特定商取引法の対象となる場合、特定商取引法上のルールを遵守する必要が生じます。

オンラインサロンの運営は、特定商取引法の対象となるのでしょうか?また、特定商取引法の規制には、どのようなものがあるのでしょうか?

今回は、オンラインサロンと特定商取引法について、弁護士が詳しく解説します。

オンラインサロンとは

オンラインサロンとは、SNSなどインターネット上で展開される会員制コミュニティです。単に主催者が発信する情報を受け取るオンラインセミナーやメールマガジンなどとは異なり、会員同士のコミュニケーションとしての場でもあることが最大の特徴です。

オンラインサロンは月額課金制であることが多く、いわゆるサブスクリプション型のビジネスモデルといえるでしょう。月額料金はサロンによってさまざまで、1,000円程度のものもあれば、数万円にのぼるものまで存在します。

特定商取引法とは

特定商取引法とはどのような法律でしょうか?ここでは、概要と特定商取引法の対象となる類型について解説します。

特定商取引法の目的

特定商取引法とは、事業者による違法や悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。

事業者と消費者との間では交渉力が異なることが一般的であり、民法などをそのまま適用してしまえば、消費者が不測の損害を受ける事態となりかねません。そこで、訪問販売や通信販売など特に消費者トラブルが生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフなど消費者を守るためのルールなどを定めています。

特定商取引法の対象となる6つの類型

特定商取引法は、すべての消費者取引を対象としているわけではありません。特定商取引法の態様となる取引は、次の6つの類型です。

  • 訪問販売
  • 通信販売
  • 電話勧誘販売
  • 連鎖販売取引
  • 特定継続的役務提供
  • 業務提供誘引販売取引

なお、この他に、自宅などを訪問して物品の買取りを行う「訪問購入」も特定商取引法の対象とされています。

訪問販売

訪問販売とは、事業者が消費者の自宅などに訪問して、商品や権利の販売や役務の提供を行う契約をする取引のことです。キャッチセールスやアポイントメントセールスもこれに該当します。

通信販売

通信販売とは、事業者が新聞や雑誌、インターネットなどで広告し、郵便や電話などの通信手段によって申込みを受ける取引です。ただし、次の 「電話勧誘販売」に該当するものを除きます。

電話勧誘販売

電話勧誘販売とは、事業者が電話で勧誘を行い、申込みを受ける取引です。電話をいったん切ってから、消費者が郵便や電話などによって申込みを行う場合もこれに該当します。

連鎖販売取引

連鎖販売取引とは、個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせる形で販売組織を連鎖的に拡大して行う商品(権利)や役務の取引です。いわゆる「マルチ商法」などがこれに該当します。

特定継続的役務提供

特定継続的役務提供とは、長期かつ継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引です。いわゆるサブスク型の取引であるからといってすべてがこれに該当するわけではなく、2024年2月現在、次の7つの役務(サービス)のみが対象とされています。

  1. エステティック
  2. 美容医療
  3. 語学教室
  4. 家庭教師
  5. 学習塾
  6. 結婚相手紹介サービス
  7. パソコン教室

業務提供誘引販売取引

業務提供誘引販売取引とは、「仕事を提供するので収入が得られる」という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金銭負担を負わせる取引です。たとえば、販売されるパソコンとコンピューターソフトを使用して行うホームページ作成の在宅ワークや、購入したチラシを配布する仕事などがこれに該当します。

オンラインサロンは特定商取引法の規制対象となるか

オンラインサロンは、特定商取引法の対象となるのでしょうか?ここでは、先ほど解説した類型に合わせて解説します。なお、実際には特定商取引法上のある類型に該当するかどうか、判断に迷うこともあるでしょう。その際は、あらかじめ弁護士へご相談ください。

特定商取引法の「通信販売」に該当することが多い

オンラインサロンは、インターネット上の広告を見て、インターネット上で申し込むことが多いでしょう。そのため、オンラインサロンが有料である場合、原則として特定商取引法上の「通信販売」に該当します(第三者のプラットフォームを利用する場合は除きます。)。

特定商取引法の「業務提供誘引販売取引」に該当することもある

オンラインサロンの中には、オンラインサロンの会員であることを条件に仕事を発注するとの仕組みをとることがあります。この場合は、特定商取引法上の「業務提供誘引販売取引」に該当する可能性があります。

特定商取引法の「特定継続的役務提」に該当することもある

オンラインサロン事態は、原則として「特定継続的役務提供」にはあたりません。先ほど解説したように、特定継続的役務提供は7つの役務に限定されているためです。

しかし、オンラインサロンに入会することで英会話レッスンが受けられるなど、内容によっては特定継続的役務提供に該当する可能性があります。

特定商取引法の「連鎖販売取引」に該当することもある

オンラインサロンに加入することを条件に、特定の商品やサービスを販売する権利が付与されることがあります。この場合は、特定商取引法上の「連鎖販売取引」に該当する可能性があります。

