生成AIの発達により、声優などの声の模倣が容易にできる状況となっています。これは非常に便利である反面、声の権利保護についてより慎重に検討すべき段階にあるといえるでしょう。

では、生成AIによる声の権利侵害が問題視されている背景には、どのようなものがあるのでしょうか?また、生成AIにより声の権利が侵害されている場合、どのように対応すればよいのでしょうか?今回は、生成AIと声の権利について弁護士がくわしく解説します。

なお、当事務所(伊藤海法律事務所)はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、生成AIによる声の権利保護について豊富なサポート実績を有しています。また、声優事務所や個人声優の顧問を多く務めていることから、実務上、現状の法体系に課題を感じることが多く、現在は「声格権(音声人格権)」という新たな概念を提唱し、声の権利保護に取り組んでいます。

生成AIによる声の権利侵害でお困りの際や生成AIの利用に関して相談できる弁護士をお探しの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

伊藤 海

この記事を書いた人:伊藤 海 弁護士/弁理士

弁護士/弁理士
東京弁護士会所属(登録番号:49989)
日本弁理士会所属(登録番号:21902)

取扱分野:企業法務、カルチャー・エンターテインメント法務、AI法務、ベンチャー・スタートアップ支援、知的財産権法

生成AIによる「声の権利」の侵害とは?

生成AIによる声の権利の侵害とは、本人の許諾なく、生成AIを用いて本人の声を模倣した音声を作成し、公開・販売・広告等に利用することで、本人の人格的利益(声をみだりに利用されない利益)や経済的利益(パブリシティ権)を害することをいいます。声優が本来得られたはずの出演の機会や報酬を失うことは、その経済的な帰結の一つです。

たとえば、著名なアニメキャラクターの声で自社のPR動画のナレーションをしてもらいたい場合やある歌を歌ってもらいたい場合、原則としてそのアニメキャラクターを演じている声優に依頼することになるでしょう。

しかし、近年では生成AIの発達により、声優の声をAIに取り込んであたかもその声優が話しているかのようなナレーションや歌唱音声を生成することも可能となっています。このPR動画などを見た一般視聴者は、「あの著名キャラクターがナレーションをしている」と捉えることでしょう。

そうであるにもかかわらず、声優やその事務所に報酬は支払われません。

また、生成AIによって模倣された声が、違法コンテンツに使用されるケースもあります。

たとえば、詐欺である投資のPR動画に無断で声が使用され、これを信じた消費者が詐欺被害に遭うかもしれません。声優はその商品に一切関わっていなかったとしても、誤解した消費者が「詐欺広告の人」とのイメージを抱き、風評被害につながるおそれもあるでしょう。

実際に、著名人の肖像などを無断で使用した詐欺商品の広告はSNS上などで散見され、問題視されています。

生成AIによる「声の権利」侵害が問題視されている背景

生成AIによる「声の権利」侵害が問題視されている背景には、声の模倣が容易となっていることと、模倣された「声」が拡散されやすくなっている状況が挙げられます。それぞれ概要を解説します。

  • 生成AIの発達により「声」の模倣が容易となったこと
  • SNS・音声配信サービスにより拡散されやすくなったこと

生成AIの発達により「声」の模倣が容易となったこと

先ほど解説したように、生成AIの発達により声の模倣が容易となっています。

これまでも、サンプルとなる声を分解して1音ずつつなぎ合わせるような「模倣」は可能でした。しかし、本人が実際に話しているような流暢な模倣は困難であり、違和感のある仕上がりとなります。そのため、声優の「代替」にはならないでしょう。

また、いわゆる「モノマネ」による模倣も可能でした。とはいえ、この場合にはモノマネができる「人」にナレーションを依頼する必要があり、無限の複製などはできません。

そもそも、モノマネができる人に対価を支払って依頼するのであれば、費用はもう少し高くなっても「本家」の声優に依頼しようと考えることも多いでしょう。

これらに対し、生成AIでは費用を掛けず、簡単に違和感のない声を生成できます。これを、「ディープフェイク(Deep Fake)」ともいいます。

ディープフェイクは「Deep Learning(深層学習)」と「Fake(偽物)」を組み合わせた造語であり、発語する文脈に応じて違和感のない音声の生成が可能です。これにより状況が一変し、声の権利侵害が懸念される事態となりました。

