YouTuberが知っておくべき「景表法」とは
YouTubeに動画を投稿するにあたって知っておくべき「景表法」は、正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。
景表法の目的は、一般消費者の利益を保護することです。そこで、商品や役務の取引に関連する不当な景品類や表示による顧客の誘引を防止する目的で、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限と禁止について定めています(景表法1条)。
たとえば、ある商品を購入するかどうかや、類似商品のうちどの商品を購入するのかは、消費者がそれぞれの質や価格などを比較して決めるべきものです。
ところが、商品AとBはいずれも「カシミヤ80%のセーター」であるにもかかわらず、商品Aがこれを偽って「カシミヤ100%」と謳って販売されていると、消費者はこれを信じて商品Aを買ってしまうかもしれません。また、ある商品が実際には他社製品と同等の技術を使っているにもかかわらず、「この技術を用いた商品は日本で当社のものだけ」などと謳って販売すれば、消費者はこれを信じてしまう可能性があります。
このように、商品の表示や誘引が不当であれば、消費者がよい商品やサービスを自主的かつ合理的に選ぶことが難しくなってしまうでしょう。そこで、景表法では商品やサービスの品質や内容、価格などを偽って表示することを厳しく規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限しています。
参照元:表示規制の概要(消費者庁)
景表法による2つの規制
景表法の規制について、もう少し詳しく解説します。景表法では、大きく分けて次の2つの事項が規制されています。
- 不当表示の禁止
- 景品類の制限と禁止
それぞれの概要は次のとおりです。
不当表示の禁止
不当表示の禁止とは、次の3つに関する規制です。
- 優良誤認表示:商品・サービスの品質、規格その他の内容についての不当表示
- 有利誤認表示:内容について、事実に相違して競争業者に係るものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示
- その他、消費者から誤認されるおそれのある表示:不動産のいわゆる「おとり広告」や商品の原産国に関する不当表示など
たとえば、カシミヤの混用率が80%程度のセーターに「カシミヤ100%」と表示した場合などは、優良誤認表示に該当します。また、「当選者の100人だけが割安料金で契約できる」旨を表示していたものの、実際には応募者全員を当選として全員に同じ料金で契約させていた場合などは、「有利誤認表示」に該当します。
景品類の制限と禁止
景品類の制限と禁止とは、次の3つの要件を満たす景品等の上限額などを定める規制です。
- 顧客を誘引するための手段であること
- 事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供するものであること
- 物品、金銭その他の経済上の利益であること
YouTuber自身がこの規制に抵触するケースは考えにくいものの、事業者が違反行為をしている場合にPR案件を受けてしまうと、巻き込まれて炎上するリスクがあります。そのため、ある商品やサービスに不相当な高額景品が付けられている場合のPRは、これを受けるかどうか慎重に検討したほうがよいでしょう。
YouTuberが景表法に違反するとどうなる?
YouTuberが景表法の規制に違反することには、どのようなリスクが生じるのでしょうか?ここでは、景表法に違反した場合に生じるリスクを、法令の視点から解説します。
- 消費者庁などから措置命令がなされる
- 罰則が適用される
- 課徴金の対象となる
なお、たとえ法律上の罰則や課徴金などの対象とはならなくても視聴者からの信頼が低下したりSNSなどで「炎上」したりするリスクもあるため、この点にも注意が必要です。
消費者庁などから措置命令がなされる
YouTube活動をする中で景表法の規制に違反すると、消費者庁から「措置命令」がなされます。措置命令とは、次の事項などを消費者庁から命じられることです。
- 不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除
- 再発防止策の実施
- 今後同様の違反行為を行わないこと
なお、措置命令は実際に違反をしている場合だけでなく、違反のおそれがあると判断された場合にも行われることがあります。措置命令がなされたら、その内容には必ず従ってください。
罰則が適用される
措置命令が出されたにもかかわらず、命令に従わず違反を続けた場合は、景表法上の罰則の対象となります。措置命令に従わなかった場合の罰則は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金であり、これらが併科されることもあります(同36条)。
法人の業務に関して違反行為がなされた場合は、法人に対しても3億円以下の罰金刑が課される可能性があります。
課徴金の対象となる
景表法に違反すると、罰則の適用とは別に課徴金の対象となる場合があります。課徴金とは、不正な行為によって得た利益の納付を求めるものです。
景表法など、はたとえ違反をしても「罰則を受けてでも違反をした方が儲かる」と事業者に判断されてしまうと、違反が横行したり事業者が開き直って違反行為を続けたりする可能性があります。そのため、「違反行為によって儲かったお金」の納付を求め、違反を抑止する目的で課徴金制度が設けられています。
景表法違反をした場合の課徴金の額は、課徴金の対象とされた期間(最長3年間)に取引をしたその課徴金対象行為(優良誤認や有利誤認など)によって得た売上額の100分の3となることが原則です(同8条)。ただし、計算結果が150万円未満となるときは、課徴金の納付は命じられません。
YouTuberが行う「ステマ」は違法?
YouTuberが「ステマ」を行った場合、これは違反となるのでしょうか?ここでは、ステマの法規制について解説します。
参照元:令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。(消費者庁)
ステマとは
ステマとは「ステルスマーケティング」の略称であり、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を意味します。
通常、消費者は広告には一定の誇張や誇大が含まれているものと認識しています。そこで、広告された商品を購入する際は、この点を含めて商品やサービスを選んでいることが一般的です。
一方で、友人が実際に使って「これ、よかったよ」とすすめられた商品やサービスの場合、広告のように評価を割り引くことなく、その言葉を信じて商品やサービスの購入を決めることも多いでしょう。この点は、発信者がYouTuberである場合も同様です。
そのYouTuberが企業から依頼を受けてPRをしていることがわかっていれば、この点を差し引いて商品やサービスを購入するかどうか検討することができます。一方で、PRであることを隠して単に「この商品、おすすめです!」などと動画内で紹介されている場合、その言葉を信じて商品の購入を決める可能性が高くなるでしょう。
つまり、企業にとっては広告であることを隠してインフルエンサーに紹介してもらった方が、PRであることを表示する場合と比較して、より多くの消費者に商品やサービスを買ってもらえる可能性が高くなるということです。
2023年10月1日からステマが違法となった
企業にとってはステマである方が「儲かる」可能性があるのに対し、ステマ行為では消費者が不利益を被る可能性が高くなります。なぜなら、PRであると知っていれば買わなかった商品やサービスを本当にそのインフルエンサーがおすすめしているものと信じて購入するなど、消費者が自主的かつ合理的に商品やサービスを選ぶ機会が阻害されてしまうためです。
そこで、景表法が改正され、2023年10月1日からステマ行為が違法となりました。ステマ行為が発覚すると信頼失墜や炎上の原因となるため、これまでもステマをしないよう注意していたYouTuberも少なくないでしょう。
しかし、改正後は違法行為であることが明確化されたため、ステマに該当する行為をしてしまうことのないようこれまで以上の注意が必要となります。
ステマとなる事例・ならない事例
YouTubeへの投稿がステマとなる事例とならない事例には、どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、それぞれ代表的なケースを紹介します。実際の案件でステマにあたるかどうか判断に迷う場合には、あらかじめ弁護士へご相談ください。
ステマとなる事例
ステマとなる可能性が高い事例は、次のとおりです。
- 企業から対価を受け取りPRを依頼された商品やサービスの紹介動画について、「PR」である旨を明示せずに公開する場合
- 企業から対価は受取っていないものの商品やサービスを無料で供与され、YouTuberがその企業の意向に沿った動画を撮影し、「PR」である旨を明示せずに公開する場合
ステマとならない事例
ステマとなる可能性が低い事例は、次のとおりです。
- 企業案件や企業から供与された商品やサービスを企業の意向に沿って紹介する動画について、PRであることを明示して公開する場合
- YouTuberに対して企業から無償供与された商品やサービスを、YouTuberが自主的な意思で紹介する場合
- YouTuberが実際に使用して勧めたいと考えた商品やサービスを、YouTuberが自主的に紹介する場合
YouTuberがステマ規制に違反しないためのポイント
YouTubeがステマ規制に違反しないためのポイントは、動画の内容について事業者が少しでも関与する場合は、これはステマではないかと冷静に検討することです。
先ほど解説したように、ステマ行為することで企業は一時的に利益を得られる可能性があることから、YouTuberによい口コミを広めてもらおうと、さまざまな策を講じる事業者も存在します。「対価を払うけど、PRであることを隠して宣伝して」などと直接的に指示されれば断りやすいものの、中にはステマをするよう暗示的に求められることもあるでしょう。
そのため、YouTube活動をする中で企業から接触があったら常に「ステマ」に気を配り、自分の身を守るため、ステマ行為を行わないようご注意ください。
ステマ規制に違反するとどうなる?
YouTuberがステマ規制に違反するとどうなるのでしょうか?
実は、景表法によるステマ規制の対象となるのは事業者のみであり、ステマ行為を依頼されたYouTuberなどには直接的な罰則の適用はありません。しかし、ステマを依頼した企業が摘発されるなどしてステマ行為が明るみに出ると、「ステマをするYouTuber」との印象がついてしまい、ファンが離れる可能性が高くなります。
また、SNSなどで「炎上」するリスクもあるでしょう。ファンが離れてマイナスイメージが付くことは、YouTuberとして死活問題となりかねません。
そのため、ステマ行為は行わないよう注意が必要です。
YouTuberがPR案件を受ける際の注意点
YouTuberが企業からPR案件(いわゆる「企業案件」)を受ける際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、企業案件を受ける際の主な注意点を4つ紹介します。
- 契約内容をよく確認する
- Googleの広告ポリシーを遵守する
- PRであることを明確にする
- 動画を投稿する前に内容を十分に見返す
契約内容をよく確認する
1つ目は、企業との契約内容をよく確認することです。契約内容を十分に理解していないと、うっかり契約違反をしてしまい多額の損害賠償請求がなされるおそれがあります。
たとえば、一定期間中同業他社からのPR案件を受けないことや、一定期間チャンネルのジャンルを変えないこと、YouTube以外のSNSでもPRを発信することなどが盛り込まれていることは少なくありません。
契約書は難解な表現が多く理解が難しい場合もあるかもしれませんが、理解しないまま押印することは絶対に避けてください。自分で読み解くことが難しい場合は、弁護士へ相談してください。
Googleの広告ポリシーを遵守する
2つ目は、Googleの広告ポリシーを遵守することです。
YouTubeの運営社であるGoogleは、広告ポリシーを定めています。広告ポリシーに違反した動画をアップロードするとPR動画が削除されたり、アカウントが停止されたりしてしまうかもしれません。そのような事態となれば、企業から違約金を請求される可能性もあります。
そのような事態を避けるため、PR動画を制作する際はあらかじめGoogleの広告ポリシーを読み込み、理解しておくことが必要です。
参照元:YouTube 広告の要件(Google 広告ポリシー ヘルプ)
PRであることを明確にする
3つ目は、PRである旨を明記することです。
先ほど解説したように、PRである旨を明記しないとステマに該当してしまいます。また、PRであることは動画のどこかで一時的に表示すればよいというものではなく、一般消費者にとって明瞭であるように表示しなければなりません。
たとえば、次の表示は明瞭であるとはいえず、ステマ規制に違反する可能性があります。
- 一般消費者が認識できないほど短い時間だけ行う表示
- 一般消費者にとって分かりにくい場所に行う表示
- 動画をある程度の長さまで見ないとPRであることが分からない表示
- 周囲の文字と比較して小さくした表示
そのため、YouTuberとしては「PRであることをできるだけ隠そう」などの意識は持たず、誰が見てもPR案件であることがわかる明瞭な表示を心がけましょう。
動画を投稿する前に内容を十分に見返す
動画を制作したら、一般公開をする前に十分に内容を見返すようにしてください。たとえ動画に何らかの問題(PRであることが分かりにくい、企業が求めた内容が入っていないなど)があったとしても、事前に見返すことで気付きやすくなるためです。
YouTuberが景表法に違反していると指摘されたらどうする?
YouTuberが活動をする中で景表法に違反していると指摘されたら、どのように対応すればよいのでしょうか?最後に、景表法違反が疑われた際の初期対応を解説します。
- 事務所に所属している場合は事務所に相談する
- 弁護士へ相談する
事務所に所属している場合は事務所に相談する
YouTuberが事務所に所属している場合は、早期に事務所へ相談します。事務所との契約ないようにもよりますが、事務所が景表法違反の有無を確認したり違反時の対応を弁護士へ相談したりするなど、対応してくれる可能性が高いためです。
弁護士へ相談する
YouTuberが事務所に所属していない場合や、所属しているものの契約形態などの事情から事務所が対応してくれない場合は、弁護士へ相談してください。
YouTuberが投稿した動画について問題が生じた場合は、動画を削除するだけで対応できることも多いでしょう。しかし、景表法違反やステマを疑われた場合は、紹介した商品やサービスの販売元や、企業案件であればその企業とのすり合わせが必要となる可能性が高く、動画を消すだけでは不十分であることも少なくないためです。
まずは弁護士へ相談したうえで、その後の具体的な対応を検討することが必要となります。相談後の対応は、動画が実際に景表法などの規制に違反しているかどうかによって、ケースバイケースです。たとえば、次のような対応を検討できます。
- 実際には景表法などの規制に違反していない場合:そのまま動画を公開し続ける、違反はしていないものの紛らわしい場合はその旨を謝罪して動画を削除するなど
- 実際に景表法などへの違反がある場合:動画を削除したうえで関係各所と相談し謝罪文を公表するなど
特に、実際に景表法などへの違反がある場合は、初期の対応がカギとなります。初期対応を誤って保身や隠ぺいを疑われると、SNSで「炎上」するなどして問題が大きくなるおそれが生じるためです。そのため、無理に自分で対応しようとせず、できるだけ早期に弁護士へご相談ください。
まとめ
YouTuberが活動する中で商品やサービスを紹介する際は、景表法やステマ規制に違反しないよう十分に注意しなければなりません。違反をすると罰則が適用される可能性があるほか、信用が失墜したり炎上したりするリスクも生じます。
投稿した動画について景表法違反やステマが疑われた場合は、弁護士へ早期にご相談ください。弁護士へ相談することで違反しているかどうかを確認することが可能となるほか、状況に応じてその後の適切な対応を検討することが可能となります。
伊藤海法律事務所ではインターネット法務への対応に力を入れており、YouTuberとして活動されている方からのご相談も数多くお受けしています。景表法違反やステマ違反を疑われてお困りの際や、自身の活動が景表法やステマ規制に違反しないか確認したい場合などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。