ソフトウェアの販売にあたっては、エンドユーザーとの間で「エンドユーザーライセンス契約」を締結することが一般的です。
では、エンドユーザーライセンス契約はどのような契約であり、どのように締結すればよいのでしょうか?また、エンドユーザーライセンス契約は、どのような点に注意して作成する必要があるのでしょうか?
今回は、エンドユーザーライセンス契約について、弁護士がくわしく解説します。
エンドユーザーライセンス契約とは
エンドユーザーライセンス契約とは、ソフトウェアの販売にあたり、ソフトウェアメーカー(以下、この記事において「メーカー」といいます)とこれを購入したエンドユーザーとの間で取り交わす契約です。この契約は、「EULA(End-User License Agreement)」と呼ばれることもあります。
個々のユーザーと契約書を交わすのではなく、あらかじめメーカーが契約内容を定め、購入したユーザーがソフトウェアを使用する前に何らかの形で合意する形で締結することが多いでしょう。
大前提として、エンドユーザーがソフトウェアを購入したからといって、そのソフトウェアの著作権までが移転するわけではありません。ユーザーは、あくまでもメーカーが定めたルールの範囲内で、購入したソフトウェアの使用を許諾されているだけです。
そこで、メーカーが「どのようなルール下において、そのソフトウェアの使用を許諾するのか」という許諾条件を定めることとなります。エンドユーザーはこのルールを遵守する限り購入したソフトウェアを利用することができ、ルールから外れた場合には利用できなくなったり、損害賠償請求の原因となったりします。
エンドユーザーライセンス契約の締結方法
エンドユーザーライセンス契約を、メーカーが個々のユーザーと締結することは現実的ではありません。そこで、民法の「定型約款」の規定に倣い締結することとなります。
定型約款とは、不特定多数の者と交わす契約について、あらかじめメーカー側が規定を定めこれを契約内容とすることについてユーザーが合意することで、個々の条項についても合意したものとみなす契約形態です。
つまり、メーカーがあらかじめ定型的な規約を作成してユーザーに提示し、ユーザーがこれに合意することで、その規約の内容で契約が成立したことになるということです。具体的には、パッケージソフトウェアの場合とダウンロード方式の場合とで、それぞれ次のとおりです。
パッケージソフトウェアを販売する場合
パッケージソフトウェアを販売する場合、「シュリンクラップ契約」によって契約を締結することが一般的です。
シュリンクラップ契約とは、ソフトウェアが入っている箱などに「このパッケージを開封することで、契約内容に同意したものとみなす」などと記載したうえで、箱の中に契約書や規約を同封する形態です。
ただし、この形態によって有効に契約を成立させるには、ユーザーがあらかじめ契約内容を確認できる必要があるとされています。購入後、パッケージを開封した後でしか契約内容がわからなければ、「そのような条項が入っていると知っていたら買わなかった」という事態が生じるおそれがあるためです。
パッケージソフトウェアを販売しようとする際は、契約内容を有効なものとするため、あらかじめ弁護士へご相談ください。
ダウンロード方式でソフトウェアを販売する場合
ダウンロード方式でソフトウェアを販売する場合、「クリックオン契約」によって契約を締結することが一般的です。
クリックオン契約とは、あらかじめエンドユーザーライセンス契約の内容を表示させ、「同意する」ボタンをクリックしてもらう形態です。ユーザーが「同意する」ボタンをクリックしなければ、ソフトウェアをダウンロードできません。
こちらも、あらかじめ契約内容が確認できない場合には有効な契約とならないおそれがあります。契約成立について疑義が生じることのないよう、ダウンロードページを設計する際はあらかじめ弁護士へご相談ください。
エンドユーザーライセンス契約を締結すべき主な理由
エンドユーザーライセンス契約は、どのような目的で締結するものなのでしょうか?ここでは、メーカー側の視点に立ち、エンドユーザーライセンス契約が必要である主な理由を3つ解説します。契約条項を検討する際は、この目的が達成できる内容となっているかに着目するとよいでしょう。
- 許諾範囲が明確となるから
- 禁止事項が明確となりトラブル抑止につながるから
- 免責事項により自社を守ることができるから
許諾範囲が明確となるから
1つ目は、許諾範囲が明確となることです。エンドユーザーライセンス契約を締結することで、エンドユーザーに使用を許諾する範囲が明確となります。
許諾する範囲とは、たとえば許諾する使用方法や同時に使用できる機器の数(パソコン5台までは使用を許諾するなど)、許諾期間などです。
許諾範囲を明確にしておくことで、許諾範囲外の利用の抑止力となるほか、許諾範囲外の使用をされた際に自社に有利な解決を図りやすくなります。また、許諾範囲が明確となることで、エンドユーザーとしても安心してソフトウェアを使いやすくなるでしょう。
禁止事項が明確となりトラブル抑止につながるから
2つ目は、禁止事項が明確となり、トラブルの抑止力となることです。エンドユーザーライセンス契約では、ユーザーにおける禁止事項を定めることが一般的です。
たとえば、ソフトウェアの複製や改変、第三者への貸与、許諾範囲外の使用などです。このような「メーカーにとってやってほしくないこと」を禁止事項に定めることで、エンドユーザーにとって「何をしてはいけないのか」が明確となり、トラブルの抑止効果が期待できます。
免責事項により自社を守ることができるから
3つ目は、免責事項を記載することで、いざというときに自社の身を守れることです。
ソフトウェアを購入したものの、エンドユーザーの作業環境で正常に動作せず、使えない場合もあります。また、ソフトウェアを作動させようとユーザーが設定を変えた結果、ユーザーの有するデータや他のシステムに悪影響を及ぼす可能性もゼロではありません。その他、当面は保証をしていても、数年後には保証を打ち切る場合もあるでしょう。
このような場合に多くのユーザーから損害賠償請求をされては、メーカーの業務が立ち行かなくなってしまいます。そこで、エンドユーザーライセンス契約では、一定の免責事項を定めることが一般的です。
とはいえ、「どのような場合であってもメーカーは一切責任を負わない」との規定は、無効となります。自社の身を守る有効な免責規定を設けるため、あらかじめ弁護士へご相談ください。
エンドユーザーライセンス契約に記載すべき主な項目
エンドユーザーライセンス契約には、どのような条項を記載すべきでしょうか?ここでは、エンドユーザーライセンス契約に設けるべき主な条項と、それぞれのポイントを解説します。
- 使用許諾規定
- 使用対価
- 権利帰属
- 保証・非保証条項
- 禁止事項
- 免責事項
- 契約の変更に関する事項
- 合意管轄
使用許諾規定
エンドユーザーライセンス契約では、メーカーがエンドユーザーに対してソフトウェアの使用を許諾する旨を明記します。
併せて、ソフトウェアをインストールする機器の台数や許諾期間に制限を設ける場合は、その制限内容を記載しましょう。ネットワーク上で作動するソフトウェアである場合、社内ネットワークなどのネットワークを経由した使用を認めるか否かを記載します。
使用対価
ソフトウェアの使用対価を記載します。
併せて、支払い方法や支払い期限も定めておきましょう。一定期間後の更新を想定している場合には、更新時の対価の額や支払い期限なども定めます。
権利帰属
エンドユーザーライセンス契約では、ソフトウェアの著作権はメーカーに帰属します。無用なトラブルを避けるため、その旨を確認的に記載しておくとよいでしょう。
保証・非保証条項
エンドユーザーライセンス契約では、メーカーがユーザーに対して保証する内容と、保証しない内容を記載します。ここでは、保証された作業環境を記載することが多いでしょう。
そのうえで、たとえばソフトウェアに瑕疵があり所定の環境下で正常に作動しない場合、一定期間内にユーザーが申し出ることで交換に応じる旨などを記載します。
一方で、次のケースなどは保証しない旨を記載することが一般的です。
- 所定の動作環境や動作条件とは異なる環境・条件下で使用された場合
- 仕様への不適合が、他のソフトウェアとの組み合わせで生じている場合
- 仕様への不適合が、ネットワークの不調に起因する場合
- ソフトウェアがメーカーの承諾なく改変された場合
禁止事項
エンドユーザーライセンス契約では、メーカーがユーザーに禁止する事項を定めます。一般的には、次の内容などを禁止することが多いでしょう。
- 許諾範囲を超えた使用
- 著作権侵害行為
- 改変すること
- ソフトウェアや、この契約に基づく権利義務を第三者に譲渡すること
- 国外に持ち出すこと
- 他のソフトウェアと組み合わせて使用すること
免責事項
エンドユーザーライセンス契約では、メーカーの免責事項を定めます。
ただし、先ほど解説したように、「メーカーは一切責任を負わない」旨の規定は原則として無効です。そのため、具体的な免責内容(メーカーが責任を負わない事項)を定めることが多いでしょう。
免責の内容としては、たとえば次のものが想定されます。
- 間接損害、派生損害、逸失利益
- 特別の事情から生じた損害(損害発生についてのメーカーによる予見の有無を問わない)
- データの消失
- この契約に明示的に定めのない金銭責任
また、別途「メーカーのユーザーに対する賠償額は、いかなる場合も〇万円を上限とする」など、損害賠償の上限額を定めることもあります。
ただし、このような上限規定を定めていても、たとえば「ソフトウェア使用料の1か月分」や「1万円」など極端に低い場合は、上限額以上の損害賠償が認められる可能性も否定できません。適切な上限額を定めるため、あらかじめ弁護士へご相談ください。
