生成AIに声優や俳優などの声を読み込ませることで、あたかも本人が話しているかのような音声データや動画などが容易に生成できるようになりました。これにより、「声の権利侵害」が問題視されています。
声優などが提供した「声」を生成AIに学習されてしまえば、その声から話した覚えのない内容が生成されてしまうかもしれません。そこで検討したいのが、契約書に「声」の学習禁止条項を設けることです。
今回は、声の生成AIへの学習禁止条項の概要や学習禁止条項を設けるメリット、声の生成AI学習禁止条項の限界・注意点などについて弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(伊藤海法律事務所)はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、生成AIによる声の権利保護について豊富なサポート実績を有しています。また、当事務所が声優事務所や個人声優の顧問を多く務めている背景から、「声格権(音声人格権)」という新たな概念を提唱し、声の権利保護に積極的に取り組んでいます。
生成AIによる声の権利侵害でお困りの際や、生成AIに声を学習される事態をできるだけ避けたいとお考えの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
▼この記事のポイント
- 声の生成AI学習が問題視されている
- 提供した声を生成AIに学習される事態を避けるには、契約書に声の生成AI学習を禁止する条項を設けることが検討できる
- 声の生成AIへの学習禁止条項は万能ではないが、生成AI学習の抑止力となることや違反時に法的措置をとりやすくなるなどのメリットがある
- 声の生成AIへの学習禁止条項を設ける際は、損害賠償の予定額に関する規定を設けることも検討する
生成AIへの声の学習禁止条項とは?
生成AIへの声の学習禁止条項とは、業務委託契約などに基づいて声優や俳優、歌手、ナレーターなどが提供する音声を、生成AIに学習させることを禁止する旨の条項です。
声優など「声」を提供する側としては、自身の声がAI学習に利用される事態はできるだけ避けたいことでしょう。声がAI学習に利用されれば、その後自分の仕事が「自分の声のデータ」に奪われる可能性があるためです。また、自分が話した覚えのない内容を「自分の声」が話しているという状況は、気持ちのよいものでもないでしょう。
一方で、声の提供を受ける側としては、業務上の利便性向上などの目的から、生成AI学習を認めてほしいと考えるかもしれません。そのため、生成AIへの声の学習禁止条項を契約書に盛り込みたい場合、声優や俳優(または、その所属事務所)の側から条項を盛り込む交渉をすることが一般的です。
伊藤海法律事務所は声優事務所や個人声優の顧問を多く務めており、交渉により声の生成AI無断学習禁止条項を獲得した実績も有しています。契約書に生成AIへの声の学習禁止条項を盛り込みたいとご希望の際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。
声の生成AI学習が問題視されている背景
声の生成AI学習が問題視されている背景には、生成AIが発達していることとSNSの普及により拡散が容易になっていることなどが挙げられます。それぞれ、概要を解説します。
- 生成AIの発達で声の模倣が容易になっている
- SNSの発達で生成物の拡散が容易になっている
生成AIの発達で声の模倣が容易になっている
生成AIの発達により、声の模倣が容易となっています。
これまで、ある声優が実際には話していない内容を話しているように見せようとすれば、声を「切り貼り」するか、いわゆる「モノマネ」ができる人に依頼するほかありませんでした。
しかし、声の切り貼りでは、どうしても違和感が残ります。また、声が似た人に依頼するのであればその人に対価を支払う必要が生じるため、それであれば「本人」に依頼しようと考えることも少なくないでしょう。
そもそも、「人」がモノマネをする以上、無限に声が「生成」できるわけでもありません。そのため、これらの行為は声優などの側にとって脅威とはなっていませんでした。
これに対して、生成AIはほぼコストをかけることなく、かつ違和感の少ない音声を短期間で大量に生成できます。これにより、声の権利が侵害されるリスクが格段に高まったといえるでしょう。
SNSの発達で生成物の拡散が容易になっている
SNSの発達により、生成物の拡散が容易となっています。
従来、生成物を広く拡散するためには、テレビやラジオなどで広く流すしかなかったでしょう。そのため、たとえ声優の声を模倣したコンテンツが作成できたとしても、これを大衆に聴かせられる場は非常に限られていたといえます。
一方で、近年ではSNSが普及しています。また、比較的低い対価かつ緩い審査で、インターネット上に広告を出稿することもできるでしょう。このような背景により、侵害コンテンツを容易に多くの人の目や耳に触れさせることが可能となりました。
これも、声の生成AI学習の脅威が高まっている背景の1つであるといえます。
声を生成AIに学習させることは権利侵害?
