」を定義しており、その中に周知な他人の商品等表示を不正利用する「周知表示混同惹起行為」や他人の著名な商品等表示を不正利用する「著名表示冒用行為」、紛らわしい表示をする「誤認惹起行為」などがあります。

声優Aの声の無断利用は、「実際には声優Aは関与していないにもかかわらず、声優Aが関与しているかのように見せる」という意味で、これらの不正競争にあたる可能性があります。そのため、声の権利侵害の態様や状況によっては、不正競争防止法違反として対抗できる可能性もあるでしょう。

声の権利侵害に関する日本の現状

声の権利侵害が深刻化していることを受け、法務省は2026年4月に有識者による「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」を設置し、全5回の議論を経て、2026年8月7日に取りまとめ報告書「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」を公表しました。同報告書では、現行法および判例法理を踏まえ、声を人格の象徴と正面から認めたうえで、生成AIによる肖像・声等の無断利用についてパブリシティ権等の侵害が成立し得る場合の法的整理が示されています。

同報告書は立法を前提としたものではなく法的拘束力もありませんが、今後の裁判実務や事業者の対応に影響を与えることが見込まれるため、引き続き情報を注視することをおすすめします。

参照元:

声の権利侵害でお困りの際は伊藤海法律事務所にご相談ください

声の権利侵害でお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。ここでは、当事務所の主な特長を4つ紹介します。

  • 声の権利保護に着目している
  • カルチャー・エンターテイメント法務に特化している
  • 顧問契約にも対応している
  • 英文契約書にも対応している

声の権利保護に着目している

伊藤海法律事務所は声の権利保護に着目しており、声の人格権である「声格権」という新たな概念を提唱しています。声優や声優事務所、俳優などへのサポート実績も豊富であるため、まずはお気軽にご相談ください。

カルチャー・エンターテイメント法務に特化している

伊藤海法律事務所は、カルチャー・エンターテイメント法務に特化しています。そのため、業界における取引慣習や生じやすいトラブル、関連する判例・裁判例などを熟知しており、より的確なサポートを提供できます。

顧問契約にも対応している

伊藤海法律事務所は、顧問契約にも対応しています。顧問契約をいただいたクライアント様にはより優先的な対応が可能となるほか、法務関連の疑問が生じた際にお気軽にご相談いただくことも可能となります。

また、顧問プランは1つではなく、月額料金と料金内でのサポート内容の異なる4種類のプランを展開しています。そのため、フリーで活動する方から上場企業に至るまで、過不足のないサポートの提供が可能です。

英文契約書にも対応している

伊藤海法律事務所は、英文契約書にも対応しています。そのため、海外の企業や個人と契約を締結すべき場面においても、的確なサポートを提供できます。

伊藤海法律事務所の声の権利保護に関する主な対応実績

伊藤海法律事務所は、声の権利保護に関して豊富なサポート実績を有しています。ここでは、当事務所の主なサポート事例を4つ紹介します。

なお、ここで紹介するものは一例であり、ご要望や状況に応じたサポートの提供が可能です。声の権利についてお困りの際は、伊藤海法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。

独自の概念である「声格権」を提唱している

伊藤海法律事務所は、声の権利保護に力を入れています。しかし、現行の権利や法律は声の権利に特化したものではなく、声の権利保護にとって十分であるとはいえません。

そこで、独自の概念である「声格権(音声人格権)」を提唱し、声の権利のさらなる保護を図っています。

声優の代理人として、プロダクションと徹底的に交渉した事例

クライアントである声優が、声の権利についてプロダクション側から過剰な要求をされていました。そこで、当事務所が声優の代理人となり、プロダクション側と徹底的に交渉した実績があります。

声の無断学習禁止や無断二次利用禁止を契約書に定めた事例

声優が契約に基づいて「声」を提供する場合、声の用途に制限をかけなければ、提供した声が目的外の用途に利用されたり、声が生成AIに学習されディープフェイクの生成に利用されたりするかもしれません。

当事務所ではこのようなリスクを伝えたうえで、声優側の代理人として、契約書に無断で声をAIに学習させることや無断で二次利用をすることを禁止する条項を設ける交渉に成功した実績を有しています。

声の権利保護に関する啓蒙セミナーを実施した事例

「声の権利」に関する感度は、人や業界によって大きな差がある現状にあります。しかし、声の権利に関する意識の低さから安易に他者の声を生成AIに読み込ませるなどすれば、声の権利侵害が拡大するおそれがあるでしょう。

当事務所では、このような事態を避けるため、声を生成AIに無断で学習させることは原則として禁止すべきことを伝える啓蒙セミナーを実施した実績を有しています。

声の権利に関するよくある質問

最後に、声の権利に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。

日本で声の権利を侵害するとどうなる?

日本で声の権利を侵害した場合、声の「持ち主」から、パブリシティ権の侵害や不正競争防止法違反などを根拠として差止請求がされる可能性が生じます。

AIが作った動画や音声に著作権は発生する?

AIによって生成された動画や音声に著作権が発生するか否かは、人間の創作的寄与の度合いによって異なります。

人がAIを「道具」として利用したに過ぎず、人が著作者であると評価できる場合には、著作権が発生する可能性があります。

一方で、人間の創作的寄与がない場合には、AI生成物に著作権は発生しません。著作権を発生させるには人間の創作的寄与が不可欠であり、AIは「創作」の主体とはなり得ないためです。

まとめ

エルビス法の概要や日本における声の権利保護の現状などについて解説しました。

エルビス法とは、アメリカのテネシー州で成立した、「声」を個人の財産の1つとして保護することを目的とする法律です。

2026年8月現在において、日本にはエルビス法にあたる法律や声の権利を明記した法律はありません。しかし、法務省の有識者検討会が2026年8月に取りまとめ報告書「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」を公表し、現行法下での法的整理が示されています。

また、声の権利に関する明文化がない現状にあっても、パブリシティ権の侵害や不正競争防止法違反などとして法的措置をとれる可能性があります。

声の権利が侵害されたと感じたら、まずは声の権利保護に力を入れている弁護士に相談し、状況に応じた対抗措置を検討するとよいでしょう。

伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声の権利保護に力を入れています。声の権利を保護する「声格権」を提唱しているほか、契約書の条項により声の権利保護を図った実績も少なくありません。

声の権利について相談できる実績豊富な弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までまずはお気軽にご連絡ください。

お気軽にお問い合わせください。