生成AIが拡がりを見せており、今や仕事やプライベートで日常的に活用している人も多いでしょう。生成AIを利用すれば、芸能人や漫画のキャラクターに似た画像や動画も簡単に生成できます。
では、生成AIで芸能人の肖像に似た画像や動画を生成することは、肖像権侵害にあたるのでしょうか?また、生成AIで芸能人の肖像権や著作権を侵害しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
今回は、「AIタレント」を生成する際に知っておきたい主な権利・法律や生成AIで芸能人に似た肖像を出力することが肖像権侵害にあたるか否か、生成AIで芸能人の肖像権を侵害しないために講じたい対策、生成AIで芸能人の肖像権が侵害された場合の対処法などについて、弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(伊藤海法律事務所)はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、生成AIによる肖像権侵害や芸能人の権利保護などについて豊富なサポート実績を有しています。生成AIによる肖像権侵害でお困りの際や、生成AIの利用にあたって相談できる弁護士をお探しの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
「AIタレント」を生成する際に知っておきたい主な権利・法律
生成AIで出力した実在しないバーチャルタレント(「AIタレント」といいます)を、イメージキャラクターとして起用する企業も増えています。
AIタレントは24時間休まずに働いてくれるうえ、スキャンダルを起こすこともありません。また、多言語への対応も可能であり、企業にとって使い勝手のよい存在であると言えるでしょう。
しかし、AIタレント自身が不祥事を起こさなくても、AIタレントが他者のパブリシティ権や著作権などを侵害していれば、AIタレントの存在自体が自社の不祥事となりかねません。
そこではじめに、AIタレントを活用する際に知っておくべきパブリシティ権と著作権について概要を解説します。
パブリシティ権
肖像権は、次の2つに分類できます。いずれも法律への明記はなく、判例によって確立されています。
- プライバシー権としての肖像権(狭義の肖像権)
- 財産権としての肖像権(パブリシティ権)
プライバシー権としての肖像権とは、自分の容ぼう等を無断で撮影されたり、撮影された写真や動画を無断で公表されたりしない権利です。これは、著名人であるか否かを問わず、すべての人が有する権利です。
プライバシー権としての肖像権侵害にあたるか否かは、撮影された状況や場所、目的などによって判断されます。たとえば、多くの人が往来する路上での撮影に一般個人の肖像が映り込んだ程度では、肖像権侵害にはあたらないでしょう。
これに対して、たとえばプライベートな場である自宅内で寛ぐ姿や、路上であってもデモに参加している姿が無断で撮影され公表された場合には、肖像権侵害が認められる可能性があります。また、生成AIで卑猥なコラージュ写真などを作り、これを周囲に広める行為などは、対象が一般個人であっても肖像権侵害にあたるでしょう。
一方で、財産権としての肖像権(パブリシティ権)とは、芸能人など顧客吸引力を持つ人物が有する財産的な利益を保護する権利です。
多くのCMなどで芸能人が起用されていますが、これはその芸能人の持つ顧客吸引力があるためでしょう。顧客吸引力とは、見た人に、「この人がPRしているなら、自分も買ってみよう」などと思わせる力です。
しかし、生成AIで実在の芸能人に似たいわゆる「AIタレント」が生成され、これが無断で広告などに起用されれば、芸能人側(芸能事務所等)が正当な収益を得る機会を逸してしまううえに、無断でAIタレントを利用した側が不当な利益を得るという事態が生じてしまいます。そのため、このような行為は芸能人が持つ肖像権(パブリシティ権)の侵害にあたるでしょう。
著作権
著作権とは、著作物を保護する権利です。生成AIはインターネット上にある画像などを学習して出力するという性質上、出力したイラストなどが他者の著作物に似る可能性は否定できません。
著作権侵害を避けるため、他者が権利を有する他の著作物に似たイラストなどをあえて生成しようとすること(プロンプトに固有名詞を書き込むこと等)は絶対に避けるべきです。また、トラブルを避けるためにも、そのイラストを公表する前に、これと似た著作物がないかどうか確認(ヒューマンチェック)すべきでしょう。
生成AIで芸能人に似た肖像を出力することは肖像権(パブリシティ権)侵害にあたる?
