契約書は、当事者間にとって法律に上乗せされた約束事となるものです。「言った・言わない」などのトラブルを避けるためにも、重要な局面ではきちんと契約書を交わしておくべきでしょう。

なかでも、芸能事務所がタレントを所属させるにあたっては、契約書が必須といえます。

では、芸能事務所がタレントと交わす契約書では、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?また、契約書の作成にあたって弁護士にサポートを依頼することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?

今回は、芸能事務所がタレントと交わす契約の概要や契約書に記載すべき条項、契約書の作成を弁護士に依頼するメリットなどについてくわしく解説します。

なお、伊藤海法律事務所は芸能・エンタメ法務に特化しており、芸能事務所様からも多くのご相談・ご依頼をいただいています。契約書の作成についても相談できる弁護士をお探しの芸能事務所様は、伊藤海法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

芸能事務所とタレントとの2つの契約形態

芸能事務所とタレントには、主に2つの契約形態があります。はじめに、2つの契約形態について概要を解説します。

  • マネジメント契約
  • エージェント契約

マネジメント契約

1つ目は、マネジメント契約です。タレントやアーティスト、モデル、声優など(以下、「タレント等」といいます)が「事務所に所属する」という場合、一般的にはこのマネジメント契約を指すことが多いでしょう。

マネジメント契約とは、タレント等が芸能事務所にマネジメントを一任し、タレント等が芸能事務所から報酬を受け取る契約です。

芸能事務所は、タレント等のプロデュースやスケジュール管理、営業活動など、芸能活動の必要なバックヤード業務の一切を担います。手厚い育成やマネジメントを行う反面、専属とすることが多く、タレント等が芸能事務所を通さずに仕事を得ることを禁止する規定を置くことが一般的です。

また、タレント等が受け取る報酬の形態はさまざまであり、次のものなどが挙げられます。

  • 定額制:タレント等が受けた仕事量に関わらず、毎月定額を支払う形態
  • 定額+歩合制:一定の定額報酬に加え、タレント等が受けた仕事に応じた歩合報酬を支払う形態
  • 完全歩合制:タレント等が受けた仕事に応じた歩合報酬を支払う形態

詳細な契約内容は事務所などによって異なるため、契約書を作成する際は実態に即した内容とすることがポイントです。

エージェント契約

エージェント契約とは、芸能事務所がタレント等が仕事を得るための営業活動と報酬交渉のみを行う契約です。マネジメント契約とは異なり、育成やスケジュール管理などのマネジメントは行いません。

報酬は、事務所が獲得した仕事を一定割合で分け合うことが一般的であり、マネジメント契約と比較して事務所の取り分は少なくなります。

一方で、タレント等が事務所を通さず、自身で仕事を獲得するのも自由です。タレント等の自由度が高い反面、自己責任の側面が強い形態であるといえるでしょう。

吉本興行でのいわゆる「闇営業問題」で話題となったことを受け、エージェント契約は近年増加しています。

芸能事務所とタレントと交わす契約書作成の大前提

芸能事務所がタレント等と交わす「マネジメント契約」や「エージェント契約」は、いずれも民法の典型契約ではありません。典型契約とは、「売買契約」や「請負契約」など、民法に規定されている契約形態のことです。

典型契約の場合には、基本の取り扱いが民法で定められているため、契約に記載がない事項については民法に立ち返って確認することができます。たとえば、請負契約については「報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。」との規定があります(民法633条)。

つまり、その契約が請負契約なのであれば、報酬の支払い時期についてたとえ契約書で明確とされていなくても、「仕事の目的物の引渡しと同時」に行うことは明白であるということです。

一方で、マネジメント契約やエージェント契約は典型契約ではなく、民法の個々の契約形態に当てはめて解決をはかることはできません。そうであるからこそ、トラブルとなりそうな項目については契約書で明確に定め、齟齬が生じないよう手当てしておく必要があります。

伊藤海法律事務所は芸能・エンタメ法務に特化しており、芸能事務所からの契約書にまつわるご相談についても多くのサポート実績があります。契約書の作成でお困りの芸能事務所様は、伊藤海法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

芸能事務所がタレントと交わすマネジメント契約書の主な条項とポイント

芸能事務所がタレントと契約書を交わす際は、どのような条項を盛り込めばよいのでしょうか?ここでは、マネジメント契約を前提に契約書の主な条項とポイントを解説します。

  • 契約の目的
  • 専属・非専属の別
  • 報酬
  • 経費負担
  • 知的財産権の帰属
  • タレント側の禁止事項
  • 損害賠償
  • 契約期間と更新方法

契約の目的

マネジメント契約書では、はじめに契約の目的を記載します。たとえば、「〇〇〇〇(タレント等)は当プロダクションに所属し、芸能活動に関するマネジメント一切を当プロダクションに委託します」などの内容が想定されます。

なお、「芸能活動」全般ではなく、「録音・録画活動、著作物創作活動」など、活動範囲を限定することもあります。また、カッコ書きで「成人コンテンツへの出演を除く」などとして、芸能活動の範囲を定める場合もあります。

専属・非専属の別

マネジメント契約書では、タレント等の専属・非専属の別を定めます。専属である場合には、他の芸能事務所と重ねて契約することや、タレント等が芸能事務所を通さずに自ら仕事を得ることを禁止する規定を設けます。

報酬

マネジメント契約書では、報酬について明確に定めます。先ほど解説したように、タレント等の報酬形態には主に「定額制」「定額+歩合制」「完全歩合制」の3種類があります。これらのいずれであるかを明記したうえで、具体的な計算方法を記載しましょう。

特に、「定額+歩合制」や「完全歩合制」の場合には、歩合の算定元となる金額の範囲についても齟齬が生じないよう、明確に記載してください。併せて、計算期間と支払い時期(いつからいつまでの分を、いつ支払うか)についても記載します。

経費負担

タレント等の活動にあたっては、さまざまな経費が生じます。たとえば、移動費や宿泊費、衣装・メイク代などです。

契約書では、これらを芸能事務所とタレント等のいずれが負担するのか明記しておきましょう。活動経費のすべてを芸能事務所側が負担する場合もある一方で、一部の経費をタレント等の負担とする場合もあります。

知的財産権の帰属

タレント等の活動に伴い、著作権などさまざまな知的財産権が発生します。マネジメント契約書では、活動に伴って発生する知的財産権の取り扱いについて定めておきましょう。

円滑な二次利用を図るため、著作権などの権利については二次的利用権も含め、すべて芸能事務所に帰属する内容とすることが多いでしょう。

また、タレント等の活動名(芸名やグループ名)について、芸能事務所が商標出願をすることも検討できます。この場合には、出願にあたってタレント等との間でトラブルに発展しないよう、事務所が商標出願をすることについて契約書で同意を得ておくとスムーズです。

タレント側の禁止事項

マネジメント契約書では、タレント等の禁止事項を定めます。明確に禁止事項を定めておくことで、違反した場合の対応がスムーズとなるためです。

禁止事項としては、たとえば反社会的勢力と関わりを持つことや社会的信用を失墜させる行為などが検討できます。

損害賠償

タレント等の契約違反に備え、損害賠償について定めます。損害賠償の予定額を定めておくことで、トラブル発生時の対応がスムーズとなります。

ただし、法外な損害賠償の予定額を定めた場合には無効とされるおそれもあるため、的確な内容とするようご注意ください。また、民法の規定と比較して、損害賠償の範囲を広げる規定を設けることも検討できます。

契約期間と更新方法

マネジメント契約書では、契約期間について定めます。

契約期間は、1年から3年程度の期間とすることが多いでしょう。あまりに長期とすると、その間にタレント等が大成するなどして、現在の契約内容がそぐわなくなる可能性もあります。

また、3年を超える期間を定めた場合、契約の形態によっては労働基準法上問題視されるおそれもあります。

併せて、更新方法についても定めましょう。タレント等の状況が変わる可能性もあることから、必ずしも同じ内容で更新するのではなく、状況に応じて内容を見直せる旨の規定を盛り込んでおくことをおすすめします。

芸能事務所が契約書作成を弁護士に依頼するメリット

契約書は、インターネットで検索するなどすれば、ひな型が簡単に見つかります。これをそのまま流用すれば、ある程度見栄えのよい契約書は作成できるかもしれません。しかし、契約書の作成は、弁護士へ依頼して行うことをおすすめします。ここでは、芸能事務所が契約書の作成を弁護士に依頼する主なメリットを4つ解説します。

  • 実態に即した的確な契約書が作成できる
  • 手間や時間が削減できる
  • 自社に有利な契約書が作成しやすい
  • トラブル発生時もスムーズな対応が可能となる

実態に即した的確な契約書が作成できる

1つ目は、実態に即した的確な契約書が作成できることです。

弁護士は取引の実態やクライアントが重視する事項に応じ、的確な契約書を作成します。これにより、実態に即した的確な契約書の作成が実現でき、契約内容の齟齬によりトラブルが生じる事態を防ぎやすくなります。

手間や時間が削減できる

2つ目は、手間や時間を削減できることです。

ひな型をそのまま使うのではなく、これを取引実態に合うように作り変えることは、契約書作成手法の一つです。しかし、これを的確に行うには法令についての正しい理解が必要であるほか、契約条項相互の関連性を正確に把握しなければなりません。

