他者の著作物を適法に利用するには、原則として権利者の許可を得なければなりません。しかし、著作権者などの管理者に連絡を試みても、利用可否に関する権利者の意思が確認できないこともあります。

その際に検討したいのが、「未管理著作物裁定制度」の活用です。

では、未管理著作物裁定制度とはどのような制度なのでしょうか?また、未管理著作物裁定制度は、どのような流れで利用すればよいのでしょうか?

今回は、未管理著作物裁定制度の概要や活用例、「著作権者不明等の場合の裁定制度」との違い、未管理著作物裁定制度を利用する流れなどについて弁護士がくわしく解説します。

なお、当事務所(伊藤海法律事務所)はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、未管理著作物裁定制度への対応も可能です。未管理著作物裁定制度の活用をご希望の際や、著作権について日頃から相談できる知財に強い弁護士をお探しの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

未管理著作物裁定制度とは?

未管理著作物裁定制度とは、著作物等の利用可否に関する権利者の意思が確認できない場合に、一定の要件を満たして文化庁長官裁定を受けて一定の補償金を支払うことで、適法な利用が可能となる制度です。2026年4月から、新たに利用できることとなりました。

冒頭で触れたように、他者の著作物を適法に利用するには、原則として権利者からの許諾を得なければなりません。無許可で他者の著作物を利用することは一定の例外を除いて著作権侵害にあたり、損害賠償請求や差止請求がなされる可能性があるほか、刑事罰の対象となる可能性もあります。

そして、著作権者の許可を得るには、主に次の3つのハードルをクリアする必要があります。

  1. 第1のハードル:権利者が誰か分からない・誰かは分かっていても連絡先が分からない
  2. 第2のハードル:権利者による利用諾否の意思が確認できない
  3. 第3のハードル:権利者に利用を断られる

第1のハードルでつまずいた場合、次で解説する「著作権者不明等の場合の裁定制度」またはこの「未管理著作物裁定制度」で対応します。この場合は2つの制度での対応が検討できるため、両者の違いを理解したうえで活用する制度を選択することとなるでしょう。

これに対して、第2のハードルでつまずいた場合には、「未管理著作物裁定制度」での対応を検討します。著作権者不明等の場合の裁定制度や未管理著作物裁定制度を利用して裁定が受けられれば、権利者からの許諾を得ることなく著作物を利用しても著作権侵害とはなりません。

第1のハードルと第2のハードルへの対応について、文化庁著作権課が公表している資料「裁定の手引き概要版」では次のように整理されています。

権利者不明の場合の裁定制度と未管理著作物裁定制度の比較

(○は制度の利用可能性があるケース)

状況 権利者不明の場合の裁定制度 未管理著作物裁定制度
権利者が不明
権利者は判明しているが連絡先が不明
権利者及びその連絡先は判明し連絡したが、権利者から返信が無く意思が不明 ×

(※)

※未管理著作物裁定制度では、国外の連絡先しか見つからなかった場合は対象外となります。

なお、第3のハードルである「権利者に利用を断られる」でつまずいた場合には、一方的に著作物を利用することはできません。この場合には相手方と交渉を重ねるなどして許諾を目指すか、その著作物の利用を諦めて他の著作物の利用を検討することとなります。

未管理著作物裁定制度と「著作権者不明等の場合の裁定制度」との違い

著作物の利用に関する権利者の意思が確認できない場合の裁定制度には、先ほど紹介した「未管理著作物裁定制度」のほかに、「著作権者不明等の場合の裁定制度」があります。

「著作権者不明等の場合の裁定制度」とは、次の場合などに文化庁長官の裁定を受けて一定の補償金を支払うことで、著作物等の適法な利用が可能となる制度です。

  • 権利者が誰か分からない
  • (権利者が誰か分かったとしても)権利者の所在が分からない
  • 亡くなった権利者の相続人が誰なのか、またその所在が分からない

「未管理著作物裁定制度」と「著作権者不明等の場合の裁定制度」は似た部分も多いうえ、権利者やその所在が分からない場合にはどちらを活用しても構いません。そのため、どちらを使うべきか分からない場合もあるでしょう。

ここでは、2つの制度の主な違いを解説します。

手続きの違い

1つ目の違いは、手続きです。

「著作権者不明等の場合の裁定制度」を利用する手続きは、原則として次の5ステップです。

  1. 利用したい著作物等が、公表等されていることを確認する
  2. 「著作者が利用を廃絶しようとしていること」が明らかではないことを確認する
  3. 権利者情報を取得するための措置を取る
  4. 権利者情報に基づき権利者と連絡するための措置を取る
  5. 文化庁に申請する

一方で、未管理著作物裁定制度の利用は、次の3ステップで行います。

  1. 次の4つを確認する
    1. 利用したい著作物等が公表等されていること
    2. 著作権等管理事業者により管理されていないこと
    3. 利用の可否に係る意思表示がされていないこと
    4. 著作者が利用を廃絶しようとしていることが明らかではないこと
  2. 利用の可否に係る意思を確認するための措置を取る
  3. 登録確認機関に申請する

未管理著作物裁定制度は、「著作権者不明等の場合の裁定制度」よりも手続きがやや簡素となっています。

利用期間上限の違い

2つ目の違いは、利用期間の上限の有無です。

「著作権者不明等の場合の裁定制度」では利用期間に上限は設けられておらず、長期間の利用も可能です。一方、未管理著作物裁定制度は手続きが簡素である反面、利用期間の最長が3年に設定されています。

ただし、利用期間の経過後、再度裁定制度を利用することによる延長は可能です。

取消しの有無が違う

3つ目の違いは、取消しの有無です。

「著作権者不明等の場合の裁定制度」の場合、裁定を受けた後で権利者が現れても裁定は取り消されません。後で生じた事情に原則として影響されないことが、「著作権者不明等の場合の裁定制度」の最大のメリットといえるでしょう。

一方で、未管理著作物裁定制度では権利者が現れて請求があった場合に裁定が取り消され、裁定に基づく利用が停止されることとなります。その後引き続き著作物を利用できるか否かは、権利者と連絡が取れる通常の場合と同様に、利用者と権利者との協議によって定めることとなります。

このように、2つの裁定制度にはさまざまな違いがあります。利用したい著作物の権利者と連絡が取れずお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。実績豊富な弁護士が、状況に応じて利用する手続きの選択段階からサポートします。

未管理著作物裁定制度の活用例

未管理著作物裁定制度は、どのような場面で活用できるのでしょうか?ここでは、文化庁著作権課の資料「裁定の手引き概要版」をもとに、制度の活用例を2つ紹介します。

デジタルアーカイブをしたい場合

地方の博物館において、古い書籍をデジタルアーカイブ化したいケースです。

この書籍には、多数の権利者がおり、一部の権利者からは2週間が経っても一切応答がない状況です。そこで、必要な手続きをとった上で裁定を受けて補償金を支払い、書籍をデジタルアーカイブとして公開しました。

電子書籍を出版したい場合

自身が発行する電子書籍に、他人の個人ブログで見つけた故郷の昔の風景写真を掲載したいケースです。

写真の周辺や投稿者のプロフィール欄などを確認したものの、利用の可否に係る情報や権利者の連絡先が見当たりませんでした。そこで、必要な手続きをとった上で裁定を受けて補償金を支払い、写真を電子書籍に掲載し刊行しました。

このようなケースでお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。伊藤海法律事務所はカルチャー・エンタメ法務に特化しており、活用する手続きの選定から裁定申請に至るまで弁護士による総合的なサポートが提供できます。

未管理著作物裁定制度活用の流れ

未管理著作物裁定制度を活用したい場合、どのような流れで進めればよいのでしょうか?ここでは、一般的な流れを解説します。

  • 対応できる専門家に相談する
  • 権利者の意思や連絡先等を探索する
  • (連絡先が分かった場合)権利者への連絡を試みる
  • 申請書を作成する
  • 登録確認機関に裁定申請をする
  • 裁定の可否が決まる
  • 補償金を支払う

対応できる専門家に相談する

未管理著作物裁定制度の活用には、多くの注意点があります。そのため、活用にあたっては、まず著作権制度にくわしい専門家に相談するとよいでしょう。

専門家に相談することで、本当にこの制度を使うのが適切であるのか、もしくは他の制度を利用した方がよいのかなど、解決への道筋を立てやすくなります。

伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテインメント法務に特化しており、未管理著作物裁定制度についてのサポートも可能です。利用したい著作物があるものの権利者の意思が確認できずお困りの際は、伊藤海法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。

権利者の意思や連絡先等を探索する

次に、次の方法などで権利者の意思や連絡先などを探索します。

  • 著作物等の周辺の確認
  • インターネットで検索
  • 分野横断権利情報検索システムで検索

ここで確認すべき内容は、次のとおりです。なお、1つでも表中の右の事項に当てはまるものがある場合、未管理著作物裁定制度は利用できません。

確認事項 未管理著作物裁定制度が利用できないケース
公表有無 公表等がされていない
廃絶有無 著作者が発行された出版物を回収した等の事実があるなど、利用を廃絶しようとしていることが明らかである
管理の有無 著作権等管理事業者により管理されている
意思表示有無 利用の可否に係る意思表示がある
連絡先有無 国外の連絡先しかない

(連絡先が分かった場合)権利者への連絡を試みる

権利者の住所や電話番号、メールアドレスなどの連絡先が分かった場合には、権利者への連絡を試みます。なお、複数の連絡先が判明した場合には、2以上の方法で連絡をしなければなりません。

制度の利用が可能となるのは、連絡手段ごとに、それぞれ次のケースです。

判明した連絡先 連絡方法 制度の利用が可能なケース
住所 配達の記録が残る形での書面送付(郵送・宅配便) ・宛先不明で返送された場合・配送業者から届け先の住所が存在しないと連絡があった場合