SNS・音声配信サービスにより拡散されやすくなったこと

声が模倣できたとしても、従来であれば、そのような侵害コンテンツが多くの人の目や耳に触れる機会は少なかったことでしょう。

テレビCMやラジオCMを打とうにも、出稿段階で審査に落ちる可能性が高いためです。また、そもそも正規の声優に依頼せず抜け道を探す事業者が、テレビやラジオに正規料金を支払って広告を出す事態も想定しづらいといえます。

しかし、近年ではSNSの普及により、「バズらせる」ことさえできれば多くの人の目に触れさせることが可能です。また、インターネット上であれば、比較的少額な資金で広告を出すこともできるでしょう。

これも、生成AIによる「声の権利」侵害が問題視されている背景の1つであると考えられます。

声の権利保護に関する法律・権利

前提として、「声の権利」を直接的に保護する法令は存在しません。そこで、他の法律やすでに判例で確立された権利を使って声の権利保護をはかることとなるでしょう。

ここでは、声の権利保護に関係する法律・権利として、「パブリシティ権」と「不正競争防止法」の概要を解説します。

なお、実際に声の権利が侵害された場合において、どのような法律構成で対応すべきであるかは状況によって異なります。そのため、声の権利侵害が疑われる時点で早期に弁護士にご相談ください。お困りの際は、伊藤海法律事務所までお早めにご相談ください。

パブリシティ権

パブリシティ権とは、著名人の有する「顧客吸引力」の財産的価値を保護する権利のことです。

前提として、著名人を広告に起用したいと考えるのは、その著名人を起用することで見た人に「この人がPRしているなら、買ってみよう」「この人がPRしているサービスなら信用できそう」などプラスの印象を与えるためでしょう。これを、「顧客吸引力」といいます。この力を享受する目的で、決して安くない出演料を著名人側に支払います。

そうであるにもかかわらず、無断で著名人の顔写真を広告に使われたり、「あの〇〇も使ってる!」などと無断で氏名を出されたりすると、著名人側が正当な報酬を得る機会を逸してしまうことでしょう。このような正当な利益を保護する権利が、「パブリシティ権」です。

パブリシティ権を侵害した場合、「差止請求」や「損害賠償請求」の対象となります。

差止請求とは、侵害行為をやめるよう求めるものです。一方で、損害賠償請求とは、侵害行為によって被った損害を金銭の支払いによって償うよう求めることを指します。

東京地裁令和8年9月30日判決は、実演家の声等の無断使用が「専らその声の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえるときは、パブリシティ権の侵害に当たると解するのが相当である」と判示し、声がパブリシティ権の保護対象となる旨を示しました。もっとも、パブリシティ権は経済的利益を保護する権利であるため、商用目的でない嫌がらせなどの利用には、パブリシティ権では対応できません。こうした場面では、声を「みだりに利用されない」人格的利益の侵害として、受忍限度を超える場合に不法行為が成立し得ると整理されています(2026年8月の法務省の解釈指針)。

不正競争防止法

不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争の確保を目的として、不正競争の防止や不正競争が生じた際の損害賠償などについて定める法律です。不正競争防止法には、不正競争にあたる具体的なケースが列挙されています。

そのうちの1つに、「周知表示混同惹起行為」があります(不正競争防止法2条1項1号)。この行為を平たく言えば、「自社の商品・サービスを有名な他社商品・サービスに見せかけて、需要者(消費者)を騙そうとすること」です。

声優の声についてこの規定が直接的に適用されるか否かは、明確ではありません。しかし、声優の声は、それ自体が商品です。

商品そのものである声を生成AIを使って模倣し、あたかも声優本人が携わっているように消費者に見せかけることは、不正競争にあたる可能性はありますが、裁判実務上要件が厳しいというのが現状です。

経済産業省は2025年3月、俳優や声優等の肖像や声の利用について、周知表示混同惹起行為(2条1項1号)、著名表示冒用行為(同項2号)、誤認惹起行為(同項20号)、信用毀損行為(同項21号)に事案によっては該当し得るとしつつ、周知の程度や利用形態により個別に判断する必要があるとの考え方を示しています。津田健次郎事件でも同法に基づく請求は判断されておらず、同法の改正の要否は、2026年8月から経済産業省の審議会(産業構造審議会不正競争防止小委員会)で検討されています。