契約の変更に関する事項
先ほど解説したように、エンドユーザーライセンス契約は民法上の定型約款に該当します。定型約款は、次のいずれかに該当する場合、相手方(ユーザー)の個別の同意なく変更できます(民法548条の4)。
- 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき
- 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
そのため、これに該当する限り、メーカーは契約の変更についてユーザーの同意を得る必要はありません。ただし、無用なトラブルを避けるため、エンドユーザーライセンス契約内では、今後契約内容が変更される可能性がある旨を定めておくべきでしょう。
合意管轄
万が一ユーザーとトラブルとなった場合、遠方の裁判所に訴訟を提起されてしまうと、管轄の裁判所へ出向くだけでコストや時間を要します。そのため、エンドユーザーライセンス契約では、合意管轄を定めることが一般的です。
合意管轄は、メーカーの本店所在地を管轄する地方裁判所とすることがほとんどでしょう。また、日本のどこからでも比較的アクセスのしやすい、東京地方裁判所を合意管轄とすることもあります。
エンドユーザーライセンス契約について弁護士へ相談すべき4つの理由
メーカーがエンドユーザーライセンス契約の原案を検討する際は、弁護士へご相談ください。最後に、エンドユーザーライセンス契約について弁護士へ相談すべき主な理由を4つ解説します。
- 自社に合った契約書が作成できるから
- 違法な契約条項を避けられるから
- トラブル発生を見越した条項を設けやすくなるから
- トラブル発生時の対応がスムーズとなるから
自社に合った契約書が作成できるから
1つ目は、自社に合った契約書が差規制しやすくなるからです。
「エンドユーザーライセンス契約」や「EULA」などと検索すると、他社のエンドユーザーライセンス契約がいくつか見つかることでしょう。しかし、これらはあくまでもそのメーカーの状況に合わせた契約であり、自社の状況に即しているとは限りません。
実態に即していない契約書で合意をしてしまうと、これがもとでトラブルに発展するおそれが生じます。弁護士のサポートを受けることで、自社の実態に即した契約書の作成が可能となります。
違法な契約条項を避けられるから
2つ目は、違法な契約条項を設けてしまう事態を避けられるからです。
自社にとって有利な条項を検討することは、契約書作成の基本といえます。とはいえ、エンドユーザーライセンス契約は一般消費者が相手方となることも多く、一方的に消費者の権利を制限する条項や消費者の義務を加重する条項などは無効となります。
たとえば、先ほども解説したとおり「メーカーはいかなる場合でも損害賠償責任を負わない」などの規定は、無効となる可能性が高いでしょう。また、一方的に自社に有利な条項を入れると、SNSなどで「炎上」して顧客が離れるおそれも否定できません。
弁護士にサポートを依頼することで、法令への理解不足から違法な条項を入れてしまう事態を避けることが可能となります。
トラブル発生を見越した条項を設けやすくなるから
3つ目は、トラブル発生を見越した条項を適切に設けやすくなるからです。
契約書が真価を発揮するのは、トラブルが生じたときです。弁護士は、実際の紛争対応を多く経験しています。そのため、トラブルの発生から逆算し、いざという時に自社を守る条項についてアドバイスを受けることができます。
トラブル発生時の対応がスムーズとなるから
4つ目は、トラブル発生時の対応がスムーズとなるからです。
契約書作成段階から弁護士にサポートを依頼することで、万が一そのエンドユーザーライセンス契約に関してトラブルが生じたときに、弁護士にスムーズに対応を依頼しやすくなります。
ソフトウェアの開発やライセンスでは、トラブルが少なくありません。万が一の際によりスムーズな対応を希望する場合は、信頼できる弁護士との顧問契約締結を検討するとよいでしょう。
まとめ
エンドユーザーライセンス契約の概要や条項のポイントについて解説しました。
エンドユーザーライセンス契約とは、ソフトウェアを購入したエンドユーザーとメーカーとの間で取り交わすソフトウェアの使用許諾に関する契約です。エンドユーザーライセンス契約では許諾範囲を定めるとともに、禁止事項や免責事項、権利帰属などについて定めることが多いでしょう。
いざというときに自社を守る有効なエンドユーザーライセンス契約を締結するため、契約書の原案作成段階から弁護士にご相談ください。
伊藤海法律事務所ではカルチャーやテクノロジー法務に力を入れており、ソフトウェアに関するライセンス契約についても多くのサポート実績があります。エンドユーザーライセンス契約の作成でお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。