・返事があったが、権利者又は関係者ではないという内容だった場合

・書面等到着後、14日間応答がなかった場合

電話 架電 ・現在使われていない電話番号であり、電話がつながらなかった場合

・電話はつながったが、権利者または関係者とは無関係の電話番号だった場合

メールアドレス メール送信 ・宛先不明による送信エラーで送れなかった場合

・返事があったが、権利者または関係者ではないという内容だった場合

・14日間応答がなかった場合

一方で、権利者から何らかの返答があった場合には、この制度は利用できません。この制度は、「権利者が利用を拒否していても著作物が利用できるようになる制度」ではないためです。

申請書を作成する

ここまでの事前調査を経て未管理著作物裁定制度の利用ができそうな場合には、申請書を作成します。申請書には、次の事項などを記載します。

  • 著作物等の情報
  • 利用方法、利用ルール
  • 権利者の連絡先等探索の結果
  • 権利者への連絡措置の結果
  • 補償金の額の算定の基礎となる事項

登録確認機関に裁定申請をする

申請書を作成したら、登録確認機関に裁定申請をします。この際に、13,800円の手数料を納付します。

裁定の可否が決まる

裁定の可否と、補償金の額が決まります。申請からこれらが決まるまでの期間は、8営業日程度とされています。

補償金を支払う

裁定処分がなされたら、指定補償金管理機関に補償金を支払います。この時点から、対象の著作物の利用が可能となります。

未管理著作物裁定制度の活用は、伊藤海法律事務所にお任せください

未管理著作物裁定制度の活用でお困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。ここでは、当事務所の主な特長を4つ紹介します。

  • カルチャー・エンタメ法務に特化している
  • 代表は弁理士資格も有しており、知財に強い
  • 顧問契約も可能である
  • 英文契約書にも対応している

カルチャー・エンタメ法務に特化している

伊藤海法律事務所は、カルチャー・エンターテインメント法務に特化しています。これらの業界では著作権などの知的財産権の処理が日常的に発生し、当事務所は豊富なサポート実績を有しています。

そのため、著作物を利用したい目的や著作物の状況などに応じて、的確なサポートの提供が可能です。

代表は弁理士資格も有しており、知財に強い

伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほかに弁理士資格も有しています。そのため、著作権の処理から侵害時の対応に至るまで、一貫したリーガルサポートが提供できます。

顧問契約も可能である

著作権の処理などについて、日頃から弁護士に気軽に相談したい場合もあるでしょう。その際は、弁護士との顧問契約の締結がおすすめです。

伊藤海法律事務所は顧問契約にも対応しており、想定される稼働量やサポート内容に応じた次の4つの顧問契約プランを設けています。

  • スタンダードプラン:個人事業主、フリーランス、比較的小規模な中小企業、創業間もないベンチャー企業などを想定したプラン
  • リーガルプラン:一般的な中小企業、メガベンチャーなどを想定したプラン
  • コーポレートプラン:上場企業などを想定したプラン
  • 包括的法務受託:実質的な法務部として稼働するプラン

顧問契約を締結いただいた場合には弁護士を法務部のグループチャットに追加いただくことも可能となるため、よりスピーディーな対応が可能となります。

英文契約書にも対応している

著作権の処理にあたっては、海外企業や海外の個人と契約を締結すべきケースもあるでしょう。伊藤海法律事務所は英文契約書にも対応しており、海外との契約であっても一貫したサポートが提供できます。

未管理著作物裁定制度に関するよくある質問

最後に、未管理著作物裁定制度に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。

裁定によって利用可能となる範囲は?

裁定により利用可能となるのは、裁定で認められた範囲での利用です。また、日本国内で行われる行為に限られます。

なお、裁定を受けたとしても、著作物を著作者の意に反して改変するなど著作人格権などを侵害する行為は認められません。

裁定後に権利者から異議を申し立てられたらどうなる?

裁定後に権利者から異議が申し立てられた場合、裁定が取り消されることとなります。この場合は裁定による利用が停止され、著作物等が実際に利用された期間分における通常の使用額相当の金銭(「取消時補償金相当額」といいます)が権利者に支払われます。

その後の著作物の利用については、通常の著作物の場合と同様に、権利者と利用者との協議によって決することとなります。

まとめ

未管理著作物裁定制度の概要や著作権者不明等の場合の裁定制度との違い、未管理著作物裁定制度を活用する流れなどについて解説しました。

未管理著作物裁定制度とは、権利者の意思が確認できない場合に一定の要件を満たして文化庁長官裁定を受けて補償金を支払うことで、著作物の適法な利用が可能となる制度です。この制度を使うことで、権利者と連絡が取れない場合であっても著作物を利用しやすくなります。

権利者と連絡が取れない場合に著作物を利用するための制度としては、「未管理著作物裁定制度」のほかに「著作権者不明等の場合の裁定制度」もあります。利用したい著作物の権利者の意思が確認できない場合には、弁護士へ相談したうえで状況に応じた適切な制度を選択するとよいでしょう。

弁護士のサポートを受けることで制度を適切に選択できるほか、実際の手続きを任せることも可能となります。

伊藤海法律事務所はカルチャー・エンターテイメント法務に特化しており、「未管理著作物裁定制度」や「著作権者不明等の場合の裁定制度」の活用についてもサポートできます。利用したい著作物があるものの、権利者が不明であったり権利者の意思が確認できなかったりしてお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

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