オンラインサロンが特定商取引法の「通信販売」に該当する場合の主な規制

オンラインサロンが特定商取引法の対象となる場合には、どのような規制の対象となるのでしょうか?遵守すべき規制は、そのオンラインサロンがどの取引類型に該当するかによって異なります。

ここでは、そのオンラインサロンが特定商取引法上の「通信販売」に該当することを前提として解説します。

広告の表示

通信販売は隔地者間(店舗での販売などとは異なり、対面ではない間柄)での取引です。申込みを受けるにあたっては、まず事業者(オンラインサロンの運営者)が広告をすることとなりますが、この広告の記載が不十分であったり不明確であったりすると、後日トラブルとなってしまいかねません。

そこで、特定商取引法では、広告で次の事項を表示すべきとしています。

  1. 販売価格(役務の対価)(送料についても表示が必要)
  2. 代金(対価)の支払時期、方法
  3. 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
  4. 申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨とその内容
  5. 契約の申込みの撤回または解除に関する事項(商品の返品特約がある場合はその内容を含む)
  6. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
  7. 事業者が法人であってインターネット上で広告をする場合には、その事業者の代表者または通信販売に関する業務の責任者の氏名
  8. 事業者が外国法人または外国に住所を有する個人であって、国内に事務所等を有する場合には、その国内事務所の所在場所と電話番号
  9. 販売価格、送料等以外に購入者等が負担すべき金銭があるときには、その内容とその額
  10. 引き渡された商品が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
  11. いわゆるソフトウェアに関する取引である場合には、そのソフトウェアの動作環境
  12. 契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び販売条件又は提供条件
  13. 商品の販売数量の制限等、特別な販売条件(役務提供条件)があるときは、その内容
  14. 請求によりカタログ等を別途送付する場合、それが有料であるときには、その金額
  15. 電子メールによる商業広告を送る場合には、事業者の電子メールアドレス

 

とはいえ、広告スペースの関係で、広告にこれらすべての事項を表示することが難しい場合もあるでしょう。

その場合は、消費者からの請求によって、これらの事項を記載した書面または電子メールで「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ実際に「遅滞なく」提供できるような措置を講じている場合には、一部項目を省略することが可能です。

ただし、省略できる事項は事業者が自由に決められるものではなく、省略できる事項とできない事項について細かな定めが設けられています。

表示事項 販売価格・送料その他消費者の負担する金額
全部表示したとき 全部表示しないとき
代金等の支払時期 前払の場合 省略できない 省略できる
後払の場合 省略できる 省略できる
代金等の支払方法 省略できる 省略できる
商品の引渡時期等 遅滞なく行う場合 省略できる 省略できる
それ以外 省略できない 省略できる
申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容 省略できない 省略できない
返品に関する事項を除く契約の申込みの撤回又は解除に関する事項 省略できる 省略できる
返品に関する事項(返品の可否・返品の期間等条件、返品の送料負担の有無) 省略できない 省略できない
販売業者の氏名(名称)、住所、電話番号 省略できる 省略できる
法人であって情報処理組織を使用する広告の場合に法人においては代表者名又は責任者名 省略できる 省略できる
事業者が外国法人又は外国に住所を有する個人であって、国内に事務所等を有する場合には、その所在場所及び電話番号 省略できる 省略できる
引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任 負う場合 省略できる 省略できる
負わない場合 省略できない 省略できる
ソフトウェアを使用するための動作環境 省略できない 省略できない
契約を2回以上継続して締結する場合の販売条件又は提供条件 省略できない 省略できない
販売数量の制限等特別の販売条件(提供条件)があるときは、その内容 省略できない 省略できない
請求により交付する書面又は提供する電磁的記録が有料のときは、その価格 省略できない 省略できない
(電子メールで広告するときは)電子メールアドレス 省略できない 省略できない

引用元:特定商取引法ガイド(消費者庁)

省略できる事項とできない事項について判断に迷う場合は、弁護士へご相談ください。

誇大広告等の禁止

誇大広告がなされてしまうと、消費者がそのオンラインサロンに申し込むかどうか適切に判断することができません。

そこで、誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告による消費者トラブルを未然に防止するため、次の広告表示を禁止しています。

  • 著しく事実に相違する表示
  • 実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示

未承諾者に対する電子メール広告の提供の禁止

特定商取引法では、消費者があらかじめ承諾しない限り、事業者が電子メール広告を送信することを、原則として禁止しています。電子メール広告を送信することについて消費者から承諾や請求を受けた場合は、その承諾や請求があった記録を、最後に電子メール広告を送信した日から3年間保存しなければなりません。

ただし、次の場合は規制の対象外です。

  1. 契約の成立や注文確認、発送通知などに付随した広告:契約内容や契約履行に関する通知など、重要な事項を通知するメールの一部に広告が含まれる場合
  2. メルマガに付随した広告:消費者からの請求や承諾を得て送信するメルマガの一部に広告を記載する場合
  3. フリーメール等に付随した広告:インターネット上で無料でメールアドレスを取得できるサービスで、無料の条件として、利用者がそのアドレスからメールを送ると自動的にメールに広告が記載されるものなどの一部に広告を記載する場合