声を生成AIに学習させただけでは、原則として権利侵害とはなりません。ただし、著名人の声を生成AIに無断で学習させ、これにより出力されたその著名人の声(のようなもの)を公開するなどした場合には「パブリシティ権」の侵害にあたる可能性があります。
パブリシティ権とは、著名人の「顧客吸引力」から生じる経済的利益を本人が独占的に利用できる権利です。法令などへの明記はないものの、判例によって確立されています。
そもそも、安くない対価を支払って著名人の肖像や声を企業がCMなどに起用するのは、その著名人のイメージにあやかって自社や自社製品・サービスの印象を向上させたいからでしょう。つまり、消費者に「この人が使っているなら、自分も使ってみよう」「この人がCMに出ているなら、安心だ」などと感じてもらうために、対価を支払っているということです。
このように、著名人の肖像や氏名などには顧客吸引力があり、パブリシティ権が発生しています。そのため、著名人の顔写真を無断で使って自社製品のPRをしたり、無断で氏名を載せて「あの〇〇も使っている!」などと記載したりすれば、パブリシティ権の侵害となります。
このパブリシティ権の保護対象を、「声」にも広げようという動きがあります。声優や俳優の声は、肖像などと同じくそれ自体に顧客吸引力があると考えられるためです。
これについては、声を模した動画を作られてSNSに投稿されパブリシティ権を侵害されたとして声優の津田健次郎さんが2025年11月にTikTokを提訴しており、裁判所の判断が注目されています。また、2026年4月には法務省が有識者らによる検討会を立ち上げており、こちらも注目されています。
声の生成AI学習禁止条項を契約書に設けるメリット
契約書に声の生成AI学習禁止条項を設けることには、声優側にとって生成AI学習の抑止力となることや生成AIに声を学習させた際に法的措置をとるハードルが下がることなどのメリットがあります。それぞれのメリットについて、概要を解説します。
- 生成AI学習の抑止力となる
- 生成AIに声を学習させた際に法的措置をとるハードルが下がる
生成AI学習の抑止力となる
契約書に生成AIへの学習禁止条項を設けていない場合、声の提供を受けた相手方が安易に声を生成AIに学習させるかもしれません。
契約書に学習禁止条項を設けることで、相手方が提供を受けた声を生成AIに入力する抑止力となり、トラブル回避につながります。
生成AIに声を学習させた際に法的措置をとるハードルが下がる
取引先が無断で生成AIに声を学習させたとしても、声の生成AI学習禁止条項が契約書に入っていなければ、法的措置をとるハードルが高くなります。なぜなら、生成AIに声を学習させただけであり、これによって出力された声(のようなもの)をその企業が公表して収益を得ていたなどの事情がなければ、損害が生じているとは言い難いためです。
一方で、生成AIに声を学習させることを禁じる条項が契約書に入っていれば、契約違反を理由として契約を解除したり、契約内容に従って損害賠償請求をしたりできる可能性が生じます。
声の生成AI学習禁止条項の限界・注意点
声の生成AI学習禁止条項は万能ではなく、限界もあります。ここでは、声の生成AI学習禁止条項の限界と注意点を3つ解説します。
- 契約相手が生成AIに声を学習させたことの証拠の確保が難しい
- 適正な損害賠償額の算定が難しい
- 第三者が声を生成AIに学習させることまでの禁止は難しい
契約相手が生成AIに声を学習させたことの証拠の確保が難しい
1つ目は、契約相手が生成AIに声を学習させたことの証拠の確保が難しいことです。
先ほど解説したように、声の生成AI学習禁止条項がある場合には、この条項に反して相手方が声を生成AIに入力した時点で、契約解除や損害賠償請求など契約書に定めた措置がとれる可能性があります。
しかし、相手企業の内部でのAIの利用方法について確認するのは容易ではありません。そのため、相手企業が契約に反して生成AIに声を読み込ませたとしても、その証拠を確保するのは難しい可能性が高いでしょう。
適正な損害賠償額の算定が難しい
2つ目は、適正な損害賠償額の算定が難しいことです。
相手方が契約内容に反して声を生成AIに学習させたとしても、この時点で発生している損害額を明確に算定することは困難です。そのため、具体的な賠償額についての交渉が難航したり、認められる賠償額が非常に低額となったりする可能性があります。
これに備え、生成AIへの声の学習禁止条項を契約書に設けるのであれば、違反時の損害賠償の予定額も契約書に盛り込むことを検討すべきでしょう。
第三者が声を生成AIに学習させることまでの禁止は難しい
3つ目は、第三者が声を生成AIに学習させることまでを禁止するのは難しいことです。
生成AIへの声の学習禁止条項を契約書に設けるとしても、この条項によって縛ることができるのは、原則として契約の直接の相手に限られます。
声優が提供した声を相手企業内部だけで利用するケースは稀であり、最終的にはアニメ放送やCM、映画の放映などにより一般公開されることが多いでしょう。契約書に生成AIへの声の学習禁止条項を設けても、一般公開後に一般視聴者がこれを生成AIに読み込ませる事態までを回避するのは困難です。
声の生成AI学習禁止条項は伊藤海法律事務所にご相談ください
声の生成AI学習禁止条項について相談できる弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までご連絡ください。ここでは、当事務所の主な特長を4つ紹介します。
