企業がインフルエンサーにPRなどを委託する際には、PR業務委託契約書を締結すべきです。契約書がなければ委託内容に認識の違いが生じてトラブルに発展するおそれがあるほか、相手方に問題が生じた際にスムーズな解決ができなくなる可能性があるためです。
では、PR業務委託契約書は、どのように作成すればよいのでしょうか?また、契約書に盛り込むべき条項には、どのようなものがあるのでしょうか?
今回は、インフルエンサーとのPR業務委託契約書の概要や主な記載事項と注意点、契約書の作成方法などについて弁護士がくわしく解説します。
インフルエンサーとのPR業務委託契約書とは
PR業務委託契約書とは、インフルエンサーに企業のPR案件を委託する際などに取り交わす契約書です。
インフルエンサーとは、発信力が強く多くの人に影響を与える人を指します。広くはタレントやスポーツ選手、アーティストなども含む言葉である一方で、SNSでのフォロワー数が多い人や登録者数が多いYouTuberなどだけを指すことも少なくありません。
企業としては、インフルエンサーに自社製品・サービスのPRを依頼することで多くの人の目に留まり、インフルエンサーに信頼を置いているフォロワーからの購買・申し込みが増加する効果が期待できます。一方で、インフルエンサーとしては企業からの対価が得られる点がメリットです。
インフルエンサーへのPR業務の委託は正式な契約書を交わさずに行われることもあるようですが、これはおすすめできません。契約書がなければ委託内容が明確となりづらく、あらかじめ口頭などで取り決めたアウトプットをインフルエンサーが行わなかった場合であっても、対価の支払いを拒絶できない可能性が生じるためです。また、万が一インフルエンサーが問題を起こして企業に余波が及んだとしても、法的措置をとるハードルが高くなるおそれもあるでしょう。
一方で、インフルエンサー側としても、対価の支払いを先延ばしにされたり、あらかじめ取り決めた以上の対応を追加料金なく求められたりした際に、これに対抗しづらくなるかもしれません。
このような事態を避けるため、企業がインフルエンサーにPRを委託したりインフルエンサーがPRを受託したりする際は、契約書を交わすようにしてください。
PR業務委託契約書の主な記載事項
PR業務委託契約書には、どのような事項を記載すればよいのでしょうか?ここでは、PR業務委託契約書の主な記載内容と記載のポイントを解説します。
- 業務内容・成果物
- 契約期間
- 報酬
- 経費の負担
- 知的財産権の取り扱い
- 秘密保持
- 競業避止義務
- 禁止事項・コンプライアンス
- 契約解除
業務内容・成果物
PR業務委託契約書には、インフルエンサーに委託する業務の内容や成果物の内容を明確に定めます。たとえば、SNSの投稿の場合、投稿先の媒体や投稿に盛り込むべき内容などです。
この指定が曖昧だと、企業としては自社の想定した内容を満たしておらずやり直しや追加を求めたい場合であっても、当初取り決めた料金内では対応してもらえない可能性が高くなります。
齟齬が生じることのないよう、「何を委託するのか」がわかるようできるだけ具体的に定めましょう。
契約期間
PR業務委託契約書には、契約の開始日と終了日を記載します。
また、インフルエンサーにPRを委託する場合、新製品・新サービスの開始時期に合わせることも多いでしょう。そこで、PRに最良なタイミングを逃さないよう、投稿の頻度やスケジュール、投稿回数なども定めます。
そのインフルエンサーに長期にわたって継続的なPRを委託する場合には、更新の有無や更新方法などの定めも必要です。
報酬
インフルエンサーへのPR委託は通常有償でなされるものであるため、報酬を記載します。インフルエンサーへ支払う報酬の計算方法には、主に次の3パターンがあります。
- 固定報酬:固定額を支払う形式
- 変動報酬:投稿のインプレッション数や「いいね」数などに、あらかじめ定めた金額を乗じた報酬を支払う形式
- 成果報酬(アフェリエイト型):インフルエンサー経由で販売が成立した金額に、一定割合を乗じて報酬を支払う形式
いずれであっても、支払うべき金額が明確に計算できるよう、計算期間や計算方法などを具体的に定めておきましょう。
なお、インフルエンサーへPRを委託する場合、ある基準日時点でのフォロワー数などをベースに固定報酬を算出することも少なくありません。この場合は、いつ(何月何日の何時時点)のフォロワー数を基準とするのかの指定も必要です。
経費の負担
業務の遂行にあたってインフルエンサー側に生じる経費について、どちらがどのように負担するのかについても定めておくべきです。経費とは、たとえば撮影や取材に必要となる交通費や宿泊費などが該当します。
知的財産権の取り扱い
受託したPR案件を遂行するためにインフルエンサーが投稿したコンテンツ(SNSの記事や動画、ブログ記事など)は、著作物となり得ます。PR業務委託契約書では、この著作物の帰属についても定めておきましょう。特に定めがなければ、著作権の帰属についてトラブルとなる可能性があるためです。
