アート作品に関するビジネスモデルには、従来からあるもののほか、新たなビジネスモデルも誕生しています。
では、アート作品に関するビジネスモデルには、どのようなものがあるのでしょうか?また、アートに関するビジネスモデルを構築する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
今回は、NFTなどではなく古来の美術品(絵画など)を中心に、ビジネスモデル構築の注意点などを弁護士がくわしく解説します。
アート作品を活用した従来から存在する主なビジネスモデル
はじめに、アート作品を活用した主なビジネスモデルのうち、従来から存在するものを紹介します。
購入したり借りたりしたアート作品を展示する
1つ目は、アート作品を展示して、そのアート作品を観覧しに来た顧客から入館料などの収入を得るビジネスモデルです。
このビジネスモデルを構築している代表例は、美術館です。常設展示のほか、一定期間だけ作品を展示することもあります。
自社で制作したアート作品を展示・販売する
2つ目は、作家や企業が制作したアート作品を販売することで、収入を得るビジネスモデルです。画廊やギャラリーを一定期間借りて展示会などを開き、作品の販売を目指すことが多いでしょう。
アート作品の複製品や二次著作物を販売する
3つ目は、アート作品の複製品や、二次著作物を販売するビジネスモデルです。
たとえば、絵画であるアート作品を複製して販売したり、アート作品を印刷したクリアファイルやTシャツなどを販売したりして収益を得ることがこれに該当します。また、絵画であるアート作品を写真に撮り、これを掲載した写真集を販売することもこの形態の一つです。
なお、アート作品などの著作物を複製したり二次著作物を製作したりするためには、原則として著作者の許諾を得なければなりません。ただし、著作権の保護期間(日本では、原則として作者の死後70年間)を過ぎていれば、自由に作品を使うことができます。
とはいえ、A氏が製作した彫刻の「著作物A」をB氏が撮影した写真は、別の「著作物B」となり得ます。そのため、著作物Aの著作権が切れているからといって、著作物Aを撮った写真である著作物Bまでが自由に使えるとは限らないため、注意が必要です。
アート作品の複製品や二次著作物を製作したい場合は、権利関係を整理するため、あらかじめ弁護士や弁理士へご相談ください。
アート作品を貸し出す
4つ目は、アート作品を貸し出して賃料を受け取るビジネスモデルです。美術館などに展示するために貸し出すことのほか、会社の応接室などに展示するために貸し出すことなども考えられます。
委託を受けてアート作品を販売したり販売を仲介したりする
5つ目は、委託を受けてアート作品を販売したり、販売を仲介したりするビジネスモデルです。いわゆる「画商」などがこれに該当するでしょう。
画商などがいったんアート作品を仕入れたうえで転売をして差額で儲ける場合のほか、画商などが販売を仲介し、成約時に手数料を受け取る場合などがあります。
アート作品を活用した比較的新しいビジネスモデル
アート作品に関連するビジネスモデルは、新しいものも生まれています。ここでは、アート作品を活用するもののうち、比較的新しいビジネスモデルを3つ紹介します。
- オンライン上でアート作品を売買するプラットフォームを運営する
- アート作品に投資する
- ビル壁面などにアートを描いて広告とする
オンライン上でアート作品を売買するプラットフォームを運営する
1つ目は、アート作品をオンラインで売買するプラットフォームを運営するビジネスモデルです。
従来の画商が個々の作家や作品の購入者と対面して仲介をすることが一般的であったこととは異なり、オンライン上で売買の仲介をすることで、地域を問わず多くの作家と購入者をつなげることが可能となります。
2023年2月には、阪急阪神ホールディングス株式会社と株式会社ライフデザイン阪急阪神が、アート作品(絵画)を売買したり貸し借りしたりできるWebプラットフォームサービス「ARTELIER(アートリエ)」を開始しています。
ほかにも、株式会社The Chain Museumが運営する「ArtSticker」など、アート作品の売買プラットフォームは増えつつあります。
アート作品に投資する
2つ目は、アート作品に投資したり、アート作品に投資したりするビジネスモデルです。
アート作品は、価値が下がりにくい傾向にあることから、アート作品が投資先の候補となることがあります。
とはいえ、価値が下がりにくいアート作品は非常に高価なものが多く、投資できる人は限られるでしょう。そこで、アート作品を小口化し、少額から投資を募るビジネスも誕生しています。
たとえば株式会社ANDARTが運営する「ANDART」では、1口1万円からアート作品に投資することが可能です。
ビル壁面などにアートを描いて広告とする
3つ目は、ビルの壁面などにアート作品を描いて、これを広告とするビジネスモデルです。
街は広告に溢れており、通常の広告を掲載したところで、じっくり見てもらうことは困難でしょう。そこで活用されているのが、アート広告です。
ビルの外壁などにアート作品を描いてインパクトを与えることで注目を集めやすくなり、広告効果を高められます。また、印象的なアート作品であればそのアートがSNSなどで拡散され、さらなる広告効果も期待できます。
たとえば、WALL SHARE株式会社は、壁面広告のプロデュースや制作を積極的に行っています。また、自社ビルの壁面に自社の広告を描くのみならず、広告を出したい企業に壁面を「貸し出す」ことで収益を上げる道もあります。
アート作品に関するビジネスモデルを構築する際に注意したい著作権とは
アート作品に関するビジネスモデルを構築する際は、著作権について正しく理解しておかなければなりません。そこでここでは、著作権の概要を解説します。
著作権とは
「著作権」とは、著作物を保護するための権利です。そして、著作権の保護対象となる「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています(著作権法2条1項1号)。
著作権の保護対象については、勘違いが少なくありません。たとえば、次の考えは、すべて誤っています。
- プロではない一般個人が描いた絵や撮った写真には、著作権はない
- SNSなどインターネットに公開された作品は著作権が放棄されたことになるので、自由に使ってよい
- 買った絵の著作権は購入者に移転するので、絵の購入社は絵を自由に複製して複製品を転売できる
まず、著作権の対象となるかどうかに、プロであるかどうかは関係ありません。一般個人が描いた絵や一般の幼児が描いた絵であっても、著作権の保護対象となり得ます。
また、インターネット上で公開したからといって、著作権を放棄したこととはなりません。そのため、SNS上に投稿されたアート作品を複製したり展示したりするためには、著作者の許諾が必要です。
そして、絵の所有権とその絵の著作権は、必ずしも同時に移転するわけではありません。額に入ったある絵画を買ったからといって、その絵画の著作権までは移転しないことが一般的です。
これは、その絵画が1点ものであるか、版画作品のように同様の絵が複数あるかによって異なるものではありません。そのため、購入した絵の著作権までが移転したと思い込み、著作者に無断でその絵画の複製品を作って販売するなどすれば、著作権侵害となる可能性が高いでしょう。
ここまでで解説しただけでも、著作権が複雑な権利であることがおわかりいただけるのではないでしょうか?さらに、著作権は一つの権利ではなく「複製権」や「展示権」、「公衆送信権」など複数の権利の束です。
そのため、実際に権利処理をする際は想定する活用ができるよう、必要な権利について譲渡を受けたり許諾を受けたりする必要があります。
著作権を安易に考えていると、著作権侵害となり差止請求の対象となったり損害賠償請求の対象となったりするかもしれません。そのような事態を避けるため、あらかじめ弁護士へ相談したうえで、適切な契約書を作成するなどして必要な権利処理を行っておきましょう。
著作権侵害となり得る例
著作権侵害となり得るケースは、非常に多く存在します。たとえば、著作者の許諾を得ることなく次のようなことをした場合は、著作権侵害であるとして法的トラブルに発展する可能性が高いでしょう。
- 美術館での展示用として借りたアート作品を、複製して販売する
- 購入したアート作品のコピーを、Tシャツやクリアファイルなどに印刷したものを販売する
- 匿名で活動する著作者であるにもかかわらず、本名を併記してアート作品を展示する
- SNS上に投稿された素敵な写真を印刷し、美術館で展示する
- 購入したアート作品を、自身が制作したものであると偽って展示する
- 購入した現代アート作品の細部が気に入らなかったので、修正をしたうえで展示する
- 展示会で見た素敵な絵画が気に入ったので、作品の写真を撮ってSNSのアイコンにする
自社が行おうとしているビジネスが著作権侵害とならないか確認したい場合や、著作権について適切に処理をする契約書を作成したい場合は、弁護士へご相談ください。
アート作品に関するビジネスモデルを構築する際のその他の注意点
アート作品に関するビジネスモデルを構築する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、著作権以外の主な注意点を3つ解説します。
- 必要な許認可を確認する
- 契約書を作り込む
- 弁護士へ相談する
必要な許認可を確認する
ビジネスモデルによっては、許認可が必要となる可能性があります。許認可が必要であるにもかかわらずこれを受けることなくビジネスを営んでしまえば、罰則の対象となったり企業の信頼が失墜したりすることとなりかねません。
そのため、アート作品に関するビジネスモデルを構築する際は、あらかじめ許認可が必要かどうか確認しておきましょう。
たとえば、アート作品を小口化して投資対象とするスキームを組むのであれば、金融商品取引法上の許可や登録が必要となる可能性があります。また、一度誰かの手に渡ったアート作品を買い取って転売する場合には、原則として古物商の許可を取得しなければなりません。
このように、必要な許認可はビジネスモデルによってさまざまです。必要な許認可がわからない場合は、弁護士へご相談ください。
契約書を作り込む
アートに関するビジネスモデルを構築する際は、契約書を作り込むことをおすすめします。契約書を作り込んでおくことで防げるトラブルは少なくないためです。また、万が一トラブルが生じても、契約書を作り込んでおくことで被害を最小限に押さえやすくなります。
契約書をどの程度作り込むべきか、契約書にどのような項目を盛り込むべきかなどは、具体的なビジネスモデルによって異なります。契約書の作成でお困りの際は、弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談する
アートに関するビジネスモデルを構築する際は、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士へ相談することで、そのビジネスにおいて法的なトラブルが生じやすいポイントについてアドバイスが受けられ、その点のビジネスモデルを修正したり契約書で対策を講じたりすることが可能となります。
弁護士へ相談するメリットは、次でまとめて解説します。
アート作品のビジネスモデル構築にあたって弁護士へ相談するメリット
アート作品にまつわるビジネスモデルを構築しようとする際は、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。最後に、弁護士へ相談する主なメリットを4つ解説します。
- 思わぬ法令違反や権利侵害を避けられる
- トラブルを防止しやすくなる
- 安心してビジネスを展開しやすくなる
- トラブル発生時の対応がスムーズとなる
思わぬ法令違反や権利侵害を避けられる
1つ目は、思わぬ法令違反や権利侵害を避けられることです。
法令は非常に多く存在します。そのため、そのビジネスに関連する法令を自分ですべて洗い出すことは容易ではないでしょう。また、理解したつもりであっても、誤解している可能性もあります。
その結果、必要な許認可を見落として無許可でビジネスを営んでしまったり他者の権利を侵害してしまったりすれば、ビジネスの根幹を揺るがす事態となりかねません。ビジネスモデルを構築する時点で弁護士へ相談することで、思わぬ法令違反や権利侵害を避けやすくなります。
トラブルを防止しやすくなる
2つ目は、トラブルを防止しやすくなることです。あらかじめ弁護士へ相談することで、ビジネスモデルのうち法的トラブルが生じやすい箇所の予想がつけやすくなります。
その部分のビジネスモデルを一部変更したり、その部分について重点的に契約書で補填したりしておくことで、トラブルを防止しやすくなります。
安心してビジネスを展開しやすくなる
3つ目は、安心してビジネスを展開しやすくなることです。弁護士へビジネスモデルを確認してもらうことで、法的な問題やリスクの有無がクリアとなります。
これより、ビジネスが走り出してしまってから法令違反が判明しビジネスモデルの転換を迫られる事態を最小限に抑えることができるため、安心してビジネスを展開しやすくなります。
トラブル発生時の対応がスムーズとなる
4つ目は、トラブル発生時の対応がスムーズとなることです。
弁護士のサポートを受けた場合、起き得るトラブルを想定したうえで、万が一トラブルが発生した際の対応がスムーズとなるよう逆算して契約書を作り込みます。そのため、実際にトラブルが発生した際に、契約書の条項に基づいてスムーズに対応しやすくなります。
また、トラブル発生時にすみやかに相談したい場合は、継続的にサポートを受けたい弁護士と顧問契約を締結しておくこともおすすめです。
まとめ
アートのビジネスモデルや、ビジネスモデル構築時の注意点などについて解説しました。
アートにまつわるビジネスモデルとしては、アート作品の展示販売のほか、小口化して投資対象とするなどさまざまなものが検討できます。
新しいビジネスモデルを構築する際は、弁護士へ相談することをおすすめします。なぜなら、弁護士へ相談することでそのビジネスモデルに潜む法的リスクがクリアとなりやすいほか、思わぬ法令違反や権利侵害を避けやすくなるためです。
伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士であるほか弁理士でもあり、アートにまつわるビジネスモデルの構築支援や知的財産にまつわるトラブル解決に力を入れています。アートに関するビジネスモデルを構築したい場合や、アート作品について適切な権利処理をしたい場合などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。