自社の商標権が侵害された場合には、差止請求が可能です。

では、商標権侵害による差止請求とは、どのような手続きなのでしょうか?また、商標権を侵害された場合、差止請求のほかにどのような法的措置が検討できるのでしょうか?

今回は、商標権侵害による差止請求やその他の法的措置、商標権侵害に気付いた場合の初期対応などについて、弁護士がくわしく解説します。

商標権の概要

商標権とは、どのような権利なのでしょうか?はじめに、商標権について概要を解説します。

商標とは

商標とは、「標章」のうち、商品やサービスに用いられるものです(商標法2条1項)。そして、「標章」とは、人の知覚によって認識できるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状もしくは色彩またはこれらの結合、音などを指します。

商標の代表例は、商品名やロゴマークといえるでしょう。ただし、次のものなども商標に該当します。

  • 不二家のペコちゃん人形の立体的形状(立体商標)
  • 久光製薬のCMで流れるサウンドロゴ(音商標)
  • ファミリーマートの看板の緑・白・青のブランドカラー(色彩のみからなる商標)

このように、その商標やサービスを想起させる名称やロゴ、色、音楽などが、広く商標に該当します。

商標権とは

商標権とは、商品やサービスについて商標を独占的に利用する権利です。自社の商標と同一または類似する商標を他社が利用している場合などには、相手が「わざと似せた」のか「偶然一致した」のかに関わらず、差止請求などによってその商標の使用をやめさせることができます。

しかし、商標について商標権を発生させるには、特許庁に出願して登録を受けなければなりません。この点で、対象物の創作と同時に権利が発生する「著作権」とは異なっています。

なお、不正競争防止法によっても「周知な商品等表示の混同惹起行為」や「著名な商品等表示の冒用行為」は不正競争と定義されており、登録を受けていない商標の盗用に問題がないわけではありません。

しかし、不正競争防止法で保護を受けるには「周知性」や「著名性」が求められ、商標権としての保護よりもハードルが高くなっています。

また、不正競争防止法で保護を受けるには相手方に故意または過失が必要です。商標権としての保護とは異なり、偶然の一致の場合には差止請求などができません。

商標権侵害となる要件

商標権侵害を理由に差止請求をするには、前提として、商標権が侵害されている必要があります。では、「商標権侵害」とはどのような場合を指すのでしょうか?ここでは、商標権侵害が成立する要件を解説します。

なお、実際のケースにおいて商標権侵害であるか否かを判断することは容易ではないため、お困りの際は弁護士や弁理士へご相談ください。

  • 要件1:商標登録を受けていること
  • 要件2:登録商標または類似商標の使用であること
  • 要件3:商標的使用に該当すること

要件1:商標登録を受けていること

要件の1つ目は、商標登録を受けていることです。商標登録を受けていなければ、たとえ自社の商標と一致する商標を他社が使用していても、差止請求などはできません。

また、商標権の保護期間は設定登録の日から10年間であり、その後も保護を受けたい場合は更新の手続きを取る必要があります。以前は商標登録を受けていても、更新をせず保護期間が切れている場合には、商標権侵害による差止請求はできないことには注意が必要です。

なお、商標登録を受けていない場合には、先ほど解説したように、不正競争防止法での対応を検討することとなります。

要件2:登録商標または類似商標の使用であること

要件の2つ目は、登録商標または類似商標の使用であることです。

自社の登録商標とまったく同じ商標が使われている場合、この判断は容易でしょう。しかし、実際には同一であることは稀であり、類似商標が問題となることが多いといえます。

自社の主観として「似た商標が使われている」と考える場合であっても、これが「類似」とまではいえなければ差止請求はできません。ある商標が自社の商標と類似しているか否かを判断する際には、外観や観念、称呼などから総合的に判断されます。

また、商標登録は45に区分された商品や役務の中から、商品や役務の種類を指定して行うものです。自社が登録を受けた指定商品(指定役務)とはまったく異なる区分で同一や類似の商標が使用されたとしても、原則として商標権侵害は成立しません。そのため、商標登録を出願する際は、類似の商標が「使用されたくない区分」を漏らさないように選択することもポイントです。

なお、著名な企業のグループ企業であると見せかけようとしてその企業のロゴを盗用する行為などは、たとえ指定商品外での使用で商標権侵害が成立しない場合であっても、不正競争防止法違反となる可能性が高いでしょう。

要件3:商標的使用に該当すること

要件の3つ目は、商標的使用に該当することです。

商標法はデザインそのものを保護しているのではなく、商標を使用する者の業務上の信用の維持などを目的としています。そのため、たとえ自社の商標が無断で使用されていても、それが「商標的使用」ではなく自社の業務上の信頼に影響しない場合には、商標権侵害とはなりません。