著作権がインフルエンサー側に帰属するのであれば、二次利用の可否や範囲、二次利用する場合の利用料などについても定めておくことをおすすめします。
秘密保持
インフルエンサーにPRを委託する中で、自社の機密情報やノウハウなどを開示する場合もあるでしょう。そのような情報が万が一「暴露」などされた場合、影響が甚大なものとなりかねません。そのため、委託に際して開示した情報が外部に漏れることのないよう、厳格な秘密保持条項を盛り込むことをおすすめします。
また、インフルエンサーに新製品や新サービスのPRを委託する場合、一般への情報解禁日前に依頼する場合もあるでしょう。そのような場合には、所定の情報解禁日より前に情報を発信しないよう、契約書に盛り込んでおくことが必要です。
競業避止義務
インフルエンサーにPRを委託した場合、同期間に競合他社のPRはしてほしくないと考えることが自然です。そのため、PR業務委託契約書には、競業避止義務(競合する他社からの依頼を受けない義務)についても定めることが多いでしょう。
なお、競業避止義務を負う期間を「永久」などとすることは、現実的ではありません。競業避止規定では、具体的な禁止期間や禁止する業務の内容などを定めることが一般的です。
禁止事項・コンプライアンス
インフルエンサー委託契約書では、インフルエンサー側に禁止したい内容やコンプライアンスについて定めます。
インフルエンサーは発信力がある反面、SNSで「炎上」するリスクと隣り合わせともいえます。企業のPRに関して炎上が起きた場合には、企業にまで「飛び火」してしまいかねません。そのような場合に備え、避けるべき表現や禁止すべき事項を明確に定めておくべきでしょう。
なお、企業として特に注意すべきなのが、「ステマ(ステルスマーケティング)」です。ステマとは、実際にはPRであるにも関わらずインフルエンサーなどがPRであることを隠して投稿することなどを指します。
PRを委託したインフルエンサーがステマ行為をした場合、委託者である企業が法的責任を問われるおそれが生じます。そのため、インフルエンサーが認識不足からステマをすることのないよう、投稿の具体的な基準(たとえば、YouTubeであれば、「動画の最初から最後まで画面に〇サイズ以上の文字でPRと表示する」など)を定めておくとよいでしょう。
契約解除
インフルエンサーが契約違反をした場合などに備え、解除条項を設けておくとよいでしょう。適切な解除条項があることで、トラブル発生時の解除がスムーズとなります。
PR業務委託契約書の作成方法
PR業務委託契約書は、どのような手段で作成すればよいのでしょうか?ここではPR業務委託契約書の主な作成方法を3つ紹介します。
- ひな型を流用する
- 自力で一から作成する
- 弁護士にサポートを依頼する
ひな型を流用する
1つ目は、ひな型やテンプレートを活用する方法です。インターネットで検索すれば、PR業務委託契約書やこれに類似した業務委託契約書などのひな型やテンプレートは、容易に見つかることでしょう。
しかし、この方法はおすすめできません。なぜなら、ひな型やテンプレートが、今回締結しようとするPR業務委託契約の実態に即しているとは限らないためです。
実態とは異なるひな型をそのまま流用すれば、トラブルの原因となりかねません。また、ひな型やテンプレートを自社で作り変えようにも、的確な作り変えをするには法令に関する知識が不可欠です。
作り変えた結果、条項同士の整合性がとれなくなったり、必要な条項が漏れてしまったりするおそれがあります。
そのため、ひな型やテンプレートをそのまま活用することは避けるべき一方で、ひな型を作り変えることも、その後弁護士にリーガルチェックを受けられるなど整合性が担保できる場合に限ったほうがよいでしょう。
自力で一から作成する
2つ目は、自力で一から作成する方法です。この方法であれば、自社の実態に即した内容で契約書を作成しやすくなります。
しかし、PR業務委託契約書を一から作成するのはひな型をベースにする場合以上に難易度が高く、自社だけで行うことは容易ではありません。そのため、信頼できる法務部がない限り、現実的ではないといえます。
弁護士にサポートを依頼する
3つ目は、弁護士にサポートを依頼する方法です。
弁護士に作成を依頼することで、漏れのない的確な契約書の作成が可能となるなど、メリットは少なくありません。弁護士に依頼した場合のメリットは、次でまとめて解説します。
インフルエンサー契約書の作成を弁護士に依頼する主なメリット
PR業務委託契約書の作成を弁護士に依頼することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、主なメリットを3つ解説します。
- 実情に即した契約書が作成できる
- 自社にとって有利な内容を盛り込みやすい
- トラブル発生時の対応がスムーズとなる
実情に即した契約書が作成できる
先ほど解説したように、ひな型を流用した場合には、内容が実情に即していない可能性が高いといえます。実情に即した内容に書き換えようにも、何をどのように変更すればよいか分からない場合も少なくないでしょう。
弁護士に依頼することで、実情に即したPR業務委託契約書の作成が可能となります。