生成AIによる「声の権利」侵害への対応が難しい理由

生成AIによる「声の権利」侵害への対応は、容易ではありません。ここでは、声の権利保護のハードルとなっている2つの事情を紹介します。

  • 声の権利を直接的に保護する法律がないから
  • 表現の自由や技術発展とのバランスへの配慮が必要であるから

声の権利を直接的に保護する法律がないから

1つ目は、前述したとおり、声の権利を直接的に保護する法律がないことです。

先ほど解説したように、声の権利を直接定めた法律は、現在のところありません。そのため、パブリシティ権や人格的利益の侵害による不法行為、不正競争防止法など、他の法律や権利を組み合わせて保護を図ることになります。2026年8月の法務省の解釈指針と同年9月30日の東京地裁判決により、声がパブリシティ権等の保護対象となり得ることは明らかになってきましたが、どのような利用が侵害となるかは事案ごとの判断に委ねられており、予測可能性に乏しいことが対応を難しくしています。

なお、伊藤海法律事務所では、冒頭で述べたとおり、声を人格と財産の二要素で守る「声格権(音声人格権)」という新たな概念を提唱しています。声格権は現行法上の権利ではなく、立法論として提唱する概念です。パブリシティ権や不正競争防止法による保護の限界 ‐ 無名の方の声、営利を目的としないなりすまし、死後の声など ‐ を、譲渡できない「音声同一性保持権」と、譲渡・相続できる「音声利用権」の二つの権利によって埋めることを目指しています(詳しくは声格権のページをご覧ください)。「声格権(音声人格権)」につきましては、またの機会に当ウェブサイトの別コラムにて詳述させていただければと思います。

表現の自由や技術発展とのバランスへの配慮が必要であるから

2つ目は、表現の自由や技術発展とのバランスへの配慮が必要であることです。

権利の保護と表現の自由は、常に衝突しやすい関係にあります。声の権利も例外ではなく、声の権利の保護を強めれば表現の自由が損なわれかねません。

また、技術発展や芸術性とのバランスへの配慮も必要です。前提として、生成AI自体が「悪」ということでもないでしょう。

たとえば、生成AIに学習させた声優の「声」をストックし、これが使用されるごとに声優側にライセンス料が支払われるビジネスモデルなども検討できます。

このように、声の権利の保護は表現の自由や技術発展や芸術性とのバランスなどに配慮しつつ、検討する必要があります。

生成AIによる「声の権利」が侵害された場合の対処法

生成AIによって声の権利が侵害された場合、どのように対処すればよいのでしょうか?ここでは、声の権利が侵害されている可能性がある場合の初期対応を解説します。

  • 権利侵害の証拠を残す
  • 弁護士に相談して具体的な対応を検討する
  • 状況に応じて差止請求・損害賠償請求をする

権利侵害の証拠を残す

声の権利が侵害されている可能性がある場合、まずはその証拠を残しましょう。具体的には、問題のあるサイトのURLが表示される状態で、その画面を別のスマートフォンやビデオカメラで撮影することなどが検討できます。

弁護士に相談して具体的な対応を検討する

権利侵害の証拠を残したら、早期に弁護士にご相談ください。相談先には、生成AIや声の権利に強い弁護士を選ぶのがおすすめです。弁護士に相談することで、具体的な状況に応じた対処法を検討しやすくなります。

なお、伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声の権利についても豊富な相談対応実績を有しており、「声格権(音声人格権)」という、他の事務所にはない切り口で戦うことも可能です。お困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

状況に応じて差止請求・損害賠償請求をする

具体的な状況に応じて、差止請求や損害賠償請求などの法的措置を講じます。

差止請求とは、侵害行為をやめるよう相手に対して求めるものです。一方で、損害賠償請求とは、声の権利の侵害により生じた損害を金銭の支払いによって償うよう、相手に対して求めるものです。

相手方が特定できている場合は、まず弁護士から内容証明郵便で請求することが多いでしょう。他方、動画投稿サイト等で投稿者が匿名の場合は、運営会社への削除の申出(情報流通プラットフォーム対処法に基づく送信防止措置の申出を含みます)、裁判所での削除の仮処分や発信者情報開示命令の申立てを検討します。津田健次郎事件では、口頭弁論の終結前に動画が削除されたため削除請求が棄却されており、削除請求だけに頼らず、証拠の保全と損害賠償請求を併せて組み立てることが重要です。この段階で相手方が請求に応じない場合には、裁判上での請求などへと移行します。

生成AIと声の権利について相談できる弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までご連絡ください

生成AIと声の権利について相談できる弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までお早めにご相談ください。ここでは、当事務所の主な特長を4つ紹介します。

  • カルチャー・エンタメ法務に特化している
  • 代表は弁護士のほか、弁理士資格も有している
  • 4種類の顧問契約プランを展開している
  • 英文契約書にも対応している

カルチャー・エンタメ法務に特化している

伊藤海法律事務所は、カルチャー・エンターテイメント法務に特化しています。生成AIと声の権利についても着目しており、豊富なサポート実績を有しているため、安心してご相談いただけます。