生成AIで芸能人に似た画像を出力することは、その芸能人の肖像権(パブリシティ権)の侵害にあたるのでしょうか?順を追って解説します。
なお、実際のケースにおいては、肖像権侵害にあたるか否かなどの判断に迷うことも多いでしょう。
そのような際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。当事務所は生成AIや肖像権にまつわるサポート実績が豊富であり、状況に応じた的確なアドバイスを提供できます。
生成しただけであれば、原則として肖像権侵害にはあたらない
生成AIで芸能人の肖像に似た画像や動画を生成し個人で鑑賞するだけであれば、原則として肖像権侵害にはあたりません。画像や動画を生成しただけの時点では、その芸能人の権利を何ら侵害していないと考えられるためです。
生成した画像・動画などを公表すれば、肖像権(パブリシティ権)侵害となり得る
実在する芸能人に酷似したAIタレントの画像や動画などを公表した場合、これは実在する芸能人の肖像権を侵害することとなります。また、広告利用すればパブリシティ権の侵害にもなるでしょう。
そのため、AIで生成した画像や動画を外部に公表する前には、似た人物がいないかどうか社内で入念にヒューマンチェックすべきでしょう。
生成AIで芸能人の肖像権(パブリシティ権)を侵害するとどうなる?
生成AIで芸能人の肖像権(パブリシティ権)を侵害すると、どのような事態が生じるのでしょうか?ここでは、生じ得る主な事態を3つ紹介します。
- 差止請求がされる
- 損害賠償請求がされる
- 企業のイメージが低下する
差止請求がされる
芸能人の肖像権を生成AIによって侵害した場合、芸能人側から差止請求がされる可能性があります。差止請求とは、侵害行為をやめるよう求めるものです。
問題の画像や動画、これを掲載したポスターなどをすでに広告などとして出稿している場合、回収や差し替えなどに相当の費用を要することでしょう。
損害賠償請求がされる
生成AIによって芸能人の肖像権を侵害した場合、芸能人側から損害賠償請求がなされる可能性があります。損害賠償請求とは、相手方の不法行為によって被った損害を金銭の支払いによって償うよう求めることです。
芸能人の肖像権(パブリシティ権)侵害による損害賠償の適正額は状況によって異なるものの、その芸能人の正規の出演料を基礎として算定することが多いでしょう。ただし、そのAIタレントを起用した画像や動画が実在する芸能人のイメージを損なうものである場合には、さらに高額な損害賠償を求められる可能性もあります。
企業のイメージが低下する
肖像権や著作権などの権利侵害は、近年より厳しい目で見られる傾向にあります。肖像権侵害の事実がSNSで拡散されるなどしてしまうと、企業イメージが低下し、顧客離れや収益の低下につながるおそれがあるでしょう。
生成AIで芸能人の肖像権(パブリシティ権)や著作権を侵害しない対策
先ほど解説したように、生成AIで芸能人の肖像権などを侵害した場合、さまざまなペナルティの対象となります。では、生成AIで芸能人の肖像権や他者の著作権を侵害しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
ここでは、生成AIの活用にあたって他者の肖像権や著作権を侵害しないために講じたい主な対策を3つ解説します。
- 他者の権利に便乗しようとしない
- 外部に出す前に複数人でチェックする
- 迷った際に相談できる弁護士を見つけておく
他者の権利に便乗しようとしない
1つ目は、他者の権利に便乗しようとしないことです。
たとえば、人気のある芸能人A氏に似たAIタレントを生成しようと考えて生成AIを活用すれば、A氏に似たAIタレントが生成され、A氏の肖像権を侵害する可能性が高いでしょう。同様に、人気のキャラクターBに似せたキャラクターをあえて生成しようとすれば、著作権侵害にあたる可能性が高くなります。
このように、他者の権利に「タダ乗り」しようとすれば、肖像権や著作権を侵害する可能性が高くなるでしょう。他者の著作権を侵害しないためには、他者の権利に便乗しようとするのは避けるべきです。
外部に出す前に複数人でチェックする
2つ目は、外部に出す前に複数人で必ずヒューマンチェックをすることです。
似せる意図がなかったとしても(そのうえ、プロンプトにも固有名詞を記入していないにも関わらず)、生成AIで出力したAIタレントが、偶然実在の芸能人に似てしまうこともあるでしょう。これを文化庁の提唱した概念で「無意識的依拠」といいます。このような無意識的依拠の場合であっても、その画像や動画をそのまま企業のPRなどに活用すれば、実在する芸能人側から肖像権やパブリシティ権の侵害であるとして差止請求や損害賠償請求がなされる可能性があります。
また、その芸能人が著名である場合、「似た人物がいるとは知らなかった」などの主張も通らない可能性が高いでしょう。
このような事態を避けるため、AIタレントを外部に出す前に、これと似た人物が実在しないかどうか複数人で確認することをおすすめします。画像検索にかけることで、似た人物がいる場合に事前に気付きやすくなるでしょう。
迷った際に相談できる弁護士を見つけておく
3つ目は、迷った際に相談できる弁護士を見つけておくことです。
生成AIを業務に活用する中で、他者の肖像権や著作権の侵害にあたるのか否か判断に迷うこともあるでしょう。生成AIや肖像権・著作権に強い弁護士を見つけておくことで、迷った際に気軽に相談しやすくなり、思わぬトラブルを避けやすくなります。
伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、肖像権や著作権についても知見を有しています。顧問契約にも対応しており、顧問契約をいただいたクライアント様は日常的に弁護士にご相談いただけます。
生成AIや肖像権・著作権について日頃から弁護士に相談したいとお考えの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
生成AIで芸能人が肖像権侵害された場合の初期対応
ここまでは「生成AIを用いる側」に焦点を当てて解説してきました。一方で、生成AIによって芸能人が肖像権侵害をされて困る場合もあるでしょう。ここでは、生成AIによって「肖像権侵害をされた芸能人側」の初期対応を解説します。
- 肖像権侵害の記録を残す
- 弁護士に相談する
- 差止請求をする
- 状況に応じて損害賠償請求をする
肖像権侵害の記録を残す
生成AIによって肖像権が侵害されていることに気づいたら、まずはその記録を残しましょう。インターネット上での肖像権侵害であれば、そのページのURLがわかる形でスクリーンショットを撮影することなどが検討できます。
弁護士に相談する
肖像権侵害の証拠を残したら、早期に弁護士にご相談ください。相談先には、テクノロジー法務やエンターテイメント法務に強い弁護士を選ぶのがおすすめです。
弁護士に相談することで、具体的な状況における肖像権侵害の有無が把握でき、具体的な対処法を検討しやすくなります。
伊藤海法律事務所は、肖像権侵害を受けて相手方に差止請求をし、和解に至ったケースなど、豊富なサポート実績を有しています。芸能人が生成AIで肖像権侵害されてお困りの際は、伊藤海法律事務所までお早めにご相談ください。
差止請求をする
生成AIによって肖像権が侵害されている場合には、まず相手方に差止請求をするのが一般的です。先ほど解説したように、差止請求とは、肖像権侵害をやめるよう相手方に対して求めるものです。
まずは弁護士から相手方に内容証明郵便を送るなどして差し止めを求め、この段階で請求に応じない場合には裁判上での請求を検討することとなります。
状況に応じて損害賠償請求をする
肖像権侵害により損害が生じている場合には、相手方に対して損害賠償請求をします。肖像権侵害による損害賠償の適正額は状況によって異なるため、まずは弁護士に相談した上でそのケースにおける適正額を把握するとよいでしょう。
差止請求と同じく、損害賠償請求も、まずは弁護士から相手方に内容証明郵便を送って行うことが一般的です。この段階で支払いに応じない場合は、裁判上の請求へと移行します。
生成AIや肖像権に関して弁護士をお探しなら伊藤海法律事務所にご相談ください
生成AIや肖像権に関して相談できる弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。ここでは、当事務所の主な特長を4つ紹介します。
- カルチャー・エンタメ法務に特化している
- 代表は弁理士資格も有している
- 顧問契約にも対応している
- 英文契約書にも対応している
カルチャー・エンタメ法務に特化している
伊藤海法律事務所は、カルチャー・エンターテイメント法務に特化しています。生成AIと肖像権は近年非常にホットなテーマでもあり、すでに多くのご相談をいただいています。お困りの際は、当事務所までお気軽にご相談ください。
代表は弁理士資格も有している
伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほかに弁理士資格も有しています。そのため、知財の保護から知財侵害時の対応に至るまで、一貫したリーガルサポートが提供できます。
顧問契約にも対応している
伊藤海法律事務所は、顧問契約にも対応しています。日頃から弁護士に気軽に相談したいとご希望の際は、顧問契約もご検討ください。
なお、顧問契約をいただいた際にはより優先的な対応が可能となるほか、弁護士を法務部のグループチャットに追加いただくことも可能となり、よりスピーディーな対応を実現できます。
英文契約書にも対応している
伊藤海法律事務所は、英文契約書にも対応しています。そのため、海外の企業や個人と契約を交わす際にも、一貫したリーガルサポートが提供できます。
生成AIや肖像権に関する伊藤海法律事務所の主な解決実績
伊藤海法律事務所は、生成AIや肖像権に関して豊富なサポート実績を有しています。ここでは、当事務所の主なサポート実績を3つ紹介します。
