YouTubeへの投稿は誰でも手軽にできる一方で、法律を知らないと法律違反の動画を投稿してしまい、これが拡散されるリスクがあります。YouTuberが法律違反をしてしまうと刑罰や損害賠償請求の対象となる可能性があるほか、SNSなどで「炎上」し、ファンが離れるリスクもあります。
事務所に所属している場合は、そのYouTuberにPRを依頼してくれていた企業から事務所に対して違約金を請求されたり、事務所自体の信頼が失墜したりする可能性も否定できません。
では、YouTuberが特に知っておくべき法律には、どのようなものがあるのでしょうか?今回は、数多ある法律の中からYouTuberやその所属事務所が知っておくべき法律を、弁護士がピックアップして詳しく解説します。
YouTuberビジネスで注意すべき法律1:民法
YouTuberがビジネスで知っておくべき法律の1つ目は、民法です。
民法とは
民法は、社会生活や契約の基本となるルールが定められている法律です。そのため、YouTuberに限らず、すべての人がある程度理解しておかなければなりません。
たとえば、契約した内容を約束どおりに履行しなければ、「債務不履行」として損害賠償請求の対象となりますが、これは民法に規定されています。未成年者が有効に法律行為をするには法定代理人(親権者)の同意が必要ですが、このようなことも民法が根拠です。
他の法令や当事者間の契約によって民法の規定が修正されていることもあるものの、これらに規定がない場合、拠りどころとなる法律は民法です。つまり、たとえば損害賠償請求などについて「契約書に記載がないから、たとえ契約違反をしても損害賠償請求されない」というのは誤りであり、契約書などに規定がないのであれば民法の規定によって損害賠償請求をされることとなるわけです。
そのため、たとえすべての理解が難しくても、民法についてはある程度理解しておくことが必要です。
事務所とYouTuberとの契約にも民法が適用される
YouTuberが事務所に所属する場合、事務所とYouTuberとの間で契約を締結します。この契約も民法の適用対象です。そのため、事務所としてはマネジメントの視点のみならず、自社の身を守るためにも民法に関する理解が欠かせません。
YouTuberビジネスで注意すべき法律2:著作権法
YouTuberが知っておくべき法律の2つ目は、著作権法です。
著作権法とは
著作権法とは、著作権を保護するために設けられている法律です。著作者などの権利の保護を図り、これによって文化の発展に寄与することを目的としています’(著作権法1条)。
YouTubeに動画を投稿する際は、動画で他者の著作権を侵害しないよう注意しなければなりません。
著作権の対象となるもの
著作権の対象となる「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です(同2条1項1号)。
著作権の対象範囲は非常に広く、いわゆるプロが制作した映画やアニメ、漫画、小説、絵画、写真、音楽が著作権の対象となることはもちろん、「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当する限り、次のものなども著作権の対象です。
- 幼児が描いた絵
- 一般個人が制作したイラスト
- 一般個人が撮影してSNSに投稿した写真
- 企業のブログ記事
著作権の保護を受けるために登録などは不要であり、創作した時点から著作権の保護対象となります。また、制作者がSNSなどに投稿したからといって、これをもって著作権を放棄したわけではありません。
そのため、次の行為を許可なく行った場合、他者の著作権を侵害する可能性が高いといえます。
- テレビ画面をスマートフォンで撮影し、これをYouTubeにアップロードする
- 市販されているCDをBGMとして流した動画をアップロードする
- SNSに投稿されていた一般ユーザーが描いたイラストが気に入ったので、これを自分のアイコンに設定する
- いわゆる「ファスト映画(映画を短く編集した動画)」をアップロードする
- 著名な曲を替え歌し、これを歌った動画をアップロードする
一方、YouTubeはJASRACと包括契約を締結しているため、JASRACが管理する楽曲を対象とする、替え歌などをしないいわゆる「歌ってみた」動画や、編曲などをしない「演奏してみた」動画は、原則として著作権侵害とはなりません。ただし、JASRAC管理の楽曲であってもCDはCD制作者(レコード会社など)の権利が関係するため、レコード会社の許可を得ない限り著作権侵害となります。
楽曲についてはJASRACのホームページにフローチャートが載っているため、こちらも確認しておくとよいでしょう。
他人の著作権を侵害するとどうなる?