- 「声の権利」保護に力を入れている
- カルチャー・テクノロジー法務に特化している
- 顧問契約にも対応している
- 英文契約書にも対応している
「声の権利」保護に力を入れている
伊藤海法律事務所は声優や声優事務所の顧問を数多く務めている経験から、「声格権(音声人格権)」という新たな概念を提唱し、声の権利保護に積極的に取り組んでいます。
声の権利は法律に明文化されているわけではないため、パブリシティ権など他の権利を流用して保護をはかる必要があります。当事務所にご相談いただくことで、状況に応じた適切な対処方法の提案が可能となります。
カルチャー・テクノロジー法務に特化している
伊藤海法律事務所はカルチャー・テクノロジー法務に特化しており、声優や俳優などの活躍の舞台である芸能関係における商慣習や、業界において生じやすいトラブルについても熟知しています。そのため、これらを踏まえた的確なサポートが提供できます。
顧問契約にも対応している
伊藤海法律事務所は、顧問契約にも対応しています。顧問契約をいただいたクライアント様は日頃から弁護士に気軽に相談することが可能となります。
なお、当事務所ではフリーランスから上場企業まで過不足のないサポートが提供できるよう、月額料金やこれに含まれるサポート内容が異なる4種類の顧問契約プランを展開しています。
英文契約書にも対応している
伊藤海法律事務所は、英文契約書にも対応しています。そのため、海外の企業や個人と契約を締結すべき場面においても、一貫したリーガルサポートが提供できます。
伊藤海法律事務所による声の生成AI学習禁止条項に関する主な対応実績
伊藤海法律事務所は、声の生成AI学習禁止条項に関して豊富なサポート実績を有しています。ここでは、当事務所による主なサポート事例を4つ紹介します。
声優の出演契約で、声の生成AI無断学習禁止条項を交渉により獲得した事例
声優としては、生成AIに声が無断で学習される事態はできるだけ避けたいことでしょう。
当事務所は、声優の出演契約にあたって、生成AIに声を無断で学習させることを禁止する旨の条項を交渉により獲得した実績を有しています。
あえて生成AI学習を許可し、新たな収益モデルを導入した事例
クライアントの考え方によっては、生成AIへの学習を禁止することだけが「正解」ではない場合もあるでしょう。
当事務所では、「あえて生成AIへの学習を許可することで利用する際のフィーを受け取る収益モデル」をクライアントに提案し、導入に至った実績を有しています。
顧問先のアニメ制作会社で講習を実施した事例
生成AIについての理解が不足していると、知らずに第三者の権利を侵害するおそれがあるほか、自社への権利侵害に気付くのが遅れるおそれも生じます。
当事務所では、顧問先であるアニメ制作会社において、生成AIによる学習の「範囲」についての講習を開催した実績を有しています。
声格権(音声人格権)という概念を提唱した事例
当事務所は声の権利保護に力を入れています。そこで、声の権利をより強固なものとするために「声格権(音声人格権)」という新たな概念を提唱し、日々研究を重ねています。
声の生成AI学習禁止条項に関するよくある質問
最後に、声の生成AIへの学習禁止条項に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
声の生成AI学習禁止条項を設けたら絶対に声をAIに入力されない?
声の生成AIへの学習禁止条項を設けたからといって、絶対に声がAIに入力されないとは言い切れません。契約の相手方が契約条項に反して声を生成AIに学習させる可能性があるほか、一般の視聴者が生成AIに声を入力することまでを制限するのは難しいためです。
声の生成AI学習禁止条項に違反した場合の賠償金はどのくらい?
契約の相手方が生成AIへの声の学習禁止条項に違反したとしても、これによる賠償額を適正に算定することは容易ではありません。そのため、声の生成AI学習禁止条項と合わせて、これに違反した場合の損害賠償の予定額についても契約書に定めておくとよいでしょう。
まとめ
声の生成AIへの学習禁止条項について解説しました。業務委託契約などに伴い声を提供するにあたって、相手方に提供した声を生成AIに入力してほしくない場合には、契約書に声の生成AIへの学習禁止条項を設けることが検討できます。
生成AIへの学習禁止条項を設けることで、相手方に提供した声が生成AIに入力される事態の抑止力となります。また、生成AIに入力された声を用いて出力した声(のようなもの)が公表に至っていなかったとしても、契約書の内容に従って契約解除や損害賠償請求などの措置を講じることが可能となるでしょう。
ただし、声の生成AIへの学習禁止条項は万能ではありません。そのため、「条項を設けたから安心だ」と考えるのではなく、声を提供する際は契約書に生成AIへの声の学習禁止条項を設けることを検討したうえで、万が一声の権利が侵害された場合には早期に弁護士に相談したうえで法的措置を講じることをおすすめします。
伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声の権利保護について積極的に取り組んでいます。声の権利保護をはかりたい際や契約書に声の生成AIへの学習禁止条項を設けたいとお考えの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。



