システム開発やアプリの開発、ゲームソフト開発などの場面を中心に「レベニューシェア型」の契約書が交わされることがあります。

レベニューシェア型契約書とは、どのような契約書なのでしょうか?また、レベニューシェア型の契約とすることは、発注者側と受注者側とでそれぞれどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

今回は、レベニューシェア型契約書の概要やメリット・デメリット、主な契約条項とポイントなどについて、弁護士がくわしく解説します。

レベニューシェア型の契約とは

レベニューシェア型契約とは、発注側と受注側とで、得た収益を分配する形の契約方式です。「レベニュー(revenue)」とは、定期的な収入を意味します。

 

たとえば、スマートフォン用のアプリケーション開発を外部に委託する場合、一般的な契約では、開発の対価としてあらかじめ決まった金額を支払うことが多いでしょう。また、開発に要した期間に応じて対価を支払うこともあります。いずれであっても、そのアプリのダウンロード数やアプリの販売で得た利益額などは、開発報酬に反映されません。

一方で、レベニューシェア型契約の場合は、アプリの販売によって得た収益を発注者と受託者とで分け合うこととなります。その反面、当初支払う開発報酬は通常よりも安価であるか、無償となることが一般的です。

なお、レベニューシェア型契約は、アプリ開発以外にもさまざまな場面で活用できます。ただし、この記事ではわかりやすさを重視して、以後は発注者が受注者にアプリケーションの開発を委託している前提で解説します。

【発注者側】レベニューシェア型契約のメリット・デメリット

レベニューシェア型契約のメリットやデメリットは、どのような点にあるのでしょうか?まずは、発注者側の視点から、レベニューシェア型契約のメリットとデメリットをそれぞれ解説します。

メリット

発注者側にとってのレベニューシェア型契約の主なメリットは次の3つです。

  • 初期投資を抑えられる
  • 失敗時のリスクを軽減できる
  • 受注者が「売れる」提案をしてくれる可能性がある

初期投資を抑えられる

レベニューシェア型契約の場合、受注者に当初支払うべき開発費用は、通常よりも安価か無償となることが一般的です。そのため、発注者としては初期投資が抑えられ、資金繰りに余裕が生まれやすくなります。

失敗時のリスクを軽減できる

通常の開発委託契約の場合、期待していたようにアプリが売れなかったとしても、開発報酬が減額されることはありません。そのため、アプリ販売の事業に失敗した場合、発注者としては開発にかかった報酬をそのまま損失として抱えることとなります。

一方、レベニューシェア型契約の場合は、アプリの売れ行きが芳しくなければ受注者に対して支払う報酬も削減できるため、失敗のリスクを最小限に抑えることが可能です。

受注者が「売れる」提案をしてくれる可能性がある

通常の開発委託契約では、そのアプリが売れようが売れなかろうが、受注者が受け取る報酬は変動しません。そのため、受注者側から「より売れる」という視点から改善点などの提案を受けることは、期待できない場合が多いでしょう。

一方で、レベニューシェア型契約の場合はアプリが売れれば売れるほど受注者の報酬も増加します。そのため、受注者側にも「売れる」ことへのインセンティブが働きやすく、販売向上のための提案をしてもらいやすくなります。

デメリット

レベニューシェア型契約には、デメリットもあります。発注者側の主なデメリットは次の3つです。

  • 長期的に報酬の支払いが発生する
  • アプリ開発が成功すると報酬の支払いが多額となる
  • 意思決定スピードが遅くなりやすい

長期的に報酬の支払いが発生する

通常の開発委託契約では、開発の満了とともに報酬の支払いが終了することが一般的です。一方、レベニューシェア型契約の場合は、受注者に対する長期的な支払いが発生します。そのため、長期的な財務計画に影響が及ぶ可能性があります。

アプリ開発が成功すると報酬の支払いが多額となる可能性がある

レベニューシェア型契約では、アプリ開発が成功し収益が大きくなるほど、受注者に支払うべきトータルの報酬が高くなります。そのため、通常の開発委託契約と比較して、結果的に支払額が大きくなる可能性があります。

意思決定スピードが遅くなりやすい

レベニューシェア型契約は、発注者と受注者が共同して開発を進めるものです。そのため、両者の合意形成に時間がかかる場合、意思決定のスピードが遅くなるおそれがあります。

【受注者側】レベニューシェア型契約のメリット・デメリット

レベニューシェア型契約は、受注者にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?ここでは、主なメリットとデメリットをそれぞれ解説します。

メリット

受注者にとってのレベニューシェア型契約の主なメリットは次の3つです。

  • 定期的な収入が確保しやすい
  • アプリ販売が成功すれば、通常より多くの報酬を得られる
  • スムーズな成約につながりやすい

定期的な収入が確保しやすい

一般的な開発委託契約の場合は、開発時点でまとまった収入が得られるものの、基本的には収益が上がるのは一時的となります。継続的な収入を得るには、メンテナンス契約などを別途締結するほかないでしょう。

