SNSをマーケティング活動に活用する企業が増えています。しかし、SNSでフォロワーを獲得したり企業のファンを増やしたりするにはSNSに合った戦略を練る必要があり、広報担当者が「片手間」で成功させることは困難でしょう。

そのような際に選択肢に挙がるのが、SNSの運用を他社(他者)に代行してもらうことです。SNSで「バズる」戦略を理解している企業や個人に運用代行を依頼することで、企業や商品の認知度を高めたり、ファンを増やしたりする効果が期待できます。

しかし、SNS運用代行について的確な契約書を取り交わしていなければ、トラブルの原因となりかねません。では、SNS運用代行の契約書に不備がある場合、どのようなトラブルが生じ得るのでしょうか?また、SNS運用代行の契約書には、どのような内容を盛り込めばよいのでしょうか?今回は、SNS運用代行の契約書の概要や盛り込むべき条項、契約書に不備がある場合に生じやすいトラブルなどについて、弁護士がくわしく解説します。

なお、当事務所(伊藤海法律事務所)はカルチャー・エンタメ法務に特化しており、SNS運用代行の契約書の作成・レビューにも対応しています。SNS運用代行の契約書についてお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

SNS運用代行契約書とは?

SNS運用代行契約書とは、SNSの運用代行の委託・受託に際して当事者間で取り交わす契約書です。

SNS運用代行は建物の建築やホームページ制作などとは異なり「成果物」の引き渡しを伴うものではないことから、請負契約ではなく、民法上の「準委任契約」に該当するケースが多いでしょう。準委任契約とは、当事者の一方が法律行為でない事務をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって効力を生ずる契約です(民法643条、656条)。

SNS運用代行が準委任契約に該当する場合、原則として民法の準委任契約の規定が適用されます。しかし、民法の規定が契約実態に即しているとは限らないうえ、民法の規定だけでは不十分な部分も少なくありません。そこで、民法だけでは明確になっていない部分について明確化したり民法の定めを実態に合わせて変更したりするために契約書を作成します。

伊藤海法律事務所は、SNS運用代行の契約書の作成やレビューへの対応が可能です。SNS運用代行の契約書作成でお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

SNS運用代行で運用代行事業者が担う主なサポート内容

SNS運用代行では、具体的にどのようなサポートを担うのでしょうか?ここでは、SNS運用代行の一般的なサポート内容について解説します。

  • SNS投稿用のコンテンツ制作・投稿
  • SNS広告の運用
  • フォロワー等とのコミュニケーション
  • 分析レポートの提示

ただし、サポート内容はSNS運用代行を担う企業や依頼するプランによって異なる可能性があります。そのため、実際にSNS運用代行を発注したり受託したりしようとする際は、契約書で具体的なサポート内容を定めておくべきでしょう。

SNS投稿用のコンテンツ制作・投稿

SNS運用代行では、SNS投稿用のコンテンツ制作と制作したコンテンツの投稿がメインの委託内容になることが一般的です。運用をある程度SNS運用代行事業者に任せる場合もある一方で、投稿内容について委託者の事前の承認を必要とする場合などもあります。

SNS広告の運用

SNS運用代行では、SNS広告の運用を委託する場合もあります。広告の対象とする商品・サービスやそのキャッチコピーなどを定めたうえで、効果的な広告出稿を委託します。

フォロワー等とのコミュニケーション

SNSの運用代行では企業側からの一方的な発信のみを前提とする場合もある一方で、フォロワーから投稿されたコメントへの返信やDMの返信など、一定のコミュニケーションまでを含めて委託する場合もあります。

適切なコミュニケーションを取ることでファン層の拡大につながりやすくなる一方で、コミュニケーションまで委託する場合には代行報酬が高くなる傾向にあります。

分析レポートの提示

SNS運用代行では、分析レポートの提出がサービス内容に含まれる場合があります。閲覧数やフォロワー数などの推移などを分析した結果を確認することで、今後のより効果的な運用方法を検討できます。

SNS運用代行で契約書に不備がある場合に生じ得るトラブル

SNS運用代行の契約書に不備があったり、そもそも契約書を取り交わさなかったりすることは、さまざまなトラブルの原因になります。ここでは、想定される主なトラブルを3つ解説します。

  • 業務範囲や追加費用に関して齟齬が生じる
  • 報酬が未払いとなる
  • 相手方に問題があってもスムーズな契約解除や損害賠償請求が困難となる

なお、これからSNS運用代行の契約を締結しようとする場合はもちろん、SNS運用代行に関してすでにトラブルが生じている場合にも、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。状況やご相談者様のご希望に応じ、最適な解決策を提案します。

業務範囲や追加費用に関して齟齬が生じる

SNS運用代行の具体的なサービス内容は、代行業務を展開する事業者や発注者の要望などによって異なることも多いでしょう。そのため、その案件での依頼内容を明確にするため、契約書に業務内容を明記する必要があります。