自社にとって有利な内容を盛り込みやすい
契約書の「正解」は、実は一つではありません。インフルエンサーにPRなどを委託する企業側であるのかインフルエンサー側であるのかによって、望ましい条項は異なります。
しかし、これを的確に盛り込むことは容易ではありません。ひな型などをベースにした場合、相手方に有利な条項に気付かず契約してしまう可能性があります。
また、自社に有利な内容にしようとするあまり極端にバランスを欠いた内容にしてしまうと、交渉が決裂したりSNSなどで「炎上」したりするおそれもあるでしょう。
弁護士にサポートを依頼することで、自社にとって有利な内容としつつ、バランスにも配慮した適切なPR業務委託契約書が作成しやすくなります。
トラブル発生時の対応がスムーズとなる
トラブルなくスムーズに契約が進行し、無事に契約満了にまで至った場合には、契約書に多少の不備があっても顕在化しないことでしょう。しかし、契約書がその真価を発揮するのは、トラブルが発生した際です。
想定し得るトラブルやその対処法を具体的に契約書に盛り込んでおくことで、いざ問題が生じた際に、自社に有利かつスムーズな対処がしやすくなります。
弁護士は、トラブルが起きてから相談を受けることも少なくありません。その中には、「契約書にこのような条項が入っていれば、もっとスムーズに解決できたのに」と残念に思うケースも散見されます。
契約書の作成段階から弁護士のサポートを受けておくことで、トラブル発生時から「逆算」をして、万が一の際にスムーズな解決をはかるための条項を盛り込みやすくなります。また、トラブルが発生してから弁護士を探し始めるのではなく、契約書作成段階から弁護士の関与を受けておくことで、相談や訴訟などへの対応もスムーズとなるでしょう。
インフルエンサーとのPR業務委託契約書の締結は伊藤海法律事務所へご相談ください
インフルエンサーとPR業務委託契約書を締結しようとする際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。最後に、伊藤海法律事務所の主な特長を紹介します。
- カルチャーやテクノロジー法務に強い
- 代表の伊藤海は弁護士のほか弁理士資格も有している
- 顧問契約締結後は法務部チャットへの参加可能
- 英文契約書にも対応できる
カルチャーやテクノロジー法務に強い
伊藤海法律事務所は、カルチャー法務やテクノロジー法務に特に強みを有しています。インフルエンサーとのPR業務委託契約書に関する相談・サポート実績も豊富であるため、安心してご相談いただけます。
代表の伊藤海は弁護士のほか弁理士資格も有している
伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほか弁理士資格も有しています。弁理士は、知的財産を専門とする国家資格です。
インフルエンサーへのPR業務委託契約では、インフルエンサーがPRのために撮影した動画の著作権など知的財産の所在について問題となることがあります。また、PRを依頼したい新商品や新サービスの商標登録を検討する場合もあるでしょう。
伊藤海法律事務所では、このような困りごとについても的確なサポートが可能です。
顧問契約締結後は法務部チャットへの参加可能
伊藤海法律事務所では、顧問契約の締結をいただいたクライアント企業に限り、ご希望に応じて、企業法務部のチャットへの弁護士の参加を可能としています。これにより相談の手間を最小限に抑えられることに加え、早期段階からの関与やスピーディーな対応を実現しています。
英文契約書にも対応できる
グローバル化が進行している昨今、海外と契約すべき場面が生じることもあるでしょう。
伊藤海法律事務所は、英文の契約書にも対応しています。そのため、海外との契約であっても一貫した対応が可能です。
まとめ
PR業務委託契約書の概要や主な条項、作成方法などについて解説しました。
PR業務委託契約書とは、企業がインフルエンサーに商品・サービスのPRなどを委託する際に取り交わす契約書です。企業がインフルエンサーにPRを依頼することで、新たなファン層や購買層の獲得が期待できます。
インフルエンサーへのPR委託は契約書を交わさずに行われることもあるようですが、後のトラブルを避けるためには、やはり正式な契約書を交わすべきでしょう。実態に即した契約書を締結することで認識の齟齬によるトラブルを避けることが可能となるほか、万が一インフルエンサー側に契約違反があった際の対応がスムーズとなります。
PR業務委託契約書はひな型をベースに作成する方法もあるものの、実態に即した適切な内容へとひな型を作り変えることは容易ではありません。そのため、弁護士に作成を依頼するか、弁護士によるリーガルチェックを受けることをおすすめします。
伊藤海法律事務所ではカルチャー・テクノロジー法務に強みを有しており、インフルエンサーとの契約についても多くの実績がございます。インフルエンサーへの委託契約書の作成・レビューをご希望の際や、定期的に相談ができる信頼できる弁護士をお探しの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。