生成AIが発達し、人の声を簡単に「模倣」できるようになりました。実際には話していない内容について、キャラクター(の声優)があたかも話しているように生成された動画を、見たことのある人も少なくないと思います。
では、声の権利は法律上保護されているのでしょうか?また、声の権利が侵害されている場合、どのように対応すればよいのでしょうか?今回は、声の権利の概要や声の権利が注目されている背景、声の権利が法律上保護されるか否か、声の権利が侵害されている場合の対処法などについて、弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(伊藤海法律事務所)はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声優事務所や声優個人の顧問弁護士を多く担っているため、かねてより声の権利にも着目しています。声の権利について相談できる弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
声の権利とは?
「声の権利」は法律上の用語ではなく、明確な定義はありません。一般的には、「自分の声を無断で使用されない権利」を指すことが多いでしょう。
著名人の氏名や肖像には、「パブリシティ権」があります。これは、著名人の持つ顧客吸引力を財産的価値と捉える権利です。
たとえば、人気アイドルAがある商品のCMに起用されている場合に顧客が「アイドルAがCMをしているこの商品を選ぼう」と考えて商品を選択したり、クリーンなイメージのある俳優BがあるサービスのCMに起用されている場合にそのサービスにもクリーンなイメージが持たれたりする可能性があるでしょう。企業は、そのような効果を期待して、対価を支払って著名人をCMに起用します。
そうであるにもかかわらず、無断で広告に著名人の顔写真が使用されたり「あの〇〇も使ってる!」などと無断で氏名を掲載されたりすれば、著名人や芸能事務所が正当な対価を得る機会を逸してしまいかねません。そこで、このような行為を「パブリシティ権の侵害」とし、差止請求や損害賠償請求などが認められています。
これに類似して近年問題となりつつあるのが、「声の権利」です。声優などの声には顧客誘引力があり、実際に著名な声優がCMや動画のナレーションに起用されているケースも少なくありません。そこで、たとえばAIによって声優そっくりの声が生成され、その声優を真似たAIがCMや動画のナレーションをすることとなれば、声優は対価を得る機会を逸してしまうおそれがあります。
声の権利が注目されている背景
近年、声の権利が注目されている背景としては、ディープフェイクの進化とSNS・音声配信サービスの普及が挙げられます。
著名なキャラクターを演じている声優の声をモノマネ芸人などが模倣することは、以前からありました。しかし、それはあくまでもエンターテイメントの範囲内で行われていることであり、悪意を持って行われているものではありません。
また、いくら似ていてもまったく同じではないことから、特に問題視されないことがほとんどでしょう。さらに、「本家」の代わりにそのモノマネ芸人にナレーションを依頼するとしても、「人」に依頼する以上は対価が発生するうえ倫理上の問題もあることから、モノマネ芸人が躍進することで「本家」の声優の仕事が減る事態は想定しづらいともいえます。
一方で、近年のディープフェイクの進化とSNS・音声配信サービスの普及により、声の権利が脅かされつつあります。ここでは、それぞれの概要を解説します。
ディープフェイクの進化
ディープフェイクは、「Deep Learning(深層学習)」と「Fake(偽物)」を組み合わせた造語です。具体的には、AI技術を活用して作成された動画や画像、音声などのうち、本物と見分けがつかないほど精巧なものがこれに該当します。SNSで「バズ」ったディープフェイクも少なくないため、見かけたことのある人も多いでしょう。
人間の声は、同じ「あ」という音であっても、発する言葉により高さや強弱が異なることが一般的であることから、声優の声を1音1音切り貼りして「その声優が本当には言っていないこと」を発声させようとすると、違和感が生じます。しかし、AI技術が進化したことで、多少の技術を持つ人であれば簡単にディープフェイクなどを作成できるようになりました。
たとえば、声優Aの声のサンプルをテレビ放送やラジオ放送などから拾い集めてこれをAIに読み込ませることで、その声優Aが実際には発言していない内容をあたかも発言したように見せかけることや、実際には歌っていない歌を歌ったように見せかけることも容易になったということです。
その内容によっては、声優の名誉が傷つけられるかもしれません。さらに、その声優Aから許諾を得ないまま、「AIの声優A」にナレーションをさせることもできてしまうでしょう。
もっとも、当事務所では、そういったAIの濫用もしくは不適切な利用から声優の声の権利を守るべく、声優の出演契約書等には独自に編み出した機械学習等を禁止する条項(他事務所で目にすることはないと思います。)を盛り込んで交渉にあたりますので、クライアントの皆様には安心していただいております。
SNSや音声配信サービスの普及
SNSや音声配信サービスが普及している昨今では、誰もが気軽に情報を発信できます。仮にこのようなサービスが普及していなければ、たとえ精巧なディープフェイク動画や音声が作成できてもそれを他者に「披露」する場は限られており、よほどの悪意を持つ人以外は、せいぜい数人の友人と盛り上がる程度であったことでしょう。
しかし、今やSNSや音声配信サービスが普及しており、世界中に簡単に発信できてしまいます。これにより、声の権利を侵害したディープフェイクが多くの人の目(耳)に触れることとなりました。さらに、意外性のある動画や音声は「バズ」りやすいため、過激な動画や音声を生成する原動力とさえなっていると考えられます。
これにより、声優など「声」を仕事とする人にとって、声の権利が侵害される脅威がさらに高まったと言えるでしょう。
伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声優として活動する方からのご相談についても豊富な実績を有しています。声の権利についても相談できる業界特化型の弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご連絡ください。
声の権利は、法律上保護される?
声の権利は、法律上保護されるのでしょうか?ここでは、順を追って解説します。
声の権利を直接的に保護する法律はない
残念ながら、声の権利を直接的に保護する法律はありません。声の権利自体が非常に新しい概念であり、現状は法整備が追い付いていません。
声の権利に関連する権利・法律
声の権利を直接的に保護する法律はないとはいえ、「声の権利が保護される余地がない」というわけではありません。肖像権やプライバシー権、パブリシティ権などは法律の明示はないとはいえ、判例により確立された権利となりつつあります。
ここでは、声の管理に関連する権利と法律を紹介します。実際に声の権利が侵害された際は、これらの権利や法律を根拠として法的措置が取れるかもしれません。
パブリシティ権
1つ目は、パブリシティ権です。
先ほど解説したように、パブリシティ権とは、著名人の有する顧客吸引力の財産的価値に着目して保護する権利です。パブリシティ権を侵害すると、侵害行為をやめるよう求める「差止請求」や侵害行為によって生じた損害相当額の金銭の支払いを求める「損害賠償請求」、侵害行為によって毀損した信用を回復させるための「信用回復措置請求(謝罪広告の掲載など)」の対象となります。
声優の声には、著名人の肖像と同じく顧客吸引力があると考えられます。そうであるからこそ、アニメ・ゲームのキャラクターボイスやCMナレーションなどに起用されているはずでしょう。そこで、声の権利をパブリシティ権に含めて保護をはかることが検討できます。
不正競争防止法
2つ目は、不正競争防止法です。不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争などを確保するために、不正競争の防止や不正競争への損害賠償などについて定めた法律です。
不正競争防止法には「どのような行為が不正競争に該当するか」が列挙されており、そのうちの1つに次のものがあります(不正競争防止法2条1項1号)。
- 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
言い回しがやや難しいですが、平たく言えば、「自社の商品などを有名な他社商品などに見せかけて需要者(消費者)を騙そうとしてはだめです」という規定です。
声優の声がこの「他人の商品等表示」に該当するか否かは、明確ではありません。しかし、声優の声はそれ自体が商品であり、これをAIを使って模倣してAIに「代わりに仕事をさせる」ことは、不正競争にあたる可能性もあるでしょう。
声の保護の強化が難しい理由
声の権利が問題視されているとはいえ、声の権利保護を強化するのは容易ではないでしょう。ここでは、その理由を2つ解説します。
- 技術発展とのバランスへの配慮が必要であるから
- 表現の自由とのバランスへの配慮が必要であるから
技術発展とのバランスへの配慮が必要であるから
生成AIの発展は未だ途上の段階にあり、現段階で規制を強化すれば技術発展を抑制するおそれがあります。
そもそも、生成AIは必ずしも「悪」であるとは言えません。たとえば、生成AIに取り込んだ声優の声を「海賊版」のように使うのではなく、声をストックしておいて使用頻度に応じて声優に対価が支払われるような正規のプラットフォームが生まれれば、声優にとってもプラスとなる可能性があります。
つまり、技術自体が「悪」なのではなく、使い方次第であるということです。
表現の自由とのバランスへの配慮が必要であるから
声の権利保護を強化すれば、表現の自由が損なわれかねません。そこで、両者のバランスに配慮しつつ、規制の程度を検討する必要があります。
声の権利を侵害された場合の初期対応
声の権利が侵害されている場合、まずはどのように対応すればよいのでしょうか?ここでは、声の権利が侵害されている場合の初期対応を解説します。
- 問題となっている動画や音声の証拠を残す
- 弁護士に相談する
- 具体的な対応を検討する
問題となっている動画や音声の証拠を残す
はじめに、問題となっている動画や音声の証拠を残します。発信者が問題となっていることを察知すれば、問題となっている動画やSNSのアカウントなどを削除するかもしれません。証拠が消えてしまう前に、スクリーンショットを撮影するなどして証拠を残しましょう。
弁護士に相談する
続いて、弁護士に相談します。
先ほど解説したように声の権利は確立された権利ではなく、法的措置が可能であるか否かは状況によって異なります。具体的な状況をもとに弁護士に相談することで、法的措置の可否やその後の対応などの判断がしやすくなるでしょう。
