動画でのマーケティング活動がより身近なものとなっています。近年では、自社のPR動画などを製作する企業も少なくありません。とはいえ、自社で動画制作を行うためには相当のリソースが必要となるため、動画制作は外注することが多いでしょう。
しかし、動画制作の委託をめぐってトラブルに発展してしまうこともあります。では、トラブルを未然に防ぐため、動画制作の契約書ではどのような点に注意する必要があるのでしょうか?また、動画制作の契約書の作成を弁護士に依頼することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
今回は、動画制作の契約書について詳しく解説します。
動画制作の委託時に契約書が必要である主な理由
契約は、口頭であっても成立します。しかし、動画制作の委託にあたっては契約書を締結したほうが良いでしょう。
はじめに、動画制作の委託時に契約書が必要である主な理由を3つ紹介します。
- 委託範囲などの条件のすり合わせができるから
- 知的財産権について明確にすることができるから
- トラブル発生時の対応がスムーズとなりやすくなるから
委託範囲などの条件のすり合わせができるから
1つ目は、契約書を取り交わし文書で確認することで、委託範囲など条件のすり合わせができるためです。
口頭での受発注の場合、委託した業務の範囲があいまいとなることがあります。たとえば、動画の素材となる映像はどちらが撮影するのか、映像の撮影場所はどちらが確保するのか、シナリオはどちらが用意するのか、動画に字幕は付けるのか、動画の修正は料金内で対応するのかなどです。
受発注の時点で契約書を取り交わして対応範囲を明確とすることで、料金内での対応範囲に関するトラブルを避けやすくなります。
知的財産権について明確にすることができるから
2つ目は、知的財産権に関するトラブルを避けやすくなるためです。
動画制作では、知的財産権にまつわるトラブルが少なくありません。たとえば、制作を発注した企業(以下、「委託企業」といいます)が動画を改変したところ、動画制作会社から著作権侵害を主張される事態などが想定されます。
また、動画制作会社が動画に組み込んだBGMが他者の著作権を侵害していた場合、この責任を委託企業と動画制作会社のどちらが負うのかなども、問題となりやすいポイントです。
このような問題は、契約書で知的財産権に関する取り扱いを明確にしておくことで防ぐことができます。
トラブル発生時の対応がスムーズとなりやすくなるから
3つ目は、トラブル発生時の対応がスムーズとなりやすいからです。
相手方が契約違反をしたとしても、契約書がなければ対応に苦慮する事態となりかねません。契約書がなければ、そもそも「契約違反」を立証することが困難であるほか、損害賠償請求をしようにも損害額の立証が難しいことも少なくないためです。
あらかじめ契約書を取り交わし、禁止事項や禁止事項に違反した場合の対応などを明記しておくことで、トラブル発生時の対応がスムーズとなります。
動画制作の契約書への主な記載項目とポイント
動画制作の契約書には、どのような項目を記載する必要があるのでしょうか?ここでは、主な記載項目と記載のポイントを解説します。
- 用語の定義
- 委託する業務の内容
- 再委託の可否や条件
- 納期
- 対価と支払いの時期
- 知的財産権の帰属
- 映像の使用条件や範囲
- 改変の可否
- 原版の保管期限
- 秘密保持
- 第三者の権利侵害がないことの保証
- 損害賠償
ただし、動画制作の契約書を自社だけで作成することは容易ではありません。いざというときに自社の身を守る契約書を作成したい場合には、弁護士のサポートを受けるようにしてください。
用語の定義
はじめに、この契約書で使う用語について定義します。当事者をそれぞれ「甲」「乙」と表記することや、この契約を「本契約」と表記すること、この契約によって制作する動画を「本動画」と表記することなどです。
なお、契約書において当事者は「甲」「乙」と表記することが多いものの、必ずしもこのように表記すると決まっているわけではありません。単に毎回正式名称で記載すると契約書が長くなることから言い換えをしているだけであり、わかりにくい場合は会社名のままとしたり、「委託者」「制作会社」など別の表現としたりすることなども可能です。
委託する業務の内容
契約書では、委託する業務の内容を明記します。ここは当事者間の認識がすべてであり、曖昧である場合に民法など他の法令でカバーすることは困難です。そのため、可能な限り具体的に、業務範囲を定めておきましょう。
ここで定めた業務を動画制作会社が履行することで、報酬の請求が可能となります。一方で、ここに定めた業務を期限までに動画制作会社が行わない場合には、損害賠償請求などの対象となります。
このように、委託業務の内容は契約の根幹となるため、当事者間でしっかりとすり合わせをしたうえで、契約書に明記してください。
再委託の可否や条件
動画制作の委託は、民法上の「請負」契約に分類されることが一般的です。請負契約の場合、原則として再委託をすることができます。つまり、請け負った業務の一部を、特に委託企業の承諾を得ることなく他社に下請けに出すことができるということです。
そのため、委託企業として再委託を望まないのであれば、契約書に再委託を禁じる旨を盛り込む必要があります。また、再委託をする場合には委託企業の書面での同意を得るとすることも一つでしょう。
一方、動画制作会社として再委託を予定している場合には、後々のトラブルを避けるため、再委託が可能である旨を契約書に記載しておくと安心です。先ほど解説したように、請負契約であれば、特に契約書に記載しなくても再委託をすることができます。
しかし、契約の内容によっては請負契約ではなく原則として再委託ができない「委任契約」と判断される可能性もゼロではなく、再委託は契約違反であるなどと委託企業から主張されるおそれもあるためです。
納期
契約書には、納期を明記しましょう。併せて、納品方法(データをメールで送るのか、入稿するのか、DVDなどとするのかなど)も定めておくことをおすすめします。
また、通常はデータを渡した時点で納品とするのではなく、その後委託企業が検収して、研修に合格した時点で納品の完了とすることが一般的です。なぜなら、委託企業としては、制作された動画が依頼した仕様と大きく異なる場合には、修正してほしいと考えるためです。
そのため、納品後の検収期間を定め、仕様を満たしていない場合は無償で修正を依頼できる旨を定めることが多いでしょう。一方で、動画制作会社は、修正対応の回数を限定するなど無制限に無償で修正を依頼される事態を避けるための工夫が必要となります。
対価と支払いの時期
契約書には、対価とその支払い時期を記載します。併せて、動画制作会社側は、追加料金が発生する可能性がある旨や追加料金が発生する条件なども記載しておくと安心です。
知的財産権の帰属
動画制作では、知的財産権についてトラブルとなることが少なくありません。
動画制作会社が制作した動画の著作権は、原則としてその動画制作会社に帰属します。しかし、委託企業としては、対価を支払って依頼した以上、著作権も当然に自社に帰属すると考えていることが多いためです。
そのため、著作権の帰属先を契約書で明記しておきましょう。
映像の使用条件や範囲
原則どおり著作権が動画制作会社に残る場合、委託企業は動画の使用許諾を受けている状態となります。この場合は、動画の使用条件や使用範囲について契約書で定めることが必要です。
改変の可否
著作権に関連して、委託会社側で動画を改変することが可能かどうかも、契約書で定めておきましょう。
動画の著作権が動画制作会社に残る場合はもちろんのこと、動画の著作権を委託会社に移転させる場合であっても、著作者人格権は制作会社側に残ります。
著作者人格権とは著作物の制作者が有する権利であり、譲渡することができません。著作者人格権の中には「同一性保持権(著作物を自分の意に反して勝手に改変されない権利)」があり、無断で改変すればこれを侵害するおそれがあります。
そのため、著作権譲渡の有無にかかわらず、改変の可否についても契約書で定めておくことが必要です。
原版の保管期限
動画の納入方法にもよりますが、動画の原版(オリジナルデータ)は納品後も制作会社が補完することが一般的です。しかし、動画制作会社も無限にデータを保管できるわけではありません。
そこで、原版の保存期間を契約書で定めることが一般的です。保存期間は契約によって異なりますが、3年から5年程度とすることが多いでしょう。
秘密保持
動画制作の委託では、委託企業から動画制作会社に機密情報を開示することがあります。
たとえば、新製品の販売であれば、その製品の内容や発売日などがこれに該当します。また、動画制作を委託していること自体や、関与しているスタッフの情報などを外部に知られたくない場合もあるでしょう。
そのため、動画制作の委託契約には、秘密保持条項を設けることが一般的です。
第三者の権利侵害がないことの保証
動画制作にあたって、動画制作会社が他者の著作権を侵害してしまうケースはゼロではありません。動画制作会社が無断で著作権侵害をしたとしても、これを知らずに委託企業がその動画を流した結果、委託企業の評判が落ちてしまうリスクもあります。
そのため、動画制作の委託契約書では、納品する動画が第三者の権利を侵害していないことについて動画制作会社が保証する旨の条項を入れるとよいでしょう。権利侵害をしないことは当然のことではあるものの、あえて条項を入れることで権利侵害の抑止力となり得るほか、違反時の損害賠償請求もしやすくなります。
損害賠償
動画製作契約について契約違反が生じた場合、損害賠償請求の対象となります。しかし、損害賠償請求をするためには損害額を立証しなければならず、これは容易ではありません。
そこで、契約書内で契約違反時に損害賠償ができる旨を定めたうえで、損害賠償額を予定する条項を入れることが検討できます。
動画制作の契約書で特に注意すべきポイント
動画制作の契約書では、特にどのような点に注意する必要があるのでしょうか?ここでは、特に注意が必要なポイントについて解説します。
- 料金内で行う業務の範囲
- 納品の条件
- 知的財産権の帰属や取り扱い
料金内で行う業務の範囲
1つ目は、料金内で行う業務の範囲です。
委託企業と動画制作会社との間での業務範囲に関する齟齬をなくすため、どこまでの対応が料金に含まれているのか、契約書に明記しておきましょう。対応範囲を契約書で明記することで業務範囲があらかじめ明確となるほか、動画制作会社が業務外の対応を求められた際に追加料金を請求しやすくなります。
納品の条件
2つ目は、納品の条件です。
動画制作では、研修の満了をもって報酬請求権が発生することが一般的です。そのため、契約書では検収の条件を明記しておきましょう。
具体的には、納品後の検収期間を「〇日以内」と定めたうえで、委託企業からこの期間内に合否の連絡がない場合は研修に合格したものとみなすなどの規定が考えられます。また、修正が必要となる場合は、この検収期間内に連絡すべきとすることが一般的です。
知的財産権の帰属や取り扱い
3つ目は、知的財産権の取り扱いです。
原則として、動画の著作権は動画制作会社に帰属します。そのため、契約書に何ら定めがない場合は、委託会社がその動画を改変することや、あらかじめ定めた目的外で利用することなどはできません。
これについて、トラブルが生じる可能性があります。そのため、動画制作に関する契約では、契約書の締結時点で著作権など知的財産権の取り扱いを明確にしておきましょう。
動画制作会社は、あらかじめ定めた目的外で利用した場合には追加で報酬を受けるため、著作権は自社に残したいと考えることが一般的です。一方、委託企業としては動画を自由に活用するため、著作権の譲渡を受けたり、それが難しい場合には利用許諾範囲を広げたりしたいと考えます。
著作権の取り扱いは、後から交渉することは困難です。そのため、動画制作を委託する時点で交渉を行い、知的財産権の取り扱いを定めておくことをおすすめします。
動画制作の契約書作成を弁護士に依頼するメリット
動画制作の契約書作成は、弁護士に依頼するのがおすすめです。最後に、弁護士に依頼する主なメリットを3つ解説します。
- 法的なポイントを押さえた契約書を作成できる
- いざというときに自社を守る契約書が作成できる
- トラブル発生時に対応がしやすくなる
法的なポイントを押さえた契約書を作成できる
契約書の作成を弁護士へ依頼することで、法的なポイントを押さえた契約書の作成が可能となります。
適切な契約書を作成するには、法令への理解が不可欠です。なぜなら、契約書がなければ、民法などの法令が適用されることとなるためです。
しかし、民法など法令の規定は抽象的なものも多く、実際のケースへの当てはめで苦慮することが少なくありません。また、法令とは異なる内容へと修正したいこともあるでしょう。そこで、契約書を作成して法令の規定を具体化したり、法令の規定を修正したりします。
とはいえ、自社だけで関連する法令を洗い出し、法令を理解することは容易ではありません。弁護士へ依頼することで、確かな知識のもと、法的なポイントを押さえた契約書の作成が可能となります。
いざというときに自社を守る契約書が作成できる
弁護士へ依頼することで、いざというときに自社を守る内容の契約書が作成しやすくなります。
契約書の「正解」は一つではありません。自社にとって有利な内容は、契約の相手方にとって不利となることが多いためです。そのため、どちらの側に立つのかによって、契約書の最適解は異なります。
そうであるにもかかわらずインターネット上で見つけたテンプレートなどをそのまま流用してしまえば、自社にとって不利な内容の契約を交わしてしまうおそれがあります。動画制作の契約書の作成を弁護士に依頼することで、いざというときに自社の身を守る内容の契約書を作成しやすくなります。
トラブル発生時に対応がしやすくなる
契約書の作成を弁護士へ依頼することで、トラブル発生時の対応がしやすくなります。なぜなら、弁護士は将来起こり得るトラブルを見据えて契約書を作成するためです。
また、契約書作成時に弁護士へ依頼し弁護士とのつながりを作っておくことで、トラブル発生時の相談もしやすくなるでしょう。
まとめ
動画制作の委託でトラブルに発展しないための、契約書のポイントについて解説しました。
動画制作では、業務範囲や修正対応、知的財産権の取り扱いなどで、トラブルに発展するおそれがあります。あらかじめ契約書を締結して認識のすり合わせをしておくことで、トラブルを防ぎやすくなります。
また、契約違反時の対応を契約書内で定めておくことで、万が一問題が生じた場合であってもスムーズな対応がしやすくなるでしょう。
とはいえ、適切な契約書を自社だけで作成することは容易ではありません。よく理解しないままテンプレートを流用するなどしてしまえば、自社にとって不利な内容で契約してしまうおそれもあります。
そのような事態を避けるため、動画制作の契約書は、弁護士のサポートを受けて作成するようにしてください。
伊藤海法律事務所の代表弁護士である伊藤海は、弁護士のほか弁理士資格も有しており、知的財産権の保護や契約書の作成支援を得意としています。動画制作に関する契約書の作成をご検討の際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。トラブルを避けるための契約書の作成を、全面的にサポート致します。