一方、レベニューシェア型契約の場合は将来に渡って収益が分配されるため、長期的な収入が確保しやすくなります。

アプリ販売が成功すれば、通常より多くの報酬を得られる

一般的な開発委託契約では、たとえそのアプリが多くダウンロードされて成功を収めても、受注者の報酬が増えるわけではありません。受注者が得られる収益は当初の委託費だけであり、アプリ販売によって増大した収益は、すべて発注者側の取り分となります。

一方、レベニューシェア型契約の場合は、アプリ販売が成功すれば、受注者側の収益も増大します。そのため、アプリ販売が成功した場合、開発委託契約とした場合よりも多くの報酬が得られる可能性があります。

スムーズな成約につながりやすい

一般的に、開発委託契約の締結にあたって最大のハードルの一つとなるのは、発注者側の初期投資が大きくなることです。発注者としては、自社に収益をもたらすか否か不確定であるプロジェクトに多額の資金を注入することはリスクであり、発注に慎重とならざるを得ません。

一方、レベニューシェア型契約の場合は、発注者の初期投資を最小限に抑えることが可能です。万が一アプリの売れ行きがさほど伸びなかったとしても、財務面での痛手は少なくて済むでしょう。そのため、発注者が開発の委託に踏み切りやすく、スムーズな制約につながりやすくなります。

デメリット

レベニューシェア型契約は、受注者にとってのデメリットもあります。主なデメリットは次の3つです。

  • コストの回収に時間がかかりやすい
  • 結果的に報酬額が少なくなるリスクがある
  • 未払いなどトラブルのリスクが長期に及びやすい

コストの回収に時間がかかりやすい

アプリ開発には、さまざまなコストがかかります。代表的なコストとしては、自社の従業員の人件費や、一部を下請けに出した場合の委託報酬などです。資金繰りの観点から、受注者としては、「コストの支出から報酬入金までの期間をできるだけ短くしたい」と考えることでしょう。

コスト回収の観点では、通常の開発委託契約の方が優れています。なぜなら、一般的な開発委託契約では、遅くとも開発したアプリを納品し、検収を終えた段階で請求書を発行することとなるためです。そのため、開発したアプリの検収から数か月以内には報酬が入金され、コストの回収が可能となります。

一方、レベニューシェア型契約の場合は初期の入金は少なく、その後アプリの販売収益などに応じて継続的に収益が分配される形態です。そのため、コストの回収に時間がかかりやすい傾向にあり、受注者にとってデメリットとなるでしょう。

結果的に報酬額が少なくなるリスクがある

通常の開発委託契約では、アプリの販売量などに関わらず、受注者が得られる収益は一定です。仮にアプリ販売が失敗に終わっても、これを理由に報酬を減らされることはありません。

一方、レベニューシェア型契約ではアプリ販売が芳しくなかった場合、受注者は多くの収益を得ることができません。そのため、結果的に、通常の開発委託契約よりも報酬が少なくなるリスクがあります。

未払いなどトラブルのリスクが長期に及びやすい

どのような契約であっても、相手方による未払いリスクをゼロとすることはできません。相手方の資金繰りに問題が生じて支払いが滞ることもあれば、納品したアプリに何らかの問題があるなどと主張され、報酬の支払いを拒まれることもあります。

相手方が対価を支払わない場合、内容証明郵便の送付や督促、訴訟の提起などで支払いを求めることとなりますが、このような対応自体を負担に感じるケースも少なくないでしょう。また、資金繰りに余裕がない場合、相手方の未払いによってコスト支払いの原資が絶たれ、経営の危機に陥るおそれもあります。

未払いのリスクを最小限に抑えるためには、できるだけ早期に報酬を回収するほかありません。

先ほども解説したように、開発委託契約では遅くともアプリの検収後に請求書を発行し、対価が入金されることとなります。つまり、未払いのリスクが生じる期間は、比較的短いといえるでしょう。一方で、レベニューシェア型契約の場合は長期にわたって支払いがなされる分、未払いのリスクも長く継続することとなります。

レベニューシェア型契約での報酬計算方法

レベニューシェア型契約において、分配される報酬の計算方法は、契約内容によって異なります。一般的には、次のいずれかのパターンとされることが多いでしょう。

  • 売上をベースに計算する方法
  • 利益をベースに計算する方法

ここでは、それぞれの概要を解説します。

売上をベースに計算する方法

1つ目は、売上をベースに計算する方法です。

一定の割合を定め、これを開発したアプリの「売上」に乗じる形で分配する報酬を決定します。初期の段階から分配する報酬が発生しやすい形態であるため、受注者にとってはメリットの大きい方法です。

