新たな組織形態である「DAO」が、注目を集めています。DAOの仕組みを活用することで、これまで実現できなかった組織が実現できるかもしれません。

DAOはどのような特徴を持つどのような組織なのでしょうか?また、日本においてDAOを組成することはできるのでしょうか?

今回は、DAOの特徴や組成の可否などについて弁護士がくわしく解説します。

DAOとは

DAO(ダオ)は「Decentralized Autonomous Organization」の略称であり、日本語に直訳すると「分散型自律組織」や「自律分散型組織」となります。

DAOは「ガバナンストークン」と呼ばれる運営や意思決定に参加する権利を用いて運営され、特定の管理者や所有者が不在である点が大きな特徴です。また、不正や改ざんを防ぐため、ブロックチェーン技術が用いられます。

代表的なDAOは、ビットコイン(Bitcoin)です。ビットコインは開発者の氏名のようなものは公表されているものの、ビットコインの運営会社や運営会社の社長名などは聞いたことがないでしょう。

それもそのはずで、そもそもビットコインには運営会社がありません。このように、DAOは従来の会社形態とは大きく異なる組織形態です。

DAOの主な特徴

DAOには、従来の会社組織とは異なる多くの特徴があります。主な特徴として5つ解説します。

  • 中央管理者が不在であること
  • 構成員に流動性があること
  • 組織運営が自動化されていること
  • ガバナンストークンの投票によって意思決定がされること
  • トークンの発行によって資金調達を行うこと

中央管理者が不在であること

従来の会社組織や法人組織には「代表取締役」や「理事長」などの代表社が存在し、そこから役職などに応じ指揮命令系統があることが一般的です。そのため、図式化するとピラミッドのような形状となります。

一方、DAOには中央管理者や代表者が存在しません。また、構成員同士の上下関係もなく、指揮命令系統などもありません。

そのため、DAOを図式化すると、中央には「提案」や「意思決定」があり、これに個々の構成員が直接コミットしている形となります。

構成員に流動性があること

会社が新たに従業員を雇用するには、雇用契約を締結するなど所定の手続きが必要です。

一方、DAOの構成員は流動的であり、誰でも自由に参加することができます。また、DAOから離脱することも個々の構成員の自由です。この点においては、上場会社の株主のような存在であるともいえます。

組織運営が自動化されていること

DAOの運営は、ブロックチェーン上のスマートコントラクトに基づいて、自動的に執行されます。スマートコントラクトとは、ブロックチェーンに組み込まれたプログラムであり、あらかじめ設定された条件を満たした場合に取引が発動されるものです。

DAOでは、このスマートコントラクトのソースコードが公開されており、このソースコードを見ることで誰でも組織運営のルールを知ることができます。

なお、実際にDAOを組成し運用していくにあたっては、次の点が問題となる可能性があります。

  1. スマートコントラクトの条件を誰が決めるのか
  2. DAOの組成後に発生するすべての問題を想定したうえでスマートコントラクトを設定することは現実的に可能なのか

一方、一般的な会社組織の運営は取締役会で決議されたり、代表取締役に一任されたりしていることが一般的です。そして、これらの意思決定はブラックボックス化されており、外部には公表されていないことが少なくありません。

ガバナンストークンの投票によって意思決定がされること

DAOにおける重要な意思決定は、インターネット上での「ガバナンストークン」の投票で決まります。ガバナンストークンとは運営や意思決定に参加する権利であり、組織への貢献度の高い構成員に優先的に割り振られることが一般的です。

一方、株式会社においては、重要な意思決定は株主総会で行われます。

トークンの発行によって資金調達を行うこと

会社組織では、株式を発行したり金融機関から借り入れをしたりすることで資金調達を行います。一方、DAOではガバナンストークンなどのトークンを有償で発行すること(トークンセールス)によって資金調達を行うのが一般的です。

この点で、トークンは株式会社の株式に似たものであると整理できます。

日本の法律でDAOは組成できるか

ここまでで解説したように、DAOは従来の会社組織とは大きく異なる存在です。では、現在の日本の法律において、DAOを組成することはできるのでしょうか?

そもそもの前提として、DAOは「株式会社」や「一般社団法人」などの法人形態と並んで新たに誕生した法人形態ということではありません。日本では法人法定主義がとられており、DAO自体に独立した法人格を与えることは不可能です。

つまり、日本においてはDAO自体が財産の所有者となったり、権利や義務の主体となったりすることはできません。そのため、法人登記を管轄する法務局に出向いて「DAOを設立したい」と相談しても、門前払いされてしまうでしょう。

そこで、DAOを組成するには何らかの受け皿となる存在(後ほど解説する、「合同会社」や「民法上の組合」など)が必要となります。その意味では、日本では「純粋なDAO」の組成は難しいといわざるを得ません。

また、日本においては現在、DAOを正面から定義した法令はありません。そのため、日本においてDAOの性質を持った組織を組成する際は、そのDAOで行いたいことをどのように実現するのか、またそれは既存の法令に違反するものでないかなどを1つずつ検討していくこととなります。

これらを踏まえると、何らかの組織を組成する際に「株式会社にしようか、DAOにしようか」を検討するのは、検討のスタート地点がズレているといえます。そうではなく、まずDAOで実現したいことを十分に検討したうえで、その「内容」が日本法において実現できるのか、その内容を実現するには受け皿としてどの法人・団体制度を選択するのかを検討していくこととなります。

日本の法律でDAOの受け皿となり得る法人・団体制度

先ほど解説したように、日本の法律ではDAOに直接法人格を与えることはできません。そのため、DAO「的な」仕組みの組織を作るためには、受け皿となる法人や団体が必要となります。

では、日本においてDAOの受け皿とするには、どの法人や団体制度が適しているでしょうか?ここでは、主に考えられる法人や団体制度と、それぞれの概要について解説します。

なお、どの制度が最適ということではなく、それぞれにDAOの受け皿として適した面と適さない面があります。そのため、実際はそれぞれのメリットデメリットを踏まえつつ、その「DAO(的な仕組み)で行いたいこと」の実現にもっとも適した法人や団体制度を選択することとなります。

合同会社

1つ目の選択肢は、合同会社です。

合同会社の概要

合同会社は、会社法で認められている法人形態の1つであり、出資者と経営者が一致する会社形態です。

合同会社とよく比較される株式会社では出資者(株主)と経営者が結果的に一致する場合もあるものの、上場会社などをイメージするとわかるように、出資者と経営者は一致しないことが原則とされています。

日本における合同会社はこの点以外では株式会社と非常に類似しており、諸外国のようにパススルー課税(法人には課税されず、構成員である個人に対して課税される制度)は導入されていません。

DAOの受け皿を合同会社とするメリット

合同会社は法人であり、合同会社の名義で財産を所有することができます。そのため、DAO名義で財産を所有したい場合は、合同会社が有力な選択肢となります。

また、合同会社の構成員(「社員」といいます)は有限責任であり、自らの出資額以上に責任を負わない点もメリットです。

さらに、合同会社は定款に別段の定めを置くことで社員の脱退(社員権の譲渡)において他の社員の同意を不要とする制度設計も可能であり、この点においても柔軟な制度設計がしやすいといえます(会社法585条1項、4項)。

DAOの受け皿を合同会社とするデメリット

合同会社をDAOの受け皿とする最大のデメリットは、「社員の氏名又は名称及び住所」が定款の絶対的記載事項(必ず記載しないといけない事項)とされていることです(同567条1項4号)。

ビットコインに代表されるWeb3への参加者は匿名での参加を希望することが多く、その点で、定款に氏名などが掲載される事と相いれない可能性が高いでしょう。また、社員が入退社をするたびに定款の変更手続きが必要となり、この点も構成員が流動的であるとのDAOの特徴を阻害する要因となります。

民法上の組合

2つ目の選択肢は、民法上の組合です。

民法上の組合の概要

民法上の組合とは民法667条の規定に基づいて組成される組合です。大規模な工事を施工するにあたり、複数の建設会社が資金を出し合って組成する「JV(ジョイントベンチャー)」が代表例です。

組成にあたって登記を受ける必要はなく、法人格があるわけではありません。組合の運営は、組合員の過半数を持って決定し、各組合員がこれを執行することが原則とされています(民法670条1項)。

DAOの受け皿を民法上の組合とするメリット

民法上の組合には法人格がなく、団体に対して課税されません。そのため、団体が受けた利益を各構成員に分配する際に二重課税が生じない点がメリットです。

また、組合員となる構成員の加入は組合契約上の規定で定めることができるほか脱退も原則として自由であり、流動性の高い組織形態としやすいといえます。

さらに、組合契約によってトークンの保有数の過半数で運営に関する決定を行う設計をすることも可能であると考えられ、この点もDAOの受け皿として適しているといえるでしょう。

DAOの受け皿を民法上の組合とするデメリット

民法上の組合の最大のデメリットは、構成員に無限責任が生じる点です。つまり、組合が債務を負った場合、その構成員である組合員が出資の範囲を超えて責任を負う可能性があるということです。

また、民法上の組合は法人格がないため、組合として契約を締結したい場合であっても、契約の主体は組合員である個人となります。この点でも、運営上の不便が生じる可能性が否定できません。

権利能力なき社団

3つ目の選択肢は、権利能力なき社団です。

権利能力なき社団の概要

権利能力なき社団とは、判例によって個人とは異なる取り扱いが認められてきた団体制度です。同窓会や町内会、ボランティア団体などで活用されることが多いといえます。

DAOの受け皿を権利能力なき社団とするメリット

権利能力なき社団には法令による根拠がないため、規則の設計によってある程度自由に設計することが可能です。そのため、ガバナンストークンの保有量に応じて意思決定を行うとの運営もしやすいものと考えられます。

また、一定の要件に該当する場合、構成員は団体の負債について責任を負いません。この点で、民法上の組合と大きく異なっています。さらに、法人格がないものの、組合名義で訴訟を行うことも可能であると解されています。

DAOの受け皿を権利能力なき社団とするデメリット

権利能力なき社団の最大のデメリットは、法令による明文の規定がないことです。そのため、内部規則の内容や運営実態などによっては先ほど紹介をした民法上の組合であると解され、構成員が団体の債務について予期せず無限責任を負うリスクがゼロではありません。

また、権利能力なき社団の課税関係は税務当局による認定の有無によって変動し、この点でも不安定であるといえます。そのため、権利能力なき社団をDAOの受け皿とする際は、民法上の組合と捉えられないよう内部規則などを慎重に検討することが必要です。

DAOの組成や運営について弁護士へ相談するメリット

DAOの組成や運営についてお困りの際は、弁護士へ相談することをおすすめします。最後に、DAOについて弁護士へ相談する主なメリットを解説します。

  • 状況に応じた最適な組織形態についてアドバイスが受けられる
  • 個別具体的な組織運営についてアドバイスが受けられる
  • トラブル発生時の対応がスムーズになる

状況に応じた最適な組織形態についてアドバイスが受けられる

先ほど解説をしたように、日本ではDAOそのものに法人格を付与することはできないのが現状です。そのため、合同会社や民法上の組合などを受け皿として、DAO(的な)仕組みを構築することとなります。

しかし、DAOの受け皿としてどの法人や団体制度を活用すべきか判断に迷うことも多いでしょう。また、どの形態が最適であるかは、DAOの組成を検討している目的や状況などによってさまざまです。

DAOなどWeb3に関連する法令に強い弁護士へ相談することで、状況に応じた最適な組織形態についてアドバイスを受けることが可能となります。

個別具体的な組織運営についてアドバイスが受けられる

DAOについては法規制が追いついておらず、運営にあたっては法令に違反していないことを1つ1つ手探りで確認していくほかありません。法令違反があればその時点で計画が破綻してしまうリスクがあり、組織運営などについて慎重に検討することが不可欠です。

弁護士へ相談することで、個別具体的な組織運営についてアドバイスを受けることが可能となります。ただし、弁護士であってもDAOへの理解度合いはさまざまであり、DAOについて知識のある弁護士を選んで相談することが必要です。

トラブル発生時の対応がスムーズになる

DAOはまだ新しい仕組みであり、関連する判例が蓄積しているとはいえません。そのため、いざトラブルが発生した際の対応が困難となるおそれがあります。

そのような中、DAOに関する知見を持った弁護士へ相談することで、解決の糸口が見つけやすくなります。

まとめ

DAOとは本来、中央管理者がおらず、運営が自動化されて構成員の流動性が高い組織形態を指します。しかし、日本ではDAOについて固有の法人や団体制度が確立されておらず、合同会社や組合など既存の制度を活用するほかありません。

DAOについては現状で法律上の取り扱いが不明瞭な部分も多く、組成して運営していくにあたっては弁護士とともに組織形態や運営方法などを1つ1つ検討していくことが必要です。

伊藤海法律事務所はDAOなどWeb3に関するリーガルサポートに力を入れています。DAOの組成をご検討の際や運営についてお悩みの際は、伊藤海弁護士事務所までお気軽にご相談ください。