明確な契約書がなければ業務内容に関して齟齬が生じ、トラブルに発展するかもしれません。たとえば、あるSNSに元々は「1日に5投稿する」という取り決めであったにもかかわらず、思ったようにフォロワー数が増えないなどの理由で投稿数を増やしてほしいと依頼されたものの、発注者としては「フォロワーを増やすことが目的なので、投稿数が増えても報酬は増額しない」と考えている場合などです。

当初の契約内容として「1日に5投稿」が明確になっていれば追加報酬について交渉がしやすい一方で、契約書に明記がなければ「言った・言わない」の応酬となり追加分の費用を支払ってもらえない可能性が生じます。

報酬が未払いとなる

SNS運用代行の契約書に不備があると、報酬が未払いとなり、対応に苦慮する事態となるリスクがあります。

SNS運用代行の報酬は、一部をフォロワー数の増加などに連動した成果報酬とする場合もあるものの、完全成功報酬とするケースは多くありません。しかし、契約書がなければ報酬支払いの条件などに齟齬が生じ、発注者から「運用代行を依頼したものの、思ったよりもフォロワー数が増えなかったから報酬は支払わない」などと主張されるかもしれません。

この場合であっても、メールやチャットなどで報酬額や報酬の支払い条件に合意した記録が残っていれば訴訟の提起などによって報酬を支払ってもらえる可能性はあるものの、契約書がある場合と比較して多くの手間が生じます。

相手方に問題があってもスムーズな契約解除や損害賠償請求が困難となる

SNS運用代行業務を遂行する中で、相手方に問題があり、契約解除や損害賠償請求をしたい場合もあるでしょう。たとえば、SNS運用代行会社側が他者の著作権を侵害する投稿をして「炎上」したり、発注者が月額報酬を期限までに支払わなかったりした場合などが挙げられます。

このような問題が生じた際、契約書に問題発生時の対応について定めておけば、契約解除や損害賠償請求がスムーズになります。一方で、契約書がなかったりこれらの定めがなかったりする場合には、問題発生時の解除や損害賠償請求などのハードルが高くなるでしょう。

SNS運用代行の契約書に盛り込むべき主な条項

SNS運用代行の契約書には、どのような内容を記載すればよいのでしょうか?ここでは、SNS運用代行の契約書に盛り込むべき条項とポイントを解説します。

  • 業務範囲
  • 報酬
  • 契約期間
  • 著作権の帰属
  • 投稿前の確認・修正対応
  • 再委託の可否
  • 秘密保持
  • 契約解除・損害賠償

業務範囲

先ほど解説したように、一口に「SNS運用代行」といっても具体的な業務内容は代行企業やプランなどによって異なります。そのため、齟齬が生じてトラブルに発展しないよう、契約書で具体的な業務範囲を定めておきましょう。

原則として、ここに記載した「業務内容」を遂行することが報酬支払いの原因となるため、口頭などで取り決めた委託業務の内容に即し、可能な限り明確に定めることがポイントです。

報酬

SNS運用代行の契約書では、報酬について定めます。ここでは、「いつ、いくらの報酬を支払うのか」について、誰が見ても齟齬が生じないよう明確に定めましょう。

SNS運用代行の報酬は月額制などの定額とする場合もある一方で、フォロワー数などに応じた変動制とする場合や、定額制と変動制を併用する場合などもあります。特に変動制や併用制の場合には、「いつ時点のどの数値をもとに報酬を計算するのか」について疑義が生じないよう、明確に定めることがポイントです。

契約期間

SNS運用代行は、半年や1年など、ある程度の期間継続して行うことが一般的です。契約書では、契約期間を定めるとともに、契約の更新方法についても定めておきましょう。

契約の更新方法としては、更新をデフォルトの設定としたうえで契約期間の終期の〇日前までに当事者のいずれからも終了の意思表示があった場合にだけ更新しないとする方法や、契約終了をデフォルトとしたうえで契約期間の終期の〇日前までに合意をすることで更新する方法などが検討できます。

著作権の帰属

SNS運用代行では、受託者であるSNS運用事業者側が投稿するコンテンツを制作することが一般的です。コンテンツは文章のみである場合のほか、画像を添えて投稿する場合もあるでしょう。

これらのコンテンツには、著作権が発生することがあります。また、発生した著作権は著作者に帰属するのが原則であるため、SNS運用事業者側がコンテンツを制作したのであれば原則としてSNS運用事業者に帰属します。

著作権の取り扱いについて後にトラブルに発展しないよう、SNS運用代行の契約書では著作権の帰属について定めておきましょう。著作権は委託者に帰属させるとする場合もある一方で、著作権は受託者であるSNS運用事業者側にあるものの一定範囲で委託者に利用を許諾するとする場合もあります。

投稿前の確認・修正対応

SNS運用代行では、投稿前に委託者による確認を必要とする場合もあります。そこで、SNS運用代行契約書では、投稿前の確認の有無や、確認の依頼方法なども定めておくとスムーズです。