なお、「声の権利」自体が新しい概念であることから、相談する弁護士はカルチャー・エンターテイメント法務に特化している事務所を選ぶことをおすすめします。お困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。
具体的な対応を検討する
弁護士へ相談したうえで、状況に応じた具体的な対応を検討します。悪質な場合には発信者を特定したうえで、損害賠償請求ができる可能性があります。また、弁護士から連絡をすることで今後の権利侵害への抑止力となるでしょう。
声の権利に関するよくある質問
続いて、声の権利に関するよくある質問とその回答を紹介します。
声の権利を侵害されたら直ちに損害賠償請求や差止請求ができる?
声の権利侵害に対して損害賠償請求や差止請求ができるか否かは、ケースバイケースです。先ほど解説したように、声の権利は法律上確立された権利ではないためです。
そのため、まずは弁護士に相談をしたうえで、具体的な対処法を検討することをおすすめします。
声の権利の相談は誰にすべき?
声の権利に関してお困りの際は、カルチャー・エンタメ法務に力を入れている弁護士にご相談ください。お困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。
声の権利に関するお困りごとは伊藤海法律事務所までご相談ください
声の権利に関してお困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。最後に、当事務所の主な特長を4つ紹介します。
- カルチャー・エンターテイメント法務に特化している
- 代表は弁理士であり、知財に強い
- 多様な顧問プランを展開している
- 英文契約書にも対応している
カルチャー・エンターテイメント法務に特化している
伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声の権利に関する動向にも日々着目しています。
業界における取引慣習や生じやすいトラブルなども熟知しており、声優や俳優などとして活動されている方へのサポート実績も豊富であるため、安心してご相談いただけます。
代表は弁理士であり、知財に強い
伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほかに弁理士資格も有しています。そのため、知財の出願から侵害時の対応に至るまで、一貫したサポートが提供できます。
多様な顧問プランを展開している
伊藤海法律事務所はさまざまなクライアント様のニーズにお応えするため、4種類の顧問プランを設けています。顧問契約を締結することで、日常的な困りごとをお気軽にご相談いただくことが可能となります。
- スタンダードプラン:フリーランスや個人事業主、比較的小規模な中小企業、創業間もないベンチャー企業などを想定したプラン
- リーガルプラン:一般的な中小企業やメガベンチャーなどを想定したプラン
- コーポレートプラン:上場企業などを想定したプラン
- 包括的法務受託:実質的な法務部として稼働するプラン
また、LINEやChatwork、Slackなどさまざまなツールでの連絡に対応しているほか、法務部のグループチャットに弁護士を追加いただくことも可能です。
英文契約書にも対応している
声優や俳優として活動する中で、海外の企業や個人と契約すべき場面が生じることもあるでしょう。伊藤海法律事務所は英文契約書にも対応しているため、海外との契約についても一貫したリーガルサポートが提供できます。
まとめ
声の権利の概要や声の権利が着目されている背景、声の権利に関する法令・権利、声の権利が侵害された場合の初期対応などを解説しました。
声の権利とは、自分の声を無断で使用されない権利です。ディープフェイクの発達やSNSの普及などにより、声の権利保護の重要性が高まっています。
しかし、声の権利は法令で確立された権利ではなく、法律上の取り扱いは明確となっていません。現状としては、パブリシティ権の一種と捉えて権利を主張したり、不正競争防止法を根拠に違法性を訴えたりするほかないでしょう。声の権利侵害でお困りの際はまず弁護士に相談したうえで、具体的な状況に応じた対応策を検討することをおすすめします。
伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、声の権利にも着目しています。声の権利についても相談できる業界特化型の弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。



