自社の商標権が侵害された場合、相手方に対する損害賠償請求が検討できます。

では、商標権侵害による損害賠償額は、どのように算定すればよいのでしょうか?また、商標権侵害で相手方に損害賠償請求をしたい場合、どのような流れで対応すればよいのでしょうか?

今回は、商標権侵害による損害賠償請求額の考え方や、損害賠償請求の流れ、商標権侵害に対するその他の法的措置などについて、弁護士がくわしく解説します。

商標権侵害の成立要件

商標権侵害を理由として損害賠償請求をするためには、当然ながら、その前提として商標権侵害の事実が必要です。では、商標権侵害が成立するには、どのような要件を満たす必要があるのでしょうか?はじめに、商標権侵害の要件を解説します。

  • 商標登録を受けていること
  • 登録されている指定商品や指定役務について無断使用すること
  • 商標的使用に該当すること

商標登録を受けていること

1つ目は、商標登録を受けていることです。

商標権は、商標を使用することなどで自動的に発生する権利ではありません。商標権として保護を受けるためには、特許庁に出願をして商標登録を受ける必要があります。

また、商標権の存続期間は設定登録日から10年間です。その後も保護を受けたい場合には更新が必要であり、更新をしなければ商標権は期間の満了をもって消滅します。

たとえ自社が継続して使用している商標であっても、商標登録を受けていない場合は商標権侵害は成立せず、これに基づく損害賠償請求もできないことには注意が必要です。

なお、商標登録を受けていない商標が不正に冒用された場合には、不正競争防止法により保護を受けられる可能性があります。不正競争防止法では、「周知表示混同惹起行為」や「著名表示冒用行為」が不正競争行為として定義されているためです。

ただし、不正競争防止法違反による保護を受けるためにはその商標が「周知」や「著名」である必要があり、商標権侵害よりも成立のハードルが高くなっています。また、不正競争防止法では相手方に不正な目的が必要であり、偶然の一致などの場合には対抗することができません。そのため、自社の商標を保護したい場合は、早期の商標登録を検討するべきでしょう。

登録されている指定商品や指定役務について無断使用すること

2つ目は、登録されている指定商品や指定役務についての無断使用であることです。

商標登録では商品やサービスが45種類に区分されており、必要な区分を選択して出願することとなります。そして、登録を受けた区分とは異なる区分での使用である場合、原則として商標権侵害は成立しません。

たとえば、被服などを対象とする「第25類」だけを選択して商標登録を受けた場合、この登録商標と類似する商標が菓子(第29類)に使われていても、原則として商標登録にはならないということです。そのため、より広く保護を受けたい場合には、多くの区分を選択して商標登録を出願することとなります。

とはいえ、商標出願の費用(出願料)は選択する区分が増えるほど高くなるほか、登録査定後に支払う商標登録料も区分の数に応じてかかるため、「とりあえず、すべての区分に出願する」との選択は多くの企業にとって現実的ではないでしょう。

一方で、登録を受ける区分が少なければ、隣接する業種で類似の商標が使われた際に対応が困難となりかねません。そのため、商標出願をする際は弁理士などの専門家とよく相談したうえで、出願する区分を慎重に選定することをおすすめします。

なお、たとえばある区分でのみ登録されている他社の商標を、その企業のグループ企業であると見せかけるために他の区分で使用した場合には、不正競争防止法に違反する可能性が高いでしょう。お困りの際は無理に自社だけで判断せず、弁護士へご相談ください。

商標的使用に該当すること

3つ目は、商標的使用に該当することです。

商標法はロゴマークなどのデザイン自体を保護しているのではなく、商標の使用をする者の業務上の信用を保護する制度です。せっかく自社が信用を積み上げてブランドを育成しても、他社が無断で自社の商標を付けた商品を販売するなど「ただ乗り」が横行すれば、安心してブランドを育成することは困難でしょう。また、粗悪な商品について自社の商標が無断で付されれば、ブランドイメージに傷が付くおそれも生じます。

そこで、商標法では、商標登録を受けることで「指定商品または指定役務について登録商標の使用をする権利を専有」することとしています(同25条)。一方で、自社の商標が無断で使用されたとしても、「商標的使用」でないのであれば商標権侵害とはなりません。

たとえば、段ボールの内容物となるぶどうの品種「巨峰」を表示するために側面の見やすい位置に大きく「巨峰」などと印字した段ボールを製造・販売する行為は、商標的使用とはいえず、商標権侵害にはらなないとされた例があります(福岡地裁飯塚支部昭46年9月17日判決)。

このように、商標権侵害に該当するか否かを自社で判断することは、容易ではないでしょう。お困りの際は、早期に弁護士へご相談ください。

商標権侵害における損害賠償請求額の考え方

商標権侵害がされた場合、相手方への損害賠償請求が検討できます。

民法の規定に基づいて損害賠償請求をするためには、相手方の故意または過失の存在を請求者側が立証しなければなりません。また、不法行為によって生じた損害額の立証も必要であるものの、商標権侵害による損害額の立証は容易ではないでしょう。

