社外取締役に資格の要件はないものの、弁護士が選任されるケースは少なくありません。

社外取締役に弁護士を選任するメリットは、どのような点にあるのでしょうか?また、弁護士を社外取締役とする場合、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?

今回は、社外取締役の概要や社外取締役に弁護士を選任するメリット、注意点などをくわしく解説します。

社外取締役とは

社外取締役とは、文字どおり社外から選任した取締役です。社内での昇進などによって取締役になるのではなく、それまで会社とは無関係であった者を登用することを意味します。

取締役は、他の取締役の適正な職務遂行を監督する役割を有します。しかし、社内から登用した取締役は「身内」である他の取締役に甘くなるおそれがあるほか、いわゆる「平取締役」が代表取締役などの職務に対して忖度なく異を唱えることは容易ではないでしょう。

そこで期待されるのが、社外取締役の活躍です。社外取締役は社内にしがらみがなく、より客観性の高い職務遂行が期待できます。社外取締役を登用することでガバナンスの強化につながるほか、自社を律しようとの姿勢が伝わり外部のステークホルダーからも高い信用を得やすくなります。

社外取締役が必要となるケース

社外取締役が必要なるのは、どのような場合なのでしょうか?ここでは、社外取締役の設置が必要となる3つのケースを解説します。

  • 指名委員会等設置会社である場合
  • 上場会社である場合
  • その他にコーポレートガバナンスの強化を図りたい場合

指名委員会等設置会社である場合

1つ目は、指名委員会等設置会社である場合です。指名委員会等設置会社とは、業務執行を行う者と経営の監督をする者が分かれている会社の組織形態です。

指名委員会等設置会社では、それぞれ次の役割を担います。

  • 指名委員会:取締役の選任・解任に関する議案の決定
  • 報酬委員会:個々の取締役の報酬の決定
  • 監査委員会:執行役や取締役の職務執行の監査など
  • 執行役:業務執行

業務執行をする者とこれを監督する者が分かれており、不正が起きづらい組織形態です。

指名委員会等設置会社において、各委員会は3名以上の取締役から構成されます。そして、各委員会の過半数は社外取締役である必要があるため、少なくとも2名の社外取締役が必要となります(会社法400条3項)。

上場会社である場合

2つ目は、上場会社である場合です。上場会社は投資家などを保護するため、より高いレベルでのガバナンスが求められます。

そのため、有価証券上場規程では、社外取締役を1名以上設置することを求めています(上場規程437条の2)。また、会社法にも、上場会社かつ大会社である監査役会設置会社は、社外取締役を置かなければならない旨の規定があります(会社法327条の2)。

そのため、上場を目指す企業は、社外取締役を設置しなければなりません。なお、上場には準備期間が必要であるため、少なくとも上場を目指す1期前からは社外取締役を設置しておくべきでしょう。

その他にコーポレートガバナンスの強化を図りたい場合

3つ目は、コーポレートガバナンスの強化を図る場合です。

社内から登用された取締役と比較して、社外取締役は忖度なく職務執行の監督などをする傾向にあります。そのため、社内のガバナンスを強化する目的から、成長途上にある企業が自発的に社外取締役を登用することがあります。

社外取締役の役割

社外取締役の役割については、東京証券取引所が公表している「コーポレートガバナンス・コード」の記載が参考になります。ここでは、「独立社外取締役には、特に以下の役割・責務を果たすことが期待される」として、次の4つの役割が挙げられています(原則4-7.独立社外取締役の役割・責務)。

  1. 経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと
  2. 経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと
  3. 会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること
  4. 経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること

単に厳しい監督だけが求められているのではなく、中長期的な企業の価値向上のための助言なども社外取締役の重要な役割であることがわかります。

社外取締役は、企業にとって決して「敵」ではありません。社外取締役は、ともに企業の持続的な成長を目指し、成長を目指すからこそときに厳しい視点での監督を担う立場です。

社外取締役の要件

社外取締役は、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか?ここでは、主な要件について解説します。

保有資格などの要件はない

社外取締役には、保有資格などの要件はありません。そのため、弁護士などの国家資格などを有していない者であっても、社外取締役となることができます。

ただし、次の者は取締役になることができず、社外取締役となることもできません(会社法331条1項)。

  1. 法人
  2. 法令の規定に違反し禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで、または執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
  3. 会社法など一定の法令に違反して刑に処せられ、その執行を終わり、またはその執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者

なお、以前は成年後見人や被保佐人も取締役となれないとされていたものの、改正により、一定の条件を満たした場合はこれらの者も取締役になり得るとされました。

「社外性」が必要である

社外取締役となるには、「社外性」を満たさなければなりません。社外性を満たすための要件は次のとおりです(同2条15項)。

  1. その株式会社や子会社の業務執行取締役・執行役・支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」という)でなく、かつ、その就任前10年間その株式会社や子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
  2. 就任前10年内のいずれかの時に、その株式会社や子会社の取締役・会計参与・法人である会計参与の社員・監査役であったことがある者(業務執行取締役等であったことがあるものを除く)の場合、これらへの就任前10年間、その株式会社や子会社の業務執行取締役等であったことがないこと
  3. その株式会社の自然人である親会社等・親会社等の取締役・執行役・支配人その他の使用人でないこと
  4. 親会社等の子会社等の業務執行取締役等でないこと
  5. その株式会社の取締役・執行役・支配人その他の重要な使用人または自然人である親会社等の配偶者や2親等内の親族でないこと

つまり、仮に自社がA社、親会社がB社、子会社がC社である場合において、次の者などは社外取締役とはなりません。

  • 8年前に辞めたA社の元従業員
  • 10年前から最近までC社の監査役であり、監査役となる前はC社の業務執行取締役であった者
  • B社の取締役
  • A社の取締役の配偶者、親・子(1親等)、孫・兄弟姉妹(2親等)

つまり、原則として自社や親会社、子会社などの「息のかかった者」は社外性要件を満たさず、社外取締役になれないということです。社外取締役を登用しようとする際は、社外性を満たすか否か厳重に確認する必要があるでしょう。

社外取締役に弁護士を選任するメリット

社外取締役に資格の制限などはないものの、社外取締役として弁護士を選任することには多くのメリットがあります。ここでは、主なメリットを3つ解説します。

  • ガバナンスをより強化しやすい
  • 法的なリスクを未然に防ぎやすくなる
  • コンプライアンス意識の高さを社外にアピールしやすい

ガバナンスをより強化しやすい

1つ目は、ガバナンスをより強化しやすくなることです。

弁護士は特に高い倫理観を求められる職種であり、ガバナンス強化との相性がよいといえます。また、顧問弁護士などとして他社のコーポレートガバナンス強化のサポートをする機会も少なくありません。

弁護士が社外取締役となることで、より高いレベルでのコーポレートガバナンスを実現しやすくなります。

法的なリスクを未然に防ぎやすくなる

2つ目は、法的なリスクを未然に防ぎやすくなることです。

弁護士は法律の専門家であり、日々法的なトラブルへの対応や遵守体制整備のサポートなどを行っています。そのため、弁護士を社外取締役とすることで、法令上の問題に未然に気付きやすくなり、法的なリスクを抑止しやすくなります。

コンプライアンス意識の高さを社外にアピールしやすい

3つ目は、コンプライアンス意識の高さを対外的にアピールできることです。

先ほど解説したように、弁護士を社外取締役とすることで、より厳しい視点での業務監督が実現できます。このような姿勢は企業の中長期的な成長に寄与するとはいえ、「多少不正をしてでも利益を上げたい」と考える経営陣や自身の保身を重視する経営陣にとっては、好ましいことではないでしょう。

そうであるにも関わらず、あえて弁護士を社外取締役とすることは、企業が長期的な価値向上を目指し自社を厳しく律しようとしていることを意味します。このような理由から、社外取締役として弁護士を登用することは、投資家や取引先、金融機関などのステークホルダーに対してコンプライアンス意識の高さをアピールするメッセージともなるでしょう。

社外取締役に弁護士を選任する注意点

社外取締役として弁護士を選任することには、注意点も存在します。ここでは、主な注意点を2つ解説します。

  • 保守的な判断をする傾向にある
  • 顧問弁護士を社外取締役とすることは慎重になるべきである

保守的な判断をする傾向にある

1つ目の注意点は、弁護士は保守的な判断をする傾向にあることです。

一般的に、弁護士は保守的な判断をする傾向にあります。これは厳しく自社を律しやすい一方で、成長途上であるスタートアップにとって足枷となることもあるでしょう。

「黒」を避けるべきであることは当然である一方で、「白に近いグレー」までを頭ごなしに否定されては、企業成長が困難となる場合もあります。

そのため、弁護士であることだけを理由に社外取締役を選任することはおすすめできません。後ほど解説しますが、企業成長をともに目指すとの目的を共有しつつ、企業を守るための対応策を建設的にともに検討してくれる弁護士を選ぶとよいでしょう。

「白に近いグレー」なのであればこれを実行した場合の具体的なリスク(罰則や社会的な影響など)を洗い出したり、何とか白に近づける方法はないかと共に検討したりすることなどが期待されます。

また、単に「護り」の姿勢で法律を使うのではなく「攻め」の姿勢を共有できる者を選任すると、企業成長にとってよりプラスとなります。

顧問弁護士を社外取締役とすることは慎重になるべきである

2つ目の注意点は、原則として顧問弁護士を社外取締役とするのは避けるべきであることです。もっとも身近な弁護士は顧問弁護士であり、それ以外に弁護士の心当たりがないという企業も少なくないでしょう。

顧問弁護士はこれまでの付き合いからある程度気心も知れており、社外取締役にするのであればその弁護士に依頼したい場合も多いと思います。

しかし、顧問弁護士と社外取締役との兼任は、原則として避けるべきとされています。なぜなら、顧問弁護士は企業と従属関係にあるわけではないとはいえ、顧客である法人や役員の意向に沿って業務を遂行する立場にある一方で、社外取締役は役員などの業務執行を監督する立場にあり、利益が相反するためです。

そのため、顧問弁護士を社外取締役とする場合には顧問弁護士としては辞任させるなど、慎重な対応が求められます。

社外取締役として相応しい弁護士の人物像

社外取締役として選任する弁護士は、どのような人物が相応しいのでしょうか?最後に、社外取締役として一般的に相応しいと考えられる人物像を紹介します。

  • 建設的な議論が期待できること
  • 会社の成長をともに目指してくれること
  • その業界事情にくわしいこと

当然ながら、弁護士も得意分野や考え方などはそれぞれ異なります。また、弁護士も人である以上、企業との相性もあるでしょう。そのため、保有資格のみで選任するのではなく、あらかじめ人となりや専門分野などをよく確認したうえで選任することをおすすめします。

建設的な議論が期待できること

社外取締役となる弁護士には、建設的な議論が期待できることが求められます。

社外取締役は、安全圏から業務執行を評論する立場ではありません。頭ごなしに否定するだけでは、企業の妨げとなるおそれがあります。

不正への迎合やリスクの見落としは当然ながらすべきではない一方で、ある方向性に問題があるのであれば代替案を出すなど、建設的な議論ができる弁護士を選任するとよいでしょう。

会社の成長をともに目指してくれること

社外取締役として選任する弁護士は、会社の成長をともに目指してくれる者が適任です。

先ほど紹介した「コーポレートガバナンス・コード」にも記載があるとおり、社外取締役は単に取締役の職務を監督するだけの役割を担うのではありません。その根底に企業価値の向上という経営陣と共通する目的があり、そうであるからこそ、厳しい目で業務執行を監督するのです。

この目標を共有せず、粗探しのようなことをされてしまうと、企業成長の足枷となってしまいかねません。そのため、社外取締役には、企業成長への思いを共有してくれる弁護士を選任するとよいでしょう。

その業界事情にくわしいこと

社外取締役としての弁護士には、その業界事情にくわしいこと、もしくは少なくとも今後業界事情を学んで行こうとする姿勢が求められます。業界の事情を一切知らなければ、企業成長を目指した適切な業務監督は期待できません。

業界事情を把握していることにより、適切なアドバイスや業務監督、建設的な議論が期待できます。初期段階では業界事情にくわしいとはいえなくとも、少なくとも継続的に学んでいく姿勢は求めるべきでしょう。

まとめ

社外取締役の概要や社外取締役として弁護士を選任するメリット・デメリット、社外取締役として相応しい人物像などを解説しました。

社外取締役の設置は企業が上場する際などに必要となるほか、コーポレートガバナンスを強化したい企業が自主的に登用することもあります。社外取締役となるために保有資格などの要件はないものの、弁護士を社外取締役とするメリットは少なくありません。

たとえば、ガバナンスをより強化しやすいことや、自社を律しようとする姿勢をステークホルダーにアピールしやすくなることなどです。

一方で、弁護士は一般的に保守的な判断をしがちである点や、顧問弁護士は原則として社外取締役に就任できない点などに注意が必要です。社外取締役には、自社の成長をともに目指し建設的な議論ができる弁護士を選任するとよいでしょう。

伊藤海法律事務所は、カルチャー・エンターテインメント法務とテクノロジー法務に特化した法律事務所です。代表である伊藤海は弁護士のほか弁理士資格も有しており、知財戦略の支援も強みとしています。社外取締役となる弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所まで、まずはお気軽にご相談ください。

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