商標的使用とは、文字どおり、商標として使用することです。たとえば、「タカラ」が登録商標であるからといって、他社が煮物万能だしの容器に「タカラ本みりん入り」と表示したことは商標権侵害にならないとされた例などがあります(東京地裁平成13年1月22日判決)。「タカラ本みりん入り」との表示はあくまでも原材料を示したに過ぎず、自社の商標として「タカラ」を使用したわけではないためです。

商標権侵害への法的対応メニュー

商標権侵害がなされた場合、どのような法的措置が検討できるのでしょうか?ここでは、主な法的対応の選択肢を紹介します。

  • 商標使用の差止請求
  • 損害賠償請求
  • 信用回復措置請求
  • (相手が故意の場合)刑事責任の追及

商標使用の差止請求

1つ目は、商標使用の差止請求です。

差止請求とは、問題となっている商標の使用をやめるよう相手方へ請求することです。これについては、後ほどくわしく解説します。

損害賠償請求

2つ目は、損害賠償請求です。商標権侵害によって自社に損害が生じた場合、相手方への損害賠償請求が検討できます。

民法の規定によって損害賠償請求をしようとすると、請求者側にて相手方の故意または過失の存在や損害額の立証などが必要となり、ハードルが高いといえるでしょう。

一方、商標権侵害は侵害があったことのみをもって相手方の過失の存在が推定されるため、原則として、相手方の故意や過失を請求者側が立証する必要はありません(商標法39条、特許法103条)。

また、損害額についての推定規定も設けられており、次の額などを損害額として推定して損害賠償請求をすることが可能です(商標法38条)。

  • 販売数量減少による逸失利益額を基準として算定した額
  • 侵害者が得た利益額
  • ライセンス料相当額

そのケースにおける具体的な損害賠償額の算定については、弁護士または弁理士へご相談ください。

信用回復措置請求

3つ目は、信用回復請求です。

商標権利侵害の態様によっては、自社の信用にキズがつくことがあります。たとえば、粗悪な商品について無断で類似商標が使われ、一般消費者がその粗悪商品を自社の商品である(つまり、自社が粗悪な商品を販売している)と誤認している場合などです。

そのような場合には、日刊新聞への謝罪広告の掲載など、信用回復請求が選択肢に入ります。

(相手が故意の場合)刑事責任の追及

4つ目は、刑事責任の追及です。商標権侵害をした場合、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科の対象となります。

刑事罰の対象となるのは原則として相手が故意に商標権侵害をした場合であるものの、差止請求をしたにもかかわらず侵害行為を辞めない場合にも対象となる可能性があります。

商標権侵害は、被害者が告訴(捜査機関に犯罪行為の申告と、犯人の処罰を求める意思表示をすること)をしなければ起訴できない「親告罪」ではありません。

しかし、よほど悪質な侵害行為でない限り捜査機関が独自に捜査を開始する可能性は低いため、相手に刑事責任を追及したい場合には刑事告訴をするとよいでしょう。

商標差止請求の具体的な内容

商標権侵害による差止請求では、どのような内容を請求できるのでしょうか?ここでは、主な請求内容を2つ解説します。実際の侵害行為でお困りの際は、早期に弁護士へご相談ください。

  • 侵害の停止または予防を請求
  • 侵害行為を組成した物の廃棄や侵害行為に供した設備の除却の請求

侵害の停止または予防を請求

商標権侵害がされた場合、侵害の停止や予防を請求できます(同36条1項)。たとえば、商標権を侵害する商品の製造停止や、すでに店頭に並んでいる商品の回収、広告などの停止などがこれに該当します。

侵害行為を組成した物の廃棄や侵害行為に供した設備の除却の請求

商標権侵害がされた場合、侵害の停止や予防のみならず、侵害行為を組成した物の廃棄や侵害行為に供した設備の除却など、侵害の予防に必要な行為までを請求できます(同2項)。

たとえば、その商標が付されたチラシや広告の廃棄や、商標が表示された看板や什器の撤去などです。また、侵害品を作るために必要な金型などの廃棄を求められる場合もあります。

適切な差止請求の具体的な内容は侵害行為の状況などによって異なるため、お困りの際は弁護士へご相談ください。

商標権の侵害に気付いた場合の初期対応

自社の商標権が侵害されていることに気付いたら、どのような手順で対応をすればよいのでしょうか?ここでは、商標権侵害に気付いた場合の初期対応について解説します。

  • 商標権に強い弁護士へ相談する
  • 相手企業に警告を送る
  • 差止請求など具体的な法的措置を講じる

商標権に強い弁護士へ相談する

商標権侵害が疑われる事象に気付いたら、できるだけ早期に弁護士へご相談ください。商標権侵害であるか否か自社だけで判断したり、自社だけで対応したりすることは容易ではないためです。