他者の著作権を侵害すると、どのような事態が生じるのでしょうか?ここでは、著作権侵害をした場合に生じる可能性がある事態を3つ解説します。
- 損害賠償請求をされる
- 著作権法上の罪に問われる
- YouTubeアカウントの利用が制限されることがある
損害賠償請求をされる
著作権侵害は、他者が利益を得られたはずの機会を奪っていることとなります。たとえば、CDをそのままYouTubeで流した場合、本来であれば得られたはずのCDの売上金や公式の配信によって得られたはずの対価が減ってしまう事態となりかねません。
そのため、著作権者から損害賠償請求をされる可能性があります。
著作権法上の罪に問われる
著作権侵害には、著作権法によって罰則規定が設けられています。著作権侵害の罰則は、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科です(同119条1項)。
法人がその業務の一環として著作権侵害をした場合は、これとは別途、法人が3億円以下の罰金刑に処される可能性があります(同124条1項1号)。
著作権侵害の刑罰は非常に重いため注意が必要です。
YouTubeアカウントの利用が制限されることがある
他者の著作権を侵害する動画を投稿すると、視聴者や権利者などからYouTubeに対して動画の削除が要請され、動画が削除される可能性が高くなります。YouTubeに著作権侵害を繰り返すアカウントであると判断されると、アカウント自体が停止されたり制限されたりする可能性があります。せっかく育てたアカウントの制限は、YouTuberにとって死活問題となりかねません。
YouTuberビジネスで注意すべき法律3:刑法
YouTuberは、刑法についても知っておくことをおすすめします。
刑法とは
刑法とは、犯罪行為やこれに対する刑罰について定めた法律です。刑法上の罪に問われると逮捕される可能性があるほか、最終的に刑事裁判において罪が確定すると、前科がついたり懲役などの刑罰に処されたりすることとなります。
混同している人も少なくありませんが、「損害賠償請求」や「慰謝料」は民事の世界の話であり、加害者と被害者との間での金銭のやり取りなどによって解決すべきものです。これに対し、「逮捕」や「前科」は刑事の世界の話であり、対国家権力の問題となります。
たとえば、不貞行為をすると配偶者から慰謝料請求をされる可能性がある一方で、逮捕されたり前科が付いたりすることはありません。なぜなら、不貞行為は刑罰の対象とはされていないためです。
一方で、誹謗中傷などのように、慰謝料請求の対象となると同時に、刑法上の罪にも該当し得る行為も存在します。これらを混同しないよう理解しておく必要があるでしょう。
YouTuberが特に知っておくべき刑法上の罪
刑法にはさまざまな罪が定められています。中でもYouTuberが特に知っておくべき刑罰を5つ解説します。動画を投稿する際は、これらにあたらないよう注意しなければなりません。
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
- 脅迫罪
- 信用毀損罪・偽計業務妨害罪
- 威力業務妨害罪
名誉毀損罪
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した者が、その内容が真実であるかどうかにかかわらず成立する罪です(刑法230条1項)。この罪に問われると、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の対象となります。
ただし、公営目的であるなど一定の事項に該当する場合は違法性が阻却され、罪に問われません。
侮辱罪
侮辱罪とは、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合に成立する罪です(刑法231条)。この罪に問われると、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料の対象となります。侮辱罪は名誉毀損罪と異なり、より抽象的な悪口であっても成立する可能性があります。
脅迫罪
脅迫罪とは、相手やその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した場合に成立する罪です(刑法222条)。この罪に問われると、2年以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。
信用毀損罪・偽計業務妨害罪
信用毀損罪や偽計業務妨害罪とは、虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した場合に成立する罪です(刑法233条)。この罪に問われると、3年以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となります。
威力業務妨害罪
威力業務妨害罪とは、威力を用いて人の業務を妨害した場合に成立する罪です(刑法)。この罪に問われると、3年以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となります。
YouTuberビジネスで注意すべき法律4:景品表示法
YouTuberビジネスで知っておくべき法律の4つ目は、不当景品類及び不当表示防止法(通称「景品表示法」、「景表法」)です。
景品表示法とは
景品表示法とは、消費者がよりよい商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守るため、不当な表示や景品の制限を行っている法律です。YouTuberが企業案件を受ける際は、景品表示法や消費者庁の解説ページを一読しておくことをおすすめします。
2023年10月1日からステマが違法となった
景品表示法の改正により、ステマ(ステルスマーケティング)が違法となりました。ステマとは、消費者に広告であることを隠して行う広告のことです。
YouTuberが企業案件でステマをPRであることを表示せずに広告動画を投稿したとしても、これによる直接的な規制対象は広告主であり、YouTuber自身ではありません。しかし、消費者や視聴者はステマについて厳しい姿勢を見せており、広告主が摘発されるなどしてステマであったことが判明すると、YouTuberや所属事務所の信用が失墜してしまいかねません。
また、SNSなどで「炎上」したり、ファンが離れて活動の継続が難しくなったりする可能性が高くなります。そのため、YouTuberやその所属事務所は自身の身を守るためにも、ステマを行わないよう徹底すべきでしょう。
事務所所属のYouTuberが法律違反をしないための対策
事務所所属のYouTuberが法律違反をしてしまうと、事務所としても難しい対応を迫られる事態となりかねないほか、各所に違約金が発生したりイメージが低下したりするなどの実害が生じる可能性もあります。では、事務所所属のYouTuberが法律違反をしないためには、どのような対策を講じればよいでしょうか?
最後に、事務所所属のYouTuberが法律違反をしないための対策を4つ解説します。
- 契約締結時にNG事項をよく説明する
- 定期的にコンプライアンス研修を実施する
- 事務所が定期的に動画の内容やコメントなどに目を通す
- トラブル発生時は早期に弁護士へ相談する
契約締結時にNG事項をよく説明する
1つ目は、YouTuberと締結する事務所への所属契約書に禁止事項を明記したうえで、口頭でも禁止事項を十分に説明することです。
禁止事項は難しいことばで説明するのではなく、具体的に何をしてはいけないのか、またこの禁止事項に違反したらどのようなペナルティが生じるかなどについてかみ砕いて説明するとよいでしょう。
単に「各種法令に違反しない」などの規定や説明だけでは、法令を理解していないYouTuberがうっかり法律違反をしてしまい、事務所を巻き込んだ大きな問題に発展するおそれがあるためです。
定期的にコンプライアンス研修を実施する
2つ目は、所属YouTuberに対し、定期的にコンプライアンス研修を実施することです。所属当初に禁止事項や特に注意すべき法令について説明したとしても、年月の経過とともに遵法意識が低下するリスクがあるためです。
また、法令は改正されることもあります。そのため、所属当初の指導のみならず、定期的にコンプライアンス研修を実施するとよいでしょう。
コンプライアンス研修では特に注意すべき法律などを説明するとともに、最新の違反事例などを紹介すると理解が深まり、またYouTuberが身を引き締めてくれる効果が期待できます。コンプライアンス研修は自社で実施することも一つの手ですが、弁護士など外部の専門家に依頼することも検討するとよいでしょう。
事務所が定期的に動画の内容やコメントなどに目を通す
3つ目は、投稿された動画の内容やコメントなどに事務所が定期的に目を通すことです。
YouTuberが投稿する動画は膨大であり、事務所がすべての動画に目を通すことは現実的でないかもしれません。しかし、完全にYouTuberに任せていると、知らない間に法律違反のリスクが高い動画が投稿され続ける可能性があります。
そのため、たとえすべての動画の確認が難しくても、定期的に投稿内容やコメント欄を確認し、リスクの高いYouTuberには注意を促すことが必要です。
トラブル発生時は早期に弁護士へ相談する
4つ目は、トラブル発生時は早期に弁護士へ相談するよう対応を徹底することです。
法律違反をしてしまった場合、初動が非常に重要となります。初期の対応を誤り、事務所が保身に走ったり対応を先延ばしにしたりしてしまうと「炎上」してしまう可能性が高くなるでしょう。そうなると、そのYouTuberのファンが離れてしまうばかりか、事務所の信用も失墜し企業案件を受けづらくなるかもしれません。
万が一トラブルが発生した際は、早期に弁護士へ相談し適切な対応をとる必要があります。また、トラブル発生時に早期に弁護士に対応してもらうことができるよう、信頼できる事務所と顧問契約を締結しておくようにしてください。
まとめ
YouTuberが知っておくべき法律について解説しました。
法律違反をしてしまうとそのYouTuberが刑罰の対象となるのみならず、事務所が企業案件を受けている企業から違約金を請求されたり、事務所の信用が失墜したりするリスクもあります。
そのため、事務所としては基本的な法律を知ったうえで、定期的に研修をしたりYouTuberが投稿している動画を確認したりして、法律違反を避ける工夫が必要です。研修など法律面での指導は、弁護士に依頼するとよいでしょう。
伊藤海法律事務所ではYouTuberやVTuberなどのリーガルサポートに力を入れています。YouTuberが法律違反をしないための体制を整備したい場合や法律トラブルが生じてお困りの場合、トラブルが生じた際に相談できる弁護士をお探しの場合などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。