社外監査役を設置することで、社内のガバナンスを強化することが可能となります。また、上場を目指す場合には社外監査役を選任しなければなりません。

社外監査役とは、どのような役割を担うのでしょうか?また、社外監査役を弁護士に依頼することには、どのようなメリットや注意点があるのでしょうか?

今回は、社外監査役の役割や要件、弁護士に依頼するメリットなどについて、弁護士がくわしく解説します。

社外監査役とは

社外監査役とは、社内からの昇進で就任させたのではなく、社外から選任した監査役のことです。

監査役とは株式会社における機関の一つであり、原則として取締役の職務執行の監査と、会計監査を担います。また、非公開会社である場合は定款で定めることにより、職務を会計監査に限定した「会計限定監査役」の設置も可能です。

株式会社の期間設計にはさまざまなパターンがあり、必ずしも監査役を設置しなければならないわけではありません。たとえば、取締役1名として、監査役を設置しない機関設計も可能です。一方で、取締役会があり会計参与を設置していないなど、一定の場合には監査役の設置が義務となります。

監査役は社内から昇進させる場合のほか、社外の適任者を選任する場合もあります。このうち、社外から選任した監査役のうち一定の要件を満たした者が、社外監査役です。

なお、社外から監査役を選任したからといって、必ずしも登記事項になるわけではありません。監査役会設置会社である場合に限り、社外監査役である旨が登記事項となります。

社外監査役を選任すべき主な場面

社外監査役の選任が法律上必要となるのは、どのような場合なのでしょうか?ここでは、社外監査役が必要となる主なケースを2つ解説します。

  • 上場を目指す場合
  • 社内のガバナンスを強化したい場合

上場を目指す場合

1つ目は、上場を目指す場合です。

企業が上場する場合、監査役会設置会社としなければなりません。監査役会設置会社とは、監査役会を設置する株式会社です。

監査役会は3人以上の監査役から構成され、監査役の過半数は社外監査役であることが求められます(会社法335条3項)。つまり、上場をしようとする場合、少なくとも2名(監査役の最低人数である3名の過半数)の社外監査役が必要になるということです。

社外監査役を選任しようにも、すぐには適任者が見つからないことも少なくありません。そのため、少なくとも上場の3年ほど前から、社外監査役などの人選を進める必要があるでしょう。

社内のガバナンスを強化したい場合

2つ目は、社内のガバナンスを強化したい場合です。

監査役は、取締役などの業務執行を監視する役割などを担います。社外監査役は取締役などとのしがらみが少なく、より客観的な業務監視が可能です。そのため、社外監査役を設置することで、経営陣の暴走や不祥事の抑止につながります。

また、社外監査役が監視することで効率的な経営がしやすくなり、企業が長期的に成長しやすくなる効果も期待できるでしょう。企業がガバナンスを強化したい場合は、任意に社外監査役を設置することが一つの有効な手段となります。

社外監査役の要件

社外監査役となるには、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか?ここでは、社外監査役の主な要件を解説します。ある者が社外監査役の要件を満たすか否か判断に迷う場合には、弁護士へご相談ください。

監査役の要件

社外監査役となるには、その前提として、監査役としての要件を満たすことが必要です。

監査役となるために、特別な資格などは必要ありません。ただし、会社法の規定により、次の者は監査役になれないとされています(同335条1項、331条1項)。

  1. 法人
  2. 会社法など一定の法律に違反して刑に処せられ、その執行を終わり、またはその執行を受けることがなくなった日から2年以内の者
  3. 他の法令に違反して禁錮以上の刑に処され、その執行を終わるまで、またはその執行を受けることがなくなるまでの者(執行猶予中の者を除く)
  4. 成年後見人が就任を承諾しない成年被後見人など
  5. その会社や子会社の、取締役、支配人、その他の使用人、会計参与、会計参与が法人であるときはその職務を行う社員、執行役

これら以外の者は、監査役となることができます。

社外監査役の要件

社外監査役となるには、監査役となる要件を満たしたうえで、次の要件をすべて満たさなければなりません(同2条16項)。

  1. 就任前10年以内に、その会社または子会社の取締役、会計参与、会計参与が法人であるときはその職務を行うべき社員、執行役、支配人、その他の使用人であったことがないこと
  2. 就任前10年以内のいずれかの時にその会社またはその子会社の監査役であったことがある者については、その監査役への就任前10年間以内にその会社またはその子会社の取締役、会計参与、会計参与が法人であるときはその職務を行うべき社員、執行役、支配人、その他の使用人であったことがないこと
  3. その会社の自然人である親会社等や、親会社等の取締役、監査役、執行役、支配人、その他の使用人でないこと
  4. その会社の親会社等の子会社等(その株式会社とその子会社を除く)の業務執行取締役等でないこと
  5. その会社の取締役、支配人、その他の重要な使用人、自然人である親会社等の配偶者または2親等内の親族でないこと