社内の生成過程にリーガルチェックフローを導入
生成AIによる肖像権侵害について経営陣が理解し、注意していても、個々の従業員による理解度が異なる可能性があります。
そこで、当事務所がサポートし、社内の生成AIの活用過程にリーガルチェックのフローを導入しました。これにより、ある程度均一的なチェックが実現でき、思わぬ権利侵害を避けやすくなります。
無意識的依拠についての講習を実施
無意識的依拠とは、前述のとおり、「あえて似せたわけではないが、AI学習データから出力された肖像が、著名人に結果的に似てしまった」ことを示す概念です。
対象が著名な芸能人である場合、あえて似せたわけではなかったとしても、「偶然似ただけだ」との主張は通らない可能性が高いでしょう。つまり、無意識的依拠であっても、実在の人物に類似した画像を生成すると、肖像権侵害にあたる可能性が高いということです。
しかし、「わざと似せたのでなければ、肖像権侵害にならない」などの誤解は少なくありません。このような誤解を払拭するため、当事務所が生成AIの安全利用講習の中の仮きゅらいむのひとつとして、無意識的依拠に関する講義を実施しました。
肖像権侵害に基づき、マネジメント事務所に対して差止請求を行い和解
AIタレントのマネジメント事務所により、芸能人が肖像権を侵害されたとご相談いただきました。当事務所が芸能人側の代理としてマネジメント事務所に差止請求を行い、最終的には和解する形で解決に至っています。
このように、当事務所は生成AIや芸能人の肖像権侵害について多様なサポート実績を有しています。生成AIによる肖像権侵害でお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。
生成AIによる芸能人の肖像権侵害に関するよくある質問
最後に、生成AIによる芸能人の肖像権侵害に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
AIタレントに著作権はある?
AIタレントに著作権があるか否かは、そのAIタレントの出力に対する人間の関与度合によって変動します。
たとえば、人間が入力したプロンプトが「AIタレントを生成して」という程度の簡単なものである場合、その人の思想または感情を創作的に表現したものであるとは考えられないことから、そのAIタレントは著作物ではないと判断される可能性が高いでしょう。
一方で、人間がプロンプトを相当程度工夫した結果そのAIタレントが出力されたのであれば、illustratorなどのツールを用いて人間がイラストを描いた場合などと同様にそのAIタレントは著作権の保護対象となり、プロンプトを工夫した人(企業の従業員であれば、原則としてその雇用主である企業)に著作権が帰属するものと考えられます。
なお、生成AI自体が著作権の主体となることはありません。また、生成AIタレントがたとえばイラストを描くなど創作活動に見えるような言動をした場合であっても、そのイラストは著作権の保護対象にはならないと考えられます。なぜなら、AIタレントは著作権の主体とはならないためです。
芸能人ではない一般人にも肖像権はある?
芸能人ではない一般人にも、肖像権はあります。ただし、芸能人にあるような財産権としての肖像権(パブリシティ権)はなく、プライバシー権としての肖像権に限られます。
「芸能人ではない一般個人であれば、実在の人物に酷似したAIタレントを用いてもよい」ということではないため、誤解のないよう注意してください。
まとめ
生成AIで芸能人の肖像権を侵害した場合に生じるリスクや生成AIで肖像権侵害をしないために講じたい対策、生成AIで芸能人が肖像権を侵害された場合の対処法などについて解説しました。
生成AIの発達により、簡単に実在の芸能人に似た画像や動画を生成できるようになっています。しかし、実在の人物に似た画像や動画を生成し、これを広告などに起用することは、芸能人の肖像権(パブリシティ権)の侵害にあたります。
肖像権を侵害すると、権利者である芸能人側から差止請求や損害賠償請求がなされる可能性があるほか、企業イメージが低下するおそれもあるでしょう。思わぬ侵害を避けるため、他者の権利に「タダ乗り」しようとするのは避けるべきです。
また、判断に迷った場合に備え、日頃から相談できる弁護士を見つけておくことをおすすめします。
一方、芸能人側としては、自分の肖像権が侵害されていると感じたら、まずはその証拠を残して早期に弁護士にご相談ください。弁護士に相談することでそのケースにおける肖像権侵害の有無などが把握でき、具体的な対処法を検討しやすくなります。
伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、生成AIや肖像権について豊富なサポート実績を有しています。生成AIや肖像権について相談できる弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。当事務所は、顧問契約にも対応しています。