一方で、商標法では過失の推定規定が設けられており、他人の商標権を侵害した者は、その侵害行為について過失があったものと推定されます(商標法39条、特許法103条)。

そのため、原則として、故意や過失の立証は不要です。

また、商標法では損害額の推定規定が設けられており、損害額の算定がしやすくなっています。ここでは、商標法の規定による損害額の算定方法を紹介します。

逸失利益額の認定による算定

1つ目は、逸失利益額の認定による算定です。この方法では、次の算定式をベースとして損害額を算定します。

  • 損害額=「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」

たとえば、侵害者が侵害品を1万個販売し、権利者が自社でこれを販売していれば1個あたり1,000円の利益が出ていたはずである場合、損害額は次のとおりとなります。

  • 損害額=1万個×1,000円=1,000万円

ただし、必ずしもこの金額がそのまま損害額として認定されるわけではありません。なぜなら、品質や価格の違いから模倣品に対する需要がすべて真正品に向かうとは認定できない場合など、たとえ商標権侵害がなかったとしても権利者側が販売できなかったであろう数(「特定数量」といいます)がある場合は、これを「侵害者の譲渡等数量」から控除して侵害額を算定する必要があるためです。

侵害者が侵害行為によって受けた利益の額による算定

2つ目は、侵害者が侵害行為によって受けた利益額を基準とした算定方法です。この方法では、原則として次の式で損害額を算定します。

  • 損害額=「侵害者が得た利益」

ただし、この方法により算定ができるのは、商標権侵害行為がなければ自社が利益を得られたであろうという事情の存在が必要です。また、必ずしも侵害者の利益がそのまま損害額となるのではなく、商標権侵害が利益に寄与した割合が考慮されます。

ライセンス料相当額による算定

3つ目は、ライセンス料相当額による算定です。この方法では、原則として次の式で損害額を算定します。

  • 損害額=「ライセンス相当額」

たとえば、侵害者が模倣品の販売によって1,000万円の売上を得ており、その登録商標のライセンス料率の相場が売上高の10%であれば、損害額は100万円と推定されます。

商標権の取得や維持に通常要する費用に相当する額による算定

4つ目は、商標権の取得や維持に通常要する費用相当額を、権利者が受けた損害額とする方法です。この算定方法は、TPP協定により、商標の不正使用について商標権の法定損害賠償制度または追加的損害賠償制度の導入が要求されたことにより、追加的に設けられたものです。

商標権侵害に対する損害賠償請求以外の法的措置

商標権侵害がなされた場合、損害賠償請求以外にどのような法的措置が検討できるのでしょうか?ここでは、損害賠償請求以外の主な法的措置を3つ紹介します。

  • 差止請求
  • 信用回復請求
  • 刑事責任の追及

なお、これらは「いずれか1つを選択する」ようなものではなく、複数の請求を同時に行うことも可能です。実際に、差止請求と損害賠償請求とを併せて請求するケースは多いでしょう。

具体的にどの法的措置をとるべきか判断に迷う場合には、弁護士へ相談のうえご検討ください。

差止請求

1つ目は、差止請求です。差止請求とは、商標権侵害行為をやめるよう、相手に対して求めることです。

商標権侵害では、次の請求などが可能です。

  1. 侵害行為をする者に対する、その行為の停止の請求
  2. 侵害のおそれのある行為をする者に対する、侵害の予防の請求
  3. 侵害行為を組成した物の廃棄や侵害の行為に供した設備の除却、その他の侵害の予防に必要な措置の請求

このように、侵害行為停止の請求だけではなく、予防の請求や設備の除却(その商標を印字する金型の廃棄など)を求めることも可能です。

信用回復請求

2つ目は、信用回復請求です。

商標権侵害がされた場合、これにより自社のブランドに傷がつくことがあります。たとえば、粗悪品に自社の商標が無断で付されて販売された場合などです。

このような場合には、日刊新聞への謝罪広告の掲載など、信用回復請求が選択肢に入ります。

刑事責任の追及

3つ目は、刑事責任の追及です。

商標権侵害が故意になされた場合などには、刑事罰の対象となります。商標権侵害による刑事罰は、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科です(同78条)。

さらに、法人の業務の一環で商標権侵害がなされた場合には、法人にも別途3億円以下の罰金刑が科されます(同82条)。

しかし、よほど大々的に行われる悪質な侵害行為でない限り、捜査機関が商標権侵害を独自に捜査することは多くないでしょう。

そのため、相手方に刑事責任を追及したい場合には、原則として告訴が必要です。告訴とは、警察などの捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示です。

商標権侵害で損害賠償請求をしたい場合の対応の流れ

自社の商標権が侵害され、相手方への損害賠償請求を希望する場合、どのような流れで対応すればよいのでしょうか?ここでは、一般的な流れを解説します。

  • 商標権侵害に強い弁護士に相談する
  • 弁護士から警告書を送付する
  • 仮処分を申し立てる
  • 訴訟を提起する

商標権侵害に強い弁護士に相談する

自社の商標権が侵害されていることに気付いたら、商標権トラブルに強い弁護士へ早期にご相談ください。弁護士へ相談することで、その事象について法的措置がとれそうか否かなどについて判断ができ、今後の具体的な対応を検討しやすくなります。

弁護士から警告書を送付する

相手方の行為が商標権侵害にあたる可能性が高い場合、弁護士から相手方に警告書を送付します。警告書とは、商標権侵害をやめるよう相手方に対して求める文書であり、内容証明郵便を使って送付することが多いでしょう。

損害賠償請求を予定している場合であっても、警告書にはじめから具体的な請求額を記載することは多くありません。なぜなら、警告書を送る段階では、適正な損害賠償請求額を算定するために必要な情報が揃っていないことが多いためです。

そこで、一般的には、まず適正な損害賠償額算定のために必要となる情報の提供を求めることとなります。たとえば、侵害品の販売数量や販売価格、仕入数量、仕入価格などです。

相手方が情報提供に応じてスムーズにやり取りが進み、また算定結果である損害賠償額を速やかに支払った場合などには、裁判外で解決に至ることもあります。

仮処分を申し立てる

警告書を送付しても相手方が商標権侵害を継続している場合には、裁判所に仮処分を申し立てます。仮処分とは、最終的な判決が確定するまでの期間、早急に対応を求める必要がある事項について、裁判所に暫定的な措置を求める手続きです。

訴訟では最終的な結論が出るまでに長期間を要することが多く、その間にも侵害行為が継続されれば被害が拡大してしまいかねません。そこで、これ以上被害を拡げないよう、取り急ぎの措置として、侵害行為をやめるよう裁判所から仮処分命令を出してもらうことを検討します。

訴訟を提起する

相手方が任意に損害賠償しない場合には、訴訟を提起して損害賠償請求を行います。訴訟では、侵害行為の有無や適正な損害賠償額について裁判所が判断します。

なお、裁判で確定した賠償金を相手方が支払わない場合は、強制執行の対象となります。

商標権侵害への損害賠償請求は伊藤海法律事務所へお任せください

商標権侵害に対して損害賠償請求をご検討の際は、伊藤海法律事務所へご相談ください。最後に、伊藤海法律事務所の概要と主な特長を紹介します。

伊藤海法律事務所とは

伊藤海法律事務所とは、弁護士であり弁理士でもある伊藤海が代表を務める弁護士事務所です。東京都渋谷区に事務所があり、カルチャー・エンターテインメント法務とテクノロジー法務に高度に特化しています。

伊藤海法律事務所の主な特長

伊藤海法律事務所の主な特長は、次の3点です。

  • 代表は弁護士かつ弁理士であり知的財産に強い
  • カルチャーやエンタメ分野に精通している
  • 海外の案件にも対応している

代表は弁護士かつ弁理士であり知的財産に強い

1つ目は、代表である伊藤海が弁護士のみならず弁理士資格も有していることです。

弁理士とは、知的財産に関する国家資格です。そのため、当事務所は知的財産にまつわる法務に特に強みを有しており、商標出願など知的財産権を得るための出願手続きから知財戦略の構築、知的財産が侵害された際の損害賠償請求に至るまで、総合的なリーガルサポートが可能です。

カルチャーやエンタメ分野に精通している

2つ目は、カルチャー・エンターテインメント法務とテクノロジー法務に精通していることです。これらはいずれも文化の発展に法が追い付いていない傾向にあり、実際に業務を行う中で判断に迷うことも少なくないことでしょう。

伊藤海法律事務所は、法的観点はもちろん、現場の目線も取り入れた上質な助言を強みとしています。

海外の案件にも対応している

3つ目は、海外の案件についても対応が可能であることです。

日本でのみ商標登録を受けた場合、原則として日本国内でしか保護を受けることができません。そのため、海外での商品展開などを検討しているのであれば、その国の制度に基づき、その国で保護を受けるための手続きが別途必要となります。

伊藤海法律事務所では、海外における知的財産保護についても知見を有しており、海外展開時のリーガルサポートも可能です。

まとめ

商標権侵害の成立要件や商標権侵害に基づく損害賠償請求などについて解説しました。

商標権侵害がされた場合は、相手方に対する損害賠償請求が可能です。商標法に推定規定が設けられているため、原則として相手方の故意や過失を立証する必要はありません。

また、損害額についても推定規定があることから、侵害を受けた側にとって、損害賠償請求がしやすくなっています。とはいえ、実際にどの程度の損害賠償請求をすべきか、自社で判断することは容易ではありません。

そのため、商標権が侵害されていることに気付いたら、早期に弁護士へご相談ください。弁護士へ相談することで商標権侵害の有無が判断しやすくなるほか、具体的な損害賠償請求額についても適切に検討しやすくなるでしょう。

伊藤海法律事務所では知的財産の保護に強みを有しており、商標権侵害に基づく損害賠償請求についても多くの対応実績があります。自社の商標権が侵害されてお困りの際や、他社から商標権侵害に基づく損害賠償請求をされてお困りの際などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

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