一方、発注者としては、広告などに費用が掛かり「売上」はあるもののまだ「利益」までは出ていない場合であっても、収益を分配する必要が生じます。

利益をベースに計算する方法

2つ目は、利益をベースに計算する方法です。

一定の割合を定め、これを開発したアプリ販売による「利益」に乗じる形で分配する報酬を計算します。この場合には、何を「利益」とするのかを契約書で明確に定めておかなければなりません。利益の考え方はさまざまであり、たとえば次のケースなどが想定されます。

  1. アプリの売上から、プラットフォーム(アップルストアなど)に支払う費用を引いた額を利益とする方法
  2. アプリの売上から、プラットフォームに支払う費用と広告費を引いた額を利益とする方法
  3. アプリの売上から、プラットフォームに支払う費用や広告費のほか、人件費やドメイン費用、サーバー費用などを引いた額を利益とする方法

単に「利益」とだけ定めていた場合、何を「利益」とするかで齟齬が生じ、トラブルとなるおそれがあります。

レベニューシェア型契約書の主な条項と作成ポイント

レベニューシェア型契約書は、どのような点に注意して作成する必要があるのでしょうか?ここでは、主な条項と作成のポイントを解説します。

なお、設けるべき条項や作成のポイントは、状況や立場などによって異なります。そのため、実際にレベニューシェア型の契約書を作成しようとする際は、弁護士へご相談ください。

  • 契約の目的
  • 業務分担の範囲
  • 報酬の計算方法
  • 費用負担
  • 著作権の処理
  • 違約金
  • 契約終了時の取り扱い

契約の目的

はじめに、契約の目的を定めます。開発の対象物を定めつつ、これにより得た収益や利益を分け合う(レベニューシェア型契約である)旨を明記しましょう。

業務分担の範囲

業務分担の範囲について定めます。双方(特に、受注者)の義務が明確となっていなければ、受注者としては契約範囲に含まれないと考えていたことについて発注者から対応を求められ、トラブルとなるおそれがあります。

レベニューシェア型契約の場合は、単に「発注者と受注者」との関係を超えて、協力体制を築くパートナーとしての役割を求められることが一般的です。

たとえば、定期的なミーティングの参加などが求められる場合もあるでしょう。そのため、業務分担の範囲の明記がより重要となります。

報酬の計算方法

報酬の計算方法について定めます。

先ほど紹介したように、レベニューシェア型契約では「売上」を基準とする場合と「利益」を基準とする場合があります。また、「利益」が何を指すのかも、ケースバイケースです。

齟齬が生じることのないよう、第三者が見ても同じ計算結果が導かれる内容で計算方法を明記してください。

費用負担

費用負担について定めます。

レベニューシェア型契約では、開発段階でサーバー維持費やリース料などさまざまな費用が発生します。これらの費用をどちらが負担するのか、明記しましょう。一般的には、シェア対象であるレベニューで回収することが多いといえます。

著作権の処理

レベニューシェア型契約で開発したアプリなどの著作権がいずれに帰属するのかを明記します。特に記載がなければ、受注者である開発者(著作物を創造した者)に帰属することとなるものの、この点は誤解も多くトラブルの原因となりかねません。

そのため、齟齬が生じないよう明記しておきましょう。なお、レベニューシェア型契約では、一定の売上を突破するまでの期間、著作権を共有すると規定することもあります。

違約金

一方の義務違反など、何らかの原因で契約が終了することがあります。

しかし、受注者としては早期に契約が終了してしまえば、開発に要したコストを回収できないおそれが生じます。そこで、一定期間経過前の解約について、違約金の規定を設けることがあります。

契約終了時の取り扱い

レベニューシェア型契約は長期に渡るものの、いずれは終了する物です。

そのため、契約書では契約終了時の取り扱いを定めましょう。たとえば、次の内容などを定めます。

  • 契約終了時の成果物の取り扱い
  • 秘密保持義務など、契約終了後も継続する規定
  • 資料の返還や破棄
  • 成果物の活用に関するルール

まとめ

レベニューシェア型契約書について解説しました。

レベニューシェア型の契約とは、アプリ開発などによって得た収益を、発注者と受注者とで継続的に分配する契約です。双方にとってメリットやデメリットがあるため、基本的な事項を理解したうえで、契約締結交渉に臨むとよいでしょう。

伊藤海法律事務所ではエンターテインメント法務に力を入れており、アプリやECサイト、ゲームソフト開発などにまつわる法的問題をサポートしています。レベニューシェア型契約の締結をご検討の際や、レベニューシェア型契約の締結にあたり自社にとってのリスクを把握したい場合、レベニューシェア型契約に関してトラブルが生じている場合などには、伊藤海法律事務所までお気軽にご相談ください。

お気軽にお問い合わせください。