実演家に実演を依頼する場合や実演家を事務所に所属させる際、後のトラブルを避けるためには、契約書の締結は必須です。また、2025年9月30日には公正取引委員会から「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」が公表されているため、契約の締結にあたってはこの指針にも留意するべきでしょう。
では、実演家と交わす契約には、どのような条項を記載する必要があるのでしょうか?また、実演家との契約締結で失敗しないためには、どのようなポイントを押さえれば良いのでしょうか?今回は、実演家と交わす契約の概要や契約書に盛り込むべき条項、契約締結のポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。
なお、当事務所(伊藤海法律事務所)は芸能・エンタメ法務に特化しており、実演家と交わす契約書の作成やレビューについても豊富なサポート実績を有しています。実演家との契約締結でお悩みの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。
実演家とは?
実演家とは、「俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者」を指します(著作権法2条1項4号)。著作権法は、小説や漫画、脚本、振り付け、楽曲などの著作物を保護する規定を設ける一方で、実演家の権利を保護する規定も置いています。
著作権法上、実演家には次の権利があるとされています。
権利 | 概要 |
氏名表示権 | 実演に実演家の名を付すかどうか、付す場合に名義をどうするかを決める権利 |
同一性保持権 | 実演について、実演家の名誉や声望を害する改変をされない権利 |
録音権・録画権 | 実演を録音・録画する権利 |
放送権・有線放送権 | 実演を放送・有線放送する権利 |
送信可能化権 | 実演を端末からのアクセスに応じ自動的に公衆送信し得る状態に置く権利(インターネット上に掲載する権利) |
譲渡権 | 実演の録音物・録画物を公衆に譲渡する権利(ただし、一旦適法に譲渡された録音物・録画物のその後の譲渡には譲渡権は及ばない) |
貸与権 | 商業用レコードを貸与する権利(最初の販売から1年間のみ) |
放送二次使用料を受ける権利 | 商業用レコードが放送・有線放送で使用された場合に、放送事業者・有線放送事業者から使用料を受ける権利 |
貸レコードについて報酬を受ける権利 | 貸レコード業者から報酬を受ける権利(貸与権の消滅後) |
そのため、実演家と契約を締結する場面では、契約の目的などに応じ、これらの権利を適切に処理する必要があります。
実演家と契約を締結する主な場面
続いて、実演家と契約を締結すべき主な場面を、2つ紹介します。
- タレント等の実演家を事務所に所属させる際
- 実演家に「実演」させる際
実演家との契約締結について相談できる弁護士をお探しの際は、伊藤海法律事務所までご連絡ください。当事務所は芸能・エンタメ法務に特化しており、実演家との契約締結についても豊富なサポート実績を有しています。
タレント等の実演家を事務所に所属させる際
1つ目は、タレント等の実演家を事務所に所属させる場合です。この場合には、タレント等とマネジメント契約書などを締結することとなります。
なお、タレント等の所属契約については、冒頭で紹介した「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」の影響が特に大きいと考えられるため、指針を一読したうえで契約締結に進むことをおすすめします。
実演家に「実演」させる際
2つ目は、実演家に「実演」をさせる場合です。たとえば、タレント等に舞台に出演してもらう際や、タレント等の歌唱を録音したCDを販売しようとする際などには、実演に関する契約を締結することとなります。
先ほど解説したように、実演家は著作権法上さまざまな権利を有しているため、舞台のDVD化や録音したCDの一般発売などその実演の目的に応じ、過不足のない権利処理が必要です。
実演家と交わす契約書に記載すべき主な条項
実演家と交わす契約書には、どのような条項を記載すれば良いのでしょうか?ここでは、実演家に「実演」をさせる際の契約であることを前提に、契約書に盛り込むべき主な条項とポイントを解説します。
- 契約の目的
- 報酬・印税
- 権利の帰属
- 肖像等の利用
- 契約期間
- 契約解除・損害賠償
なお、ここで紹介するのは一例であり、実際に盛り込むべき条項は契約の目的や状況などによって変動します。そのため、実際の契約締結にあたってお困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。
契約の目的
はじめに、契約の目的を定めます。舞台への出演であれば、出演する舞台のタイトルや公演期間などを記載します。また、CD化が目的であれば、そのためのレコーディングを行うことなどを記載しましょう。
報酬・印税
実演家と交わす契約書には、実演家に支払う報酬額(印税額)と、支払い時期を記載します。
報酬額が固定であればその金額を明記すれば良いでしょう。一方で、たとえばCDの販売数やダウンロード数などによって実演家に支払う報酬額が変動する場合には、誰が計算しても同じ金額となるよう、その計算方法や計算の対象となる期間などを明確に記載します。