つまり、次の者などは社外監査役になれないということです。

  • 5年前まで自社の取締役であった者
  • 15年前から2年前まで自社の監査役であり、監査役への就任直前まで自社の取締役であった者
  • 自社の取締役の子(1親等)、親(1親等)、兄弟姉妹(2親等)

ある者について社外監査役となる要件を満たすか否か判断に迷う場合には、あらかじめ弁護士へご相談ください。

社外監査役を弁護士に依頼する主なメリット

社外監査役となるために資格は必要ないものの、弁護士に依頼することもできます。実際に、弁護士が社外監査役となっているケースは少なくありません。

では、社外監査役を弁護士とすることには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、主なメリットを3つ解説します。

  • ガバナンスが強化できる
  • 法令を踏まえた的確な監査が期待できる
  • 対外的な信用が得やすい

ガバナンスが強化できる

1つ目は、ガバナンスの強化に特につながりやすいことです。

弁護士は職務の執行にあたって、高い倫理観が求められます。つまり、社外監査役が弁護士である場合、特に法令違反について厳しい視点でのチェックを受けやすいということです。

また、弁護士は複数の企業の社外監査役に就任しているケースも多く、その場合はガバナンス強化のためのさまざまな知見を有していることが期待できるでしょう。そのため、社外監査役として弁護士を選任することで、ガバナンスの強化が期待できます。

法令を踏まえた的確な監査が期待できる

2つ目は、法令を踏まえた的確な監査が期待できることです。

取締役などの業務執行などを適切に監視するには、基本的な法令のほか、その企業に関連する業法などを把握しておかなければなりません。弁護士はこれらの法令を熟知しており、必要に応じて判例の調査なども行います。

そのため、法令違反を未然に防ぎやすくなるほか、万が一違反が生じた際も早期発見と是正が期待できます。

対外的な信用が得やすい

3つ目は、対外的な信用が得やすくなることです。

先ほど解説したように、弁護士を社外監査役に据えることは、より高いレベルでの厳しい監査を受けやすくなるということです。そのため、不祥事の抑止効果が特に強まり、株主や金融機関、取引先など社外からの信用を得やすくなります。

社外監査役を弁護士に依頼する際の留意点

社外監査役を弁護士に依頼することには、注意点もあります。ここでは、2つの注意点を解説します。

  • 保守的な判断をする傾向にある
  • 原則として顧問弁護士との兼任は避けるべき

保守的な判断をする傾向にある

一般的に、弁護士は保守的な判断をする傾向にあります。

もちろん、法令違反はいかなる場合も避けるべきです。杓子定規で禁止しているのではなく、法令違反が横行すれば従業員のモチベーションが低下しかねないほか、発覚した際に罰則が適用されて事業が立ち行かなくなったり、「炎上」して顧客や取引先が離れたりするおそれがあるためです。長期的に見た際に、法令違反は企業成長の妨げとなりかねません。

一方で、事業を成長させるためには、ある程度のリスクをとるべき場合もあるでしょう。そうであるにもかかわらず、社外監査役である弁護士が過度に保守的である場合、企業の成長に差し支えるおそれがあります。

そのため、社外監査役に弁護士を選任する際は「弁護士」というだけで選ぶのではなく、その弁護士の特性や考え方などを十分に確認したうえで、自社に合った者を選任すべきです。

原則として顧問弁護士との兼任は避けるべき

多くの企業にとってもっとも身近な弁護士といえば、顧問弁護士であることでしょう。長期に渡って顧問を務めている弁護士であれば信頼関係も構築できており、顧問弁護士に社外監査役を依頼したいと考えることも多いと思います。

しかし、原則として、顧問弁護士と社外監査役との兼任は避けるべきです。なぜなら、これらの職務の兼任は、利益相反となるおそれが強いためです。

たとえば、代表取締役が職務を怠慢し企業に損害が生じた場合、社外監査役は株主などの利益を守るため、代表取締役の責任を追及すべき立場です。一方で、代表取締役などをサポートしてきた顧問弁護士でもある場合、その弁護士が代表取締役に対して適切な責任追及ができるか否か、株主から疑問視されやすいでしょう。

このように、立場の異なる社外監査役と顧問弁護士の兼任は、利益相反となることが少なくありません。そのため、原則として兼任は避けるべきであるといえます。

社外監査役を依頼する弁護士を選ぶ主な基準

先ほど解説したように、弁護士資格を有しているという点だけで社外監査役を選任することはおすすめできません。人選を誤ると過度に保守的な対応をされ、事業成長の妨げとなるおそれがあるためです。

では、社外監査役への就任を依頼する弁護士は、どのような基準で選べばよいのでしょうか?最後に、社外監査役を依頼する弁護士を選ぶ主な視点を4つ解説します。

  • その業界事情にくわしいこと
  • 自社の成長をともに目指してくれること
  • 建設的な議論が期待できること
  • 自社の成長フェーズに合った助言が期待できること

その業界事情にくわしいこと

1つ目は、自社の業界事情にくわしいことです。

弁護士であるからといって、あらゆる分野の業界事情や業界慣習にくわしいわけではありません。特に、IT分野やエンタメ分野、海外との取引が頻繁に発生する分野などでは、弁護士の得意・不得意が分かれやすいといえるでしょう。

社外監査役となる弁護士が自社の業界事情にくわしければ、より的確かつ自社の成長に寄与する監査が期待できます。

とはいえ、特殊な業界ではその業界事情を熟知した弁護士がなかなか見つからないかもしれません。その場合は、少なくとも積極的に業界事情を学ぶ意欲のある弁護士を選任することをおすすめします。

自社の成長をともに目指してくれること

2つ目は、自社の成長をともに目指してくれることです。

社外監査役は取締役の業務などを監視する役割である以上、取締役に対して厳しい判断をせざるを得ない場合もあります。しかし、それは本質的には自社の長期成長を目指し、株主などのステークホルダーに寄与することが目的であるはずです。その本質から外れて厳しく監視することだけが目的となれば、自社の健全な成長に支障をきたすおそれさえあるでしょう。

そのため、社外監査役となる弁護士には、経営的な視点を持ち自社の成長をともに目指してくれる者を選ぶことをおすすめします。

なお、「自社の成長をともに目指す」ことは、「監査が甘い」こととイコールではありません。成長を目指すことと厳しい監査をすることは両立し得ることであり、むしろ本気でともに成長を目指すからこそ、厳しい監査をすべき場面もあります。

建設的な議論が期待できること

3つ目は、建設的な議論が期待できることです。

社外監査役は業務執行などを監査する立場であり、法的に黒であるものはもちろんのこと、基本的にはグレーであってもブレーキをかけることでしょう。

しかし、単にマイナス面を指摘するだけでは、役割として十分とはいえません。可能な限り具体的な代替案を提示するなど、企業の成長のためにどうすべきか建設的な議論ができるとベストです。

そのため、社外監査役となる弁護士を選任する際は、建設的な議論が期待できるか否かを一つの基準にするとよいでしょう。

自社の成長フェーズに合った助言が期待できること

4つ目は、自社の成長フェーズに合った助言が期待できることです。

企業のリソースは当然ながら有限であり、成長段階にあるスタートアップではリソースが不足することも少なくありません。また、投資家などのステークホルダーが企業に求める役割も、両者では異なることでしょう。

そのため、社外監査役である弁護士には、その企業の成長フェーズに合った助言が求められます。

まとめ

社外監査役の役割や要件、社外監査役に弁護士を選任するメリットや注意点などについて解説しました。

企業が上場する際は監査役会の設置が必要となり、少なくとも2名(監査役の過半数)の社外監査役の設置が求められます。社外監査役になるために資格などは必要ないものの、弁護士が社外監査役となるケースは少なくありません。

一般的に、弁護士はより保守的な判断をする傾向にあります。その反面、弁護士を社外監査役とすることでガバナンスのさらなる強化や法令を踏まえた的確な監査が期待できるほか、社外からの信用向上にもつながるでしょう。

とはいえ、どの弁護士に社外監査役を依頼すべきか心当たりがないことも少なくないと思います。もっとも身近である顧問弁護士は、利益相反のおそれが高いため、社外監査役とすることは避けるべきであるためです。

その際は、経営的な視点を持ち建設的な議論が期待できる弁護士のうち、自社の業界にくわしい弁護士を選定することをおすすめします。

伊藤海法律事務所の代表・伊藤海は弁護士のほかに弁理士資格も有しており、カルチャー・エンターテインメント法務やテクノロジー法務、スタートアップ支援などを特に強みとしています。また、社外役員などの実績も豊富であり、外国人人材派遣業やコンサル、物流事業、飲食、FoodTech、GovTech、イベント開発事業などの分野において、社外役員やアドバイザー、特別顧問、相談役としての実績があります。

なお、上場企業に買収された非公開会社やIPO前に至急監査役会の設置を義務付けられた企業については緊急優先的な対応も可能です。社外監査役となる弁護士をお探しの際には、伊藤海法律事務所まで、まずはお気軽にご相談ください。

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