代表は弁護士のほか、弁理士資格も有している

伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほかに弁理士資格も有しています。そのため、知財の保護から権利侵害時の対応に至るまで、一貫したリーガルサポートが提供できます。

4種類の顧問契約プランを展開している

伊藤海法律事務所は、クライアント様のステージや事業規模に応じて過不足のないサポートが提供できるよう、4種類の顧問契約プランを展開しています。

  • スタンダードプラン:比較的小規模な中小企業やフリーランス、個人事業主などを想定したプラン
  • リーガルプラン:一般的な中小企業やメガベンチャーなどを想定したプラン
  • コーポレートプラン:上場企業などを想定したプラン
  • 包括的法務受託:実質的な法務部として稼働するプラン

顧問契約をいただいたクライアント様には、優先的な対応が可能となります。また、弁護士を法務部のグループチャットに追加いただくことも可能となり、よりスピーディーな対応が実現できます。

英文契約書にも対応している

伊藤海法律事務所は、英文契約書にも対応しています。そのため、声優などが海外と契約を締結する場面においても、一貫したサポートが提供できます。

生成AIと声の権利に関する伊藤海法律事務所の主な実績

伊藤海法律事務所は、生成AIと声の権利に関して豊富なサポート実績を有しています。主な実績を2つ紹介します。

アニメ制作会社と声優の契約において、声優の声に関する学習禁止を交渉により獲得

アニメ制作会社側としては、声優の声を自由に生成AIに学習させることができれば「声」の活用の幅が広がります。その反面、声優側としては自分の「声」が使用される場面をコントロールしたいため、生成AIに声を学習させる機会をできるだけ減らしたいことでしょう。

声優側からサポートの依頼を受けた当事務所は、アニメ制作会社との交渉により、契約条項に声優の声の学習を禁止する旨の条項を盛り込むことに成功しました。

声格権という新たな概念を主張

声は、声優などにとって利益の源泉となり得るものであることに加え、肖像などとともにその人の人格を表すものであるともいえます。

そこで当事務所は、声を人格と財産の二要素で守る「声格権(音声人格権)」という新たな概念を提唱しています。声格権は現行法上の権利ではなく、立法論として提唱する概念です。パブリシティ権や不正競争防止法による保護の限界 ‐ 無名の方の声、営利を目的としないなりすまし、死後の声など ‐ を、譲渡できない「音声同一性保持権」と、譲渡・相続できる「音声利用権」の二つの権利によって埋めることを目指しています(詳しくは声格権のページをご覧ください)。

生成AIと声の権利に関するよくある質問

最後に、生成AIと声の権利に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。

声の権利を直接的に保護する法律はある?

声の権利を直接定めた法律は、現在のところありません。もっとも、2026年9月30日の東京地裁判決は、声がパブリシティ権の保護対象となる旨を示し、法務省の解釈指針(2026年8月)は、声を「みだりに利用されない権利」とパブリシティ権の双方で保護し得ると整理しています。このため、パブリシティ権、人格的利益の侵害による不法行為、不正競争防止法などを根拠として保護を図ることになります。

生成AIによる声の権利侵害で困った際の相談先は?

生成AIによる声の権利侵害で困った際には、カルチャー・エンターテイメント法務に強い弁護士にご相談ください。

伊藤海法律事務所は生成AIと声の権利に着目し、豊富なサポート実績を有しています。お困りの際は、当事務所までお早めにご相談ください。

まとめ

生成AIと声の権利について解説しました。生成AIの発展により、声優などの声の模倣が容易となっています。これは非常に便利である反面、声優側にとっては声の権利侵害の懸念が高まっているといえるでしょう。

声の権利を直接定めた法律は、現在のところありません。もっとも、2026年9月30日の東京地裁判決は、声がパブリシティ権の保護対象となる旨を示しました。パブリシティ権、人格的利益の侵害による不法行為、不正競争防止法を状況に応じて組み合わせ、削除だけでなく証拠の保全と損害賠償まで見据えて対応することが重要です。

生成AIにより声の権利が侵害されていると感じたら、まずは早期に弁護士にご相談ください。弁護士に相談することで、具体的な状況において執り得る手段を検討でき、適切に対処しやすくなります。

伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、生成AIと声の権利についても豊富なサポート実績を有しています。また、「声格権」という新たな概念を提唱し、声の権利保護に取り組んでいます。

生成AIや声の権利について相談できる実績豊富な弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

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