権利の帰属
先ほど解説したように、実演家はさまざまな権利を有しています。契約書では、その契約の目的に従って、過不足のないように権利処理を行います。
CD化などによる場合には、著作権法上実演家に発生する一切の権利をレコード会社側に譲渡する内容とすることも多いでしょう。ただし、実演家の権利の中でも氏名表示権と同一性保持権は人格的な権利であるため、原則として譲渡はできません。そこで、これらを行使しない内容の条項を入れる場合もあります。
権利の帰属については実演家の側も特に入念に確認する項目であるため、実演家の権利保護にも配慮しつつ、契約目的を実現できる内容を定めるのがポイントです。
肖像等の利用
実演家の出演に伴い、ポスターやCDジャケット、CMなどに実演家の肖像を掲載する場合があります。実演家の肖像の使用を予定している場合には、肖像等の利用について許諾を受ける条項を設けておきましょう。
契約期間
実演家と交わす契約では、契約の目的に応じて契約期間を定めます。たとえば、レコード会社との専属契約の場合、契約期間は1年から2年程度とすることが多いでしょう。
併せて、期間満了時の更新の有無や、更新の方法についても定めます。双方から所定の期日までに申出がなければ自動的に更新すると定める場合もある一方で、双方が改めて合意した場合にだけ更新すると定める場合などもあります。この点も、契約の目的に応じて慎重に検討すべきでしょう。
契約解除・損害賠償
契約書が真価を発揮するのは、トラブルが発生した際です。そのため、契約書では契約違反が生じた場合などに契約解除ができる旨や、契約解除の具体的な方法などを定めておきましょう。たとえば、「契約違反を解消するよう書面で催告してから7日以内に違反が解消されない場合は、契約を解除する」などです。
併せて、相手方の契約違反により契約を解除した場合に、違反者が損害賠償責任を負うことも確認的に記載しておくと良いでしょう。契約内容や状況によっては、損害賠償の予定額を定めることも検討できます。
このように、実演家と締結する契約にはさまざまな事項を定める必要があるほか、注意すべき点も状況や契約の目的などによって異なります。そのため、無理に自社だけで作成しようとするのではなく、弁護士のサポートを受けると良いでしょう。実演家との契約締結でお困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。
実演家との契約締結で失敗しないためのポイント
実演家との契約締結で失敗しないためには、どのような対策を講じれば良いのでしょうか?ここでは、失敗しないための主なポイントを2つ解説します。
- 「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」を一読する
- エンタメ法務に強い弁護士に相談する
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」を一読する
実演家と契約を締結しようとする際は、冒頭で紹介した「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」を一読することをおすすめします。この指針は法令そのものではないものの、違法性や条項の無効などの判断にあたって参照される可能性が高いものであるためです。
この指針では芸能事務所が採るべき行動のほか、放送事業者が採るべき行動、レコード会社が採るべき行動などについても定められています。実演家と契約を締結する前に、指針のうち、自社に関連する部分を読み込んでおきましょう。
エンタメ法務に強い弁護士に相談する
実演家との契約締結で失敗しないためには、エンタメ法務に強い弁護士にご相談ください。弁護士に相談することで、法令や指針を踏まえた的確な契約書が作成できるのみならず、契約の目的に応じた条項のアドバイスなども受けられるためです。
伊藤海法律事務所は芸能・エンタメ法務に特化しており、実演家と交わす契約書の作成・レビューについても豊富なサポート実績を有しています。お困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。
実演家との契約締結で弁護士のサポートを受ける主なメリット
実演家との契約締結にあたって弁護士のサポートを受けることには、多くのメリットが存在します。ここでは、主なメリットを4つ解説します。
- 契約実態に即した契約書が作成できる
- 法令や指針の内容を踏まえたアドバイスが受けられる
- 必要に応じて契約交渉の場への同席・代理を依頼できる
- トラブル発生時の対応がスムーズとなる
契約実態に即した契約書が作成できる
1つ目は、契約実態に即した契約書が作成できることです。
契約書は、契約実態に即した内容で作成する必要があります。ひな型をそのまま流用するなど、契約実態と合わない契約書を締結することは、むしろトラブルの原因となりかねません。
弁護士に作成サポートを依頼することで、契約実態に即した的確な契約書の作成が可能となります。
法令や指針の内容を踏まえたアドバイスが受けられる
2つ目は、法令や指針の内容を踏まえたアドバイスが受けられることです。
自社が希望している契約の内容が、法令や指針に違反している場合もあります。法令・指針を理解しないままこれに違反する内容の契約を締結してしまうと、トラブル発生時にその条項が無効となったり措置命令の対象となったりする可能性が生じます。
契約書の作成にあたって弁護士からサポートを受けることで法令や指針の内容を踏まえたアドバイスを受けることが可能となり、思わぬ違反を避けることにつながります。
必要に応じて契約交渉の場への同席・代理を依頼できる
3つ目は、必要に応じて契約交渉の場への同席や代理交渉などを依頼できることです。
実演家の側が弁護士の同席を受ける場合や弁護士が代理で交渉する場合など、自社だけでの対応に不安を感じる場合もあるでしょう。そのような場合には、弁護士に依頼することで、交渉の場に同席してもらったり交渉を代理してもらったりすることが可能となります。
トラブル発生時の対応がスムーズとなる
4つ目は、トラブル発生時の対応がスムーズとなることです。
弁護士は、トラブルが発生してから関与することも少なくありません。そのため、実演家との契約に関して起きやすいトラブル類型を熟知しています。また、トラブルの解決にあたる中で、「このような条項が契約書に入っていれば、解決がもう少しスムーズだったのに」と感じることも多々あります。
これらの経験を踏まえ、契約書の作成支援にあたってはトラブル発生から「逆算」をして、望ましい条項のアドバイスをすることが可能です。その結果、万が一トラブルが発生した際にもスムーズかつ自社にとって有利な解決がはかりやすくなるでしょう。
実演家との契約締結でお困りの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。
実演家との契約締結に関するよくある質問
続いて、実演家との契約締結に関するよくある質問とその回答を2つ紹介します。
実演家と交わす契約書は誰が作る?
実演家と交わす契約書は、実演家ではなく、所属事務所側やレコード会社側が原案を作ることが一般的です。これによりそのまま締結に至る場合もある一方で、実演家の側から修正の提案がなされ、交渉結果を反映したうえで締結に至る場合もあります。
実演家と交わす契約書に印紙は必要?
実演家と交わす契約書に印紙税がかかるか否かは、契約書の内容によって異なります。
たとえば、契約書の内容が「継続的な取引の基本となる契約書」にあたる場合は、契約金額に関わらず一律4,000円の印紙が必要です。また、「請負に関する契約書」に該当する場合は、契約金額に応じた印紙を貼付しなければなりません。一方で、「準委任契約」に該当すると判断されれば、印紙の貼付は不要とされます。
このように、実演家と交わす契約書に印紙税がかかるか否かは契約書の内容によって異なるため、契約書の内容に応じて事前に確認しておく必要があるでしょう。
なお、印紙税は紙の契約書にかかる税金であるため、電子契約の場合には印紙税はかかりません。
実演家との契約締結や契約の見直しは伊藤海法律事務所にお任せください
実演家との契約締結や契約の見直しは、伊藤海法律事務所にお任せください。最後に、当事務所の主な特長を3つ紹介します。
- 芸能・エンタメ法務に特化している
- 知財に強い
- 英文契約書にも対応している
芸能・エンタメ法務に特化している
芸能業界にはやや特殊ともいえる取引慣習も多く、取引慣習への理解度合いは弁護士によってもまちまちです。伊藤海法律事務所は、芸能・エンタメ法務に特化しているため、業界の取引実態や業界に関連する判例・裁判例などを踏まえたより的確なリーガルサポートが実現できます。
知財に強い
実演家との契約締結において、知財面の処理が特に重要となることは先ほど解説したとおりです。伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほかに弁理士資格も有しているため、知財の保護や処理などについても的確なサポートが提供できます。
英文契約書にも対応している
海外の実演家と契約を交わす場合、対応できる弁護士が少なく対応に苦慮するかもしれません。伊藤海法律事務所は英文契約書にも対応しているため、海外の企業や個人と交わす契約についても一貫したサポートが可能です。
まとめ
実演家との契約締結に関して、実演家の概要や実演家と契約を締結すべき場面、実演家と交わす契約に盛り込むべき条項、実演家との契約締結で弁護士のサポートを受ける主なメリットなどを解説しました。
実演家と契約を締結すべき場面としては、タレント等の実演家を事務所に所属させる場合や、実演家に「実演」させる場合などが挙げられます。いずれも、2025年9月末に厚生労働省から公表された「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」の影響が大きいため、これを一読したうえで契約内容を検討すると良いでしょう。自社だけでの作成に不安がある場合には、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
伊藤海法律事務所は芸能・エンタメ法務に特化しており、実演家との契約締結についても豊富なサポート実績を有しています。実演家との契約締結でお困りの際は、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。