なお、スムーズな対応をするためには、知的財産権に強みを有する弁護士を選んで相談するとよいでしょう。商標権侵害に強い弁護士へ相談することでその事案が商標権侵害であるか否かについての判断が可能となり、その後の対応方針を定めやすくなります。

伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士のほか弁理士資格も有しています。弁理士とは、知的財産を専門とする国家資格です。商標権侵害について相談できる専門家をお探しの際は、伊藤海法律事務所までご相談ください。

相手企業に警告を送る

弁護士へ依頼して対応を進めることとなったら、まずは相手方に対して弁護士から内容証明郵便を使って警告文を送付することが一般的です。内容証明郵便とは、いついかなる内容の文書が誰から誰に差し出されたかを、差出人が作成した謄本によって日本郵便株式会社が証明する郵便です。

弁護士から送付する警告書には、次の内容などを記載することが多いでしょう。

  • 侵害されている登録商標の表示
  • 侵害行為の内容
  • 相手方に求める対応(使用差止など)の内容
  • 差止などが行われない場合の対応の予告
  • 請求への対応と回答の期限

この段階で相手が非を認めて謝罪し、差止請求などに応じれば、裁判に至ることなくトラブルが解決することとなります。一方で、相手方が警告書を無視したり商標権侵害ではない旨などを主張したりする場合には、裁判上での請求などへと移行します。

差止請求など具体的な法的措置を講じる

警告書を送っても相手方が請求に応じない場合には、差止請求などの具体的な法的措置へと移行します。

早期に侵害行為を止めさせる必要がある場合などには、まずは商標権に基づく差止めの仮処分を申し立てることも少なくありません。仮処分とは、商標権侵害による被害をそれ以上拡大させないために、侵害行為をやめるよう、裁判所から取り急ぎの命令を出してもらうものです。

商標権侵害への適切な対応についてはケースごとに異なるため、依頼先の弁護士とともに最適な解決策を検討し、対応することをおすすめします。

商標使用の差止請求は伊藤海法律事務所にお任せください

商標権侵害による差止請求は、伊藤海法律事務所へお任せください。最後に、伊藤海法律事務所の主な特長を3つ紹介します。

  • 弁護士のほか弁理士資格も有しており知的財産保護に強い
  • カルチャーやテクノロジーへの関心や造詣が深い
  • 海外における商標保護のアドバイスも可能である

弁護士のほか弁理士資格も有しており知的財産保護に強い

伊藤海法律事務所の代表である伊藤海は、弁護士資格のほか、弁理士資格も有しています。

弁理士は、知的財産に関する専門家であることを証する国家資格です。そのため、知的財産の保護や侵害への対応について特に強みを有しており、より専門的な知見と豊富な経験から商標侵害の差止請求や知的財産保護に関するアドバイスなどが可能です。

カルチャーやテクノロジーへの関心や造詣が深い

伊藤海法律事務所では、カルチャーやエンターテインメント法務、テクノロジー法務などに関心や造詣が深く、これらの業界に携わる多くのクライアント様のサポートを行っています。そのため、業界の事情や取引慣習などを踏まえ、実態を踏まえたリーガルサポートが可能です。

海外における商標保護のアドバイスも可能である

商標法は日本の法律であり、日本で取得した商標権で保護を受けられるのは、原則として日本国内のみです。海外展開を予定している場合など海外でもその商標の保護を受けたいのであれば、その国の制度に基づいて手続きを行わなければなりません。

伊藤海法律事務所では、日本の制度のみならず、海外での商標保護制度についても知見を有しています。そのため、海外展開を予定している場合であっても、当事務所において総合的なサポートが可能です。

まとめ

商標権侵害による差止請求の概要や商標権侵害の要件、商標権侵害に気付いた際の初期対応などを解説しました。

商標権を侵害された際には、侵害行為を辞めるよう請求する差止請求が有力な選択肢に入ります。ほかに、損害賠償請求や信用回復措置請求、状況によっては刑事責任の追及なども可能です。

とはいえ、商標権侵害について自社だけで対応することは、容易ではありません。自社の商標権が侵害されていることに気付いたらできるだけ早期に弁護士へ相談し、具体的な対応策を検討するとよいでしょう。

伊藤海法律事務所ではカルチャー・エンターテインメント法務やテクノロジー法務に特化しており、商標権など知的財産の保護に特に強みを有しています。自社の商標権が侵害されてお困りの際や、商標権侵害に基づく差止請求をご検討の際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください。