YouTubeに動画を投稿し、一定の収益化要件を満たして手続きをすると、動画の再生数などに応じて広告収入が得られます。YouTuberとして大きな収益を上げられる人は一握りである一方で、スマートフォンさえあれば手軽に始められることから、YouTuberビジネスを始める人は少なくありません。
しかし、法律を知らずにYouTubeビジネスを始めてしまうと、トラブルの原因となるおそれがあります。今回は、特にYouTuberが知っておくべき注意点として「肖像権」と「著作権」について解説します。
YouTuberが気を付けるべき肖像権とは
YouTubeビジネスをする際は、「肖像権」に注意しなければなりません。肖像権とは、その承諾なしに、みだりにその容ぼうや姿態を撮影されない権利です。
肖像権は法律による明確な根拠はなく、次の憲法13条(幸福追求権)が根拠とされています。
- すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
肖像権は、次の2つの要素から構成されています。
- プライバシー権(人格権):本人が公開されたくない私生活上の情報をみだりに公開されない権利
- パブリシティ権(財産権):芸能人など顧客吸引力のある人が、自身の肖像などが有する顧客吸引力から生じる経済的な利益を排他的に利用する権利
YouTubeが肖像権侵害となるかどうかの判断基準
YouTube用の動画に他者が映っている場合、これが肖像権侵害となるかどうかはどのような基準で判断されるのでしょうか?ここでは、基本的な考え方について解説します。
- 対象者の特定が可能か
- 動画が公開されているか
- 対象者が動画のメインとなっているか
- 撮影場所は公共の場所であるか
- 対象者の許可を得ているか
対象者の特定が可能か
1つ目の基準は、対象者の特定が可能であるかどうかです。YouTubeで公開した動画に他者が映り込んでいたとしても、小さく映り込んでいるのみであり人物の特定が難しい場合は肖像権侵害となる可能性は低いでしょう。
動画が公開されているか
2つ目の基準は、動画が公開されているかどうかです。他者が映った動画を撮影したとしても、これを公開しなければ原則として肖像権侵害とはなりません。
対象者が動画のメインとなっているか
3つ目の基準は、対象人物が動画のメインとなっているかどうかです。たとえ顔が判別できる程度に映っていたとしても単に通行人などとして映り込んでいるだけであり、その人物がメインとなった動画でなければ、肖像権侵害となる可能性は低くなります。
撮影場所は公共の場所であるか
4つ目の基準は、撮影場所が公共の場所であるかどうかです。一つ前でも解説したように、動画に単に通行人が映り込んでいるのみであれば、原則として肖像権侵害の可能性は低くなります。
一方で、動画が撮影されたのがラブホテルの前や風俗街などであれば、相手がその場所にいたこと自体を知られたくないと考えている可能性が高く、肖像権の侵害に当たる可能性があります。
対象者の許可を得ているか
5つ目の基準は、対象者による許可の有無です。たとえば、対象者をインタビューするなど対象者が動画のメインとなっている場合であっても、次の2つの許可を得ていれば肖像権侵害とはなりません。
- 撮影の許可
- 動画を公開する許可
一方、これらの許可を得ていないにもかかわらず対象者をメインとした動画をYouTubeに公開すると、肖像権侵害にあたる可能性が高くなります。
なお、撮影の許可のみでは不十分であり、公開の許可まで得ておくべきことに注意しなければなりません。たとえ撮影の許可だけを得ていても、公開されることについての許可を得ていない場合は、肖像権侵害を主張されるおそれがあります。
肖像権侵害となりやすい動画
ここまでの解説を踏まえ、肖像権侵害となりやすい動画について解説します。YouTubeで公開した場合に肖像権侵害となる可能性が高い動画は、次のものなどです。いずれも対象者に動画公開の許可を得ていないことが前提です。
- 対象者が動画のメインとなっている動画
- 対象者が動画のメインではないものの、容貌がはっきり分かるうえ撮影場所が公共の場所でない場合や、公共の場所であるものの風俗街などその場所にいることを知られたくないと考える人が多い場所で撮影された動画
- 動画が公開されたことで、対象者の社会生活に悪影響が及んでいる動画
肖像権侵害になるかどうかに迷ったら、無理に自分で判断せず、弁護士へ相談することをおすすめします。
肖像権侵害となりにくい動画
一方で、次の動画はYouTubeにアップしても、肖像権の侵害とはなりづらいといえます。
- 容貌がはっきりとは映っておらず、人物の特定ができない動画
- 大勢が行き交う公共の場で、画面の端に通行人と偶然映り込んでいる動画
YouTuberが他者の肖像権を侵害するとどうなる?
YouTuberが投稿した動画で他者の肖像権を侵害すると、どのような事態が生じる可能性があるのでしょうか?肖像権を侵害した場合に起きる可能性がある事態を3つ解説します。
- 動画の削除請求がされる
- 慰謝料を請求される
- アカウントの停止や制限がなされる可能性がある
動画の削除請求がされる
YouTubeはプライバシーガイドラインを定めており、これによりプライバシー侵害の申し立て手続きをすることが可能です。YouTuberが他者の肖像権を侵害する動画を投稿すると、肖像権を侵害した者からこの申立てがなされ、動画が削除される可能性があります。
YouTubeでは誰もが動画の違反報告をすることができ、これによって肖像権侵害が確認された場合にも動画が削除される可能性があります。
慰謝料を請求される
YouTuberが肖像権を侵害したことにより対象者の社会生活に悪影響が及んでいる場合は、慰謝料請求がされる可能性があります。
慰謝料請求の可否や金額は、撮影の目的や態様、撮影場所、撮影の目的などから、侵害の程度が社会生活上受忍の限度を超えるかどうかとの視点により、総合的に判断されます。
YouTuberとして活動する中で肖像権侵害を理由として慰謝料を請求されたら、無理に自分で対応することは避け、早期に弁護士へご相談ください。弁護士へ相談することで、相手の請求どおりに支払うべきか、それとも本来は慰謝料請求までは難しい事案であるかどうかなどがわかり、対応の見通しが立てやすくなるためです。
アカウントの停止や制限がなされる可能性がある
YouTuberが肖像権侵害などのYouTubeポリシーへの違反行為を繰り返しYouTubeへの通報が相次いだ場合などには、チャンネルやアカウントの停止(いわゆる「アカウントBAN」や「垢BAN」)をされる可能性があります。
アカウントが停止されるとせっかく育てたチャンネル登録者を失うこととなり、これまでどおりの収益を得ることは困難となります。再度チャンネルを解説しアカウントを育てたとしても、元の水準まで戻すことは容易ではないでしょう。
このようなリスクを避けるため、他者の肖像権を侵害しないよう十分な注意が必要です。
参照元:チャンネルまたはアカウントの停止(YouTubeヘルプ)
YouTuberが知っておくべき著作権のポイント
YouTuberは、肖像権のほかに著作権についても十分理解しておかなければなりません。著作権についての理解が不足していると他者の著作権をうっかり侵害してしまうおそれがあるためです。
また、法律を知らなかったからといって、これを理由に免責されるわけでもありません。ここでは、YouTuberが知っておくべき著作権のポイントについて解説します。
著作権とは
著作権とは、著作物を保護するための権利です。著作権は一つの権利ではなくさまざまな権利の束であり、「狭義の著作権(財産権)」と「著作者人格権」に分類されます。
狭義の著作権(財産権)には、著作物を有形的に複製されない「複製権」や、著作物を公衆送信(インターネット送信)する権利である「公衆送信権」などが含まれます。これら狭義の著作権(財産権)は譲渡することができるため、必ずしも製作者イコール著作権者であるとは限りません。
一方、著作者人格権は著作者が有する固有の権利であり、譲渡することなどはできません。著作者人格権には、著作物を意に反して改変されない「同一性保持権」や、著作物を公表する際に自身の氏名を表示するかどうかなどを決められる「氏名表示権」などが含まれます。
また、歌手などの実演家や、CDレーベルなどのレコード製作者も、別途著作隣接権を有しています。
このように、著作権はさまざまな権利が集まっているものであり、特にCD音源や映画、テレビ番組などはさまざまな権利者がさまざまな権利を有しているものです。そのため、一般的なYouTuberが適法に処理することは容易ではないでしょう。
著作権の対象範囲は非常に広く、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であればすべて著作物に該当します(著作権法2条1項1号)。
そのため、プロではない一般個人が描いた絵や撮影した写真、個人や企業のブログ記事、個人が制作した音楽なども、原則として著作権の保護対象です。SNSなどに投稿して公開したからといって、これを他者が自由に使って良いということではありません。
YouTubeでは著作権について問題となることが多いため、動画を投稿する前に著作権に関する基本的な事項を理解しておくことをおすすめします。
著作権侵害をするとどうなる?
著作権を侵害すると、どのような事態が生じる可能性があるのでしょうか?著作権を侵害した場合に生じ得る主な事態を4つ紹介します。
- 動画の削除請求がされる
- 損害賠償請求をされる
- 著作権法上の罪に問われる
- アカウントの停止や制限がなされる可能性がある
動画の削除請求がされる
肖像権違反の場合と同じく、著作権侵害をした場合YouTubeに投稿した動画の削除請求がされる可能性があります。
損害賠償請求をされる
他者の著作権を侵害する内容の動画を投稿すると、著作権者から損害賠償請求がなされる可能性があります。著作権侵害による損害賠償請求額は権利者の逸失利益(著作権侵害がなければ得られたであろう額)を基準として算定されることが多いため、損害賠償請求額が大きくなることもあります。
著作権法上の罪に問われる
著作権法では、著作権侵害についての罰則が設けられています。著作権侵害の罰則は、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科です(著作権法119条)。
また、著作権侵害が法人の業務として行われた場合には侵害行為を行った者がこれらの刑罰の対象となるのみならず、法人も3億円以下の罰金刑の対象となります(同124条1項)。著作権侵害の罰則は重いため、安易な侵害を行わないよう注意が必要です。
アカウントの停止や制限がなされる可能性がある
著作権侵害を行った場合も肖像権侵害の場合と同じく、YouTubeのアカウントの停止や制限がなされる可能性があります。
著作権侵害となる投稿の例
権利者から必要な許可を得ていない場合において、著作権侵害となり得るYouTube投稿の例には、次のものなどがあります。
- テレビ番組や映画の動画や音声、静止画などをアップロードする
- 市販のCD音源をアップロードする
- 替え歌による「歌ってみた」や編曲した「演奏してみた」を投稿する
- 漫画本や小説をスキャンして投稿する
なお、YouTubeはJASRACと包括的な利用許諾契約を締結しているため、JASRACが管理している楽曲を対象とした通常の「歌ってみた」動画は、原則として著作権侵害とはなりません。
一方で、無許可でCDをそのまま流した場合は、アーティストやCD制作者が有する著作隣接権を侵害します。「歌ってみた」であっても替え歌など過度に改変する場合も、別途許諾を得なければなりません。
自身の投稿したい動画が著作権侵害にあたるかどうか知りたい場合や、権利関係を適切に処理して適法に他者の著作物を利用したい場合は、弁護士へご相談ください。
YouTuberが肖像権や著作権を侵害してしまった場合の対応
YouTuberが他者の肖像権や著作権を侵害している旨を権利者から指摘されたら、どのように対処すればよいのでしょうか?最後に、初期の対応方法について解説します。
- 権利侵害がある場合は直ちに動画の公開を停止する
- 早期に弁護士へ相談する
権利侵害がある場合は直ちに動画の公開を停止する
肖像権や著作権の侵害を指摘されたら、肖像権や著作権の侵害をしたくないという明確な根拠がない限り、できるだけ早期に動画の公開を停止することをおすすめします。指摘を受けたにもかかわらず動画の公開を続けた場合は、権利者が損害賠償請求など強い法的措置に出る可能性が高くなるためです。
指摘を受けたにもかかわらず対応しないと、SNSなどにその旨が投稿され「炎上」状態となったり、ファンが離れたりしてしまうリスクもあります。
早期に弁護士へ相談する
動画の公開を停止してもなお相手から損害賠償請求などがなされる可能性があると考える場合は、早期に弁護士へご相談ください。動画の公開を停止したことで権利者が納得し、時間や手間を掛けてそれ以上の追求まではしない可能性は高いでしょう。
しかし、動画の公開を停止したからといって権利侵害の事実が消えるわけではなく、権利者から損害賠償請求などがなされるリスクがゼロとなるわけではありません。特に、権利侵害の程度が高く権利者に実害が出ている場合は、動画の公開を停止してもなお損害賠償請求がなされる可能性が高いといえます。
そのため、少しでも不安がある場合は早期に弁護士へ相談し、相手方からどのような請求がなされる可能性があるか把握しておくとよいでしょう。
なお、相手の主張の正当性などを弁護士が正確に検討するには、どのような動画を投稿したのか、動画の内容を確認できる必要があります。そのため、少なくとも弁護士に相談するまでは動画は公開停止とするのみに留め、本人だけが閲覧できる状態としておくことをおすすめします。
まとめ
YouTuberビジネスは手軽に始められることもあり、副業の一つなどとしてチャレンジする人も少なくありません。人気のYouTuberとなることは容易なことではないものの、コツコツと動画投稿を続けることでチャンネル登録者数が増え、コンスタントに再生数が稼げるようになると、それなりの収入となることもあります。
しかし、YouTubeへの動画投稿はスマートフォン一つでも手軽に行うことができる反面、法律を理解しないままでは、他者の肖像権や著作権を侵害してしまう可能性があります。肖像権や著作権を侵害すると動画が削除される可能性があるほか、損害賠償請求がなされるかもしれません。
YouTubeビジネスにおいて他者から権利侵害を指摘された場合は早期に動画の公開を停止したうえで、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
伊藤海法律事務所ではインターネット法務に力を入れており、YouTuberからのご相談への解決実績も数多くあります。YouTuberがビジネスを展開する中で法的なトラブルが生じた際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。