また、事前確認を必要とする場合には、確認の結果としてコンテンツの修正対応が必要となる場合もあります。この場合に備え、修正対応の取り扱い(追加報酬の発生の有無など)も定めておくと良いでしょう。

再委託の可否

SNS運用代行が準委任契約にあたる場合、原則として再委託はできません。しかし、中には一部の業務を再委託することで運用する場合もあるでしょう。その場合には、契約書に再委託ができる旨を盛り込む必要があります。

一方で、再委託をしない場合にはあえて契約書に定める必要はありません。ただし、「再委託しない」旨を契約書に盛り込むことで、委託者の信用を得やすくなる可能性があるため、あえて記載するケースも散見されます。

秘密保持

SNS運用代行では、発売前の商品に関する情報など、未公開情報に接する機会も多いでしょう。そこで、業務遂行上知り得た秘密を流出しないことを誓約する、秘密保持条項を設けることが一般的です。

契約解除・損害賠償

SNS運用代行の契約書では、契約違反が生じた際に契約を解除できる旨や、その具体的な方法(「30日前に催告し、それでも解消されなければ解除する」など)を設けておくと良いでしょう。禁止事項と併せてこれに違反した場合に解除できる旨を定めておくことで、トラブル発生時の「出口」が明確となります。

併せて、相手方の契約違反による損害賠償や、賠償金の予定額などを定める場合もあります。とはいえ、あまりにも高額な賠償金は公序良俗違反として無効となる可能性があるため、賠償金の予定額は弁護士に相談したうえで定めることをおすすめします。

SNS運用代行の契約書にまつわるよくある質問

続いて、SNS運用代行の契約書に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。

SNS運用代行の契約書はどちらが作成する?

SNS運用代行の契約書の原案は、SNSの運用代行サービスを展開する事業者が作成することが一般的です。

しかし、相手方から差し出された契約書はあくまでも原案であり、最終形ではありません。相手方から提示された契約書をよく読まずにそのまま署名などをすることは避け、条項を吟味したうえで、必要に応じて条項の追加や削除、変更などの交渉をすると良いでしょう。

SNS運用代行の契約書作成や契約書レビューでお困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。

SNS運用代行の契約書はひな型をそのまま流用しても良い?

SNS運代行の契約書の作成にあたって、ひな型をそのまま流用することはおすすめできません。なぜなら、契約書のひな型は一定のケースを想定した一例に過ぎず、その内容が自社が締結しようとする実際の契約内容に適しているとは限らないためです。

また、契約書の最適解は「どちらの当事者の立場で見るか」によっても異なるところ、ひな型に相手方に有利な条項が盛り込まれている可能性もあります。

そのため、SNS運用代行の契約書の作成ではひな型をそのまま使うことは避け、契約実態に即した内容のものを作成すべきでしょう。SNS運用代行の契約書作成をご検討の際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。

SNS運用代行の契約書作成は伊藤海法律事務所にお任せください

SNSの運用代行に関する契約書の作成は、伊藤海法律事務所にお任せください。最後に、当事務所の主な特長を3つ紹介します。

  • カルチャー・エンタメ法務に特化している
  • 知財に強い
  • 英文契約書にも対応している

カルチャー・エンタメ法務に特化している

SNSの運用代行は比較的新しいサービスであり、弁護士によっては馴染みがない契約である可能性もあります。伊藤海法律事務所はカルチャー・エンタメ法務に特化しており、SNS運用代行にまつわるご相談についても豊富な対応実績を有しています。

知財に強い

SNSの運用代行にあたっては、知財の取り扱いにも注意しなければなりません。SNSに投稿する画像や文章などには、原則として著作権が発生するためです。

伊藤海法律事務所の代表弁護士である伊藤海は弁護士のほかに弁理士資格も有しており、知財の保護や侵害時の対応にも強みを有しています。

英文契約書にも対応している

SNSの運用代行のサービス展開状況によっては、海外の企業や個人と契約を締結すべき場面が生じる可能性もあります。伊藤海法律事務所は英文契約書にも対応しているため、海外との契約についても一貫したリーガルサポートが可能です。

まとめ

SNS運用代行の契約書について、概要や盛り込むべき主な条項、契約書がない場合に生じ得るトラブルなどを解説しました。

SNSの運用代行の委託・受託をする際は、契約書を取り交わしておきましょう。適切な契約書がなければ委託業務の内容に齟齬が生じ、報酬が支払われないなどのトラブルに発展する可能性があるためです。また、契約に関して何らかの問題が生じた際にも、契約解除や損害賠償請求などによるスムーズな解決が困難となる可能性もあります。

SNS運用代行の契約書の作成はひな型を流用するのではなく、弁護士のサポートを受けて作成するのがおすすめです。弁護士のサポートを受けることで、実態に即し、かつ万が一トラブルが発生した際にもスムーズな解決がはかれる契約書を作成しやすくなります。

伊藤海法律事務所はカルチャー・エンタメ法務に特化しており、SNS運用代行の契約書の作成代行やレビューなどのサポートが可能です。SNS運用代行の契約書作成でお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください。