生成AIの発達などにより、声の権利侵害が深刻化しています。しかし、声の権利は2026年7月現在において、法令で明文化されたものではありません。そのため、現状としては既存の法律の枠組みの中で権利保護をはかっていく必要があります。
では、声の権利は不正競争防止法によって保護できるのでしょうか?また、声の権利侵害が不正競争防止法違反にあたる場合、どのような法的措置が検討できるのでしょうか?
今回は、声の権利が不正競争防止法によって保護されるか否かや、声の権利侵害が不正競争防止法違反にあたる場合にとり得る法的措置などについて弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(伊藤海法律事務所)は個人声優や声優事務所の顧問を多く務めている背景から、「声格権(音声人格権)」という新たな概念を提唱し、声の権利保護へ向けて積極的に取り組んでいます。声の権利侵害でお困りの際などには、伊藤海法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。
▼この記事のポイント
- 声の権利は、不正競争防止法で保護できる可能性がある
- 声の権利侵害が不正競争防止法違反にあたる場合、差止請求や損害賠償請求などの法的措置がとれる可能性がある
- 声の権利は不正競争防止法のほかに、「パブリシティ権」で保護される余地もある
- 声の権利が侵害されたら権利侵害の証拠を残したうえで、早期に弁護士に相談するのがおすすめ
生成AIによる声の権利侵害とは?
生成AIによる声の権利侵害とは、生成AIに声優や俳優などの声が無断で学習され、実際には自分が話していない内容をあたかも自分が話しているように見える(聞こえる)動画や音声が生成される事態を指します。
声優X氏が動画のナレーションを依頼された場合、当然ながらこれに見合った報酬が得られるはずです。しかし、生成AIに無断でX氏の声が「学習」され、生成AIによってX氏の声(らしきもの)が生成されてこれがナレーションに使用されれば、X氏は正当な報酬を得る機会を逸してしまいます。
また、あたかもX氏が投資商品を勧めているように見える動画や音声が生成されれば、詐欺などに悪用されるかもしれません。
生成AIの発展により実在の人物の声を模した動画や音声の作成が容易となったことを受け、このような声の権利侵害が深刻化しています。
声の権利は不正競争防止法で保護できる?
不正競争防止法により、声の権利保護がはかれる可能性があります。ここでは、不正競争防止法と声の権利保護について解説します。
不正競争防止法とは?
不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争などを確保するために、不正競争の防止や不正競争に係る損害賠償に関する措置などを定めた法律です(不正競争防止法1条)。
たとえば、苦心して商品を開発した人気メーカーAの商品があるとします。このパッケージを他社Bに模倣されて、消費者が見分けがつかずにB社製品を購入すれば、A社が正当な収入を得る機会を逸してしまうことでしょう。
また、これがまかり通る世の中であれば、「苦心して商品を開発するより、人気の他社製品の模倣品を作る方が合理的だ」と考える企業が増加し、国民経済の健全な発展の妨げとなるかもしれません。
このような事態を回避するため、不正競争防止法はさまざまな「不正競争」を定義し、禁止する規定を置いています。
不正競争防止法のうち、声の権利に関係する条文
不正競争防止法では第2条1項で「不正競争」について定義されており、このうち声の権利に関係する条文としては1号と2号、20号、21号が挙げられます。それぞれの条文は、次のとおりです。
| 1号(周知表示混同惹起行為) | 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為 |
| 2号(著名表示冒用行為) | 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為 |
| 20号(誤認惹起行為) | 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為 |
| 21号(信用毀損行為) | 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為 |
声の権利は、不正競争防止法で保護できる可能性がある
先ほど解説した不正競争防止法の条文には、いずれも「声の権利」について直接的な言及はありません。しかし、「商品等表示」などに「声」が含まれる余地があり、著名な声優や俳優の声をAIに読み込ませ、出力した声(のようなもの)を無断で利用すれば、不正競争防止法違反となる可能性があるでしょう。
ただし、「声の権利侵害」が、必ずしも「不正競争防止法違反」にあたるとは限りません。周知表示混同惹起行為では対象となる俳優や声優が「需要者の間に広く認識されているもの」である必要があり、著名表示冒用行為では「著名」である必要があるなど、一定の要件を満たす必要があるためです。
そのため、実際に声の権利が侵害された事案ではまず弁護士に相談したうえで、状況に応じた対処法を検討するとよいでしょう。
声の権利侵害でお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。当事務所は声優や声優事務所について豊富なサポート実績を有しており、声の権利保護に力を入れています。
声の権利侵害が不正競争防止法違反にあたる場合にとり得る法的措置
声の権利が侵害され、これが不正競争防止法違反にあたる場合には、差止請求や損害賠償請求、信用回復措置請求などが検討できます。それぞれの措置について、概要を解説します。
差止請求
差止請求とは、侵害行為をやめるよう相手方に求めるものです(同3条)。
侵害の停止や予防に加えて、侵害の行為を組成した物の廃棄や侵害の行為に供した設備の除却など、侵害の停止や予防に必要な行為も請求できます。
損害賠償請求
損害賠償請求とは、侵害行為によって生じた損害を金銭の支払いで償うよう求めるものです(同4条)。なお、不正競争防止法には損害の額を推定する規定も置かれており、損害賠償額を算定するハードルが引き下げられています(同5条)。
信用回復措置請求
信用回復措置請求とは、不正競争によって営業上の信用が害された場合に、営業上の信用を回復するのに必要な措置を求めるものです(同14条)。たとえば、あたかもある声優が詐欺まがいの投資を推奨しているような音声がAIで生成され拡散された場合において、「本人が話した内容ではない」旨の謝罪広告を日刊紙に掲載するよう求めることなどが想定されます。
不正競争防止法の他に「パブリシティ権」で声の権利が保護できる可能性もある
パブリシティ権とは、著名人の有する顧客吸引力から得られる経済的利益を本人が独占的に得る権利です。法令で明文化された権利ではないものの、判例により確立されています。
声の権利が侵害された際、不正競争防止法違反ではなく、「パブリシティ権の侵害」として責任追及をすることも検討できます。
ある著名人がCMに起用されていたりある商品を使っていたりする場合、「この人がCMをしているのならきっとよいサービスなので、自分も使ってみよう」「この人が使っている商品なら、自分も欲しい」などと感じることもあるでしょう。これが「顧客吸引力」であり、端的にいえば、企業はこれにあやかるために対価を支払って著名人をCMなどに起用しています。
そうであるにもかかわらず、著名人の顔写真が無断でPRに使用されたり「あの〇〇も利用中!」などと無断で氏名を掲載されたりすれば、著名人が正当な対価を得る機会を逸してしまいます。この場合には、パブリシティ権の侵害を理由に、侵害者に対する差止請求や損害賠償請求などを検討することとなるでしょう。
そこで、声優など著名人の声の権利侵害もパブリシティ権の侵害であると捉え、保護をはかろうとする動きが広がっています。2025年には、声優の津田健次郎さんが自身の声の権利が侵害されたとして、TikTokの運営会社を提訴したことでも話題となりました。
声の権利が侵害された場合の初期対応
声の権利が侵害されていると感じたら、まずは権利侵害の証拠を残したうえで、早期に弁護士に相談することをおすすめします。ここでは、声の権利が侵害された場合の初期対応を解説します。
- 権利侵害の証拠を残す
- 弁護士に相談する
- 具体的な法的措置を検討する
権利侵害の証拠を残す
声の権利が侵害されている可能性がある場合には、まずその証拠を残しましょう。弁護士に相談する際にその証拠を見せることで、具体的な対応策の検討がスムーズとなるためです。
弁護士に相談する
続いて、早期に弁護士に相談しましょう。相談先には、声の権利保護に力を入れている事務所を選ぶのがおすすめです。
伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声の権利保護に力を入れています。声の権利侵害でお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。
具体的な法的措置を検討する
先ほど解説したように、声の権利が侵害された場合には、差止請求や損害賠償請求などができる可能性があります。弁護士とともに、具体的な状況に応じた法的措置を検討しましょう。
声の権利侵害や不正競争防止法違反でお困りの場合は伊藤海法律事務所へご相談ください
声の権利侵害や不正競争防止法違反でお困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。ここでは、当事務所の主な特長を4つ紹介します。
- カルチャー・エンターテイメント法務に強い
- 顧問契約にも対応している