ある条項を改訂したにもかかわらず、その条項の規定を前提とする他の条項について修正が漏れてしまうと、全体の整合性が取れなくなってしまうでしょう。これらの整合性を確認し、また法律の強行規定などに反しないことなどを確認するだけでも、多大な手間と時間を要します。

弁護士に依頼する場合、これらの手間と時間を大きく削減することが可能となります。

自社に有利な契約書が作成しやすい

3つ目は、自社に有利な契約書が作成しやすくなることです。

契約書の「最適解」は、1つではありません。芸能事務所側であるか事務所に所属するタレント等の側であるのかによって、望ましい条項は異なるということです。

しかし、テンプレートではこの点について考慮されておらず、原則として中立な内容となっています。また、自社に有利な内容に作り替えることも容易ではないでしょう。

バランスを欠き極端に自社側に有利な内容としてしまうと、SNSなどでの「炎上」の原因となるおそれもあります。

弁護士に依頼する場合は、全体のバランスも考慮しつつ、自社に有利な契約書を作成しやすくなります。

トラブル発生時もスムーズな対応が可能となる

4つ目は、トラブル発生時にもスムーズな対応が可能となることです。

弁護士は紛争解決の専門家であり、トラブルが発生してからご相談をいただくことも少なくありません。契約書に解決にあたって望ましい条項が入っておらず、臨んだ解決が困難となるケースにもしばしば遭遇します。

契約書の作成をサポートする際は、トラブルの解決から「逆算」することで、スムーズかつ有利な解決をはかるために望ましい条項を盛り込むことが可能です。また、契約書の作成段階から弁護士のサポートを受けておくことで弁護士が契約内容を把握できるため、トラブル発生時の相談もスムーズとなるでしょう。

芸能事務所の契約書作成は伊藤海法律事務所にお任せください

芸能事務所の契約書作成は、伊藤海法律事務所へご相談ください。最後に、伊藤海法律事務所の主な特長を4つ紹介します。

  • 芸能・エンタメ法務に特化しておりサポート実績が豊富である
  • 代表は弁護士のほか弁理士資格も有している
  • 相手方との契約交渉も任せられる
  • 必要に応じて法務部チャットへの参加が可能である

芸能・エンタメ法務に特化しておりサポート実績が豊富である

伊藤海法律事務所は芸能・エンタメ法務に特化しており、これらの業界に従事するクライアント様からのご相談実績も豊富です。

芸能業界の特殊性や取引慣習などを熟知しているため、ご相談にあたって業界独自の事情などを1からご説明いただく必要はありません。

また、業界に関連した判例や裁判例、トラブル事例などに常にアンテナを張っています。そのため、これらを活かした的確かつより実践的なリーガルサポートが可能です。

代表は弁護士のほか弁理士資格も有している

先ほど解説したように、芸能事務所では知的財産権の処理が必要となる場面も多いでしょう。知的財産権を適切に処理しておかなければ、トラブルの原因となりかねません。

伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほか弁理士資格も有しています。弁理士は、知的財産を専門とする国家資格者です。

そのため、知的財産権の保護や処理についても、的確なサポートが可能です。

相手方との契約交渉も任せられる

伊藤海法律事務所へは、必要に応じて相手方との契約交渉をお任せいただくことも可能です。

芸能事務所はさまざまな相手と契約を締結する機会が多く、なかには契約交渉に手慣れた相手もいることでしょう。そのような場に丸腰で臨むと、十分に理解できないままに不利な契約を飲まされる事態ともなりかねません。

弁護士が契約の場に同席したり契約交渉を代理したりすることで、このような事態を避けやすくなります。

必要に応じて法務部チャットへの参加が可能である

伊藤海法律事務所では、一定の顧問契約を締結いただいた場合、法務部のチャットへ弁護士を追加いただける態勢をとっています。

また、LINEやChatwork、Slackなどを用いたコンタクトも可能です。これにより、問題の発生状況を弁護士が状況をタイムリーに確認できるほか、スピーディーな対応を実現しています。

まとめ

芸能事務所が所属タレント等と締結する契約書の概要やポイント、作成にあたって弁護士に依頼するメリットなどを解説しました。

芸能事務所がタレント等を所属させるにあたっては、契約書を交わしておくべきです。マネジメント契約やエージェント契約は民法上の典型契約ではなく、契約に定めのない事項について民法に立ち返ることは困難であるためです。

契約書の作成にあたっては、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。弁護士に依頼することで実態に即した的確な契約書の作成が可能となるほか、トラブル発生時にも有利かつスムーズな対応がしやすくなるためです。

伊藤海法律事務所は芸能・エンタメ法務に特化しており、芸能事務所様からのご相談実績も豊富です。トラブル予防に寄与する的確な契約書の作成をご希望の芸能事務所様は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください。