アパレル分野では、ライセンスビジネスが多く展開されています。
では、アパレル企業がライセンスビジネスに参入することには、ライセンサー側とライセンシー側とでそれぞれどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?また、ライセンスビジネスに参入する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?
今回は、アパレルブランドのライセンスビジネスについて、知財法務やアパレル業界にくわしい弁護士がわかりやすく解説します。
アパレルブランドのライセンスビジネスとは
ライセンスビジネスとは、ブランドの商標権を有する企業(「ライセンサー」といいます)が、他の企業(「ライセンシー」といいます)にその使用を許諾するビジネスです。
他社が商標権を有する商標を、無断で使用することはできません。仮に無断で使用すれば商標権侵害となり、権利者から差止請求や損害賠償請求などを求められることとなります。
そのため、たとえば「BURBERRYの人気があるから、これに似せて作った自社製品に『BURBERRY』のタグをつけて売る」ことなどは、原則としてできません。
一方で、これを可能とするのがライセンスビジネスです。BURBERRYの商標権を有する企業から正式にライセンスを受けることで、「BURBERRY」と冠した製品を適法に製造したり販売したりすることが可能となります。
とはいえ、粗悪品を「BURBERRY」として売られてしまえば、BURBERRYというブランドが毀損してしまうでしょう。そのため、アパレルのライセンスビジネスでは、厳格な品質基準が定められることが一般的です。
また、自社や他のライセンシーとの競合を避けるため、一定地域(「日本国内だけ」など)に限定してライセンスすることも少なくありません。
アパレルブランドのライセンスビジネスの例
多くのアパレルブランドが、ライセンスビジネスを展開しています。ここでは、日本におけるアパレルブランドのライセンスビジネスの主な例を、5つ紹介します。
PAUL SMITH
PAUL SMITHは、イギリス発祥のファッションブランドです。日本では伊藤忠商事株式会社の子会社である株式会社ジョイックスコーポレーションがライセンシーとなり、ビジネスを展開しています。
BARNEYS NEW YORK
BARNEYS NEW YORKは、ニューヨークを中心に展開するファッションブランドです。日本では、株式会社バーニーズジャパンがライセンシーとなり、ビジネスを展開しています。
なお、株式会社バーニーズジャパンは住友商事株式会社の子会社であったところ、株式譲渡により、2024年現在では株式会社セブン&アイ・ホールディングスの子会社となっています。
MARC JACOBS
MARC JACOBSは、アメリカ発祥のファッションブランドです。日本では、住友商事株式会社の関連会社であるマーク ジェイコブス ジャパン株式会社がブランドを展開しています。
BURBERRY
BURBERRYは、イギリスを代表するファッションブランドです。日本では株式会社三陽商会がライセンシーとしてビジネスを展開していましたが、2024年現在ではライセンス契約が解消されています。
ユニクロ
ユニクロは、株式会社ファーストリテイリングが展開する日本のファッションブランドです。ファーストリテイリングは三菱商事株式会社とともにインドネシア共和国などで合弁会社を設立し、ライセンサーとしてもビジネスを展開しています。
ライセンスビジネスを展開するメリット
アパレル企業がライセンスビジネスを展開することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ライセンサー側とライセンシー側に分けて、それぞれのメリットを解説します。
ライセンサーのメリット
ライセンス契約を締結することで、ライセンサーはロイヤリティ収入を得ることができます。また、自社で直接展開することが難しい国や地域での販売が可能となり、ブランドの認知度向上にも寄与します。その他、国や地域に合わせた商品開発がしやすくなる点も、大きなメリットといえるでしょう。
ライセンシーのメリット
ライセンス契約を締結することによるライセンシーの最大のメリットは、効率的に利益を上げやすくなることです。自社で新たにブランドを立ち上げ、人気のブランドにまで育てることは容易ではありません。認知度が高くすでにファンがついているブランドのライセンシーとしてビジネスを展開することで、効率的に利益を獲得しやすくなります。
また、ライセンサーが築き上げてきた製造や販売のノウハウを活用できる点も、大きなメリットの一つです。
ライセンスビジネスを展開するデメリット・リスク
ライセンスビジネスの展開には、デメリットやリスクもあります。ここでは、ライセンシーとライセンサーそれぞれの、主なデメリットとリスクを解説します。
ライセンサーのデメリットとリスク
ライセンスビジネスの展開によるライセンサーの最大のリスクは、ブランドイメージの低下です。ライセンシーが質の低い製品に自社のブランド名を冠して販売してしまえば、築き上げてきたブランドイメージが毀損してしまいかねません。
また、たとえば高級なイメージを大切にしているにもかかわらずそのイメージにそぐわない販売手法をとられるなど、自社の意図とは異なる方向性でビジネスが展開されるおそれもあります。
このようなリスクをコントロールするため、ライセンサーは品質基準や販売手法などを契約書で厳格に定めるなどの対策が必要となります。
ライセンシーのデメリットとリスク
ライセンスビジネスによるライセンシー側のデメリットは、ライセンサーの求める品質基準や販売手法に従う必要があり、ビジネス展開の自由度が低くなりやすいことです。たとえば、自社としては在庫を一掃するために値引き販売をしたいと考えても、ライセンサーの意向で値引き販売ができない事態などが想定されます。
製品をアレンジしようにも、ライセンサーの許諾がなければこれを販売することはできません。ライセンス契約を締結してからこのような齟齬が生じないよう、あらかじめ契約内容を十分にすり合わせておく必要があります。
また、ライセンサー側の意向によってブランド展開の方向性が変わったり、契約を打ち切られたりするリスクも想定されます。契約打ち切りとなれば、自社が存続できないほどの損失が生じるかもしれません。
そのような事態に備え、ライセンス契約を締結する際は、契約解除の要件や違約金などについても十分確認しておく必要があるでしょう。
アパレルのライセンスビジネスを展開する際の注意点
アパレルのライセンスビジネスを展開する際は、どのような点に注意すればよいのでしょうか?ここでは、将来のトラブルを避けるための主な注意点を3つ解説します。
- 長期的なデメリットやリスクを理解し検討する
- アパレルや知財に強い弁護士のサポートを受ける
- 契約書を作り込む
長期的なデメリットやリスクを理解し検討する
1つ目は、長期的なデメリットやリスクを十分に理解したうえで、契約を締結するか否かを検討することです。
アパレルのライセンス契約は、長期に渡ることが少なくありません。また、契約終了後も、消費者などにイメージが残ることも多いでしょう。
そのため、契約を締結する際は短期的なメリットだけを考えるのではなく、長期的な影響を十分に検討することをおすすめします。長期的なビジネスパートナーとして信頼できる相手であるのか、十分に見極めることも重要です。
アパレルや知財に強い弁護士のサポートを受ける
2つ目は、アパレルや知的財産に強い弁護士や弁理士のサポートを受けることです。
契約締結前に長期的なデメリットやリスクを検討すべきとはいえ、自社だけでは起き得る事象を想定しきれないことも少なくないでしょう。
ライセンスビジネスのサポート経験が豊富な弁護士や弁理士に相談することで将来のリスクを想定しやすくなるほか、そのリスクに備えるための契約内容についてもアドバイスを受けられます。また、契約交渉に同行してもらうことで、交渉を有利に進める効果も期待できます。
契約書を作り込む
3つ目は、ライセンス契約書を作り込むことです。
契約書は、原則として法律に優先して、そのライセンスビジネスを展開するうえでのルールとなるものです。契約書で詳細な条項を定めておくことで、認識の齟齬などによるトラブルを避けやすくなります。
また、ライセンスビジネスに限ったことではありませんが、契約を締結する際は対価や享受できるメリットなどに目が行きがちです。しかし、契約においては、将来における状況の変化や、状況が変わった際の「出口」にも注意を払わなければなりません。
禁止事項や損害賠償、解除事由、解除方法などを十分に検討して定めておくことで、将来の状況変化などに対応しやすくなります。
とはいえ、契約書であまり詳細を定めすぎると身動きがとりづらくなったり、自社の首を絞めることとなったりする可能性があることも事実です。たとえば、相手方に契約違反があった際の違約金を一律「1,000万円」と定めておけば請求がスムーズとなる一方で、これ以上の損害が生じた際に上乗せでの請求がしづらくなるおそれがあります。
契約書に絶対的な正解はなく、自社の立場にとって最良の条項をさまざまな角度から検討することが必要です。そのためには、やはり弁護士によるサポートは不可欠でしょう。
アパレルのライセンス契約書作成の主な条項とポイント
アパレルのライセンス契約書は、どのような点に注意して作成すればよいのでしょうか?最後に、ライセンス契約書に記載すべき主な条項と、各条項の検討ポイントについて解説します。
ただし、ライセンス契約書における最適な条項は、自社の状況や立場、契約によって実現したい内容などによって大きく異なります。そのため、実際にライセンス契約書を作成しようとする際は、あらかじめ弁護士へご相談ください。
内容を理解しないまま雛形やテンプレートを流用することは、トラブルの原因となったりトラブル解決を難しくしてしまったりするおそれがあるため、おすすめできません。
- ライセンスの対象
- 使用許諾の範囲
- 品質基準
- 免責条項
ライセンスの対象
ライセンス契約書では、ライセンスの対象を明記します。ライセンスの対象は、後に疑義が生じることのないよう厳格に定義してください。
具体的には、商標登録番号や商標見本、指定商品又は指定役務、設定登録日などで特定することが多いでしょう。許諾対象である商標の数が多い場合には、一覧表などにまとめて別紙として添付する場合もあります。
使用許諾の範囲
ライセンス契約書では、使用を許諾する範囲を定めます。許諾範囲とは、たとえば次の事項などです。
- 通常実施権設定契約であるか、専用実施権設定契約であるかの別
- 許諾対象の国や地域
- 許諾する数量、顧客など
- 許諾期間
通常実施権設定契約であるか、専用実施権設定契約であるかの別
ライセンス契約には、重ねて他社にもライセンスされる可能性がある「通常実施権設定契約」と、そのライセンシーが独占的にライセンスを使用できる「専用実施権設定契約」があります。
専用実施権設定契約の場合は、ライセンサー自身もその権利の使用ができなくなります。アパレルビジネスでのライセンスの場合は、通常実施権設定契約であることが多いでしょう。
そのうえで、国や地域に限定して独占的な権利を認めることが少なくありません。
許諾対象の国や地域
アパレルのライセンス契約では、一定地域に限定してライセンスすることがよく行われています。国や地域を限定しない場合、ライセンサーや他のライセンシーと競合するおそれがあるためです。
たとえば、ライセンシーがライセンスを使用できる地域を「日本国内だけ」と定めることなどが考えられます。
許諾する数量、顧客など
ライセンスの許諾にあたって、数量や顧客などを限定することがあります。限定を設ける場合は、その内容を明記します。
許諾期間
商標の使用を許諾する期間を定めます。併せて、更新の有無や更新方法(自動更新であるか否かなど)についても定めておきましょう。
品質基準
ライセンシーが質の低い製品を作り流通させてしまうと、ブランドイメージが毀損するおそれがあります。そのような事態を避けるため、アパレルのライセンスビジネスにおいて、ライセンサーは自社のブランドが毀損しないよう細心の注意を払わなければなりません。
そのため、契約書では品質基準を定めることが多いでしょう。とはいえ、品質基準を直接契約書で定めることは、現実的ではありません。アパレルではライセンスする製品の種類が多いうえ、新商品の開発などで製品が入れ替わることも少なくないためです。
そのため、契約書では「別紙品質基準に適合するとライセンサーが認定した許諾商品にのみ、ライセンシーは許諾商標を使用できる」などと定め、別紙にて詳細な品質基準を定めることが一般的です。
免責条項
万が一製品に問題があり消費者がケガなどをすれば、消費者から製造物責任を問われる可能性があります。アパレルでも、フード付きダウンジャケットのストッパーが左眼に直撃して外傷性白内障傷害を負い、約4,000万円の損害賠償請求が認められた事例などが存在します。
製造物責任を負うのは原則としてその製品を製造した者(ライセンシー)であるものの、製品にブランド名が表示されている場合、そのブランド名の表示を許諾した者(ライセンサー)も対象となります。
しかし、ライセンサーとしては、ライセンシーが製造した製品について製造物責任を負う事態は避けたいことでしょう。そのため、「許諾商標の使用に関して生じたライセンシーの損害について、一切の責を負わない」など、ライセンシーが製造した製品に関する責任を負わない旨の免責条項を入れることが一般的です。
まとめ
アパレルに関してライセンスビジネスを展開するメリットやリスク、ライセンス契約締結時の注意点などについて解説しました。
アパレルのライセンスビジネスでは、契約期間が長期に渡る傾向にあります。そのため、契約を締結するか否かや契約の内容などを、長期的な視点で検討することが不可欠です。
将来のトラブルをできるだけ防ぎ、また万が一トラブルが生じた際も自社にとって有利な解決に終結させるため、契約締結前に弁護士へご相談ください。
伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は弁護士のほか弁理士資格も有しており、知的財産の取り扱いが重要となるアパレルブランドやアパレルメーカーのリーガルサポートに強みを有しています。
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