- 代表は弁理士でもあり、知財保護に強い
- 英文契約書にも対応している
カルチャー・エンターテイメント法務に強い
伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声の権利保護に注力しています。不正競争防止法に基づき、クライアントの声優に酷似する音声について利用の差止めを行った実績や、声優の出演契約締結にあたって音声の無断使用を防ぐ条項を獲得した実績などを有しており、状況に応じた的確な対応策の提案が可能です。
顧問契約にも対応している
伊藤海法律事務所は、顧問契約にも対応しています。また、フリーランスから上場企業まで過不足のないサポートを提供できるよう、4種類の顧問契約プランを展開しています。
日頃から気軽に弁護士に相談したいとお考えの際は、顧問契約もご検討いただくことをおすすめします。
代表は弁理士でもあり、知財保護に強い
伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほかに弁理士資格も有しています。そのため、知的財産の保護から権利侵害時の対応に至るまで、一貫したサポートが提供できます。
英文契約書にも対応している
伊藤海法律事務所は、英文契約書にも対応しています。そのため、海外の企業や個人と契約を締結するべき場面においても、的確なサポートの提供が可能です。
声の権利や不正競争防止法に関する伊藤海法律事務所の主な対応実績
伊藤海法律事務所は、声の権利や不正競争防止法に関して豊富なサポート実績を有しています。ここでは、当事務所による主なサポート事例を4つ紹介します。
クライアントの声優に酷似する音声の利用を差し止めた事例
クライアントである声優の声に酷似する音声が、インターネット上で利用されていることがわかりました。そこで、ご相談いただいた当事務所は、不正競争防止法違反であるとして音声の利用の差止請求を行いました。
請求を受けた相手方が音声の利用を取りやめ、和解にて終結しています。
声優の声の無断利用禁止条項を交渉により獲得した事例
声優としては、自らの声を無断で利用される事態は避けたいことでしょう。
当事務所では、声優の出演契約にあたって、音声の無断利用を禁止する旨の条項を交渉により獲得した実績を有しています。
声優の声が不正利用され、二次利用料の回収に成功した事例
声優の声の不正利用を抑止するため、出演契約にあたって当事務所がサポートし、「不正競争防止法に抵触する利用があった場合は、二次利用があったとみなす」旨の規定を設けました。
さらに、その後実際に不正利用がなされた場合において、この規定に基づいて「みなし二次利用料」を回収した実績も有しています。
「声格権(音声人格権)」の概念を提唱
声は、肖像などと同じく、その人物の人格権の1つとして保護されるべきものであると考えています。そこで、当事務所は声の権利保護をより強固なものとするために、「声格権(音声人格権)」という概念を提唱しています。
声の権利や不正競争防止法に関するよくある質問
最後に、声の権利や不正競争防止法に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
自分の声が生成AIに学習される事態を避ける対策は?
自分の声が生成AIに学習される事態を、100%避けることは困難です。
直接の契約相手であれば、契約書に「AIへの学習禁止条項」などを設けることで生成AIへの声の入力を抑止することはできるでしょう。一方で、広く公開されている声を、一般の視聴者などがAIに入力することまでを防ぐのは困難です。
声の権利侵害が不正競争防止法違反にあたる場合に認められ得る損害賠償額の目安は?
声の権利侵害が不正競争防止法違反にあたる場合に認められ得る損害賠償額は、状況によって大きく異なります。そのため、まずは弁護士に相談したうえで、損害賠償請求の可否やそのケースにおける目安額を把握するとよいでしょう。
お困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。
まとめ
声の権利保護や不正競争防止法について解説しました。
生成AIの発達などに伴い、声の権利侵害が深刻となっています。2026年7月現在、声の権利を直接的に保護する法律はありません。しかし、不正競争防止法違反やパブリシティ権の侵害などとして対応できる可能性があります。
声の権利が侵害されていると感じたら、自己判断で諦めるのではなく、まずは声の権利保護に力を入れている弁護士に相談することをおすすめします。
伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声の権利保護について豊富なサポート実績を有しています。声の権利が侵害されてお困りの際は、伊藤海法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。