特定申込みを受ける際の表示

インターネット上で契約の申込み(オンラインサロンへの入会申込み)を受ける場合、最終確認画面で次の事項を表示しなければなりません。

  1. 分量
  2. 販売価格(役務の対価)(送料についても表示が必要)
  3. 代金(対価)の支払時期、方法
  4. 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
  5. 申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨とその内容
  6. 契約の申込みの撤回または解除に関する事項(売買契約に係る返品特約がある場合はその内容を含む)

これらの事項について、誤認させるような表示は禁止されています。

前払式通信販売の承諾等の通知

前払式通信販売とは、消費者が商品の引渡し(権利の移転、役務の提供)を受ける前に、代金(対価)の全部あるいは一部を支払う取引です。この前払式通信販売に該当する場合において、代金を受け取ってから商品の引き渡しまでにおおむね1週間以上の時間を要する場合は、消費者に対して次の事項を記載した書面を渡さなければなりません。

  1. 申込みの承諾の有無(代金(対価)を受け取る前に申込みの承諾の有無を通知しているときには、その旨。なお、承諾しないときには、受け取ったお金をすぐに返すことと、その方法を明らかにしなければならない)
  2. 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号
  3. 受領した金銭の額(それ以前にも金銭を受け取っているときには、その合計額)
  4. 金銭を受け取った年月日
  5. 申込みを受けた商品とその数量(権利、役務の種類)
  6. 承諾するときには、商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期。なお、期間または期限を明らかにすることにより行わなければならない)

契約解除に伴う不実告知の禁止

消費者が申込みの撤回をしたり解除をしたりすることを妨げるために、申込みの撤回や解除に関する事項や契約の締結を必要とする事情に関する事項について、事実と違うことを告げることは禁止されています。

契約解除に伴う債務不履行の禁止

申込みの撤回や解除がなされた場合、原則として契約当事者双方に原状回復義務が課されます。この場合において、事業者が代金返還など債務の履行を拒否したり、遅延したりすることは禁止されています。

顧客の意に反して申込みをさせようとする行為の禁止

インターネット通販では、顧客の意に反して申込みをさせる行為が禁止されています。

「意に反して申込みをさせる行為」とは、消費者が申込み内容を容易に確認することができないものや、訂正できないものなどを指します。

たとえば、最終確認画面において注文内容を容易に確認できない場合や、訂正するための手段(「変更」、「注文内容を修正する」、「前のページへ戻る」などのボタンの設定等)が提供されていない場合などはこれに該当する可能性があります。

参照元:通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン (消費者庁)

オンラインサロンの運営で特定商取引法に違反しないためのポイント

オンラインサロンの運営で特定商取引法に違反しないためには、どのような点に注意する必要があるのでしょうか?最後に、特定商取引法に違反しないためのポイントを2つ解説します。

  • 法令やガイドラインを読み込んでおく
  • 弁護士へ相談する

法令やガイドラインを読み込んでおく

1つ目は、特定商取引法の法令やガイドラインを読み込んでおくことです。

特定商取引法については、消費者庁がわかりやすいホームページ(特定商取引法ガイド)を開設しています。このホームページを一読するだけでも、自身が開設しているオンラインサロンが特定商取引法の対象となるかどうかや、遵守すべき事項が把握しやすくなるでしょう。

弁護士へ相談する

2つ目は、弁護士へ相談することです。

自身が運営するオンラインサロンにおいて、特定商取引法やその他の法令に違反しないために具体的に何をすべきか、自分ですべて把握することは容易ではありません。また、実際に準備を進める中で、「本当にこれで合っているのか」と不安に感じることもあるでしょう。

そのため、オンラインサロンの運営にあたっては、弁護士へご相談ください。

弁護士へ相談してオンラインサロン開設の準備を行うことで、思いがけず特定商取引法などの法令に違反してしまう事態を防ぐことが可能となります。また、法令違反ではないかとの不安が解消され、自信を持って運営に取り組みやすくなります。

まとめ

オンラインサロンの運営は、原則として特定商取引法上の「通信販売」に該当します。また、オンラインサロンの形態によっては、「業務提供誘引販売取引」や「特定継続的役務提」、「連鎖販売取引」に該当する可能性もあります。

オンラインサロンが特定商取引法の対象となる場合は、広告の表示や特定申込みを受ける際の表示など必要な規制を遵守しましょう。自身の運営するオンラインサロンが特定商取引法の対象となるかわからない場合や、遵守すべき規制の内容などがわからない場合は、弁護士へご相談ください。

伊藤海法律事務所ではオンラインサロン運営のサポートに力を入れており、数多くのサポート実績や顧問実績がございます。オンラインサロンの運営をご検討の際や特定商取引法の遵守についてお悩みの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

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